さる8月17日、山梨県南アルプス市において、山梨・長野・静岡10市町村が南アルプスをユネスコ・エコパーク登録しようということで基本合意書の締結を行いました。
ユネスコ・エコパークとはなんじゃい?
と思われるかと思いますので、概略を説明します。
と思われるかと思いますので、概略を説明します。
1970年以降、ユネスコの建てた「人間と生物圏計画(MAB計画とよぶ)」において、持続可能な自然環境と生物資源の利用能力を高めることが重要であることが国際的に認識されるようになり、それを実現するために、国際的に担保された自然保護地域が設けられることになりました。この自然保護地域のことを生物圏保存地域、通称エコパークとよびます。
日本では昨年登録の決まった宮崎県綾町など5地域が登録されています。
ユネスコ・エコパークにおいては、3通りの保護地域を設けることに特色があります。すなわち、
地域を代表する自然環境が残され、それを厳重に保護する核心地域。
核心地域の周囲又は隣接する地域であり、核心地域のバッファーとしての機能を果たす緩衝地域。
緩衝地域を取り囲み、非登録地との間に設けられる移行地域。
の3地域です。
核心地域では厳正なる自然環境の保全、緩衝地域では自然に負荷をかけない利用、移行地域では環境に配慮した産業が求められます。
南アルプスにおいては、おそらくは現在、国立公園や原生自然環境保全地域、林野庁の保護林に指定されている地域が核心地域に、それを取り囲む無人地帯や県立公園、登山基地が緩衝地域に、各流域で最も奥地となる山村が移行地域にあたるのでしょう。
常識的に考えて「持続可能な利用」と言って思いつくのは…
●自然に負荷を与えない範囲での登山、観光、アウトドアスポーツ(ゴルフ場なんてのは論外でしょうが)
●環境配慮型の農林水産業
●環境学習や農作業体験
●環境配慮型の農林水産業
●環境学習や農作業体験
といったところです。こうした産業ならば、持続可能な利用を実践できるかと思いますし、理解も得られやすいでしょう。そしてこれらを活用した地域振興が求められるわけです。
順調に手続きが進めば、来年夏ごろには登録されるとのこと。
ところで、南アルプスにおいては、リニア中央新幹線の建設が計画されています。しかも何年も先の話ではなく、エコパーク登録手続きと同時期に着工する計画です。
リニアの建設事業というのは、どう屁理屈をこねても、エコパークで求められる「自然資源の保全と持続可能な利用」という概念には結びつかないものです。
着工されると、以下のようなことが「緩衝地域、移行地域になるであろう場所」で行われることになります。
●大井川の源流部において、川岸を埋め立てるか山肌を切り崩すかして道路が拡張される。
道路沿いはコンクリートでガチガチに固められ、山と川とのつながりが絶たれる。渓流沿いの森林(渓畔林)が長い区間にわたって消滅または衰退してしまうが、これは水温の上昇、水生動物への餌(落葉や昆虫)供給機能の消滅を意味する。渓畔林特有の動植物は分布地そのものが消滅してしまうし、川と森林とを行き来する動物の行動も寸断してしまう。
簡易な林道工事において岩肌を削り取った程度であれば、そのうちに表面は植生に覆われるが、コンクリートで固めてしまえば、植生の復元は絶望的である。緑化工を駆使すれば「緑」自体はよみがえるけれども、南アルプスという場の自生種での復元が可能かどうか未知数であるし、動物が戻ってくるかは分からない。崖の出現により、森林と川との生態系上でのつながりも物理的に絶たれる。
●トンネル本坑や斜坑の掘削により、湧き水が枯渇したり川の水が抜かれるおそれがある。
山岳トンネル掘削は、トンネル周囲の水は徹底的に排水するのが基本。亀裂の多い南アルプスにおいてそのような工法をとった場合、地上付近への影響がどの範囲にまで及ぶのか、全く予測が不可能であるし、影響が出てしまった場合、物理的な回復は不可能である。
●大井川源流域に大量の残土が埋め立てられるかもしれない。
前代未聞の自然破壊!
