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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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ユネスコ・エコパーク構想 リニア長大トンネル工事への対策なんてあるのかな?

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さる8月17日、山梨県南アルプス市において、山梨・長野・静岡10市町村が南アルプスをユネスコ・エコパーク登録しようということで基本合意書の締結を行いました。
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ユネスコ・エコパークとはなんじゃい?
と思われるかと思いますので、概略を説明します。

1970年以降、ユネスコの建てた「人間と生物圏計画(MAB計画とよぶ)」において、持続可能な自然環境と生物資源の利用能力を高めることが重要であることが国際的に認識されるようになり、それを実現するために、国際的に担保された自然保護地域が設けられることになりました。この自然保護地域のことを生物圏保存地域、通称エコパークとよびます。
 
日本では昨年登録の決まった宮崎県綾町など5地域が登録されています。

ユネスコ・エコパークにおいては、3通りの保護地域を設けることに特色があります。すなわち、
 
地域を代表する自然環境が残され、それを厳重に保護する核心地域
核心地域の周囲又は隣接する地域であり、核心地域のバッファーとしての機能を果たす緩衝地域
緩衝地域を取り囲み、非登録地との間に設けられる移行地域
の3地域です。
 
 
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核心地域では厳正なる自然環境の保全、緩衝地域では自然に負荷をかけない利用、移行地域では環境に配慮した産業が求められます。
 
南アルプスにおいては、おそらくは現在、国立公園や原生自然環境保全地域、林野庁の保護林に指定されている地域が核心地域に、それを取り囲む無人地帯や県立公園、登山基地が緩衝地域に、各流域で最も奥地となる山村が移行地域にあたるのでしょう。
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常識的に考えて「持続可能な利用」と言って思いつくのは…
●自然に負荷を与えない範囲での登山、観光、アウトドアスポーツ(ゴルフ場なんてのは論外でしょうが)
●環境配慮型の農林水産業
●環境学習や農作業体験
といったところです。こうした産業ならば、持続可能な利用を実践できるかと思いますし、理解も得られやすいでしょう。そしてこれらを活用した地域振興が求められるわけです。
 
順調に手続きが進めば、来年夏ごろには登録されるとのこと
 
 

ところで、南アルプスにおいては、リニア中央新幹線の建設が計画されています。しかも何年も先の話ではなく、エコパーク登録手続きと同時期に着工する計画です。
 
リニアの建設事業というのは、どう屁理屈をこねても、エコパークで求められる「自然資源の保全と持続可能な利用」という概念には結びつかないものです。
 
着工されると、以下のようなことが「緩衝地域、移行地域になるであろう場所」で行われることになります
 
●大井川の源流部において、川岸を埋め立てるか山肌を切り崩すかして道路が拡張される。
道路沿いはコンクリートでガチガチに固められ、山と川とのつながりが絶たれる。渓流沿いの森林(渓畔林)が長い区間にわたって消滅または衰退してしまうが、これは水温の上昇、水生動物への餌(落葉や昆虫)供給機能の消滅を意味する。渓畔林特有の動植物は分布地そのものが消滅してしまうし、川と森林とを行き来する動物の行動も寸断してしまう。
 
簡易な林道工事において岩肌を削り取った程度であれば、そのうちに表面は植生に覆われるが、コンクリートで固めてしまえば、植生の復元は絶望的である。緑化工を駆使すれば「緑」自体はよみがえるけれども、南アルプスという場の自生種での復元が可能かどうか未知数であるし、動物が戻ってくるかは分からない。崖の出現により、森林と川との生態系上でのつながりも物理的に絶たれる。
 
●トンネル本坑や斜坑の掘削により、湧き水が枯渇したり川の水が抜かれるおそれがある。
山岳トンネル掘削は、トンネル周囲の水は徹底的に排水するのが基本。亀裂の多い南アルプスにおいてそのような工法をとった場合、地上付近への影響がどの範囲にまで及ぶのか、全く予測が不可能であるし、影響が出てしまった場合、物理的な回復は不可能である。
 
●大井川源流域に大量の残土が埋め立てられるかもしれない。
前代未聞の自然破壊!
 
これらは地形を物理的に破壊する行為であり、その影響は復元不可能です。具体的に考えれば考えるほど、「持続可能」とは程遠い内容です。そもそも岩を掘り出すという行為は「不可逆的」なものですから。
 
このほかにも
●10年間毎日、1日平均150~200台の岩クズを満載した大型ダンプカーが、大井川上流部や小渋川上流部を行き来する。
これにより
・騒音
・ロードキル(動物の事故死)
・動物の生態系への悪影響
・粉じんの発生
・外来種など南アルプスにいるはずのない動植物の搬入
といった環境破壊をもたらす
●工事による排水が大井川や小渋川の源流へ流される。汚水処理能力を一時的にでも超えたら、水中の生態系に大きな影響が出る。
●発生する残土、湧水の性質によっては新たな汚染を生む。
●細かな泥が川に流入し、水生昆虫に壊滅的な影響を与える。水生昆虫の激減は、川の生態系を大きく損ねる。
 
など、影響が長期にわたる自然破壊が予想されます。少なくとも、「国際的に認知された自然保護地域」で行うべきことではないでしょう。
 
 
●工事現場となる二軒小屋付近にはコンクリートプラント、残土仮置き場、各種機械などが10年余にわたって出現し、景観をおおいに損ねる。
●静かな環境がぶちこわし
こんな懸念もあります。
 
エコパークの登録審査は多岐にわたりますが、それらは全て満たされなければならないとされています。そのうち保全計画においては次のような基準があります。
 
●自然環境の保全と調和した持続可能な発展の国内外のモデルとなりうる取組が行われていること
●生物圏保存地域全体の保全管理や運営に関する計画を有していること
●生物圏保存地域の管理方針又は計画の作成及びその実行のための組織体制が整っていること
 
上記のようにリニア中央新幹線のトンネルを掘るとなると、必然的に広範囲にわたる自然破壊が発生します。あたかも「南アルプスをぶっ壊す」ようなリニア計画に対し、どのように有効でなおかつ国際的にも認可されうるような保全対策をとっているというのでしょうか
 
 
ここのところ新聞報道などでは、シカによる高山植物への食害とその対策がよく取り上げられています。希少な高山植物が絶滅するかもしれないという危機感は十二分に理解できます。しかしながらフェンスごときでは食い止めることのできない超電導リニアという巨大な怪物については、どなたも目だった対策を打ち出せない(出さない?)…。
 
そもそも、エコパーク登録を目指すとしておきながら、その一方でこんなの-リニアの早期着工-を地域ぐるみで願っているわけです。某首長からは「地上に影響がなければいいんじゃないか?」なんて声も聞かれましたが、それはエコパークの基本的概念を忘れておられます。
 
このようなことでは、「本気で南アルプスを保全する気などあるのか」という根本のところを疑われてしまっても仕方がないように思われます。
 
なお、エコパークの登録基準や以上の疑問点については別途まとめてあります(長文です)。 

リニア中央新幹線は東海地震時の迂回路になると思いますか?

