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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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不審点だらけの「第四南巨摩トンネル」着工…ムチャだろう

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山梨県富士川町と早川町とをまたぐ第四南巨摩トンネルの西工区について、建設工事が来意年春から始まることになったそうです。

以下、NHK山梨の報道です(12月15日)。
リニア中央新幹線の建設をめぐってJR東海は、巨摩山地を貫く「第四南巨摩トンネル」のうち、西側のおよそ2.6キロの区間について、来年春から着工することを明らかにしました。
「第四南巨摩トンネル」は、巨摩山地を貫く富士川町から早川町までの全長およそ8.6キロのトンネルです。
このうち、西側のおよそ2.6キロの「西工区」について、JR東海は来年春から着工することを明らかにしました。
 JR東海によりますと「西工区」は最も深いところで地上から700メートルに達します。
本線と分岐する連絡坑も掘削するため、断面積は最大でおよそ300平方メートルに及び高度な施工技術が必要だということです。
 JR東海は、来年春に早川町で資材置き場などの整備を進め、来年秋に非常口の掘削から始めることにしていて、工期は平成38年までとしています。
 一方、このトンネル工事でおよそ94万立方メートルの土砂が発生すると見込まれ、南アルプスを貫くトンネル工事で発生する土砂を合わせるとおよそ325万立方メートルに達し、置き場が確保できているのはおよそ1%にあたる3万立方メートルだということです。
 JR東海は「地域との連携を密にしながら工事の安全と環境の保全に十分配慮したい」としています。
 

JR東海の公表した
中央新幹線 第四南巨摩トンネル(西工区)工事における環境保全について」 

に、工事概要、工事工程表、環境保全策が記載されているのですが、実に不審点だらけです。

・水源対策はどうするのか?
・茂倉鉱山跡地を通過するが問題ないのか?
・早川渓谷景観保全地区に与える影響や山梨県景観保全条例との整合性はどうなっているのか?
・ユネスコエコパーク制度との整合性は?

全然書かれていません。

報道には【このトンネル工事でおよそ94万立方メートルの土砂が発生すると見込まれ、南アルプスを貫くトンネル工事で発生する土砂を合わせるとおよそ325万立方メートルに達し、置き場が確保できているのはおよそ1%にあたる3万立方メートル…】 とあります。

この膨大な発生土については、山梨県との共同事業である早川芦安連絡道路の盛土造成および芦安温泉での駐車場造成に使う見込みとしています。けれども同道路の建設計画はまだ具体化していないし、そこまでの道路拡幅工事も始まっていません(先日山梨県が事業費を計上)。

というわけで、いつ運び込むことになるのか分からないし、そもそも、本当に使えるかどうかも分からないはず。それなのに「使えるはずだ」として工事に踏み切り、裏付けのない作業工程表をも公開する…

いまだ未定のことだらけなんだから、工程表はあくまで案として住民に提示し、そのうえで事業計画を策定すべきではないでしょうか?

おかしな話だと思います。

おかしいといえば、さらにおかしな点もあります。

本線と分岐する連絡坑も掘削するため、断面積は最大でおよそ300平方メートルに及び… 

この連絡坑の存在は、環境影響評価の過程では全く出てこなかったのです。公的には、入札がはじまって以降、初めて明らかになったのですが、このほど発表された「中央新幹線 第四南巨摩トンネル(西工区)工事における環境保全について」 においても、場所や構造は不明のままなのです。

イメージ 3
中央新幹線 第四南巨摩トンネル(西工区)工事における環境保全について」より複製・調整 
「連絡坑」の位置等は全く示されていない 

これはひどい。

ちょっと振り返ってみます。

工事入札時の報道では、「本線と分岐する連絡坑」とは、富士川町高下地区に計画されている保守基地に接続するとされていました。

建設通信新聞 2016年7月21日
 西松・青木あすなろ・岩田地崎JVに/リニア第四南巨摩トンネル(西工区)
「工事範囲に本線トンネルのほかに保守基地への連絡坑を含み、トンネル内に本線から保守基地への分岐装置を設ける必要があるため、トンネルの最大断面積が約300㎡以上と大きな断面積を必要とする区間がある」とし、「高度な施工技術を必要とする工事」


分岐装置の西端(?)が第四南巨摩トンネル西工区に設けられることになります。しかし保守基地が設けられるのは。同トンネル東坑口よりさらに1㎞弱東側に離れた場所。つまり分岐装置から保守基地までは実に7㎞!
分岐装置および”連絡坑”の推定位置 
「保守基地への連絡坑」が西工区で分岐するのなら、紫の点線のようになるはず。
同じ縮尺で東海道新幹線・浜松車両工場への引込線を掲載 

たかだか線路を分岐させるだけなのに、なんでこんな大掛かりな構造になるのでしょう?

ちょっと試算してみます。
①西工区で掘られるのは、本坑(掘削断面積107㎡)約8600m、非常口(斜坑:同68㎡)約1800mとなっています。この数字を基に考えると、本体掘り出されるのは60~70万立米程度になるはずです。
②いっぽう「第四南巨摩トンネル」東工区(富士川町高下地区)に掘り出される発生土量は、延長が約6000mなので、本来は90~100万立米程度になるはずです。
③しかし評価書によると、西工区での発生土量は94万立米、東工区で181.9万立米。合わせて275.9万立米。 

つまり本来の第四南巨摩トンネル全体での発生土量は150~170万立米の程度のはずなので、実際の発生御良は100万立米も過大。これが「本線と分岐する連絡坑」から掘り出されるのでしょう。

また①より、「本線と分岐する連絡坑」のうち、東工区に出される分は推定80万立米。延長6000mとすると、連絡坑の推定断面積は90㎡となります。これは南アルプスでの先進坑や斜坑よりも大きく、本坑に相当する規模となります。

事実上、第四南巨摩トンネルは複線になるといえるでしょう

こんな巨大なトンネルの存在を隠していたJR東海の姿勢も問題ですが、そういう体質である以上、環境影響評価書の妥当性もアヤシクなります。

【環境影響評価項目全般】
騒音・振動、工事車両通行台数、動植物への影響等、連絡路の存在を考慮していたのか?

【景観予測】
等高線から推定できるように、保守基地は地上構造になるはずです。実際、発生土で谷を埋め立てて造るとしています。ですから高下地区には、連絡坑の出口とそこからのびる軌道が設けられるはずです。

感覚的にはこんな具合になるはず。
イメージ 1
新東名高速道路のトンネル建設現場(静岡市葵区 2011年撮影) 
高下地区には、このように大断面トンネルが2本口を開けるに違いない。 

しかし景観予測にあった、高下地区の地上区間を西方より見下ろしているイメージ図…
イメージ 2

山梨県編 環境影響評価書 景観より複製・加筆・調整 
高下地区西方より富士山方向を望んだもの 

では、完成後の高架橋を書き加えてあるわけですが、保守基地に向かう連絡路は描かれていません。これは疑わしく感じます。

【水環境】
もっと怪しいのは地下水や河川への影響予測です。構造が不明である以上、予測結果の妥当性が疑わしい。

JR東海は、環境影響評価の段階では同トンネル工事に伴う河川流量・地下水位への影響予測は行っておらず、2012年3月に山梨県知事から「評価書に記載するように」という意見が出されました。しかし明確な理由もなく補正評価書(2014年8月)までには記載せず、昨年11月の「巨摩山地水収支解析結果」にまで遅れました。

その結果によると、同トンネル東工区の西側半分が貫く大柳川では、流量が現状より20%減るとしています。(なお東工区の東側半分が貫き、水道の水源となっている清水沢については、予測すらしていません。)
仮に東側工区で掘られる断面積を200㎡とした場合、超・大断面で200㎡1本にした場合と、100㎡の大断面トンネル2本にした場合とでは、壁の面積が大きく異なります。

単純な半円と仮定して比較すると
200㎡のトンネル1本の場合⇒外周は約58m
100㎡のトンネル2本の場合⇒外周は2本で計約82m

つまりトンネルの壁面積は1,4倍になります。壁の面積が広ければ、当然、湧き出してくる水の量も増え、地上への影響も大きくなるでしょう。

影響予測において、トンネル構造について考慮しているのでしょうか?




そもそも、どんな工事が行われるかという最も基本的なことを伏せていることになり、これは悪質だと思います。山梨県当局より適切な情報公開がなされていたとも言い難いようですし・・・


年始に思う・・・半世紀前の構想が半世紀後に受け入れられるの?

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あけましておめでとうございます。

新年早々、ブツクサと文句ばかりでスタートであります。

今年はリニアの名古屋開業まであと10年とされております。なんだか知りませんが、今までリニア計画は西暦の一桁が7となる年に、大きく動いてきたように思えます。

過去を振り返ると、
1967(昭和42)年8月31日
国鉄は全国新幹線鉄道網構想を発表。東京-名古屋-大阪を一直線に近いルートで結ぶ”東海道第二新幹線”を含む。
1977(昭和52)年4月16日  宮崎実験センターの開所式。
1987(昭和62)年4月1日 国鉄民営化。JR東海発足。
1997(平成9)年3月 山梨リニア実験線の先行区間18.4kmが完成し走行実験開始。
2007(平成19)年4月26日 JR東海はリニア中央新幹線構想を発表。2025年度に東京-名古屋間、2045年に名古屋-大阪間を開業する計画。

となっており、今後は
2027年 品川-名古屋間での先行開業の予定(2年先送り)
2037年 品川-大阪での全区間の開業予定(8年前倒し)

となっております。

今年2017年は、南アルプス本体でのトンネル掘削工事が計画されております。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

昨年は11月に財政投融資の話が決まりましたが、相前後して南アルプストンネル西側の大鹿村をはじめ、名古屋駅、岐阜県日吉トンネルと、次々に”起工式”が行われました。報道だけ追ってゆくと、10年後の品川-名古屋間開業に向けて順調に進んでいるかのようにも見えます。

そのいっぽうで、地元住民の同意を得ることなく、頭越しに手続きだけを先行させるやり方に固執しているため、実際の土木工事が進められる状況にはないようにも見えます。

実際、南アルプス横断トンネルについては、山梨・静岡・長野3工区での発生土量の合計約1500万立米に対し、現時点(2016年末)で搬入先を確保し、法的にも手続きを終えたのは早川町の塩島地区での3万立米だけ。わずか0.2%に過ぎません。発生土の行き先が決まっていないのに、掘削工事を始めることだけは盛んに喧伝しているわけで、これでは懸念をもつ地元としては、同意など不可能でしょう。

さらに、広範囲で測量自体を拒んでいる地区、トラスト運動の始まった地区もあり、国土交通大臣による事業認可を取り消す訴訟まで起きており、問題はこじれる一方にあるようにみえます。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで今年の冬は暖冬でして冬型気圧配置が続かず、頻繁に低気圧が通過し、太平洋側でもまとまった雨が何度も降っています。南アルプス南部の静岡市井川では、12月に入って24時間降水量70㎜以上となった日が3度ありました。

井川地区と周辺では、この3回の雨により県道沿いで土砂崩れが多発し、それぞれ数日間ずつ通行止めとなりました(15日横沢、17日・23日田代、28日大間。

土砂崩れの起きた県道は、静岡市街地から南アルプスへ向かう経路に当たります。また、土砂崩れと関係なく、あちこち補修工事で通行規制だらけです。南アルプスの入り口手前に過ぎないものの、道路事情はこれほど悪いのが現状なのです。
http://www.city.shizuoka.jp/000_002238.html

リニアの工事予定地は、今回の土砂崩れ現場よりも、さらに40~50㎞も山を分け入った奥地になります。JR東海が静岡市側の南アルプスで大工事を行うのなら、過去に行われた井川ダムや畑薙第一ダムの建設と同様に、まずは道路を整備する必要せねばならないでしょう。そうしないと年間を通じたアクセス自体が不可能でしょう。

延々数十キロもの道路沿いの地質調査や環境調査を行い、そのうえで環境保全措置を検討して道路整備に着手。場合によっては橋やトンネルを新設する必要があるかもしれない。

…いったい何年かかるのでしょうか?

そしてもちろんのこと、リニア本体工事に伴う大井川の流量減少対策や、発生土置場の安全性確保と生態系・景観保全策を打ち出さねばならない。ユネスコエコパーク制度との整合性も求められる。技術的にも法的にも前代未聞の事業内容となります。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

こんなことを考えると、”2027年開業”どころか、地区によっては2027年までに着工できるかどうかもあやしいように見えるのです。

先が見通せないといえば、年の瀬も押し迫ってから、こんな興味深いニュースが報じられました。

Yahoo!ニュース
外出する人の割合過去最低…特に20代低下 

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20161226-00000042-nnn-soci

情報の出所 国土交通省
外出する人が調査開始以来最低に~平成27年度全国都市交通特性調査(速報版)の公表について~ 
http://www.mlit.go.jp/report/press/toshi07_hh_000101.html

何でも年を追うごとに、休日に外出する人が減少傾向にあるというのです。

ちなみにリニア計画推進において、かつて沿線自治体が依拠してきた専門家会議の「中央新幹線沿線学者会議」の総括では、こんなことを述べておりました。

 IT革命によって、人の移動はそれほど必要でなくなると考えられがちだが、実はその逆で、より高度な経済社会活動を展開するためには、人と人とが実際に会って、フェイス・トゥ・フェイスの交流を行うことがますます必要なのである。情報を入手しやくすくなるろ、それに比例して、「実際に行ってみる」というニーズが生まれる、それがわれわれ人類の歴史である。そして21世紀の日本の国土にそれを可能にしてくれるのがリニア中央新幹線なのである。  

「リニア中央新幹線で日本は変わる」
  中央新幹線沿線学者会議(2001年)PHP出版より

確かにネットの普及により、ビジネス等で実際に会ってみる必要が増える人もいるでしょう。しかし、全般な傾向としてそうなるかというと、どうも現実は逆らしい。

考えてみれば当然というべきか、どこか行ってみたいと思っても、そんな湯水のごとくカネを使えるはずがない(笑)!