これらは地形を物理的に破壊する行為であり、その影響は復元不可能です。具体的に考えれば考えるほど、「持続可能」とは程遠い内容です。そもそも岩を掘り出すという行為は「不可逆的」なものですから。
このほかにも
●10年間毎日、1日平均150~200台の岩クズを満載した大型ダンプカーが、大井川上流部や小渋川上流部を行き来する。
これにより
・騒音
・ロードキル(動物の事故死)
・動物の生態系への悪影響
・粉じんの発生
・外来種など南アルプスにいるはずのない動植物の搬入
といった環境破壊をもたらす
●工事による排水が大井川や小渋川の源流へ流される。汚水処理能力を一時的にでも超えたら、水中の生態系に大きな影響が出る。
●発生する残土、湧水の性質によっては新たな汚染を生む。
●細かな泥が川に流入し、水生昆虫に壊滅的な影響を与える。水生昆虫の激減は、川の生態系を大きく損ねる。
●10年間毎日、1日平均150~200台の岩クズを満載した大型ダンプカーが、大井川上流部や小渋川上流部を行き来する。
これにより
・騒音
・ロードキル(動物の事故死)
・動物の生態系への悪影響
・粉じんの発生
・外来種など南アルプスにいるはずのない動植物の搬入
といった環境破壊をもたらす
●工事による排水が大井川や小渋川の源流へ流される。汚水処理能力を一時的にでも超えたら、水中の生態系に大きな影響が出る。
●発生する残土、湧水の性質によっては新たな汚染を生む。
●細かな泥が川に流入し、水生昆虫に壊滅的な影響を与える。水生昆虫の激減は、川の生態系を大きく損ねる。
など、影響が長期にわたる自然破壊が予想されます。少なくとも、「国際的に認知された自然保護地域」で行うべきことではないでしょう。
●工事現場となる二軒小屋付近にはコンクリートプラント、残土仮置き場、各種機械などが10年余にわたって出現し、景観をおおいに損ねる。
●静かな環境がぶちこわし
●静かな環境がぶちこわし
こんな懸念もあります。
エコパークの登録審査は多岐にわたりますが、それらは全て満たされなければならないとされています。そのうち保全計画においては次のような基準があります。
●自然環境の保全と調和した持続可能な発展の国内外のモデルとなりうる取組が行われていること
●生物圏保存地域全体の保全管理や運営に関する計画を有していること
●生物圏保存地域の管理方針又は計画の作成及びその実行のための組織体制が整っていること
●生物圏保存地域全体の保全管理や運営に関する計画を有していること
●生物圏保存地域の管理方針又は計画の作成及びその実行のための組織体制が整っていること
上記のようにリニア中央新幹線のトンネルを掘るとなると、必然的に広範囲にわたる自然破壊が発生します。あたかも「南アルプスをぶっ壊す」ようなリニア計画に対し、どのように有効でなおかつ国際的にも認可されうるような保全対策をとっているというのでしょうか?
ここのところ新聞報道などでは、シカによる高山植物への食害とその対策がよく取り上げられています。希少な高山植物が絶滅するかもしれないという危機感は十二分に理解できます。しかしながらフェンスごときでは食い止めることのできない超電導リニアという巨大な怪物については、どなたも目だった対策を打ち出せない(出さない?)…。
そもそも、エコパーク登録を目指すとしておきながら、その一方でこんなの-リニアの早期着工-を地域ぐるみで願っているわけです。某首長からは「地上に影響がなければいいんじゃないか?」なんて声も聞かれましたが、それはエコパークの基本的概念を忘れておられます。
このようなことでは、「本気で南アルプスを保全する気などあるのか」という根本のところを疑われてしまっても仕方がないように思われます。
なお、エコパークの登録基準や以上の疑問点については別途まとめてあります(長文です)。