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「リニア中央新幹線は東海地震で東海道新幹線が寸断されたときのために是非とも必要である」
 
相も変わらず、新聞やネット上で見かける論理です。
 
一般の人々だけでなく、JR東海が建設の大きな理由として掲げているし、国交省中央新幹線小委員会の答申にも掲げられているし、ネット上でも「リニア建設すべし」の根拠としても掲げられています。
 
なんでみんな、信じ込んじゃうんだろう
 
ちょっと考えを巡らせば、あちこちに矛盾が潜んでいるように思われるのですが…。
 
なお東海地震というのは駿河湾を震源として起こるM8クラスの地震のことを想定した呼び名です。しかし実際には東南海地震と連動する可能性が高いらしいし、四国沖の南海地震とも連動する可能性もあるので、今回はひっくるめて何回トラフ大地震と呼びます。
 
 
①そもそも南海トラフ大地震を念頭において計画された路線ではない。
東海地震の防災対策強化地域を貫いていることに対して、何ら疑問がもたれていないのはその表れ。
 
全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線として、東京~甲府~名古屋~奈良~大阪という中央新幹線の基本計画が出されたのは1973年(昭和43年)であり、東海地震のことなど全く考えていない(静岡県御前崎への原発建設を平気で認めていた時代である)。

たとえば幕末の安政東海地震において、駿河湾奥や甲府盆地でも深度7に見舞われ、震源域が駿河湾奥から南アルプス南部に達していることがわかってきたのは昭和40年代後半以降である。しかし基本計画路線はその後の地震研究結果など全く
(もちろん社会情勢も…)考慮せずに残され、このほどのリニア計画に至っている。
 
②いつ起こるかわからない大地震のために、いつ完成するか分からない迂回路を建設するのは何だかおかしい。
リニア中央新幹線の着工は来年度の2014年、東京~名古屋間が開業するのは2027年と計画されている。しかしこの計画では、あと1年半程度で環境影響評価がまるく収まり、用地買収が終了することになっているが、それは難しいと思う。

 いくらトンネルばかりとはいえ50㎞程度は地上区間があるし、東京や名古屋郊外では数十ヶ所の縦穴や斜坑の用地を確保する必要がある。残土処分場も必要である。大都市部での用地確保は非常に困難なはずである。

 南アルプスなど、工事そのものが困難なうえ、環境保全上の制約も非常に多いはずである。
したがって、開業は数年単位で遅れる可能性が高い。
 
 いっぽう南海トラフの大地震は、歴史時代においては百数十年の間隔で発生している。最短の間隔は90年(1854安政-1944年昭和)である。地質学的スケールからみれば文字記録のある期間などほんのわずかだけれども、この数字を適用できるとすれば、次の南海トラフ地震が2030年代に発生する可能性もありうる。つまり、迂回路としてのリニアが、次の南海トラフ大地震に間に合わうかどうかは、誰にも分からないのである。
 
 それに、東海道新幹線沿線には、神奈川県西部地震、首都圏直下地震、富士川河口断層帯などの地震リスクもある。「次の南海トラフ大地震までの間に、東海道新幹線を長期不通に追い込むような大地震は起こらない」という保証はどこにもない
 
リニアの建設中に東海道新幹線が長期不通になったらどうするのだろう?
 
③名古屋以西での災害リスクを軽視している? 
南海トラフ大地震発生時に、名古屋以西の東海道新幹線は無事であるという保証はないし、近畿地方内陸の活断層による地震リスクもある。それなのに名古屋-大阪間の完成は今から30年以上も先の2045年度を計画している。
 
④リニア計画を認めた国土交通省中央新幹線小委員会において、南海トラフ大地震についての審議は一度も行われていない。
●南海トラフ大地震が発生したら東海道新幹線にどのような被害が予想され、復旧までどのくらいの期間を要するか。
●震災時・復興の過程で必要となる輸送力は、人口減少も考慮してどのくらいになるのか。
●これらを踏まえたうえで迂回路が必要と判断されるのか。
●地震対策の迂回路としてリニア方式は本当に安全・有効なのか。
●JR東海の主張するルートで対策となるのか。
●リニア中央新幹線を建設する以外に対策はないのか。
●リニア中央新幹線の建設中に大震災に見舞われた場合の対応。
以上のように基本的なことを一度も審議せずに「東海地震対策として有効」と認めることはできないはずである。
それゆえ、「震災時の迂回路」というのは後付けの理由のように見えてしまうのである。
 
⑤南アルプスを通ること自体が災害リスクの増大につながる。
長くなるので過去記事をご覧ください。
そもそも南アルプスルートは東海地震の防災対策強化地域を貫く
●長大トンネルが本当に安全なのか検証されていない
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/anzensei/probrem-anzensei.html
●南アルプスの長大トンネルでは救助が困難であり、かえって災害リスクとなりかねない。
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/archive/2013/03/11
 


少なくとも公式の場では、この南海トラフ大地震に対する議論が、リニア計画が具体化される過程で行われた形跡は一度もありません。
 
それなのに、何ゆえ「迂回路としてのリニア中央新幹線が必要」論が力を持っているのか、私にはよく分かりません。

もうすぐ環境アセスメント結果が出されそうです

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もう間もなく、JR東海から環境影響評価(アセスメント)の調査・影響予測・対策をまとめた「準備書」という文書が公表されることと思います。
 
準備書に対しては、公表された日がら1ヶ月+2週間のうちに意見を出すことができます。
 
一般の国民が環境面に対して意見を述べることのできる、最後の機会です。
 
やみくもに「断固反対!」とか「ぜひ期待したい」といったことを書いても、な~んの意味もありませんのでご注意を。
 
というわけで、いくつか参考になると思われるページをまとめてみました。
 
環境影響評価方法書に対する沿線自治体の意見
 
JR東海の方法書と、寄せられた意見の集約
(それぞれの県別に分けられています)
 
日本自然保護協会による方法書への意見
 
環境省
 
 環境影響評価配慮書に対する意見
 
 国立公園総点検事業(南アルプス国立公園の拡張を決定)
 
国交省による計画段階における環境配慮の実情(私の作成したページ)
 
私のおこなった南アルプスでの残土発生量の予測
 
その他環境関連いろいろ(私の作成したページ)
 
 
 
 

問題点に目をつむっているのが一番の問題点!!

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「否定するのであれば、それを越える案を提案すべき」という意見を頂きました。
 
このリニア計画、否定するような要素が俎上にあがったこともないし、慎重な人が政策策定に加わった様子もない。市井の意見を汲み取る機会もない。それ以前に、必要性についての議論すら行われていないのが実情です。

新技術とはいえ、リニア中央新幹線も交通インフラであることには違いありません。
 
インフラというのは、需要を自ら作り出すものではなく、需要・必要性があるから造るものだと思います。
巨大なインフラ建設は、いったん造り出したら中止することもできないし、完成後も永久に残り続けます。「夢の超特急」と形容されることが多いわけですが、夢や希望的観測で一般企業が新商品を開発したり新店舗や工場を造るのとは次元が異なります。「夢」という言葉に惑わされぬ注意が必要です。
 
それゆえ、
①どういう必要性があるのか、
②それを解決するにはどういうものを建設するのがふさわしいか
この2点が重要だと思います。
 
ちなみに東海道新幹線は、当時の東海道本線が人口増加と経済成長により、物理的に輸送力の限界に達したために建設されたという経緯があります。
 
リニア計画のスケールは、交通インフラ建設としては史上最大級の規模です。影響は広範囲に及びますし、恩恵を受けるにせよ影響をこうむるにせよ、それは何十年も先の世代です。技術的にも環境面でも、未知の要素が多い。さらに現在計画を推進しているJR東海や官僚・政治家が完成を見届けることができるかどうかも疑わしい…。
 