それにネットが普及してきた背景は、そもそも実際に出かけるのが大変/面倒、面と向かって会うのがイヤだけどつながっていたい、という人間心理の存在があると思います。その心理を無視しちゃうのは乱暴な議論だと思います。

…といっても、それは2017年の今だから分かることであって、十数年前の時点では、今とは違う考え方だったのかもしれない。

とにかく、社会の変化がものすごく激しい時代に「たかだか15年先を見通すことすら困難だった」という事例としてあげておきます。

クリック一つで商品が迅速に届く、グーグルアースで行った気になってしまう…なんて時代が来るとは、ちょっと前なら夢物語だったわけだし、今後はVRやAIの普及が外出機会にどんな変化をもたらすか、全く予測がつかない。大晦日には米アマゾン社が、巨大気球とドローンを組み合わせた斬新な配達システムの特許を獲得したというトンデモニュースまで目にしました。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

冒頭に記したように、リニア計画の発端は50年前の構想にあります。10年どころか2~3年先すら見通せない時代になってきているのに、50年前の構想をそのまま20年、30年も先に実現させようとするのは、かなり無謀なんじゃないのかな

そんなことを考えた年末年始なのであります。

山梨版評価書は誤りじゃないのか? 第四南巨摩トンネルと保守基地連絡路のナゾ

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何やら不審点の多い山梨県の第四南巨摩トンネル。

各種資料を整理してゆくと、どうも単なるトンネルではない、巨大地下構造物になっているように思えます。

こちらは甲府盆地から南アルプスにかけての縦断面図になります。普通の地図と異なり、右が西(名古屋方)になります。
イメージ 3

イメージ 6
トンネルの位置関係 

第四南巨摩トンネルに注目すると、トンネル内部で勾配が大きく変化しているのがわかります。トンネルの東側2/3くらいは40‰の急勾配で、残る西側の大部分(約2300m)は3‰の緩勾配、早川側の出口近くは再び40‰となり、そのまま南アルプストンネルに達しています。
(注)‰(パーミリ)とは1/1000のこと。40‰だと水平方向1000mで垂直方向に40m高さが変化することとなる。 

急勾配のトンネルの途中に緩勾配区間が設けられていることになり、なんだか不自然ですなのですが、おそらく、この区間が巨大な分岐施設となり、保守施設への連絡路を分けているのだと思われます。

また、富士川町での説明会で使用されたスライドを見ると、本線の北側に連絡路が示されています。ゆえに、本線のトンネルと並行にもう1本トンネルを掘ることになるのでしょう。
イメージ 4
JR東海ホームページより複製
図中緑色の線が保守基地と本線との連絡路 

つまり第四巨摩トンネルの途中でトンネルが分岐し、高下地区では事実上の複々線となって保守基地へと向かうことになるはずです。高下地区にはトンネルが4つ口を開け、その間を2本の高架橋が結ぶことになるのでしょう。

以前、当ブログに書いた内容と重複しますが、この連絡路の存在については、環境影響評価書では触れていないように思えます。

山梨県版の環境影響評価書の3-28ページ「⑧富士川町」の説明によると、
南アルプス市境からは、南西方向に地上を進み、最勝寺地区からトンネルに入る。最勝寺地区、鰍沢地区で三枝川、畦沢川及び県道406号とそれぞれ地上で交差した後、再びトンネルに入る。高下地区で小柳川を地上で渡河し、再びトンネルに入る。その後、十谷地区をトンネルで通過し、早川町に至る。なお、高下地区付近には、変電施設及び保守基地を計画する。富士川町の通過延長約13㎞のうち、約80%がトンネルである。」

と書かれており、トンネルが分岐するとか、本線とは別の高架橋を設けるといった記述はありません。保守基地を設けるとした記述はあるものの、その保守基地の説明においても、大規模な分岐装置が必要になるとか、大規模なトンネル設備が付随するという説明はありません。

イメージ 2
山梨県版 事後調査計画書より複製・調整
保守基地や連絡路についての記述はない

環境影響評価の過程では伏せられていた工事ということなので、各種予測や環境保全措置が、はたして妥当なものであったかどうか、かなり疑問に感じます。発生土量の予測には含まれていたようですが。。。

また、「環境影響評価の段階では位置や規模を明らかにすることが困難」として、事業認可後に先送りさせる手法がとられることがあります。リニア計画の場合、発生土置場(静岡県を除く)がこれに当てはめられていますが、保守基地ないし連絡路が該当するとする記述はありません。

イメージ 5
山梨県版 事後調査計画書より複製・調整
保守基地ないし連絡路についての記述はない


さらに長野県では、大規模な変電所(豊丘村)や送電鉄塔(大鹿村)の計画が事業認可後に明らかになり、環境影響評価の過程では全く明らかにされてこなかったと問題となっていますが、これは電力会社の施設だというヘリクツが成り立ちます(道義的には疑問)。けれども連絡路はJR東海の施設なのだから、そういう理屈も成り立たない。

つまり、連絡路の存在について環境影響評価の過程で示さなくてもよい、とする根拠はないのです。

こりゃあ、やっぱり、環境影響評価書の誤りじゃないかと思うのであります。


その証拠がこれ。

高下地区を西側から見下ろした完成予想図です。
前々回のブログで触れた、高下地区の景観予想図です。列車の通る高架橋だけが描かれており、連絡路はどこにもない。先のスライドの通りなら、本線の左隣に描かれてなければならぬはずです。

というわけで、本当はこうなるのでは?

イメージ 7


それからこんなことも気になります。

JR東海によると、本線と連絡坑との分岐付近での掘削断面積は、およそ300㎡になるとしています。南アルプス区間で想定している掘削断面積106㎡の約3倍となります。つまりふつうのトンネルよりも、長さの割に発生土量が多いことになります。

この拡幅区間は、実は鉱山の試掘権の設定されている箇所にあたります。茂倉鉱山といって、昭和10年代から石膏や銅を採取し、終戦と同時に閉山されたそうです。鉱山としての採掘期間は短かったものの、今でも赤茶けた水が湧きだしているといるようです。

イメージ 1
環境影響評価書より複製・加筆 

茂倉鉱山YouTube動画もあります。
https://www.youtube.com/watch?v=xF13S080w40

門外漢ゆえに詳細は分かりかねますが、やはり鉱床からの発生土というと、何かしら毒性のある物質が含まれている確率は高いような気がします。直近の事例でいうと、やはりすぐ近くの中部横断自動車道を思い出さずにはおれません。トンネルからの残土に基準値超の有害物質が次々と検出され、対策に追われて開通が大幅に遅れているというものです。

静岡新聞 2016/11/21
中部横断道19年度開通 新清水―六郷 2年遅れ
http://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/303566.html 

有害物質の含有量の高そうな箇所で、あえてトンネル断面を大きくして発生土量を多くしていることになり、環境配慮や地元への影響という観点からみて、果たして妥当な計画なのか、疑問があります。

この他、水環境の予測において、トンネル断面が大きくなることを考慮していたのかアヤシイですし、連絡路の建設に伴う騒音などの予測についても疑問が生じてしまいます。


すでに西工区(早川町側)では「起工式」が行われ、既成事実化sれていますが、これを容認し山梨県に説明を求めるべきだと思うのであります。




第四南巨摩トンネル 水収支解析で都合の悪いデータを隠していると思うのだ

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第四南巨摩トンネルの西工区について、今月中にも工事を始めるとのこと。

しかし残土の搬出先が決まっていない現状には変わりなく、やはり既成事実としての工事開始となりそうです。

ところでトンネルを掘れば地下水が湧き出し、地上の川や湧水に影響を及ぼすかもしれないという懸念があります。実際、山梨実験線の建設では、複数の川を干上がらせてしまっています。

第四南巨摩トンネルは大柳川流域をくぐり抜けることから、大柳川流域の水環境に与える影響が懸念されます。しかし環境影響評価準備書において、JR東海は予測を行いませんでした。

この点について、2013年3月の「準備書に対する山梨県知事意見」においては、「大柳川の流量に及ぼす影響を予測し、結果を評価書に記載すること」とする意見が出されました。

しかしJR東海は、この知事意見にも答えなかった。さらに国土交通大臣意見(2014年7月)でも同様の意見が出されたものの、補正評価書の段階では回答をせず、そのまま2014年8月に事業認可されてしまいました。その後、2015年12月24日になってようやく結果が公表されることになります。

それによると大柳川の流量は約20%減少するなどとされています。
JR東海ホームページ
「巨摩山地における水収支解析の結果について(平成26年12月24日)」 

イメージ 2
添付画像1 巨摩山地における流量への影響予測
JR東海作成「巨摩山地における水収支解析結果」より複製  

ご覧の通り、大柳川で流量が20%減少するなど、水源において流量が減少するとの予測が出されています。JR東海は「環境影響評価措置を講じるので影響を最小限化できる」としていますが、現地の実態や環境について何も存ぜぬ私が、この数字自体を評価することは避けます。

ただし影響を見積もる以前の問題として、次のようなものがあげられます。

【1】大柳川の流量が2割減少すると予測され地点は、トンネルとの交差地点より3.5㎞ほど下流である。この3.5㎞間に、トンネルの影響を受けない右岸からの支流が流入している。ならばトンネルとの交差部分に近い十谷渓谷での減少率は、もっと大きい可能性がある。 
イメージ 4

添付画像2 大柳川本流での流量予測地点の位置 
JR東海が大柳川本流で予測したのは●06の場所。トンネルと川との交差地点よりも約3.5㎞下流であり、この間に右岸より支流が流入してくる。そのため仮にトンネル真上で流量が減少したとしても、やや回復していると思われる。トンネル頭上は”大柳渓谷”という景勝地になっているそうだが、そこに与える影響は不明である。 

【2】第四南巨摩トンネルは大柳川支流の清水沢を浅い土被りでくぐり抜ける。清水沢は周辺集落の上水道源になっていると評価書には記載されているが、トンネル工事が及ぼす影響は示されていない。JR東海資料によれば試算自体は行っているはずであるから、公表すべきである。 

【3】実際の観測データが一切不明である。

【4】第四南巨摩トンネルは、大断面区間や分岐施設を設けるなど、複雑な構造になることが事業認可後の入札情報において示唆されている。流量予測において、トンネルの規模や構造が反映されているか不明である。 

特に問題が大きそうなのは【2】だと思うので、ちょっと説明いたします。


大柳川には清水沢という支流があって、合流点近くにかかる不動滝にて水を取水し、鳥屋地区・柳川地区の簡易水道にあてている旨が環境影響評価書に記載されています(添付画像3参照)

イメージ 1
添付画像3 巨摩山地における上水道の水源とトンネルとの位置関係
 環境影響評価書・山梨県編より複製・調整・加筆  


第四南巨摩トンネルはこの清水沢の下を浅い土被りでくぐり抜ける計画です。また列車の走行する本坑だけでなく、保守施設への連絡トンネルも並行して掘られる可能性地があります(詳細不明)。地表からの深さは50~60mと山岳トンネルとしては浅く、山梨実験線で実際に水枯れを引き起こした時と同じ程度の深さとなります。

上水道の水源としている川の流量ががトンネル工事によって減少するかもしれない。だからこそ環境影響評価において取り上げたはずです。

しかし現在にいたるまで、添付画像1に示す通り、清水沢に及ぼす影響については何も示されていません。

もちろん、予測はあくまで予測であり、予測を行わずとも万全な保全措置をとるという考え方も可能かと思います。それはひとつの方法でしょう。

しかしJR東海資料によると、どうやら清水沢における予測は行っていたらしいのです。これがその証拠になります。


イメージ 3
添付画像4 巨摩山地水収支解析において解析モデル検証のために試算を行った地点の一覧  
JR東海作成「巨摩山地における水収支解析結果」より複製


ここでいう「地点番号9」が清水沢に該当します。

「モデル検証用」というのは、コンピュータ上で計算された結果が実際の河川流量と合っているかどうかを検証してみた地点という意味です。ですから清水沢での試算は行っていたことになります。

けれども公表していない!

公表する・しないは事業者の誠意しだいになりますが、そもそも環境影響評価は地元への説明責任を果たすための制度のはず。簡易水道の水源ならば地域にとっては重要ですので、優先的に公表されるべき地点です。公表せずとも水資源への影響を回避できる自信があるのなら、あるいは重要ではない場所と判断したのであれば、その旨を明記しておけばよろしい。

どちらもしないということは、都合の悪い試算結果を隠していると疑われても致し方がないと思います。 

おかしいですよね?
さらに不審なのは情報開示のあり方です。もう一度、添付画像をご覧ください。

清水沢はじめ大柳川流域一帯では、平成18年から24年にかけて流量の観測も行っていたとしています。これは環境影響評価開始どろか、国土交通大臣による中央新幹線の建設指示(平成23年5月)が出されるより5年も前になります。

何のために観測をしていたのでしょう?

今となっては、それは試算をおこなった際の検証用であったことが判明したわけです。

なにゆえ観測していた事実すら事業認可後まで伏せていたのでしょう? 