したがって、通常のインフラ整備よりはるかに厳しく冷静な審査が求められるべきです。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
このブログでは、タイトルの通り、主に南アルプスでのトンネル工事に関する自然破壊や安全性、問題点ついて取り上げています。
 
南アルプスを貫けば日本屈指の山岳景観と自然環境を大破壊せざるをえず、地震時などには危険性も伴います。
 
南アルプスを貫くことに関して、しばしば「環境の保全に最大限の配慮をとれば問題は最小限になる」という言葉を聞きます。とはいえ、現状として物理的な破壊をほとんど受けていない場所においては、最小限の改変とて重大な破壊です。
 
観念的ではなく実際問題としては、膨大な残土の処分、河川の枯渇、余計な道路工事、生態系のかく乱など、避けようのない自然破壊があるわけですが…。
 
ほとんど改変を受けていない山岳であり、しかも保護地域なのですから、環境配慮の第一段階としては、「ここは工事をしてよい地域なのか」という検証が行われなければなりません。しかし、その任を担った国土交通省中央新幹線小委員会では、デタラメな審議で責任を放棄し、環境省の政策と相反する見解を出しました。
 
南アルプスのトンネルひとつをとっても、具体的な問題点から検証の姿勢に至るまで、このように問題だらけであるわけです。しかし新聞やテレビ等のマスコミを通ずると、きわめて簡単に「東京から名古屋へほぼ一直線に…」と、あたかも何の問題もないかのように書かれてしまう…。
 
 
 
調べているうちにこのリニア計画は、
・需要予測の前提が怪しい(人口減少・少子高齢化を無視、名古屋暫定開業で利用者が増えるなど)、
・エネルギー消費が大きい
・建設費に5000億円以上という利子が含まれていない
・実験線の環境アセスメントをおこなっていない
・環境アセスメントの進め方がおかしい
・走行実験が終了するのは着工後
・技術上の不安が残る
・地震時にブレーキが間に合うかナゾ
・計画に国民が携われない
 
など様々な問題があることに気付きました。
 
いずれも計画の実現性を左右する問題であるはずですが、だ~れも、マトモに扱っておりません。審査役となり、客観的な立場をとるべき沿線自治体においては、当初から既成同盟会を結成し、各々都合のよい勝手な需要予測をたててバラ色の未来が来るかのようにアピールするばかり…。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
繰り返しますが、様々な問題があることを国民が知り、事業の是非について広い議論が行われ、そのうえでも実現すべきと言う結論が出され、国民・住民参画と環境保全が保証されるのであれば、こんなブログなど書いておりません。むしろ、社会的に是非とも必要なインフラであるのであれば、あらゆる困難を押しのけて実現しなければならないはずのものです
 
しかし議論の大前提というべき、国民が知っておくべき問題点については、マスコミを通じては全く報じられず、そこにある問題がないものとして扱われてしまう。議論の材料すら提供されていないわけです。そればかりか、「夢の超特急」としてバラ色の未来だけが広められる…。全国紙、テレビ、鉄道ファン向け雑誌、子供向け読み物、ビジネス誌…ありとあらゆるメディアに共通しています。今日の走行実験再開のニュースも、そんな立場の報道ばかりです。
 
そこには、「いろいろおかしいけれども、何となく目をつむって勢いで造っちゃおうぜ」という雰囲気が満ちているように感じます。そして国民も何も実情を知らぬままそれに乗せられてしまう…。
 
原発やら何やらで繰り返されてきた構図です。
 
政官財マスコミ全般がブレーキを備えていない以上は、危機感をもった市民がブレーキにならざるを得ないと思い、誰にも注目されない否定的な要素を発しているわけです。
 
 


間もなく公表される準備書を見るうえで、参考になると思われるページをいくつかまとめてみました。
 
環境影響評価方法書に対する沿線自治体の意見
 
JR東海の方法書と、寄せられた意見の集約
(それぞれの県別に分けられています)
 
日本自然保護協会による方法書への意見
 
環境省
 
 環境影響評価配慮書に対する意見
 
 国立公園総点検事業(南アルプス国立公園の拡張を決定)
 
国交省による計画段階における環境配慮の実情(私の作成したページ)
 
私のおこなった南アルプスでの残土発生量の予測
 
その他環境関連いろいろ(私の作成したページ)
 

大地震。南アルプスからどうやって「下山」させるのかな?

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昭和57年8月1日午後、台風10号が愛知県中部に上陸。本州を縦断して日本海へ抜けました。この台風、マーシャル諸島東方で発生して西よりに進み、小笠原西方で北向きに進路を変え、そのまま本州中部を縦断するという、若干変わった進路をとりました。
 
台風がまっすぐ北上する場合、その東側ではずっと南よりの湿った風が吹き続け、降水が長時間に及び、雨量が多くなります。
 
この台風の場合、愛知に上陸したため、その東側の山地すなわち南アルプス一帯や関東山地では降水量が多くなり、さらに台風通過後に低気圧が日本海を通過し、3日にかけて大雨が続きました。8月1日から3日にかけての降水量は、静岡県井川で850㎜、静岡県本川根742㎜、山梨県八町山で418㎜などとなっています。この大雨により、様々な被害が出ました。南アルプスでも多数の登山客がとり残されると言う事態にいたりました。
 
以下、当時の静岡新聞記事より。
 
大雨で大井川が増水し、8月1日未明、畑薙大橋が流されました。
 
この橋は、静岡県側から大井川源流部(南アルプス南部)に通ずる、唯一の自動車道です。また、山梨県側から大井川源流部にいたる登山道も崩落してしまいました。
 
このため、大井川源流部は孤立し、数百人の登山客がとり残されてしまいました。
 
一帯の山林と山小屋を所有するのは東海フォレストという会社。この東海フォレストの所有する二軒小屋から静岡市に救助要請が入ったのは、台風通過後の3日午前。当初は「200人が孤立」という情報だったようです。この時点で各山小屋の食料は1~3日分であることが判明。市から県に情報が伝えられ、県は自衛隊に救助を要請。また、この日の午後に約50人が自力で下山。
 
天候の安定した4日午前、県と自衛隊のヘリコプター計4機が出動。ラーメンや乾パンなどの食料2日分を空輸するとともに、登山客を搬送。また、静岡市北部の山間部集落が孤立していることも判明し、そちらへも食料空輸を開始。
 
5日には自衛隊のヘリコプターがさらに投入され、計8機による救助活動が行われ、この日のうちに全員を静岡市街地にまで搬送する。結局、合計564人の登山客を救助。
 
なお、一連の救助期間中に、ヘリ発着場となった登山基地への移動中にけが人1名、川に転落2名(うち1人は行方不明)という人的被害も出たそうです。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
さて、リニア中央新幹線は「南海トラフ大地震への備え」という位置づけにされているようです。
 
そのリニアの南アルプス横断長大トンネル群は、長さがおおよそ52㎞あります。一番長い中央のトンネルは約23㎞になるとみられます。ほぼ中央にあたる二軒小屋に、長さ数㎞の斜坑(工事短縮用の地上との連絡トンネル)が設けられます。
 
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「南海トラフ大地震への備え」という位置付けらしいので、大地震発生時を想像してみます。
 
地震発生直後、沿岸の地震計が揺れを感知すると、気象庁の緊急地震速報と同じシステムで走行中のリニア車両に緊急ブレーキがかかります。
 
全列車がいっせい停止すれば、運行本数(片側1時間6本)からみて、かならず1列車は南アルプス地下のどこかに停止します。上下線2本が停止するかもしれません。
 
すると乗客は、トンネル内を最長11~12㎞も歩いて出口に向かわねばなりません(もっともトンネル自体が無事という前提ですが)。確率は低いでしょうが、片方の坑口が崩落した場合には、20㎞以上を歩かざるを得ない場合も想定されます
 
まず、このトンネル内での徒歩避難が無事に行えるかという疑問があります。リニアの定員は1編成あたり950人ほどですが、食料・水もなく、外部からの救助も届かず、さらに余震が頻発する中、それだけの大人数が十数キロも歩いて無事に出口まで歩けるのでしょうか?
 