環境影響評価の結果(準備書)を公表したのは平成25年のこと。しかし流量の観測は、少なくともその時より6年前から開始しており、その結果をもとに流量予測を行うことが可能であったのにもかかわらず、なぜか準備書では公表しなかったことになります。さらに「評価書に試算結果を載せよ」という県知事意見にも答えなかった。

非常におかしい  

「都合の悪い試算結果を隠している」のは間違いないだろうと思うのであります。

矛盾だらけの大井川導水路案は実現不可能であろう

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JR東海が、事業認可後に出してきた以下の事項

・大井川の流量減少対策としての導水路案
・燕沢への大規模発生土置設置計画
・工事用道路トンネルの位置変更(4㎞)
 

について環境影響評価を行い、このほど静岡県に事後穂調査報告書の形で送付している。条例に基づき、県庁ホームページにて公開されており、現在、パブリックコメントを受け付けている。

静岡県庁ホームページ
【リニア中央新幹線に係る事後調査報告書の公表及び県民意見の募集について】



このうち導水路案について考えてみたい。

環境影響評価においては、リニアの南アルプストンネル建設により、大井川本流にて河川流量が2㎥/s(毎秒2トン)減少するとの試算が示された。これは大井川下流部での上水道としての水利権と同等の値であり、また、環境維持放流として発電ダムより下流に流されている水量にも相当する値である。

”ダム銀座”としてかつて完全な河原砂漠となっていた大井川としては重大な事態である。このため、流域からはいっせいに懸念の声があがった。

しかし環境影響評価の過程では、具体的な対策を講じることなく事業認可を受けたため、継続審議のような形となり、そこでJR東海が提案したのが導水路案である。

一昨年の11月27に、JR東海が自主的に開催した有識者会議「大井川水資源検討委員会」で提案し、同委員会で容認(?)されたとして県や市に説明していたものを、はじめて公式文書の形で公表したことになる。

はっきり言ってトンデモ案じゃあるまいか?

まず、話の筋が通っていない 

JR東海が作成した環境影響評価書で示した見解は、
●工事中はポンプによってトンネルへの湧水をくみ上げるので河川流量は減少しない。
●流量が大幅に減少するという試算は、トンネルに防水シート設置や薬液注入などの遮水工事を行わない前提で行ったものであるから、適切な工法を用いれば、それほどひどいことにはならない。
●それでも河川流量減少の兆候が確認されれば、新たな案を考える。

といいうものであった。この見解の妥当性はひとまず横においておく。

この見解ではJR東海は、
①トンネルの建設により大井川の流量が大幅に減少するかもしれない。
②けれども適切な工法を用いれば防げるかもしれない

と主張しているわけである。つまり河川流量が減少するかどうかは、実際に工事を行うまでは分からないというわけである。

この後に出てきたのが導水路案である。
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導水路案
JR東海ホームページより複製 

導水路といっても、断面積は10~20㎡、幅3~5mと結構大きく。長さは11㎞にも及ぶ。発電所の導水路のような規模である。静岡市郊外に工業用水のパイプを埋設したトンネルがあるが、おそらくこれと同程度であろう。
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静岡県企業局の工業用水の導水トンネル
地下にパイプが埋設されている。目測で幅4m程度。 

これだけの規模なので、それなりに残土が増えるし(おそらく20万立米程度)、事後調査報告書によれば、やはりそれなりに水を引き込む恐れがあるとしている。つまり、環境保全措置といいながら、結構な自然破壊をもたらすのである。

ところで、自然破壊を侵しながら導水路を建設しても、「②適切な工法を用いたところ流量の減少が生じなかい」ケースもありうる。

もちろん流量が減少しないことに越したことはないのだが、その場合、掘ってしまった導水路は無用の長物となる。非常口や保守管理には使えない。放置すれば漏水ひいては落盤を起こして地上の異変を引き起こすおそれもある。なりより壊されてしまった自然は元に戻せず、無駄な自然破壊に他ならない

評価書の記述に従えばこうした事態は当然起こりうるのだが、報告書では全く検討していないのである。

唐突に、脈絡もなく評価書を否定したことになっている。

万一に備えて事前に対策を講じておくのは当然であろう。けれども騒音対策のフードとか、工事ヤードの仮囲い等とは異なり、導水路トンネルは不要になった場合に撤去・現状復元が不可能なのである。

現時点で必要性すら判断のつかない自然破壊を行ってよい場所ではない。

そしてなりより導水路出口より上流側への対策とはならない!という致命的な問題がある。

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大井川の水利系統図
ダム便覧、中部電力資料より作成  


その区間、実に15km以上にも及ぶ。支流の枝沢へも影響が出るかもしれない。
JR東海は、導水路は”水資源対策”と位置づけ、これが完成すれば下流の生活には影響ないと主張している。確かに机上の論理としては正しい。けれどもそれでは上流部に住む渓流魚をはじめとする水生生物はたまったものではない。

JR東海は移植するなどと言っていたことがあるけれども、影響を受けない区間よりも影響を受ける区間のほうが長いのだから、面積的に受け入れさせることが可能かどうか分からない。水生昆虫なんで移植できるのだろうか??


さらに河川生態系が大きな影響を受けるととともに、この区間から取水している水力発電所4か所も大きな損失を免れない。仮に損失分に対し電力会社が下流での取水量を増やしたら、導水路の存在意味はなくなってしまうこの区間への対策を講じなければ水問題は解決できないのである。
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JR東海資料に発電用の取水堰を記入
なぜか発電用水への影響は検討していない 


・・・ところがトンネル真上に水を戻す芸当が可能ならば、あるいは電力会社との協議により渇水時に取水を停止してもらうような協定を結べば、そもそも導水路なんぞ不要ということになる。河川法第53条の2にはそうした規定もある。

かように導水路案は矛盾に満ちている。矛盾に満ちた案が出てくるのは、「トンネルが河川水を引き込んで河川流量が減少する」という予測に対し、「引き込んだ水を地上に戻す」ことだけを考えているからである。それでは環境保全措置としての導水路ではなく工事のための排水路に過ぎない。

導水路を考えるより先に、トンネルに水を出させない方法を検討するべきであろう。

そもそも、トンネルの構造や河川との位置関係を見直すべきじゃあるまいか?



南アルプス大量残土置き去り計画~土石流の堆積場を残土で埋め尽くす

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前回に引き続き、JR東海が静岡県に送付した事後調査報告書の問題点です。

今回は燕沢平坦地での発生土処分計画について取り上げます。

全国紙などでは、「静岡市や静岡県の要望を受けて発生土置場を変更した」というJR東海の主張をそのまま流しているものをみかけます。しかし環境影響評価の段階でJR東海が出してきた案は「標高2000mの稜線上まで山の中をくり抜き。ベルトコンベヤで運搬して積み上げる。」という、到底、許可できるはずもないシロモノだったのですから、事業認可後になって本命の候補地を全面に出してきたというべきでしょう。

さてその処分場の案ですが、やはりこれも、とんでもないシロモノには変わりありません。

「大井川の谷底が400mほどに広くなっている燕沢平坦地という場所に、長さ600m、幅300m、最大高さ70mで積み上げるというものです。

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添付図表1 JR東海による盛土案
事後調査報告書より複製 

この場所は大井川の最上流部。標高2500m級の山々にぐるりと囲まれていますが、その斜面は激しく崩れ、大量の土砂と倒木が大井川本流に崩れ落ちています。その様子は上空から撮影された写真で一目瞭然。

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添付図表2 発生土置場候補地付近を上空から俯瞰
Google Earthより複製・加筆 


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添付画像3 燕沢平坦地付近の地形図
国土地理院 電子国土より複製・加筆 

盛土部分を拡大
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添付画像4 盛土案を航空機からの写真に合成
国土地理院 電子国土より複製・加筆 



率直な疑問。

対岸が大きく崩れたら川をせき止めちゃうじゃん!

・・・・今のところ、JR東海は対岸の地形や地質についての調査・報告はしていないません。

この燕沢平坦地では、大井川の流れが頻繁に変わっています。しかし大規模な盛土で右岸(地図上では左手)に流れを押し込めることになります。すると必然的に右岸側の侵食が進むことになってしまう。

防災科学研究所の地すべり分布図によると、その右岸側には大規模な地すべりが潜んでいる可能性が示唆されています。


地すべりの下端に川の流れをぶつけるのは危険じゃないのかな?

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添付図表5 燕沢平坦地周辺の地すべり分布




現在、静岡県内での残土処理計画や前回取り上げた大井川導水路案などについて、静岡県でパブリックコメントを受け付けています。

静岡県庁ホームページ
【リニア中央新幹線に係る事後調査報告書の公表及び県民意見の募集について】
http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-050/assess/rinia/20170117.html

大井川源流部で川が消滅するんじゃないのか? ~導水路は環境保全に約立たない!

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大井川での流量減少予測に対し、導水路ではどうしようもないという話です。

元に戻せない問題なので、むしろ、こっちのほうが深刻かもしれません。


添付図表1は、現況と導水路完成後の流量予測値を比較した図です。事後調査報告書ではモノクロですので、大井川水資源対策検討委員会の資料からカラー版を貼り付けておきます。

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添付図表1 南アルプスでの工事概要
次の図表2の位置関係を見るのに参考にしてください 

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添付図表2 大井川導水路案
JR東海の大井川水資源対策検討委員会資料より複製
リニア南アルプストンネルは、大井川流域地下では標高980~1210mに掘られる。しかしトンネル頭上の大井川は標高1350m前ぐらいなので、自然流下させるには下流まで引いてこなければならない。導水路はトンネルの標高1170m付近から分岐し、11㎞下流の標高1150m付近で川に放流する。 

導水路案は「下流の水資源をどうするのか」という一点に絞られて出てきた案です。・・・まぁおそらくは、大量湧水で工事ができなくなるのを防ぐための「排水路」だと思うのですが。 

それはともかく、見落とされがちだったのが、図左上にある地点です。ここには中部電力の西俣取水堰があります。

ここでは、
現況の流量(解析値)3.97㎥/s
トンネル完成後の予測値 3.41㎥/s
導水路完成後の予測値 3.40㎥/s
となっています。

導水路出口より16㎞も上流なので、トンネル湧水を戻すことはできません。導水路完成後に0.01㎥/s増えると試算されたのは誤差でしょう。流量の減少が0.57㎥/sというのはかなり大きな値だと思いますが、それほど騒がれていないようです。しかしよく考えると、実はとんでもない自然破壊が隠されているんじゃないかと思い至ったのでありました。


ここは、北の塩見岳から流れてきた中俣と、南の悪沢岳(荒川岳)から流れてきた小西俣とが合流する地点です。合流点より下流が西俣と呼ばれます。

予測地点は、この合流点のすぐ下流というのが重要です。

ここでの流域面積は約36㎢。

このうち、中俣の流域面積は約17㎢で47%小西俣の流域面積は約19㎢で53%㎢となっています。したがって単純に考えると、合流点(取水堰)での現況流量3.97㎥/sのうち47%は中俣から、53%が小西俣から来ていることになります。つまり中俣から1.87㎥/s、小西俣から2.1㎥/sと推定されます。
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添付図表3 西俣取水堰で合流する中俣と小西俣
緑色の部分が中俣の流域(17㎢)
赤色の部分が小西俣の流域(19㎢)
流域面積と流量とが比例すると考えると、中俣の流量は1.87㎥/s、小西俣の流量は2.1㎥/sであると推定される。 


ここで図 をもう一度確認していただきたいのですが、リニアのトンネルが貫くのは小西俣流域のほうです。中俣は遠く離れているので、おそらくトンネル工事の影響はほとんど受けないでしょう。

すると取水堰での流量減少予測0.57㎥/sは、ほとんどが小西俣での減少に伴うものだと考えられるのです。2.1㎥/sから0.57㎥/s減ったら1,54㎥/sとなり、現在の3/4となります。


ところで今までの試算は年間平均流量を対象としたものです。

さらに問題なのは渇水期。

環境影響評価書では、渇水期の流量予測値は以下のように試算されていました。
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添付図表4 補正版環境影響評価書(静岡県編)より複製・加筆 

赤く囲ったのが西俣取水堰になります。これによると、西俣取水堰では現況の渇水期流量1.18㎥/sとしています。

先ほどと同様に考えると、中俣からの流入量は0.55㎥/s、小西俣からの流入量は0.63㎥/s、合流して1.18㎥/sとみなされます。

これが、トンネル完成後には0.62㎥/sまで減ると試算しています。おそらくこの減少量は小西俣での減少に伴うモノでしょう。

0.63㎥/sから0.56㎥/s減って0.07㎥/s?
言い換えれば70リットル/秒?

しかも「渇水期の3ヵ月平均」なので、うち半分(45日)くらいはこれを下回ってしまう。標高2000m近い高地ですから、流量がこれだけ減れば凍結しかねません。

これじゃほとんど「川が消滅」するも同然では? 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

西俣取水堰より上流は、大井川水系に生息しているヤマトイワナに残された数少ない生息地のひとつとして、禁漁区に設定されています。確かに林道建設や水力発電の影響を受けていない昔ながらの環境が残され、川が多くの魚を養えるだけの規模をもち、なおかつ純粋なヤマトイワナが残されている水系というと、ここぐらいしか残されていないのかもしれません。

今となっては登山道すら存在しないので、容易に人が入ることもないでしょう。

そういう場所を根本からぶっ壊してしまいかねないのだから、大井川水系最悪の自然破壊は、ここ小西俣で起こるではないかと思うのです。もちろん下流域での”毎秒2トンの減水”も大問題ですが、そちらの方は、水利調整でも何でも、原理的には対処方法がある。けれども小西俣の場合は、どうしようもない。 

小西俣は列車の通るトンネルより1000mも高い位置になるから、ポンプアップするととんでもないエネルギーが必要になる。0.56㎥/sを1000mくみ上げるなら、最低でも5500kWは必要。水力発電所が一つ必要になってしまう!

それなのに「導水路建設で環境保全ができる」などというのは、とんでもない話だと思うのであります。

平成29年版事後調査報告書(導水路案・工事用道路トンネル案・盛土計画案)のおかしいところ

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「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書【静岡県】平成26年8月」に基づく事後調査報告書(導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果)
という、バカみたいに長ったらしい題名の報告書にういて、問題点をまとめました。

【水環境】
西俣最上流部の小西俣は、林道建設や電源開発の影響を受けておらず、禁漁区に設定されていることからも、生態系保全の上で重要な水系であると思われる。その小西俣では、環境影響評価書には明記されていないものの、トンネル完成後の著しい流量減少が予測されているとみられる。万一流量が減った場合は生態系に重大な影響を及ぼすが、導水路やポンプアップでは水を戻すことができない。西俣取水堰より上流域での詳細な予測結果を公表したうえで、保全や調査の方針を再検討すべきである。

【要旨】 評価書の表6-3-1(13)では、西俣取水堰上流では、現況の渇水期流量1.18㎥/sが、トンネル完成後には0.56㎥/s減少して0.62㎥/sになるとしている。取水堰のすぐ上流で北から支流の中俣が流入しているが、中俣はトンネル建設の影響を受けにくいであろうから、取水堰での流量減少は、小西俣での減少を強く反映しているとみられる。
 取水堰における流域面積約36㎢のうち、小西俣流域は約19㎢(53%)である。流量が流域面積に比例すると仮定すれば、取水堰での流量1.18㎥/sのうち小西俣からは53%にあたる0.63㎥/sが供給されていることになる。また平成28年版の事後調査報告書では、小西俣最下流での平成27年11月の流量は0.407㎥/sであったとしている。小西俣下流での渇水期流量を0.4~0.6㎥/sとみなし、トンネル完成後に0.5㎥/s程度減ると仮定すれば、ほぼゼロになってしまう。

 なお評価書の「資料編 水資源」では、小西俣では平成19年から流量観測を続け、調査結果を水資源収支解析の検証に用いたとしていることから、経年データと試算結果自体は存在するはずである。
 


●「表4-1-2-3-5 河川流量の検討結果」は、第4回大井川水資源対策検討委員会(平成27年11月27日)の資料「水収支解析の結果(河川流量)」と同一の値である。後者は山岳トンネル建設後に導水路を設置した場合を想定したものであって、工事用道路トンネルの存在は明記されていない。
 その工事用道路トンネルは、西俣支流の悪沢など複数の沢と交差することから、それらの流量を減少させるのではないかと思われる。沢の水が減った場合、影響は西俣から田代ダムを経て道路トンネル南口にまで及んでしまい、本坑や非常口の工事による流量減少に拍車をかけるおそれがある。

●同じく表4-1-2-3-5では、導水路で大井川本流にトンネル湧水を戻しても、放流先の椹島では現状より0.7㎥/s減ったままと予測されている。自然流下で不足する分はポンプアップで対応し、また、水質に問題がある場合には処理を行って放流するとしている。
 これでは、自然な水循環と水質保全とを永久に機械で代替させ続けることになる。ユネスコエコパークの目的および審査基準である「持続可能な発展」に合致しない

●評価書8-2-4-13ページにおいて、「先進坑が隣接工区とするまでの間は、ポンプによる湧水くみ上げにより流量の減少は生じない」としている。しかし事業認可後に出された山梨・長野両県向けの資料に基づくと、南アルプストンネルの大井川流域での区間11㎞のうち、約2.1㎞は山梨・長野両県側から掘られることになっている。この2.1㎞の区間で湧水が発生した場合は、トンネル貫通まで大井川本流に戻すことができない。工事の途中で大井川の流量は現状を維持できなくなるおそれがあるい

●評価書に係る国土交通大臣意見では、山岳トンネル部の湧水対策として、「河川流量への影響を最小化できるよう水系を回避又は適切な工法及び環境保全措置を講じること」としている。この意見を踏まえて各種トンネルと大井川水系との位置関係について再検討すべきであったが、なされていない。

●評価書8-2-4-9ページでは、大井川にて流量が大幅に減少するとの予測は遮水工事を行っていない想定下であり、適切な施工方法を実施することにより河川への影響を小さくできるとしている。したがって、完成後に水資源への影響が生じぬケースも想定する必要があるが、その場合、導水路はどのように扱われるのか。

●東から大井川本流に合流する沢(地形図上での名称は燕沢)は、源頭に崩壊地を抱えている。新旧の空中写真の比較によると、その規模は拡大傾向にある。燕沢平坦地への出口には流下した土砂が円錐状に堆積しており、その形状は「図1-11 燕沢付近の発生土置き場における盛土計画」でも明瞭である。谷の出口両側に盛土を行うと、同沢より供給される土砂は左右に広がれずに直接大井川本流に到達しやすくなるので、水質や川床の状況に変化をもたらすおそれがある。


【動物・植物・生態系】
●事後調査報告書によると、工事用道路トンネルの建設に伴い一か月間に4000台以上の車両が通行するとしている。完成までは当然地上を通行することになる。導水路や非常口の工事を同時に進めれば、その台数は2倍以上、つまり8000~9000台になると思われる。これでは本体工事時と変わらない。評価書の「動物 表8-4-1-44(10)環境保全措置の内容」では、「工事用道路トンネルを設置し地上における工事用車両の運行を低減することで、重要な猛禽類の生息環境への影響を低減できる。」と記述していたが、これだけ多くの車両が地上を通行するのであれば、猛禽類への影響は生じるのではないか

●過去の空中写真によれば、燕沢平坦地付近の大井川は十数年おきに流路を変動させてきたとみられる。ドロノキをはじめ河畔林を構成する植物は、こうした変動の激しい河川環境に適応した種であるとされる。しかし盛土後は河川空間が狭められることから、流路沿いでは洪水時に一気に植生が破壊され、逆に流路から離れた部分での擾乱は生じにくくなるなど、現在とは環境が大きく変化すると考えられる。盛土の出現により河畔林を構成する種や林齢はどのように変化するのか予測すべきである。

●評価書および事後調査報告書での生態系についての影響評価は、ホンドギツネやミヤコザサ-ミズナラ群集など南アルプスに広く分布する種・群落を対象としたものであるため、改変による生態系への影響は小さいと結ばれている。これは当前である。発生土を燕沢平坦地に集約する方針を出したのであるから、事後調査報告書においては、改変行為により同地における生態系がどのような影響を受けるのか予測しなければ意味がない。

●生態系におけるヤマトイワナについての評価(4-1-4-3-45ページ)において、流量減少に伴いハビタットの一部が縮小する可能性はあるが、周辺に同質のハビタットが広く分布することから、ハビタットの質的変化は小さいとしている。しかし、その前段で「相当上流部には生息するとされている」と表現するように、生息可能域が縮小していることは把握しているのだから、この評価結果は矛盾している。ヤマトイワナの数少ない生息地とされる西俣上流域での流量減少は、ハビタットの著しい縮小・劣化を意味するため、認識を改めてもらわなければ困る。

景観について】
 「2-2 日常的な視点場における景観変化の予測について」では、発生土置場の完成による景観等の変化に及ぼす影響は小さいとしている。しかしこれまで存在しなかった巨大な盛土が出現し、林道上からは明らかに視界を遮ることになる。容積370万㎥、高さ70m、面積は図上計測で14~15万㎡と、きわめて巨大な規模であり、景観の変化が小さいとする見解には違和感を覚える。景観の予測結果については客観的な評価がなされるべきでる。


【燕沢への巨大盛土計画と周辺との地形との関係について】
●燕沢平坦地において西から大井川に合流する下千枚沢は、その流域に大規模な崩壊地を抱えており、大量の岩屑・倒木を大井川本流に供給しているとみられる。この沢の合流点に正対する形で大規模盛土により川床幅を狭めてしまうと、土石流が発生した際に大井川本流を塞いでしまう可能性が現在よりも高まる
⇒前々回のブログ記事

防災科学技術研究所ホームページの地すべり分布図データベースによると、下千枚沢より南側の斜面について、幅約2㎞、比高約1100mに及ぶ大規模な地すべりであると判読されている。実際に地すべりであった場合、盛土後は大井川の流れが地すべり末端に接するように固定されることから、侵食の促進により地すべりの挙動に影響を及ぼすのではないかと懸念される。しかし、これまで一帯の斜面についての情報がない。
イメージ 1防災科学技術研究所作成 地すべり分布図 「赤石岳」図幅より 

図1-11の盛土計画図によれば、盛土の基盤高さは河床から5m程度となっている。一方で資料編「図2-1-6-1 最大水深の比較」によると、土石流が流入する想定の上千枚沢合流点よりも上流で、すでに水位が5m以上になっていると予測している。崩壊が起こらずとも、盛土は増水時に激しい流れに洗われることになり、流出のおそれがある
イメージ 3

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どちらも平成29年版事後調査報告書より複製 



ところで先週13日には、静岡市長から静岡県知事に、この報告書についての市長意見が送付されています。

「トンネル湧水は河川水が減少した地点に戻せ」という、非常に厳しい意見が出されています。川に戻せるなら導水路は不要といういことになるものの、そもそもJR東海としてはトンネル湧水の排水施設のことを”導水路”と称しているフシがあるので、どう対応するのか見どころです。


リニア3兆円財政投融資は保安林解除のためだったりして

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南アルプストンネルの静岡県側では、まるっきり環境保全に役立たない環境保全計画がJR東海から出され、それに対して静岡市長より大幅修正を図るよう県知事に対して意見書が出されました。

果たして本気で工事を行うつもりがどこまであるのだろう?と思わざるを得ません。

しかし同じ南アルプストンネルの長野県側では、既に昨年11月に”起工式”が行われたのに続き、このほど非常口工事のためとして、農林水産大臣より保安林解除の通告が出されました。

保安林制度とは森林法に基づく制度です。大まかに言うと、土砂災害の防止、水源涵養、景観保全、雪崩防止などのために森林を保全するというもので、範囲を指定してその中での伐採や土地の改変などの行為が規制されます。大鹿村の工事予定地の場合、大部分の箇所が「土砂流出防備林」に指定されているようです。

そのように大事な保安林ですが、「保安林の指定理由が消滅したとき」または「公益上の理由により必要が生じたとき」には、かなり煩雑な手続きを経て解除することができます。
(詳細 岩手県庁ホームページ 以下の表も同ページより引用)
http://www.pref.iwate.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/004/092/kaijyonotebiki.pdf#search=%27%E4%BF%9D%E5%AE%89%E6%9E%97+%E8%A7%A3%E9%99%A4%27 

農林水産大臣ないし都道府県知事に多種類の書類を提出して審査されるのですが、図面や設計図、利害関係者の同意などのほかに、予算関係書類というものが必要となるそうです。

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規則では「予算書及び残高証明書の写し等資金の調達方法を称する書類」とあります。
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なんでもバブル期において、「地元の利益のため」としてスキー場やゴルフ場などを誘致し、保安林解除を行って工事を始めたものの、バブル崩壊とともに事業計画が雲散霧消し、中途半端に森林破壊を招くだけで終わるケースが相次いだそうで、そういう事態を防ぐために予算関係書類が必要となったそうです。

「資金の調達方法」という言葉を見て、すぐに思い出したのは、昨年秋に閣議決定した「JR東海への3兆円財政投融資」。

この財政投融資の話が決まったのち、鉄道ジャーナルという雑誌にて、鉄道政策専門家が疑問を呈しておられました。曰く、「リ大阪開業前倒しには賛同するが、土木工事の始まっていない現段階で3兆円も融資を行うのは不可解。名古屋開業時点で返済が増えるだけで大阪開業前倒しの役には立たない。」というものです。
佐藤信之「安倍政権による総合経済対策 リニア中央新幹線大阪延伸の前倒しとJR羽田新線」鉄道ジャーナル2016年11月号より該当部分を要約 

リニア計画を追いかけているジャーナリストの樫田茂樹氏も、ご自身のブログで疑問を投げかけておられました。
以下、引用させていただきます。

昨年から今年にかけて、JR東海は各地で工事契約を交わしていますが、本格着工にはまだ程遠い状態です。
 先日もJR東海の柘植社長が「2027年開業は厳しい」と発言しましたが、では、なぜ今「機構」から3兆円もの融資を受けるのか?
 以下、以前、ネット記事で見たり、鉄道に詳しいジャーナリストから教えられて整理した情報です。

 ★一つには、東京・名古屋に必要な5.5兆円もの金を工面できないこと。
 5.5兆円のうち、2.5兆円は東海道新幹線からの収益を充てることができるかもしれないとはいえ、それでも3兆円足りない。しかし、その3兆円を借りようにも、担保物件が3兆円もないJR東海に金融機関は融資をしようとしなかったのでは。借りたとしても、金利も3%台。
  また、海外の投資家は、数年前にJR東海の社長が「リニアはペイしない」と発言したことと、自己資金だけでは、いずれ5.5兆円以上のカネが必要になる東京・名古屋の建設は無理なのではとの読みからやはり投資に動いていなかった。
樫田茂樹氏のブログ「記事の裏だって伝えたい」
(2017/1/13)よりコピーさせていただきました。
http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-528.html 

しかし金融とか財務のことなどさっぱり分からぬ私の頭ですが、実は次のようなシナリオがあったんじゃないかと想像します。

仮に現段階で民間金融機関から資金をかけ集めていなくても、これでは「財政投融資で3兆円が融資された」旨の書類を出せばいいのではないか?


調べてみると、保安林解除だけでなく河川との交差部分(橋梁、川をくぐるトンネル)での工事でも、土地の掘削や工作物の新設のためには事業者の信頼性が問われるそうです。よくわかりませんが、やはり資金面でも審査されるようなので、そこでも「財政投融資で3兆円が融資された」旨の書類を出せばいいのではないでしょうか?