また、停止位置や坑口付近の土砂災害によっては、先に述べた二軒小屋斜坑からの脱出を余儀なくされるかもしれません。JR東海自身、この二軒小屋斜坑は避難口として整備する方針だそうです。
 
この地上への避難だけで、最低丸1日はかかります。
 
出口に出てきても、そこは南アルプスの山奥です。それからどうやって”下山”させるのでしょうか?
 
青函トンネルや大清水トンネルのように、トンネル出口にバスを横付けすることはできません
 
こちらの国交省のページに、東日本大震災における、東北新幹線での乗客避難誘導の状況がまとめられています。
PDFファイルで2.4MBありますが、参考になるのでぜひご覧になっていただきたい。
地震発生時に営業運転中だった列車は13本、そのうち6本がトンネル内に停止しています。食料の供給は12時間以内に行われ、全員の避難所等への移動は24時間以内に終了しています。
 
南アルプスの場合、これは絶対に不可能です。
 
 
 
トンネル出入り口に通ずる道路は、いずれも深く険しい谷につけられています。大型車両の通行が困難なだけでなく、大地震直後にはこの道を使えなくなる可能性が高い。
 
となると、誰しもヘリコプターでの救助を真っ先に考えます。
 
先に述べた31年前の台風の場合、南アルプスで救助された人数は564人で、ヘリコプター4~8機を用いて、救助そのものは2日で終了しています。
 
これを考えると、10機くらい投入すれば、同様に2日ほどで救助が終わりそうに見えます。
 
しかしながら、これは「平時」の場合です。
 
「大地震の直後」という場面を想像してみると…。
 
警察・消防・自治体・自衛隊といった公的機関のヘリコプターがまず先に行わねばならないのは…
常識的に考えて
 
状況把握
迅速な救助
けが人の広域搬送
消火活動
といったところでしょう。
 
台風での事例の場合、静岡県内の南アルプス以外の地域でヘリコプターが救援に使われたのは、静岡市山間部の1集落だけです。しかし南海トラフの大地震の場合、都市で火災が多発することが予想され、伊豆半島、紀伊半島、四国南部など津波の被害を受けやすい地域もたくさんありますし、山村で孤立する集落も続出するはずです。
 
静岡・山梨・長野のみならず全国からヘリコプターが大量投入されるでしょうが、震災直後は、いくらあっても足りないぐらいでしょう。
 
果たしてリニアの乗客を救助しに行く余裕があるのか?
あったとして優先度はどれくらいか?

ヘリコプターでの救助を想定するのなら、数日後になるケースを想定しておくべきではないかと思います。
 
しかし「数日間」山奥に孤立するとなると…
 
台風での事例の場合、夏場であったという条件を忘れてはなりません。夏場だったからこそ、山小屋が営業していて数日分の食料があり、燃料があったわけです。南アルプスという場所柄、登山客もそれなりの装備をしていたはずです。だから、ヘリコプターが向かうまで2日間は孤立していても無事だった。夏場ゆえ、台風通過後には天候も安定し、救助活動は迅速に行えたわけです。
 
これが冬や春だったら…山小屋は閉鎖されてますから、トンネルから脱出した950人の食料はありません。氷点下10度以下の世界ですが、乗客は普段着であり、自分で薪でも集めない限り、暖を取ることもできない。
 
さらに3000m峰に囲まれているため、天候の安定しない冬や春先には乱気流が起こり、梅雨時は霧に覆われ、ヘリコプターも近寄りがたい…。
 
どうするつもりなのでしょう?

ヘリコプターを当てにできない場合には、地上から救助隊を編成して救助に行かねばならないわけですが、すぐに駆けつけることが可能なのでしょうか?
 
飯田や甲府の駅に何人のJR東海社員がいて、そのうち何人が南アルプス山奥に孤立した乗客の救助に振り分けられ、どのくらいの時間でトンネルまでたどり着けるのか…?
 
応急的な道路の復旧、歩道の確保、あるいはザイルの使い方、渡渉技術、けが人・急病人の応急手当など、特殊な技術も必要かと…。
 
シロウト考えですが、南アルプスからの避難は、JR東海自社による乗客避難誘導の限界を超えてるんじゃないかと思います。
 
「避難の困難な鉄道路線」
それは社会全般から見て「災害リスク」と言うのじゃないのかな?
 
「そんな悪い方向ばかりに考えるな」という考えをお持ちの方もおられるかもしれません。
 
しかし、「南海トラフ大地震への備え」という位置づけである以上は大地震を想定しなければならない。
 
さらには、乗客の避難誘導という観点からでは、現行の東海道新幹線のほうがはるかに優位・安全であると思われます。線路はどこも人々の生活圏内ですし、長大トンネル-日本坂トンネル、興津トンネル、由比トンネル、新丹那トンネルなど-にしても、出口から10分も歩けば幹線道路にたどり着く…。このような視点で物事を考えずして、何が「南海トラフ大地震への備え」なのだろうと思うのであります。
 

只見地域と南アルプス地域をエコパークに推薦することが決定

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本日、日本ユネスコ国内委員会の「自然科学小委員会人間と生物圏(MAB)計画分科会」が文部科学省にて開催され、登録申請の出ていた只見地域(福島県)と南アルプス(山梨・長野・静岡10市町村)を、ユネスコに対してエコパークに推薦することが決定されました。
 
文部科学省
 
環境省
 
林野庁
 
いずれも書いてある内容はほぼ同じです。
 
登録申請面積はおおよそ300平方キロメートル。、リニアの建設工事が行われるであろう場所も含まれていますが、問題とならなかったのでしょうか?
 