そんなわけで、JR東海への3兆円融資は、「大阪開業8年前倒し」のためではなく、国の各種審査をパスさせるためだったりして。。。

あくまで具体的根拠のない憶測ですので、その点はご留意願います。

大井川の流量減少問題とは、いつから認識されていたのだろうか?

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先週金曜日、「ストップリニア!訴訟」の第3回口頭弁論が開催された。私自身が関わっているわけではないけれども、被告の国土交通省に対し、裁判官が鋭い質問を投げかけたらしい。

以下、この質問についての弁護士のコメントを、樫田氏のブログより引用させていただく。
法律論として、事業認可の前段階の建設指示や手続きに違法があれば(十分な安全性の議論がなされていなければ)、今回の事業認可手続きの違法性につながるんですか、どうですか? と裁判官が釈明した。これは一つの争点になります。 

ブログ作者としては違法性を指摘することはできないけれども、手続きの上で、非常に気になる点がある。

果たして大井川の流量減少問題とは、いつから関係者の間で認識されていたのだろうか? 

個人的には、トンネルを掘ってJR東海の予測通りに2㎥/s流量が減少したら、河川法が想定していない訳の分からない事態に陥るんじゃないかと思っている。もしかしたら、手続き上の不備を指摘することができるかもしれない。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

これが大井川水系にある発電所の設置状況である(平成29年2月時点)。 バカでっかい図で申し訳ない。

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添付画像1 大井川水系の水力発電所(作者作成) 

最初に述べておくと、大井川は国土交通省が管理する一級河川である。

もとより大井川は、水力発電のために大量に取水されていて、川に水がないことから「河原砂漠」と言われる有様であった。特に問題視されていたのが、中流部で大量に水を取水していた中部電力塩郷堰堤(旧川根町:現島田市)と、最上流部で流域外の早川に導水している東京電力田代ダム(旧井川村:現静岡市葵区)である。

田代ダムは昭和2年(1927年)に完成し、昭和39年(1964年)になって、取水量が4.99㎥/sに増やされることとなった。静岡・山梨両県知事の認可を受けていたのだが、やがて大井川本流での流量減少が深刻な環境問題となる。昭和47年には静岡県知事より取水量を2㎥/sに戻すよう要請されるが、このときは実現しなかった。

しかし住民の間からは、水を戻すべきとの声が高まる一方であり、昭和51年、東京電力が補償を払ったうえで中部電力が塩郷堰堤からの放流量を増やすことが決まる。しかし春~秋に0.5㎥/sを流すだけに過ぎず、冬季に流れの途切れる状況は改善しなかった。昭和59年以降、川根三町による運動を皮切りに、県、建設省、電力会社による協議が何年も繰り返され、ようやく平成元年に至り、塩郷ダムより年間3~5㎥/sを放流することが決まる(これでも地元の要望の半分程度)。

ただ、この時点で田代ダム下流での水枯れは解消していない。

田代ダムからの放流量が増やされたのは、平成18年(2006年)1月1日のことであった。半世紀ぶりに、田代ダム直下で年間を通じて流れを確保することが実現したのである。これまでは地元行政と電力会社による協議が中心であったところに、全国各地の流量維持問題の先例にするとして、国土交通省が積極的に加わったのが大きかったようである。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで、「水返せ」運動が活発になっている傍らで、中央新幹線建設のために南アルプス一帯での河川流量調査が始まったらしい。

これは補正版の環境影響評価書(平成26年8月)に掲載されていた、大井川流域での流量観測時期を示した表である。
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添付画像2 大井川水系での流量調査時期 
補正版環境影響評価書【静岡県】 資料編より 

早いところでは、既に平成18年には既に調査を開始していたことになっている(それ以前については分からない)。先に書いたように、平成18年というのは、想定ルート上にある田代ダムからの放流量が52年振りに増やされた年でありる。

この流量調査とは、結果的に環境影響評価における流量予測の試算前提として用いられるが、そもそもは、運輸大臣からの指示に基づく地形・地質調査の一環であったと、JR東海側が説明している(平成25年10月8日静岡市内での準備書説明会にて6番目の質問者に対する返答)。


【補足】大井川で「水返せ」運動が活発になっているさなか、運輸大臣の指示に基づき、国鉄は中央新幹線の実現性を探るため南アルプスの地形・地質調査を開始する。昭和49年7月16日のことである。
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1974-7-17.html

運輸大臣からの指示による地形・地質調査は、この後も何度か行われることとなり、国鉄民営化はJR東海、鉄道総合技術研究所、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が引き継いた。平成12年(2000年)にも調査指示が出され、平成20年(2008年)10月22日に報告書が国に提出されている。
ここで疑問が生じる。

流量調査を開始したのは、環境影響評価どころか、当のJR東海自身が中央新幹線構想を発表する前の段階である。

取締役会でリニア中央新幹線構想を発表したのは翌平19年4月26日、建設費全額を自社負担すると公表したのは12月25日のことであった。こののち平成21年12月24日に、東京~大阪間での建設費など全ての調査報告書を国交省に提出する。翌平成22年2月24日、全国新幹線鉄道整備法に基づき、前原国土交通大臣(当時)が交通政策審議会へ諮問し、中央新幹線小委員会が発足した。ルート、事業者としてのJR東海の妥当性を審議することになる。

10月20日に開かれた第9回中央新幹線小委員会では、「環境調査」なるものが審議されている。そこでは当然、水環境も調査対象になったのだが、用いられた資料は図示するような湧水の分布と、河川の水質類型(環境保全のために守るべき水質基準)だけであった。

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添付画像3 第9回中央新幹線小委員会資料 

後々、一番の肝心事になろうはずの利水状況については触れていない。行政手続きのタテマエ上、アセス開始以前で利水問題に触れるのは早計と判断したのかもしれない。

しかし、国からの指示で、既に平成18年の段階で大井川水系での流量観測を行っていたのであるから、国はトンネル工事と大井川の流量との間に、何かしら関係性があると予測していたことは間違いない。 

なぜ、その情報を検討資料に用いなかったのであろうか? 

工事の難易度を予測するためか、流量減少時の対応を練るためか知らないけれども、「流量に何らかの影響を及ぼす可能性がある」と言っておけば、ルートなどを選定する段階において、流量への影響を最小化する方法を地元行政を交えて協議することも可能であったはずである。、

調査地域のど真ん中を流れる川において、ダムからの放流量について調整役を担ったのは国土交通省である。大井川の流量がシビアな問題になっていたことを知らぬはずがない。

大井川の流量減少問題とは、いつから認識されていたのだろうか? ~~川勝平太静岡県知事の場合~

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果たして大井川の流量減少問題とは、いつから関係者の間で認識されていたのだろうか?

という疑問の続きです。



前回書いたように、昭和49年7月に運輸大臣から国鉄に対し、南アルプスでの地形・地質調査をおこなうよう指示が出されました。国鉄民営化も鉄道総合技術研究所、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が引き継ぎ、運輸省が国土交通省となっても続けられました

JR東海の説明では、大井川での流量調査とは、その一環であったといことです。したがって国は、トンネル工事と河川流量との間に何らかの関係があると見越してのことであったはずです。

前回は、その調査を指示した張本人である国土交通省が、なぜか路線選定の段階で、全く水資源や河川流量について触れなかったという疑問を呈しました。そのことを計画段階環境配慮書で全く触れなかったJR東海の姿勢も問題でしょう。

さらによく分からないなのは静岡県の姿勢です。

静岡県内で、大井川の流量減少が大きな問題だと騒がれだしたのは、環境影響評価の結果が出された準備書公告の段階でした。平成25年(2013年)9月頃のことです。

あたかも、「2㎥/s流量減少をはじめて知った、そりゃ困る。」と言わんばかりの騒ぎようでした。 

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平成25年10月25日静岡新聞朝刊 
準備書公告から一か月後

ところが準備書公告の3年前の中央新幹線小委員会には、静岡県はこんな資料を提出していたのです。

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平成25年7月2日 第5回中央新幹線小委員会 静岡県提出資料 


この資料、その他のページを含めて書いてあることは
●東海道新幹線の静岡空港新駅の実現
●リニア開業後の東海道新幹線サービス向上
を要望するだけのものです。わざわざ川勝県知事が赴いて力説しています。

つい4年前まで「水返せ運動」で大騒ぎしていた大井川の下に長大トンネルを掘るというのに、まるっきり心配していません

さらに、南アルプスルートが確定したのは同年12月15日のこと。大井川源流部で大工事を行うことが決まっていない段階で、河川法上の許可に協力するなどと言えるはずがない。

これは怪しすぎる 

大井川源流(後にリニアトンネルの頭上になることが判明)の東京電力田代ダムから、環境保全のため年間を通じ放流することが実現したのは2006年1月1日。4年7カ月前のことである。

空港新駅建設とバーター取引したいという思惑は見え見えですが、そういう魂胆があるなら、この段階で大井川水問題に触れておくべきだったのでは?と思うのですが。 


・・・とまあ、邪推ばかりしていますが、大井川流域の首長も3年後になって「流量減少は寝耳に水」という言い方をしているので、もしかしたら件の資料は、県の環境関係の部署とか流域自治体とは協議せず、県知事のワンマンショーのために作成されたものかもしれません。2010年当時は、まだ南アルプスを世界遺産に登録する動きが続いていたので、静岡市および環境関係の部署が周知していたら、こんな能天気な資料を許す可能性は低いとも思います。

豊洲ゴタゴタについての、3代前の東京都知事の会見を見ていたらそんな気がしてきました。

大井川流域の全世帯の水使用の状況を調べねばならない?

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水資源に影響を及ぼすおそれのある工事を計画している際には、工事をする前に次のような事項を調べろということになっているらしい。

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環境影響評価書資料編より 

山梨実験線建設時には、実際に川が枯れる事態を招き、補償を行うこととなった。実験線の場合、詳しい数字は分からないけれども、おそらく水枯れの影響を受けたのは、一カ所につき多くて数十人という単位であったと思う。だからこそ事前調査を行うことも、給水車とか井戸掘りで対応が可能であったはず。

そのほか整備新幹線や高速道路など、あちこちのトンネル工事で類似の事態を目似ているが、それでも一カ所につき、影響を与えることになった人数は同じようなものであると思う。

けれども南アルプストンネルの場合、大河川(大井川)の源流域を幅10㎞にわたり完全にくぐり抜けるという特殊な構造であるから、水枯れは下流域全域に及ぶことになる。こんなおかしな構造のトンネルは、日本国内に先例はない。

というわけで影響を与えるスケールが全く違う。

上水道だけでざっと60万人である。
http://www.oigawakoiki.or.jp/profile.htm(静岡県大井川広域水道企業団)

60万人分の水道の状況なんて事前チェックできるのだろうか? 


上の通知を忠実に解釈すれば、事業者であるJR東海は、工場、田畑、店舗、学校、病院、発電…あらゆる施設の水使用の状況を調べておく必要があることになるし、井戸の分布状況なども把握しておく必要もあるみたいだ


工事の難しさ云々以前に、そもそも南アルプストンネル本体工事に着手することは可能なのだろうか?

疑問がまたひとつ増えた。 


導水路で水を戻しても全体の2/3しか戻ってこないから、未来永劫、ポンプを動かし続けねばならない。かつて北海道にて千歳川放水路が計画された際、掘削によりラムサール条約登録のウトナイ湖が枯渇するおそれがあるとされ、事業主体の北海道開発局が苦し紛れに出してきた対策案がポンプくみ上げであった。非現実的であるとしてボツになったのだが、JR東海の案は同じ発想である。 

ナゾだらけの早川芦安連絡道路 ~2027年名古屋開業はムリであろう~

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山梨県が早川町に出される329万㎥の発生土の大半を処分し、合わせて道路建設も可能な”一石二鳥”として事業計画を決定した早川芦安連絡道路。南アルプスの山深くに位置する早川町と甲府盆地とを直結する道路であり、交通不便な同町にとっては長年の悲願だったそうで、目的自体はまことに結構なのですが、どうも調べると疑問に感ずるところが多々あります。

この計画は、早川町最北端と甲府盆地側の南アルプス市芦安地区とを結ぶ全長4980mの道路を建設するというもので、うち3750mがトンネルとなっています。

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添付画像1 早川芦安連絡道路とリニア南アルプストンネルとの位置関係 


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添付画像1と2 山梨県資料より 

疑問①新設する道路に盛土構造が適切なのか? 
山梨県は、早川芦安連絡道路の盛土部分と、駐車場造成には合わせて160万立米を充てると見込んでいます。詳細な数字は不明ですが、当時の報道によると、駐車場に100万立米を用いるということなので、道路は60万立米程度を見込んでいるものと思われます。
(山梨日日新聞2014/2/16 芦安山岳館HPより)

けれども、最近の山梨県議会の様子では、どうやらそんなにたくさん使えるかどうか、アヤシクなってきたようなのです。

(山梨県議会 こごし議員のブログ)
http://kogoshitomoko.seesaa.net/ 

なんでも残土が盛土に使えるかどうか調べる前に、盛土化可能という前提で事業計画を決定したらしい。で、調べてみたら盛土にするには不適当な箇所があると判明したということです。

しかも、そんな計画の進め方だから、いまだに建設費の全容が分からないというおまけまで付いているそうな。

なんのこっちゃ?

さらに、この道路の地上区間は南アルプス巨摩自然公園の第3種特別地域に指定されているので、工作物の設計には細かな規定が定められているようです。そこに、改変区域が大きくなる盛土構造で道路を造るのはムリなのでは・・・?

②そもそも道路建設にリニア残土が必要なのか? 
総延長4980mの早川芦安連絡道路計画
のうち、3750mがトンネルで、地上区間は1230mです。トンネルを掘れば、当然残土が増えることになります。

設計図から推測すると、トンネル断面積は56㎡程度と見受けられます。するとトンネルの長さは3750mなので、計算上、発生土量は30~35万立米ぐらいとみられます。
56㎡×3750m×1.5=315,000㎥  

このほか斜面を切り崩すこともあるだろうから、便宜上35万立米としておきます。なおリニア工事に伴う早川町への発生土量は329万立米なので、1割増すことになりますね。

当然、リニアを着工する前に、早川芦安連絡道路からの残土35万立米を処分しなければなりません。一般的には、事業内で盛土に転用することになるでしょう。

仮に地上区間1230mのうち半分を盛土にすると仮定します。この場合、35万立米もあれば、道路幅を8m・盛土勾配30°としても、計算上、平均高さを約15mにすることが可能です。地図を見たところ、地上区間のほとんどは山腹に取り付けられるので、盛土構造になりそうなのは橋の取り付け部分だけでしょう。

道路盛土ならこれでも余るぐらいじゃないかと思うのですが、さらにリニア残土60万立米をも使う必要があるのでしょうか?

仮に地上区間の半分を95万立米の盛土にするなら、道路幅8mに対し盛土底面幅は63m、平均高さ27.4mと、ありえないような規模になってしまう・・・。

③2027年名古屋開業が不可能となるスケジュール 
とりあえず発生土を道路造成で使えると仮定しても、スケジュールについての疑問が残ります。

早川町内に出てくる発生土は329万立米ですから、早川芦安連絡道路に転用できるのは18%となります。次の駐車場造成では100万立米だから約30%です。

言い換えれば、道路を造り終えた時点でリニア早川町内工区は18%しか掘れないし、駐車場を造成し終えた時点でも48%までしか掘れない。

添付画像1にあるように、早川芦安道路の当初事業計画は、平成26年(2014年)度着工、31年(2019年)度完成でした。しかし現状では、どうみても今年中の着工はムリでしょう。仮に来年度に着工して順調に工事が進んだとしても、完成は平成35年(2023年)頃となります。2023年になっても、リニア早川町内工区は18%しか掘れていないのです。

そこから1~2年かけて、突貫工事で100万立米を掘り出し駐車場造成地に運び終えたとしても、まだ半分以上(52%)が残っています。この時期(2025年頃)、JR東海の工事工程表では、すでにガイドウェイ設置や電気工事を終えて試運転を開始している見込みなのでした。

実際には、早川芦安連絡道路の工事に取り掛かる前に、リニアの工事現場と早川芦安連絡道路とをつなぐ林道の拡幅整備が必要ですので、さらに着工は遅れることになります。

2027年開業は不可能なのでは?

河川法施行令第16条の4「何人も河川を損傷してはならない」

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JR東海の主張は、

「大井川の水が2㎥/sトンネルに吸い込まれるおそれがあるとしているが、トンネルから地上に向けて延々12㎞の排水トンネルを設けるので、下流の水利用には影響が出ない」

というものである。

ところで、この行為が河川法でどう扱われるのか、さっぱり分からないのである。

常識的に考えて、川の水を減らす行為とはすなわち、川の水を使うことである。

河川法によると、水を使うために川から水を引き込む場合は、下流で全量を元に戻す場合でも多くの許可や手続を必要とする。

例えば大井川に堰を築いて2㎥/sを取水し、12㎞下流で川に落として発電するようなような計画の場合、以下のようなところが関係してくるようである。

第23条(流水の占用の許可)
第23条の2(流水の占用の登録)
第23条の3(登録の実施)
第24条(土地の占用の許可)
第26条(工作物の新築等の許可)
第22条(流水占用料等の徴収等)
第35条(関係行政機関の長との協議)
第36条(関係地方公共団体の長の意見の聴取)
第38条(水利使用の申請があつた場合の通知)
第39条(関係河川使用者の意見の申出)
第40条(申出をした関係河川使用者がある場合の水利使用の許可の要件)
第41条(水利使用の許可等に係る損失の補償)
第42条(損失の補償の協議等)
第53条(渇水時における水利使用の調整)
第53条の2(渇水時における水利使用の特例)

もっと他にも該当する部分があるかもしれない。ちなみに2㎥/sを取水することは「特定水利使用(河川法施行令第2条第3号)」に該当し、国の許可を得ねばならない。 

ところが国土交通省の見解では、リニアのトンネル工事で川の水が減っても、水を使う目的で流量を減らすわけではないから、第23条の「流水の占用」には該当しないという。

けれどもそれだと、法律で定められている23条以下の種々の手続き、河川管理者による把握、他の河川使用者との調整、補償、渇水時対応などは、河川法的には不問にされてしまうであろう。

なんだかおかしいと思うのだ。

例えば新たに取水の許可を申請した場合、先に取水している側から、「そんなに取られるとウチが困る」と異議が出されれば、協議を通じて適正な取水量や損失補償を決めなければならない。

あるいは過大な取水計画が申請された場合、河川管理者が「そんな取水量だと河川環境が著しく悪化する」と判断した場合は、適正な量に改めさせねばならない。

公共物である河川水を使用するのだから、そのぶん使用料を納めねばならない。

少雨で川の水が減った場合、それぞれ水門を調整して取水量を減らさねばならない。

これが河川法の大筋である。

けれどもリニアの場合、そんな配慮は法的に無用となってしまうのではなかろうか。

「渇水であろうと何だろうとトンネルに川の水を引き込みます。一定区間の水が永久に減ります。受け入れなさい。」といった調子である。そればかりか「水を減らすが渇水時の調整は水利用者間で話し合ってくれ。」となってしまう。

河川環境や河川使用者に対する配慮は希薄である。


ちなみに河川法施行令第16条の4には、「何人も河川を損傷してはならない」と定められている。

今のリニア計画は、明らかに大井川を、物理的にも、環境面でも、水利権の上でもぶっ壊すのだから、工事を許可してはならないと思うのだ。

無人地帯で環境保全のための迂回トンネルを造るなら大鹿村だってつくるべきじゃないのか?

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南アルプスの静岡市側に計画されている工事用道路トンネルについての疑問です。
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添付図表1 南アルプスの工事関係図
図中央の緑点線が工事用道路トンネル 

この工事用道路トンネルとは、大井川最上流部の西俣(川の名前)の斜坑(非常口)と、燕沢発生土置場とを結ぼうというものです。環境影響評価書公表時から発生土置場の位置が変更されたため、工事用道路トンネルの位置も変更されました。

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添付図表2 工事用道路トンネルの概要
平成28年度 静岡県版事後調査報告書より 
位置関係については次の図も参照していただきたい 
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添付図表3 工事用道路トンネルの入り詳細
国土地理院ホームページ 電子国土Webより複製・加筆  

幅約10m、断面積約50㎡、長さ約4000mという計画で、けっこう大規模なトンネルとなります。これを3年程度で完成させるとのこと。静岡市街地郊外に、新東名高速道路の建設に際し、住宅地を迂回するために建設された道路トンネルがありますが、JR東海が計画しているものは、断面積がこれよりも一回り大きくなるのでしょう。

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添付図表4 新東名高速道路の工事用道路トンネル
静岡市街地北側にある北トンネル。住宅地を迂回するためにつくられたもの。なおJR東海が計画しているこ工事用道路トンネルは、これよりも一回り断面積が大きくなると思われる。

さて環境影響評価書では、工事用道路トンネルは環境保全の一環として建設するとされていました。
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添付図表5 環境保全措置としての工事用道路トンネル
静岡県版 環境影響評価書より  

今般の事後調査報告書によれば、同じ理屈で、さらに周辺の登山施設(二軒小屋ロッヂ)への影響も低減できるとしています。改めて環境保全措置としての位置づけを継承するものなのでしょう。しかし、疑問なのであります。

●工事用トンネルの建設工事用車両の影響は? 
リニア本線の工事用車両の往来を専用トンネル内で行うことにより、地上への影響を低減できるという理屈であります。かし工事用道路トンネルの建設それ自体で、かなりの数の車両が通行するはずですよね・・・?? 

JR東海の試算では、一月に4000台以上の車両が通行することになるとされています。数字の意味がよく分からりませんが、単純に一月の作業日数を28日として割れば、一日平均143台となります。トンネルは二方向から掘るでしょうから、片側の坑口で、それぞれ70台程度の車両の出入りがあるのでしょうか?

ところで現在、長野・静岡県経で三遠南信自動車道というものが建設中です。その環境影響評価書が公開されているのですが、同じくらいの断面積のトンネル建設がメインの事業であるものの、工事用車両の通行台数は最大で往復60台/日としています。

それと比較すると、リニアの工事用道路トンネル建設の場合でも、通常の道路建設と同等の工事車両が必要になりそうに思えます。

工事用道路トンネルを建設しない場合、より多くの車両が地上を通行することになります。その状況よりは確かにマシなのでしょうが、これで果たしてワシ・タカ類への影響を低減できるのでしょうか。

さらに作業工程上も不審です。

JR東海は、このトンネル建設に3年をかけるとしています。それから本線トンネルに続く斜坑(非常口)を掘るとすれば、斜坑掘削開始は早くとも2021~22年頃となり、2027年名古屋開業には間に合わなくなります。

となれば、斜坑の掘削は工事用道路トンネル建設に並行して進める必要が出てきます。斜坑の断面積は工事用道路トンネルと同程度であるから、車両の通行台数は2倍となってしまいます。

次の添付図表6をご覧ください。

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添付図表6 工事用道路建設時における発生土運搬車両の流れ


二軒小屋ロッヂの前は、工事用道路北口・西俣非常口と燕沢発生土置場とを行き来する車両が通行することになります。さらに千石非常口と燕沢平坦地との間は、4つの坑口とを行き来する車両が集中することとなります。本坑に着手する前から、大量の車両が通行することとなります。しかし、この部分での通行台数は明らかにされていないので、影響の程度を推し量ることさえできません。 


●河川流量への影響が予測されていない 
このトンネルは西俣に注ぐ悪沢という河川と交差します。北坑口が標高約1550m、南坑口は1400mぐらいとみられるから、勾配から判断して、悪沢での土被りは40m程度しかないとみられます。これは山梨実験線で水枯れを引き起こした箇所よりも小さく、流量の減少が懸念されるところです。

もしも悪沢の水をトンネルに引き込んでしまった場合、悪沢下流部の河川環境に影響を及ぼすだけでなく、西俣に注ぐべき水が、トンネルを伝って南坑口へ流れ去ることにもなります。

環境影響評価書では、西俣は本坑・先進坑・斜坑の掘削によって大幅に流量が減ると予測されています。その減ると予測される区間に合流する悪沢の流量が工事用道路トンネルによって減れば、西俣の流量もさらに減ってしまうでしょう。生態系だけでなく、この部分に存在する東京電力田代ダムにも影響を及ぼすことになります。

ところが事後調査報告書では、工事用道路トンネルの建設による河川流量への影響を取り扱っていないのです。

これは不審といういとで、先に県知事に提出された静岡市市長意見でも、工事用道路トンネル頭上の沢について、きちんと調査するよう求められています。


●残土が増える 
断面積が50㎡、長さ4000mとすれば、残土の量はおおよそ30万立米に達します。ただでさえ大量の残土処分で大きな環境破壊や土砂災害の懸念が生じているところへ、さらに残土を増やす。

ダンプの通行による環境負荷は、通行さえ終われば収拾がつきますが、残土は永久に消えることが無い。万が一、重金属でも出てくれば処分に四苦八苦してしまう。
環境負荷が、予期される保全措置を上回っているように思えるのですが・・・?




そんなこんなで、環境保全措置としては「なんだかおかしな話だよなあ~」と思うのであります。

”環境保全措置”などとデタラメなことなど言わず、素直に「工事に必要な道路だから環境負荷もやむを得ない」としておいたほうが、まだ筋が通っています。

そもそも、環境保全のためとして二軒小屋ロッヂ付近を迂回するトンネルをつくる必要性と財力があるのなら、こんな山奥よりも、大鹿村中心部など生活環境に深刻な影響を及ぼしかねない場所こそ、迂回トンネルを設けるべきでしょう。



大井川源流部で川が消滅するんじゃないのか? ~導水路は環境保全に約立たない!