詳しい内容は後日改めて書きたいと思います。
 


 
なお、エコパークという用語や制度、リニア計画との矛盾点については以下の過去記事をご覧ください。
 
(概略版) 8/23の拙ブログ記事「ユネスコ・エコパーク構想 リニア長大トンネル工事への対策なんてあるのかな? 」http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/11811275.html
 
(長文版) 「どこまで本気? ユネスコエコパーク/世界自然遺産とリニア新幹線を両立って」
 

ユネスコエコパーク国内推薦決定 続報

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昨日、日本ユネスコ国内委員会の「自然科学小委員会人間と生物圏(MAB)計画分科会」が文部科学省にて開催され、登録申請の出ていた只見地域(福島県)と南アルプス(山梨・長野・静岡10市町村)を、ユネスコに対してエコパークに推薦することが決定されました。
 
以下の関係省庁のサイトに審議概要が掲載されています。
文部科学省
http://www.mext.go.jp/unesco/001/2013/1339323.htm
 
環境省
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17095
 
林野庁
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/sin_riyou/130904.html
 
いずれも書いてある内容はほぼ同じです。
 
今朝の静岡新聞では大々的に報じています。まだ「国内推薦」なんですけど。
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/Shizuoka-news/2013.9.5-ecopark.html
 
ユネスコエコパークは、持続可能な自然の利用方法を研究し、実践してゆくために、ユネスコが設置する国際的な自然保護地域です。「持続可能な自然の利用方法」を求めてゆくことから、自然保護のために規制でがんじがらめになるのではなく、最も重要な場所を取り囲むように3段階の保護地域を設けるのが特徴です。
 
審査をおこなっている日本ユネスコ国内委員会MAB計画分科会のHPから転載しますと、
 
核心地域
・法律やそれに基づく制度等によって、長期的な保護が担保されていること
・次のカテゴリーの1つ以上に合致していること
(ア)生物地理学的区域を代表する生態系であること
(イ)生物多様性の保全の観点から重要な地域であること
(ウ)より自然の状態に復旧できうる変形あるいは破壊された生態系の実例
(エ)絶滅危惧種等希少な動植物が生息あるいは生育していること
・動植物相や植生等の調査の蓄積があり、公開に努めていること
 
②緩衝地域
・核心地域の周囲又は隣接する地域であり、核心地域のバッファーとしての機能を果たしていること
・核心地域に悪影響を及ぼさない範囲で、持続可能な発展のための地域資源を活かした持続的な観光であるエコツーリズム等の利用がなされていること
・環境教育・環境学習を推進し、自然の保全・持続可能な利活用への理解の増進、将来の担い手の育成を行っていること
 
③移行地域
・核心地域及び緩衝地域の周囲または隣接する地域であること
・緩衝地域を支援する機能を有すること
・自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組を推進していること

となっています。
 
順調なら登録は来年6月にスウェーデンで開かれるユネスコ理事会で正式決定するとのこと。

関係省庁のお知らせページには登録申請地域の概略図も掲載されています。見たところは、国立公園の中でも規制が厳しい部分や、林野庁の保護林、そして大井川源流厳正自然環境保全地域が核心地域に、それを取り囲む帯状地域が緩衝地域に、周辺の集落が移行地域となっています。
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南アルプス一帯の保護地域
 
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エコパーク登録申請地域とリニア新幹線の推定ルート
環境省HP掲載の図を転載・加筆しています
静岡県側はほとんど移行地域となってますが、どうしたことでしょう。 国立公園のような法的な保護地域が少ないために、核心地域やそれを囲む緩衝地域を設けることができなかったのでしょうか? 現在、2010年度を目途に環境省が国立公園地域を広げる計画を立ててますが、それまでおあずけといったところでしょうか?
 
さて南アルプスでの登録申請面積はおおよそ300平方キロメートル。その中にはリニアの建設工事が行われるであろう場所も含まれていますが、問題とならなかったのでしょうか?
 
静岡新聞、信濃毎日新聞の記事では、リニアに関する言及は見当たりません。
 
関係市町村の方々からも、エコパーク登録運動をリニア計画とを結びつけた発言はなされていないようです。
 
ぜ~ったいに分けて考えることはできないと思うのですが、いったいどうなってるのでしょう?

両立できると楽観視されているのでしょうか?
 
リニアの工事は、JR東海の計画通りだと、来年度から少なくとも向こう10年間は要します。登録と同時に着工なんてこともありえますね。向こう10年間は、リニア建設工事が南アルプスでの事実上の主産業となります。
 
南アルプスを横断するトンネルは、総延長約52㎞で、さらに斜坑等の作業用トンネルが加わります。掘削容積は600万立方メートル以上、掘り出される残土の容積は1000万立方メートル以上に達すると思われます。その残土が少なくとも5ヶ所から掘り出され、うち3ヶ所はエコパーク登録申請地域内に含まれます。
 
掘り出し口近傍で谷を埋め立てるか、もしくは10年間、毎日大型ダンプカーが150往復して域外に運び出さねば、このトンネルを造ることはできません。谷を埋め立てれば環境の復元は不可能、ダンプカーを通すために道路を拡幅しても自然環境へ大ダメージ。さらにトンネルの存在自体が水枯れを引き起こす…。谷底での大工事が、稜線部の核心地域へどんな影響を及ぼすのかも予測がつかない。
 
どこが「自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデル」なんだろう?
 
どんなに環境に配慮しても、「残土の発生と処理」「地下水の流れを壊す」この2点だけは、環境に配慮した対策がありません。
 
エコパーク登録の可否は、来年6月にスウェーデンで開催されるユネスコ理事会での審議結果で決まります。リニア計画への対策-もしかしたら着工しているかもしれない-を疑問視されたらどう回答するのでしょう?

連想したのが北海道のウトナイ湖と千歳川放水路の問題。
 
かつて、北海道は道央を流れる石狩川支流の千歳川にて、洪水対策のために巨大な放水路を建設する計画がありました。計画をしていたのは北海道開発局。
 
その放水路近傍にはウトナイ湖という湖や湿地があり、野鳥をはじめとする様々な動植物が生息しており、貴重な場所として認識されていました。工事を行うと、ウトナイ湖に大きな影響を与えてしまう…。これが一因となって反対運動が起こり、技術的な不安もあって着工できないまま年月が過ぎてゆきました。
 
泥沼化しているうちにウトナイ湖が1991年にラムサール条約に登録されました。ラムサール条約に登録されると、国際的に保護措置を約束せねばなりません。「そんな場所で大工事を行うなどおおいに疑問がある」…日本政府が苦手な外圧がかかり、いっそう話がややこしくなってきました。そんなこともあって実現性が大いに疑問視されるようになり、結局、放水路計画は中止され、遊水地や堤防強化など複合的な洪水対策が行われることになりました
 
リニア計画も同じ轍を踏むのではなかろうか?
 
「リニア計画とエコパーク登録とは両立できる」
とお考えであるのなら、関係者の方々-JR東海の方々も含めて-にはぜひ、その対策案を示していただきたいと思うのでリます。。
 
 
連想ついで。
 
戦後間もない昭和20年代、群馬・福島・新潟にまたがる尾瀬ヶ原に電力会社や商工省(現通産省)とで巨大な水力発電用ダムを建設しようという計画がありました。戦後の復興期であり、まさに電力不足の時代です。各マスコミ、世論さらにはGHQまで強力に後押しし、着工は確実かと思われてましたが、尾瀬ヶ原の学術上の価値を重視した文部省は特別天然記念物に指定し、当時、国立公園を所管していた厚生省は一帯を日光国立公園特別保護地区に組み入れ、強力に抵抗することになりました。在野の学者や自然愛好家も集結して尾瀬保存期成同盟と結成、反対運動を展開し、ダム建設を食い止めることに成功しました。
 
今の尾瀬ヶ原からはうかがい知ることもできませんが、美しい景観が保全された背後にはこんな騒動があったのです。日本の自然保護運動の原点として位置付けられているのはこのような背景があります。
 
60年前に先人が成し遂げたことを、今、南アルプスにおいて文部科学省と環境省とが協力して再現しようとしている!!
 
・・・んなわけないか。

南アルプス山中で残土処分。どこが環境配慮なのでしょうか?