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大井川での流量減少予測に対し、導水路ではどうしようもないという話です。

元に戻せない問題なので、むしろ、こっちのほうが深刻かもしれません。


添付図表1は、現況と導水路完成後の流量予測値を比較した図です。事後調査報告書ではモノクロですので、大井川水資源対策検討委員会の資料からカラー版を貼り付けておきます。

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添付図表1 南アルプスでの工事概要
次の図表2の位置関係を見るのに参考にしてください 

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添付図表2 大井川導水路案
JR東海の大井川水資源対策検討委員会資料より複製
リニア南アルプストンネルは、大井川流域地下では標高980~1210mに掘られる。しかしトンネル頭上の大井川は標高1350m前ぐらいなので、自然流下させるには下流まで引いてこなければならない。導水路はトンネルの標高1170m付近から分岐し、11㎞下流の標高1150m付近で川に放流する。 

導水路案は「下流の水資源をどうするのか」という一点に絞られて出てきた案です。・・・まぁおそらくは、大量湧水で工事ができなくなるのを防ぐための「排水路」だと思うのですが。 

それはともかく、見落とされがちだったのが、図左上にある地点です。ここには中部電力の西俣取水堰があります。

ここでは、
現況の流量(解析値)3.97㎥/s
トンネル完成後の予測値 3.41㎥/s
導水路完成後の予測値 3.40㎥/s
となっています。

導水路出口より16㎞も上流なので、トンネル湧水を戻すことはできません。流量の減少が0.57㎥/sというのはかなり大きな値だと思いますが、それほど騒がれていないようです。しかしよく考えると、実はとんでもない自然破壊が隠されているんじゃないかと思い至ったのでありました。


ここは、北の塩見岳から流れてきた中俣と、南の悪沢岳(荒川岳)から流れてきた小西俣とが合流する地点です。合流点より下流が西俣と呼ばれます。

予測地点は、この合流点のすぐ下流というのが重要です。

ここでの流域面積は約36㎢。このうち、中俣の流域面積は約17㎢で47%小西俣の流域面積は約19㎢で53%㎢となっています。したがって単純に考えると、合流点(取水堰)での現況流量3.97㎥/sのうち47%は中俣から、53%が小西俣から来ていることになります。

つまり中俣から1.87㎥/s、小西俣から2.1㎥/sと推定されます。
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添付図表3 西俣取水堰で合流する中俣と小西俣
緑色の部分が中俣の流域(17㎢)
赤色の部分が小西俣の流域(19㎢)
流量は流域面積に比例すると考えると、中俣の流量は1.87㎥/s、小西俣の流量は2.1㎥/sであると推定される。 


ここで図を確認していただきたいのですが、リニアのトンネルが貫くのは小西俣流域のほうです。中俣は遠く離れているので、おそらくトンネル工事の影響はほとんど受けないでしょう。

すると取水堰での流量減少予測0.57㎥/sは、ほとんどが小西俣での減少に伴うものだと考えられるのです。2.1㎥/sから0.57㎥/s減ったら1,54㎥/sとなり、現在の3/4となります。


ところで今までの試算は年間平均流量を対象としたものです。

さらに問題なのは渇水期。

環境影響評価書では、渇水期の流量予測値は以下のように試算されていました。
イメージ 1
添付図表4 補正版環境影響評価書(静岡県編)より複製・加筆 

赤く囲ったのが西俣取水堰での予測値になります。

これによると、西俣取水堰では現況の渇水期流量1.18㎥/sとしています。先ほどと同様に考えると、中俣からの流入量は0.55㎥/s、小西俣からの流入量は0.63㎥/s、合流して1.18㎥/sとみなされます。

これが、トンネル完成後には0.62㎥/sまで減ると試算しています。

おそらくこの減少量は小西俣での減少に伴うモノでしょう。

0.63㎥/sから0.56㎥/s減って0.07㎥/s?
言い換えれば70リットル/秒?

しかも「渇水期の3ヵ月平均」なので、うち半分(45日)くらいはこれを下回ってしまう。標高2000m近い高地ですから、流量がこれだけ減れば凍結しかねません。

これじゃほとんど「川が消滅」するも同然では? 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

西俣取水堰より上流は、大井川水系に生息しているヤマトイワナに残された数少ない生息地のひとつとして、禁漁区に設定されています。確かに林道建設や水力発電の影響を受けていない昔ながらの環境が残され、川が多くの魚を養えるだけの規模をもち、なおかつ純粋なヤマトイワナが残されている水系というと、ここぐらいしか残されていないのかもしれません。

今となっては登山道すら存在しないので、容易に人が入ることもないでしょう。

そういう場所を根本からぶっ壊してしまいかねないのだから、大井川水系最悪の自然破壊は、ここ小西俣で起こるではないかと思うのです。もちろん下流域での”毎秒2トンの減水”も大問題ですが、そちらの方は、水利調整でも何でも、原理的には対処方法がある。けれども小西俣の場合は、どうしようもない。 

小西俣は列車の通るトンネルより1000mも高い位置になるから、ポンプアップするととんでもないエネルギーが必要になる。0.56㎥/sを1000mくみ上げるなら、最低でも5500kWは必要。水力発電所が一つ必要になってしまう!

それなのに「導水路建設で環境保全ができる」などというのは、とんでもない話だと思うのであります。

平成29年版事後調査報告書(導水路案・工事用道路トンネル案・盛土計画案)のおかしいところ

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「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書【静岡県】平成26年8月」に基づく事後調査報告書(導水路トンネル等に係る調査及び影響検討結果)
という、バカみたいに長ったらしい題名の報告書について、問題点をまとめました。

【水環境】
西俣最上流部の小西俣は、林道建設や電源開発の影響を受けておらず、禁漁区に設定されていることからも、生態系保全の上で重要な水系であると思われる。その小西俣では、環境影響評価書には明記されていないものの、トンネル完成後の著しい流量減少が予測されているとみられる。万一流量が減った場合は生態系に重大な影響を及ぼすが、導水路やポンプアップでは水を戻すことができない。西俣取水堰より上流域での詳細な予測結果を公表したうえで、保全や調査の方針を再検討すべきである。

【要旨】 評価書の表6-3-1(13)では、西俣取水堰上流では、現況の渇水期流量1.18㎥/sが、トンネル完成後には0.56㎥/s減少して0.62㎥/sになるとしている。取水堰のすぐ上流で北から支流の中俣が流入しているが、中俣はトンネル建設の影響を受けにくいであろうから、取水堰での流量減少は、小西俣での減少を強く反映しているとみられる。
 取水堰における流域面積約36㎢のうち、小西俣流域は約19㎢(53%)である。流量が流域面積に比例すると仮定すれば、取水堰での流量1.18㎥/sのうち小西俣からは53%にあたる0.63㎥/sが供給されていることになる。また平成28年版の事後調査報告書では、小西俣最下流での平成27年11月の流量は0.407㎥/sであったとしている。小西俣下流での渇水期流量を0.4~0.6㎥/sとみなし、トンネル完成後に0.5㎥/s程度減ると仮定すれば、ほぼゼロになってしまう。

 なお評価書の「資料編 水資源」では、小西俣では平成19年から流量観測を続け、調査結果を水資源収支解析の検証に用いたとしていることから、経年データと試算結果自体は存在するはずである。
 


●「表4-1-2-3-5 河川流量の検討結果」は、第4回大井川水資源対策検討委員会(平成27年11月27日)の資料「水収支解析の結果(河川流量)」と同一の値である。後者は山岳トンネル建設後に導水路を設置した場合を想定したものであって、工事用道路トンネルの存在は明記されていない。
 その工事用道路トンネルは、西俣支流の悪沢など複数の沢と交差することから、それらの流量を減少させるのではないかと思われる。沢の水が減った場合、影響は西俣から田代ダムを経て道路トンネル南口にまで及んでしまい、本坑や非常口の工事による流量減少に拍車をかけるおそれがある。

●同じく表4-1-2-3-5では、導水路で大井川本流にトンネル湧水を戻しても、放流先の椹島では現状より0.7㎥/s減ったままと予測されている。自然流下で不足する分はポンプアップで対応し、また、水質に問題がある場合には処理を行って放流するとしている。
 これでは、自然な水循環と水質保全とを永久に機械で代替させ続けることになる。ユネスコエコパークの目的および審査基準である「持続可能な発展」に合致しない

●評価書8-2-4-13ページにおいて、「先進坑が隣接工区とするまでの間は、ポンプによる湧水くみ上げにより流量の減少は生じない」としている。しかし事業認可後に出された山梨・長野両県向けの資料に基づくと、南アルプストンネルの大井川流域での区間11㎞のうち、約2.1㎞は山梨・長野両県側から掘られることになっている。この2.1㎞の区間で湧水が発生した場合は、トンネル貫通まで大井川本流に戻すことができない。工事の途中で大井川の流量は現状を維持できなくなるおそれがあるい

●評価書に係る国土交通大臣意見では、山岳トンネル部の湧水対策として、「河川流量への影響を最小化できるよう水系を回避又は適切な工法及び環境保全措置を講じること」としている。この意見を踏まえて各種トンネルと大井川水系との位置関係について再検討すべきであったが、なされていない。

●評価書8-2-4-9ページでは、大井川にて流量が大幅に減少するとの予測は遮水工事を行っていない想定下であり、適切な施工方法を実施することにより河川への影響を小さくできるとしている。したがって、完成後に水資源への影響が生じぬケースも想定する必要があるが、その場合、導水路はどのように扱われるのか。

●東から大井川本流に合流する沢(地形図上での名称は燕沢)は、源頭に崩壊地を抱えている。新旧の空中写真の比較によると、その規模は拡大傾向にある。燕沢平坦地への出口には流下した土砂が円錐状に堆積しており、その形状は「図1-11 燕沢付近の発生土置き場における盛土計画」でも明瞭である。谷の出口両側に盛土を行うと、同沢より供給される土砂は左右に広がれずに直接大井川本流に到達しやすくなるので、水質や川床の状況に変化をもたらすおそれがある。


【動物・植物・生態系】
●事後調査報告書によると、工事用道路トンネルの建設に伴い一か月間に4000台以上の車両が通行するとしている。完成までは当然地上を通行することになる。導水路や非常口の工事を同時に進めれば、その台数は2倍以上、つまり8000~9000台になると思われる。これでは本体工事時と変わらない。評価書の「動物 表8-4-1-44(10)環境保全措置の内容」では、「工事用道路トンネルを設置し地上における工事用車両の運行を低減することで、重要な猛禽類の生息環境への影響を低減できる。」と記述していたが、これだけ多くの車両が地上を通行するのであれば、猛禽類への影響は生じるのではないか

●過去の空中写真によれば、燕沢平坦地付近の大井川は十数年おきに流路を変動させてきたとみられる。ドロノキをはじめ河畔林を構成する植物は、こうした変動の激しい河川環境に適応した種であるとされる。しかし盛土後は河川空間が狭められることから、流路沿いでは洪水時に一気に植生が破壊され、逆に流路から離れた部分での擾乱は生じにくくなるなど、現在とは環境が大きく変化すると考えられる。盛土の出現により河畔林を構成する種や林齢はどのように変化するのか予測すべきである。

●評価書および事後調査報告書での生態系についての影響評価は、ホンドギツネやミヤコザサ-ミズナラ群集など南アルプスに広く分布する種・群落を対象としたものであるため、改変による生態系への影響は小さいと結ばれている。これは当前である。発生土を燕沢平坦地に集約する方針を出したのであるから、事後調査報告書においては、改変行為により同地における生態系がどのような影響を受けるのか予測しなければ意味がない。

●生態系におけるヤマトイワナについての評価(4-1-4-3-45ページ)において、流量減少に伴いハビタットの一部が縮小する可能性はあるが、周辺に同質のハビタットが広く分布することから、ハビタットの質的変化は小さいとしている。しかし、その前段で「相当上流部には生息するとされている」と表現するように、生息可能域が縮小していることは把握しているのだから、この評価結果は矛盾している。ヤマトイワナの数少ない生息地とされる西俣上流域での流量減少は、ハビタットの著しい縮小・劣化を意味するため、認識を改めてもらわなければ困る。

景観について】
 「2-2 日常的な視点場における景観変化の予測について」では、発生土置場の完成による景観等の変化に及ぼす影響は小さいとしている。しかしこれまで存在しなかった巨大な盛土が出現し、林道上からは明らかに視界を遮ることになる。容積370万㎥、高さ70m、面積は図上計測で14~15万㎡と、きわめて巨大な規模であり、景観の変化が小さいとする見解には違和感を覚える。景観の予測結果については客観的な評価がなされるべきでる。


【燕沢への巨大盛土計画と周辺との地形との関係について】
●燕沢平坦地において西から大井川に合流する下千枚沢は、その流域に大規模な崩壊地を抱えており、大量の岩屑・倒木を大井川本流に供給しているとみられる。この沢の合流点に正対する形で大規模盛土により川床幅を狭めてしまうと、土石流が発生した際に大井川本流を塞いでしまう可能性が現在よりも高まる
⇒前々回のブログ記事

防災科学技術研究所ホームページの地すべり分布図データベースによると、下千枚沢より南側の斜面について、幅約2㎞、比高約1100mに及ぶ大規模な地すべりであると判読されている。実際に地すべりであった場合、盛土後は大井川の流れが地すべり末端に接するように固定されることから、侵食の促進により地すべりの挙動に影響を及ぼすのではないかと懸念される。しかし、これまで一帯の斜面についての情報がない。
イメージ 1防災科学技術研究所作成 地すべり分布図 「赤石岳」図幅より 

図1-11の盛土計画図によれば、盛土の基盤高さは河床から5m程度となっている。一方で資料編「図2-1-6-1 最大水深の比較」によると、土石流が流入する想定の上千枚沢合流点よりも上流で、すでに水位が5m以上になっていると予測している。崩壊が起こらずとも、盛土は増水時に激しい流れに洗われることになり、流出のおそれがある
イメージ 3

イメージ 2
どちらも平成29年版事後調査報告書より複製 



ところで先週13日には、静岡市長から静岡県知事に、この報告書についての市長意見が送付されています。

「トンネル湧水は河川水が減少した地点に戻せ」という、非常に厳しい意見が出されています。川に戻せるなら導水路は不要といういことになるものの、そもそもJR東海としてはトンネル湧水の排水施設のことを”導水路”と称しているフシがあるので、どう対応するのか見どころです。

リニア3兆円財政投融資は保安林解除のためだったりして

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南アルプストンネルの静岡県側では、まるっきり環境保全に役立たない環境保全計画がJR東海から出され、それに対して静岡市長より大幅修正を図るよう県知事に対して意見書が出されました。

果たして本気で工事を行うつもりがどこまであるのだろう?と思わざるを得ません。

しかし同じ南アルプストンネルの長野県側では、既に昨年11月に”起工式”が行われたのに続き、このほど非常口工事のためとして、農林水産大臣より保安林解除の通告が出されました。