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9月6日の静岡新聞朝刊より
 
リニア中央新幹線の整備計画に伴い静岡市葵区の南アルプスで掘削される長大トンネルの建設残土(排出土)について、JR東海は5日までに、南アの現地で残土を処分する方針を固め、複数の処分候補地を挙げて最終調整に入った。』http://www.at-s.com/news/detail/775160482.html
 
エコパークに登録されようとされまいと、これは「超」のつくほどの大問題。
 
「現地で処分」
 
はっきり言って、ムチャクチャなのです。
 
残土の「処分」とは、どこかに積み重ねること

詳しくはこちらをご覧頂きたいのですが、掘削する容積は、作者の試算では最低でも600万立方メートルになります。トンネル工事には、水抜きトンネル等、作業用トンネルが多数掘られるのが通例なので、実際には掘削容積はもっと多くなるのだろうけど、詳細が明らかでないのでとりあえず省きます。
 
南アルプスのトンネル工事で出てくる岩は5方面に掘り出されますので、一ヶ所当たりに120万立方メートルが出されることになります。
 
掘り出された岩は小さく不整形に砕かれますので、これを積み重ねると隙間ができ、元々の容積よりも増します。岩の場合、この容積増加率として1.3~1.5という値が用いられます。http://cat-japan.jp/ms-net/yougo/machine/n57a2474.html
 
120万立方メートルが1.5倍になると180万立方メートルです。静岡県の試算200万立方メートルに近い数字なので、妥当なところだと思います。東京ドーム1.5杯分です。
 
南アルプス山中の、どこにそんな場所があるのでしょうか?
 
砕石を積み上げるときの勾配は、高さ20mの場合は30°未満という基準があるそうです。
 
180万立方メートルの体積で、厚さ20m、勾配30°となる四角錐台(ピラミッドを水平に切った形)を築くためには、底辺の長さは328m必要になります(図1)。
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図1 残土を厚さ20mの四角錐台で積み上げたら?
 
四角錐を真上から見ると正方形です。1辺が328mの正方形を地形図上に表しますと、図2のようになります。
 
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図2 南アルプス山中大井川沿いの地形図
国土地理院 地形図閲覧サービス「うおっちず」より
 
これだけの正方形をつくれる平坦地は、南アルプス山中には存在しません。というわけで、鉱山のボタ山のように積み上げることは不可能です。
 
新聞記事では、JR東海はいくつか沢を埋め立てる方針なのだそうです。
 
山梨実験線延伸工事でも行われているようですが、南アルプス山中でおこなったらどのようなことになるのか…?

大井川源流部支流の沢について地形図上で検証してみましょう。
 
ともに登山基地である二軒小屋~椹島間の林道沿いにあり、流域に崩壊地のない沢8本について、下流部の川床勾配(川の流れ方向の勾配)を計測してみました。
 
平均の勾配はおおよそ20°。坂道としてもかなり急です。そしてそれぞれの沢の両岸の勾配は30°ほど。両岸が切り立ち、流れも急な、典型的なV字谷です。
 
このV字谷を、谷底の幅を5m、川床勾配を20°、両岸の勾配を30°と見なします。
 
この谷に斜面の勾配を30°、高さ20mの盛土を2段重ねにして計40m積み上げることを考えます。40mというのは、平地の盛土でも非常に高いほうであり、こんな急斜面で可能かどうかはわかりません。あくまで思考実験であることをご承知ください。
 
シロウト考えですが、図3のようになりました。
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黄土色に塗った部分が残土を表します。この場合、盛ることのできる残土の容積は1.44万立方メートルとなりました。
 
このサイズ(最大幅約50m、長さ110m)の処分場で180万立方メートルを処分するためには125ヶ所の沢を埋め立てねばなりませんすさまじい自然破壊であるとともに、まるで雪渓のように残土処分場が連なり、極めて醜い景観となります。そもそも、こんなにたくさん沢はありません。

あまりにも非現実的です。
 
残土を斜めに積むのではなく、前方に大きな砂防ダムのような巨大な壁を築いて、その内側に積むという方法を考えられます。こうすればたくさん入ります。
 
同じように高さ40m積むと、図4のようになりました。
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図4 高さ40mのダムをつくって残土を埋め立てる
 
これだと計算上21.4万立方メートルの残土を入れることができ、全てを処分するのに8~9ヶ所で済みます。
 
しかしながらダムのサイズは、幅が140m、高さも40m以上となります。これは大井川の発電用水系でいうと発電用の笹間川ダム(笹間川:島田市)や赤石ダム(赤石沢:南アルプス山中)に匹敵する大きさです。図2の地形図左下に赤石沢ダムが掲載されています。
 
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図5 大井川支流にある笹間川ダム(Wikipediaより)
 このサイズの残土処分場が8つも必要?
 
たかが鉄道トンネルのために中型ダムを9つも造るなど、あまりにも馬鹿げています

次に考えられそうなのは、川幅の広い大井川の岸を埋め立てること。
 
図6のように、大井川の川岸の勾配を20°とみなし、そこから底面幅50mにわたり、厚さ20mで川の方向へ残土を盛るとします。盛土前方の勾配は30°とします。河川敷にあるグラウンドを、縦方向に10倍大きくした感じです。
 
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これだと断面積は1203平方メートルとなります。それゆえ180万立方メートルを処分するためには約1500mの長さを確保すれば可能となります。
 
簡単に書いたけれども、図2から創造できる通り、実際にはそんな川幅のある区間は限られています。
 
また、河原の広い部分には、河畔林という川岸特有の植生が育まれており、その規模は少なくとも静岡県下では最大であり、国内でも有数の規模かと思われます。それが失われたら、南アルプスの河川生態系は壊滅します
 
 
 
いずれにせよ、「残土処分」は谷間でしか行うことができません。「谷」と言う場所は、周りから水が流れ込む湿潤な場所です。水があるがゆえに、多様な生態系の連結点となっています。南アルプスでの残土処分は、そこを狙い撃ちにしていると言って過言ではないと思います。
 
こんな方針が出てくるというのは、全く環境に配慮していないことの表れです。
 
 
 
環境アセスメントは、環境破壊への対策を生み出してゆくプロセスです。どういうプロセスを経て「大規模自然破壊」が「環境配慮の手法」として考え出されたのでしょう。黒いものを白と言いくるめようとしているようで、ある意味で興味深くもあります。
 
かつて、リニア計画の是非を審議していた国土交通省中央新幹線小委員会では、こんな発言もありましたが…。
 
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残土300万立方メートル&穴だらけ 南アルプスはお砂場じゃないんだから

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今日は朝刊を開いて驚きました。
 
南アルプス長大トンネル、静岡県部分からの残土発生量は300万立方メートル。
斜坑は2本。
 
環境アセスメントは環境した事業案を検討するものですが、これのどこが、「環境配慮」なのでしょうか?
 