保安林制度とは森林法に基づく制度です。大まかに言うと、土砂災害の防止、水源涵養、景観保全、雪崩防止などのために森林を保全するというもので、範囲を指定してその中での伐採や土地の改変などの行為が規制されます。大鹿村の工事予定地の場合、大部分の箇所が「土砂流出防備林」に指定されているようです。

そのように大事な保安林ですが、「保安林の指定理由が消滅したとき」または「公益上の理由により必要が生じたとき」には、かなり煩雑な手続きを経て解除することができます。
(詳細 岩手県庁ホームページ 以下の表も同ページより引用)
http://www.pref.iwate.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/004/092/kaijyonotebiki.pdf#search=%27%E4%BF%9D%E5%AE%89%E6%9E%97+%E8%A7%A3%E9%99%A4%27 

農林水産大臣ないし都道府県知事に多種類の書類を提出して審査されるのですが、図面や設計図、利害関係者の同意などのほかに、予算関係書類というものが必要となるそうです。

イメージ 1
規則では「予算書及び残高証明書の写し等資金の調達方法を称する書類」とあります。
イメージ 2

なんでもバブル期において、「地元の利益のため」としてスキー場やゴルフ場などを誘致し、保安林解除を行って工事を始めたものの、バブル崩壊とともに事業計画が雲散霧消し、中途半端に森林破壊を招くだけで終わるケースが相次いだそうで、そういう事態を防ぐために予算関係書類が必要となったそうです。

「資金の調達方法」という言葉を見て、すぐに思い出したのは、昨年秋に閣議決定した「JR東海への3兆円財政投融資」。

この財政投融資の話が決まったのち、鉄道ジャーナルという雑誌にて、鉄道政策専門家が疑問を呈しておられました。曰く、「リ大阪開業前倒しには賛同するが、土木工事の始まっていない現段階で3兆円も融資を行うのは不可解。名古屋開業時点で返済が増えるだけで大阪開業前倒しの役には立たない。」というものです。
佐藤信之「安倍政権による総合経済対策 リニア中央新幹線大阪延伸の前倒しとJR羽田新線」鉄道ジャーナル2016年11月号より該当部分を要約 

リニア計画を追いかけているジャーナリストの樫田茂樹氏も、ご自身のブログで疑問を投げかけておられました。
以下、引用させていただきます。

昨年から今年にかけて、JR東海は各地で工事契約を交わしていますが、本格着工にはまだ程遠い状態です。
 先日もJR東海の柘植社長が「2027年開業は厳しい」と発言しましたが、では、なぜ今「機構」から3兆円もの融資を受けるのか?
 以下、以前、ネット記事で見たり、鉄道に詳しいジャーナリストから教えられて整理した情報です。

 ★一つには、東京・名古屋に必要な5.5兆円もの金を工面できないこと。
 5.5兆円のうち、2.5兆円は東海道新幹線からの収益を充てることができるかもしれないとはいえ、それでも3兆円足りない。しかし、その3兆円を借りようにも、担保物件が3兆円もないJR東海に金融機関は融資をしようとしなかったのでは。借りたとしても、金利も3%台。
  また、海外の投資家は、数年前にJR東海の社長が「リニアはペイしない」と発言したことと、自己資金だけでは、いずれ5.5兆円以上のカネが必要になる東京・名古屋の建設は無理なのではとの読みからやはり投資に動いていなかった。
樫田茂樹氏のブログ「記事の裏だって伝えたい」
(2017/1/13)よりコピーさせていただきました。
http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/blog-entry-528.html 

しかし金融とか財務のことなどさっぱり分からぬ私の頭ですが、実は次のようなシナリオがあったんじゃないかと想像します。

仮に現段階で民間金融機関から資金をかけ集めていなくても、これでは「財政投融資で3兆円が融資された」旨の書類を出せばいいのではないか?


調べてみると、保安林解除だけでなく河川との交差部分(橋梁、川をくぐるトンネル)での工事でも、土地の掘削や工作物の新設のためには事業者の信頼性が問われるそうです。よくわかりませんが、やはり資金面でも審査されるようなので、そこでも「財政投融資で3兆円が融資された」旨の書類を出せばいいのではないでしょうか?

そんなわけで、JR東海への3兆円融資は、「大阪開業8年前倒し」のためではなく、国の各種審査をパスさせるためだったりして。。。

あくまで具体的根拠のない憶測ですので、その点はご留意願います。

大井川の流量減少問題とは、いつから認識されていたのだろうか?

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先週金曜日、「ストップリニア!訴訟」の第3回口頭弁論が開催された。私自身が関わっているわけではないけれども、被告の国土交通省に対し、裁判官が鋭い質問を投げかけたらしい。

以下、この質問についての弁護士のコメントを、樫田氏のブログより引用させていただく。
法律論として、事業認可の前段階の建設指示や手続きに違法があれば(十分な安全性の議論がなされていなければ)、今回の事業認可手続きの違法性につながるんですか、どうですか? と裁判官が釈明した。これは一つの争点になります。 

ブログ作者としては違法性を指摘することはできないけれども、手続きの上で、非常に気になる点がある。

果たして大井川の流量減少問題とは、いつから関係者の間で認識されていたのだろうか? 

個人的には、トンネルを掘ってJR東海の予測通りに2㎥/s流量が減少したら、河川法が想定していない訳の分からない事態に陥るんじゃないかと思っている。もしかしたら、手続き上の不備を指摘することができるかもしれない。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

これが大井川水系にある発電所の設置状況である(平成29年2月時点)。 バカでっかい図で申し訳ない。

イメージ 1
添付画像1 大井川水系の水力発電所(作者作成) 

最初に述べておくと、大井川は国土交通省が管理する一級河川である。

もとより大井川は、水力発電のために大量に取水されていて、川に水がないことから「河原砂漠」と言われる有様であった。特に問題視されていたのが、中流部で大量に水を取水していた中部電力塩郷堰堤(旧川根町:現島田市)と、最上流部で流域外の早川に導水している東京電力田代ダム(旧井川村:現静岡市葵区)である。

田代ダムは昭和2年(1927年)に完成し、昭和39年(1964年)になって、取水量が4.99㎥/sに増やされることとなった。静岡・山梨両県知事の認可を受けていたのだが、やがて大井川本流での流量減少が深刻な環境問題となる。昭和47年には静岡県知事より取水量を2㎥/sに戻すよう要請されるが、このときは実現しなかった。

しかし住民の間からは、水を戻すべきとの声が高まる一方であり、昭和51年、東京電力が補償を払ったうえで中部電力が塩郷堰堤からの放流量を増やすことが決まる。しかし春~秋に0.5㎥/sを流すだけに過ぎず、冬季に流れの途切れる状況は改善しなかった。昭和59年以降、川根三町による運動を皮切りに、県、建設省、電力会社による協議が何年も繰り返され、ようやく平成元年に至り、塩郷ダムより年間3~5㎥/sを放流することが決まる(これでも地元の要望の半分程度)。

ただ、この時点で田代ダム下流での水枯れは解消していない。

田代ダムからの放流量が増やされたのは、平成18年(2006年)1月1日のことであった。半世紀ぶりに、田代ダム直下で年間を通じて流れを確保することが実現したのである。これまでは地元行政と電力会社による協議が中心であったところに、全国各地の流量維持問題の先例にするとして、国土交通省が積極的に加わったのが大きかったようである。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

ところで、「水返せ」運動が活発になっている傍らで、中央新幹線建設のために南アルプス一帯での河川流量調査が始まったらしい。

これは補正版の環境影響評価書(平成26年8月)に掲載されていた、大井川流域での流量観測時期を示した表である。
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添付画像2 大井川水系での流量調査時期 
補正版環境影響評価書【静岡県】 資料編より 

早いところでは、既に平成18年には既に調査を開始していたことになっている(それ以前については分からない)。先に書いたように、平成18年というのは、想定ルート上にある田代ダムからの放流量が52年振りに増やされた年でありる。

この流量調査とは、結果的に環境影響評価における流量予測の試算前提として用いられるが、そもそもは、運輸大臣からの指示に基づく地形・地質調査の一環であったと、JR東海側が説明している(平成25年10月8日静岡市内での準備書説明会にて6番目の質問者に対する返答)。


【補足】大井川で「水返せ」運動が活発になっているさなか、運輸大臣の指示に基づき、国鉄は中央新幹線の実現性を探るため南アルプスの地形・地質調査を開始する。昭和49年7月16日のことである。
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/1974-7-17.html

運輸大臣からの指示による地形・地質調査は、この後も何度か行われることとなり、国鉄民営化はJR東海、鉄道総合技術研究所、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が引き継いた。平成12年(2000年)にも調査指示が出され、平成20年(2008年)10月22日に報告書が国に提出されている。
ここで疑問が生じる。

流量調査を開始したのは、環境影響評価どころか、当のJR東海自身が中央新幹線構想を発表する前の段階である。

取締役会でリニア中央新幹線構想を発表したのは翌平19年4月26日、建設費全額を自社負担すると公表したのは12月25日のことであった。こののち平成21年12月24日に、東京~大阪間での建設費など全ての調査報告書を国交省に提出する。翌平成22年2月24日、全国新幹線鉄道整備法に基づき、前原国土交通大臣(当時)が交通政策審議会へ諮問し、中央新幹線小委員会が発足した。ルート、事業者としてのJR東海の妥当性を審議することになる。

10月20日に開かれた第9回中央新幹線小委員会では、「環境調査」なるものが審議されている。そこでは当然、水環境も調査対象になったのだが、用いられた資料は図示するような湧水の分布と、河川の水質類型(環境保全のために守るべき水質基準)だけであった。

イメージ 3

添付画像3 第9回中央新幹線小委員会資料 

後々、一番の肝心事になろうはずの利水状況については触れていない。行政手続きのタテマエ上、アセス開始以前で利水問題に触れるのは早計と判断したのかもしれない。

しかし、国からの指示で、既に平成18年の段階で大井川水系での流量観測を行っていたのであるから、国はトンネル工事と大井川の流量との間に、何かしら関係性があると予測していたことは間違いない。 

なぜ、その情報を検討資料に用いなかったのであろうか? 

工事の難易度を予測するためか、流量減少時の対応を練るためか知らないけれども、「流量に何らかの影響を及ぼす可能性がある」と言っておけば、ルートなどを選定する段階において、流量への影響を最小化する方法を地元行政を交えて協議することも可能であったはずである。、

調査地域のど真ん中を流れる川において、ダムからの放流量について調整役を担ったのは国土交通省である。大井川の流量がシビアな問題になっていたことを知らぬはずがない。

大井川の流量減少問題とは、いつから認識されていたのだろうか? ~~川勝平太静岡県知事の場合~

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果たして大井川の流量減少問題とは、いつから関係者の間で認識されていたのだろうか?

という疑問の続きです。



前回書いたように、昭和49年7月に運輸大臣から国鉄に対し、南アルプスでの地形・地質調査をおこなうよう指示が出されました。国鉄民営化も鉄道総合技術研究所、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が引き継ぎ、運輸省が国土交通省となっても続けられました

JR東海の説明では、大井川での流量調査とは、その一環であったといことです。したがって国は、トンネル工事と河川流量との間に何らかの関係があると見越してのことであったはずです。

前回は、その調査を指示した張本人である国土交通省が、なぜか路線選定の段階で、全く水資源や河川流量について触れなかったという疑問を呈しました。そのことを計画段階環境配慮書で全く触れなかったJR東海の姿勢も問題でしょう。

さらによく分からないなのは静岡県の姿勢です。

静岡県内で、大井川の流量減少が大きな問題だと騒がれだしたのは、環境影響評価の結果が出された準備書公告の段階でした。平成25年(2013年)9月頃のことです。

あたかも、「2㎥/s流量減少をはじめて知った、そりゃ困る。」と言わんばかりの騒ぎようでした。 

イメージ 2
平成25年10月25日静岡新聞朝刊 
準備書公告から一か月後

ところが準備書公告の3年前の中央新幹線小委員会には、静岡県はこんな資料を提出していたのです。

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平成25年7月2日 第5回中央新幹線小委員会 静岡県提出資料 


この資料、その他のページを含めて書いてあることは
●東海道新幹線の静岡空港新駅の実現
●リニア開業後の東海道新幹線サービス向上
を要望するだけのものです。わざわざ川勝県知事が赴いて力説しています。

つい4年前まで「水返せ運動」で大騒ぎしていた大井川の下に長大トンネルを掘るというのに、まるっきり心配していません

さらに、南アルプスルートが確定したのは同年12月15日のこと。大井川源流部で大工事を行うことが決まっていない段階で、河川法上の許可に協力するなどと言えるはずがない。

これは怪しすぎる 

大井川源流(後にリニアトンネルの頭上になることが判明)の東京電力田代ダムから、環境保全のため年間を通じ放流することが実現したのは2006年1月1日。4年7カ月前のことである。

空港新駅建設とバーター取引したいという思惑は見え見えですが、そういう魂胆があるなら、この段階で大井川水問題に触れておくべきだったのでは?と思うのですが。 


・・・とまあ、邪推ばかりしていますが、大井川流域の首長も3年後になって「流量減少は寝耳に水」という言い方をしているので、もしかしたら件の資料は、県の環境関係の部署とか流域自治体とは協議せず、県知事のワンマンショーのために作成されたものかもしれません。2010年当時は、まだ南アルプスを世界遺産に登録する動きが続いていたので、静岡市および環境関係の部署が周知していたら、こんな能天気な資料を許す可能性は低いとも思います。

豊洲ゴタゴタについての、3代前の東京都知事の会見を見ていたらそんな気がしてきました。
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