このブログでは、今まで残土の発生量は200万立方メートル程度(東京ドーム1.5個分)と見込み、それでもきわめて量が多いと懸念していましたが、実際にはその1.5倍にもなるそうです。
 
静岡県民の方々に分かりやす例えはないかと考えておりましたが…。
 
以下、静岡ローカルな話。
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静岡市の静岡駅南側、市街地のど真ん中に八幡山という小高い山があります。標高は64m程度です。
国土地理院発行の1万分の1地形図と方眼紙を用いてこの山の体積を調べてみました。
 
その結果、おおよそ178万5000立方メートルという値がでました。
 
ただ実物の八幡山は木々に覆われていますので、実際の見た目は地図上から推定されるよりも大きく感ずるはずです。それゆえ、八幡山の木々を含めた容積は、200万立方メートル程度になると思われます。
 
リニアのトンネルから南アルプス山奥に掘り出される岩の容積は、八幡山1個半に匹敵する。

いまいち分かりにくいかな…。
 
静岡市街地のど真ん中に駿府城公園というのがあります。かつて徳川家康が西国大名に築かせたお城です。もとは3重の堀に囲まれてましたが、現在では外側2重の掘だけが残されています。内堀の内側は公園に、内堀と外堀の間は公共施設や学校等になっています。
 
この外堀(水落の交番-西草深町の交差点-市立病院-セノバ前-水落の交番)は、大まかに見ると1辺約700mの正方形です。それゆえ、外堀の内側を厚さ6mで埋めつくすと、300万立方メートルとなります。
 
駿府城外堀の石垣内側の容積に相当するともいえます。
 
とにかく、300万立方メートルというのは、「山奥のさらに奥の谷底」に掘り出されることを考えると、あまりにもに多いわけです。
 
これをJR東海の方針通りに現地処分すると、
①大井川の河原が埋め尽くされる
②小さな沢はほとんど消滅する
③中規模なダムが十数個造られる
のいずれかにならざるを得ません。

さらに「斜坑を2本掘る」というのは、リニアの走る本線トンネルのほかに、長さ4㎞以上はあろう長大トンネルを2本掘るということを意味します。作業用トンネルとはいえ、大型車両あるいはトロッコの通行する本格的なトンネルです。
 
静岡市近辺でいうと、日本坂トンネルの倍の長さのトンネルが2本追加されるわけです。
 
2㎞程度のトンネルでも水枯れが発生するのが通例なのに、いくつもの谷をくぐるトンネルを3本も掘ったら、ひどい水枯れを引き起こし、河川の生態系が大ダメージを受けかねません。
 
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Wikipedia から拝借した写真 塩見岳付近から荒川三山
中央の荒川岳手前の深い谷が大井川源流の西俣
リニアのトンネルはこの西俣直下を沢に沿って貫き、斜坑も静岡県部分だけで2本掘られる

現段階で分かっている断片的な情報だけでも、亜高山地帯やその周辺としては、とんでもない前代未聞の自然破壊となることは確実です。大井川現流域の河川生態系は壊滅的なダメージを免れません。
どういう環境配慮の結果として、このような案が出されたのでしょう?

穴だらけ 残土だらけ 南アルプスは公園の砂場じゃないんだから!

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あさって18日に、リニア中央新幹線の環境影響評価準備書が公表されるそうです。
 
これまで、2年前に公表された方法書に示された調査内容と、それに対する自治体・一般市民の意見をもとに調査・環境への影響の予測が行われており、その予測結果と対応策とを記載した文書のことを準備書とよびます。
 
ところがこのリニア計画においては、準備書公表時点では具体的工事箇所や工法などは明らかにされておらず、この準備書段階になってはじめてわかるという変則的な進め方となっています。
 
この準備書に対しても、一般市民等が意見を出すことができます。っていうか、環境影響評価手続きでは、これが意見提出の最後の機会となります。変則的な進め方なので、事業内容を知ったあとで意見を出せるのはこの準備書だけとなってしまいました。

さて、リニアは南アルプスを3本のトンネルで貫きます。JR東海が方法書でしめした位置だと、あわせた長さは約52㎞あります。
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JR東海の環境影響評価方法書より
 
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南アルプス付近
 
このうち静岡県内のたった10㎞の区間で300万立方メートルの残土が発生するとのこと。
単純に5.2倍すると1500万立方メートル以上になります。
 
東京ドーム12杯分。
クフ王のピラミッド6.5個分。
東京の地下鉄何路線分になるのでしょう?

ふつう、大規模工事で出される残土は別目的に転用されます。それゆえ国土交通省では廃棄物ではなく「建設発生土」とよぶそうです。

静岡ローカルな話ですと
 
新東名高速道路のトンネル・切り取り区間(静岡市周辺だけで数百万立方メートル)→巨大な盛土へ転用
国道1号線丸子藁科トンネル(20万立方メートル)→焼津港の埋め立て
大谷川放水路(200万立方メートル)→周辺農地のかさ上げ
長島ダム(160万立方メートル)→集落移転先の造成
 
に使われたそうです。
 
ところが南アルプス区間では、リニアの建設に使われることも、他の事業に使われることもありません。

それでも平地に面した山梨県南アルプス市側、長野県豊丘村側は、まだ使い道がありそうです。
 
問題が深刻なのは南アルプス山中の山梨県早川町、静岡県静岡市大井川源流、長野県大鹿村の3地点。ここではただの邪魔な廃棄物に他なりません。
 
それぞれに最大で300万立方メートル程度掘り出されるのでしょうが、これをどうするのでしょう?
 
300万立方メートルというのは、10t積み大型ダンプカーのべ50万台分。
 
2027年開業を目指し、作業日数を10年・年間240日で掘り出すと、大型ダンプカーが毎日208往復することになります。10年間毎日、日中1時間に52台通り続けるのか、特定の時間に数珠つなぎになって通るのかわかりませんが、現在の通行台数(1日数台というレベル)から比べると、きわめて異常な事態となります。道路事情からこれだけの車両が通行するのは困難ゆえ、新たな道路建設-目的は残土を運ぶだけ-という無用の自然破壊も引き起こします。
 
大井川源流部は一般車両の通行を禁止されているがために静かな環境が残されているわけですが、これでは鉱山になってしまいます。
 
そして掘り出したところで、3地点とも険しいV字谷であり、埋め立てに適した平地がありません。ムリに谷に埋めれば大雨の際に土石流となって容易に崩れてしまいます。それにV字谷は容量が狭いため、300万立方メートルを埋めるとなると、処分場がいくつもいくつも必要となってしまい、とんでもない環境破壊となります。
 
かといって域外に運び出すとなると、最終処分場まで数十㎞にわたり「大型ダンプカーが10年毎日208往復」という”ダンプ公害”を受け入れなければならなくなります
 

なお「残土」と書きましたが、トンネル工事で実際に出されるのは土ではなく岩の破片です。業界用語ではズリと呼ぶそうです。
 
残土野山には植物を植えて緑化せねばなりませんが、岩の破片を積んだだけなので簡単なことではありません。まずは土壌改良剤や化学肥料を用いて土をつくらねばなりません。
 
ちなみに静岡空港の盛土緑化の際には、1000平方メートルあたり200kgの土壌改良剤や化学肥料を用いたそうです。
 
静岡空港周辺は一面が茶畑であり、大量の肥料が使用されていますので、空港周辺に多くまいても周辺の水環境への負荷はそれほどではなかったかもしれません。
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静岡市郊外 新東名高速道路の盛土区間
工事で発生した残土=岩ズリが積まれている
 
ところが、リニアのトンネル坑口周辺には、農地や集落はわずかしかなく、水質は良好です。特に大井川源流については、山小屋や発電所以外に人はおらず、昭和初期までの焼畑農耕以外に農業の行われたこともありません。水に関しては、全く汚染されていません。
 
そういう非常に清澄な場所に、のべ数十トンの肥料と投入したら…? 今まで肥料などの影響を受けたことのない生態系に、どのような影響が及ぶのか、予測ができるのでしょうか。JR東海はこの点も評価対象としているのでしょうか?
 
残土処分をつくるためには、そこまでの道路を整備する、砂防ダムを併設する、下流方の河床で護岸工事、遊水地の設置など、さまざまな付随工事が必要となります。
 
水といえば、トンネル工事による河川-特に大井川-の流量に対する影響も懸念されます。
 
山岳トンネルを掘る際には、トンネル周囲の水は徹底的に抜かれます。そうしないと工事ができないからです。ゆえに、しばしば水枯れを引き起こします。リニアの実験線でも問題になっています。
 
この際、トンネル内への湧水を河川に放流し、代替水源にするという対策がとられることがあります。
 
南アルプスにおいては、列車の通るトンネル本体のほか、作業用にいくつものトンネルが掘られ、静岡県部分だけでも2本の斜坑が設けられるそうです。斜坑といっても大型ダンプカーの通る広さが確保されており(九州新幹線の事例だと幅が6.4m)、普通の道路トンネルと同じ規模で、長さも数㎞あります。
トンネルは大井川の谷底下方を通り、斜坑も多くの支流をくぐるため、大量の湧水が発生し、もしかすると河川流量の減少を招くかもしれません。
 
その際、トンネル内の湧水を代替水源にすることはできません。
 
このトンネルは、早川流域(富士川水系)から大井川流域をくぐり、小渋川流域(天竜川水系)へと掘られます。トンネル頭上の大井川流域の標高は、最も低いところで1300mほど。それに対し早川坑口の標高は600m前後と、はるかに低くなっています。それゆえ、大井川流域で生じたトンネル湧水は、斜坑からの湧水も含め、全て早川側へ流れ出してしまいます。
 
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南アルプス本体のトンネル想像図
赤線が本坑、紫の線が斜坑の推定位置(ただし作者の勝手な予測に基づく)
国土地理院 電子国土ポータルより複製・加筆
 
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Googleより作成
 
実は国内において、このように全くつながっていない3つの流域を1本の山岳トンネルで貫いた例はありません。
つまり大井川流域で水枯れを引き起こした場合、有効な対策はなく、国内に前例もないわけです。ポンプでくみ上げれば一時的な対応は可能でしょうが、抜本的な対策にはなりません。

トンネル掘削にともなう残土処分にしろ水枯れ懸念にしろ、どちらも環境への影響は不可逆的であり、一度壊したら元には戻れません。
 
残土と水のほかにも…

動物が大型車両にひかれる
外来種の動植物が持ち込まれる
川が汚れる
騒音が10年続く
景観の破壊
 
 
こんなことが確実に起こるわけで、どう考えても自然環境への多大な悪影響が避けられません。その点について、準備書ではどのような解釈で「環境への影響は小さいと判断される」と記載されるのか、中止せねばなりません。
 
南アルプスは国立公園とはいえ、そこいらの児童公園のお砂場ではありません。

準備書公表 フタをあければ残土だらけ穴だらけ

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リニアの準備書が公表されました。
 
テレビで「駅とルートの案を公表」と大きく扱われていますが、準備書は環境影響評価の結果を報告する文書であり、こちらが重要視されねばなりません
 
さて、本来は環境面への配慮をおこないながらルートや駅を決定し、そのあと改変される箇所にて詳細な調査に踏み込まねば、マトモなアセスが成立しません。
を戦略的環境アセスメント
を事業アセスメント
とよびます。ところがリニア計画の場合、①と②がごちゃ混ぜになってしまい、両方を一度におこなったため、妙な経過をたどっています。「妙な」というのは、『アセスを始めた段階では改変箇所や事業内容が明らかにされず、それゆえ外部から調査内容に対して意見の出しようがなく、事業者のほうで一方的に改変箇所・調査内容を決めていき、結果だけが明らかにされた』ということです。
 
準備書によれば、南アルプスの静岡県側では、本坑につながる斜坑を2本、工事用車両が通るトンネルを2本、それぞれ二軒小屋周辺に掘るようです。360万立方メートル(東京ドーム3杯半)については、すべて現地に埋め立てるとか
 
懸念していた通り、穴だらけ、残土だらけになります。
 
静岡市民の方々に向けて説明しますと、360万立方メートルは、ちょうど駅南にある八幡山二つ分になります。
 
 
 
おそらく全体では電話帳2冊分の厚さになるであろう、この準備書。まだ一部しか見てませんが、ぱっと見た感想。
 
「とにかく内容がきわめて大雑把である」
 
こちらに青崩峠トンネル建設の環境影響評価関係の文書 
こちらに伊豆での道路建設の環境影響評価」関係の文書
が掲載されています。これらのアセス文書が上出来かどうかは存じませんが、どう見てもリニアのアセス文書は、これらに比べて大雑把すぎます。南アルプスが自然保護地域という点を考えると、ますます杜撰に見えてきます。
 
改変箇所を絞り込む過程が不明
「トンネル位置」「残土置き場」「工事用道路」など、工事をする予定の場所が記載されています。これらの工事箇所について、何をどのように考慮してその位置になったのか、その検討経緯が明らかにされていません。この検討経緯が環境影響評価においては最も重要な点であるはずです。
 
1:50000地形図を用いるのはまちがっている
この準備書では、ほとんどの地図に国土地理院作成の1:50000地形図(植生分布には1:25000地形図)が用いられています。しかし普通、環境アセスメントにおいて調査地点や植生の分布などを示す場合には、1:10000程度の地図が用いられます。1:25000あるいは1:50000地形図では、地図上での1㎜の誤差が実際にはそれぞれ25m、50mの誤差となるので、あまりに大雑把すぎるからです。
 
③調査内容も評価方法もいいかげん
たとえば景観調査についてみてみます。景観調査というのは「主要な眺望点から見える主要な景観対象が工事で阻害されないか」という感じで評価するそうです。で、準備書を読みますと、その「眺望点」は、南アルプス中南部の数十平方キロメートルの範囲から、登山道沿いと大井川谷底のわずか4地点しか挙げられておらず、「景観対象」も「大井川の渓谷だけ」であり、山並みは対象外となっているそうです。何をどのように検討して、「山に登る人々は大井川の渓谷だけを見に来る」という判断を下したのでしょうか?
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
この先、1週間くらいかけて全体に目を通していくつもりです。問題点が多々出てきそうですが、その結果は後ほどご報告します。

とりあえず、方法書段階での懸念事項(私の考えたもの、方法書に寄せられた一般市民や自治体からの意見)を挙げておきます。
 
きちんと調査・予測・評価がなされているでしょうか?
 


(1)掘ってよい場所かどうかの議論が皆無
  ●原生的な空間という認識が欠如
南アルプススーパー林道の通る北沢峠以南のおよそ110㎞にわたる稜線には、道路やトンネルはもとより送電線、地下水路といった人工的な構造物は一切横切っていない。植生のうえでも、太平洋側で最大級の自然林が残されている。原生的な空間の広がりとしては、太平洋側で最大である。推進者側には、こうした原生的な空間が存在することの価値が完全に欠落している。また斜坑が設けられる大井川源流の静岡市二軒小屋は、発電所・登山小屋関係者を除くと無人地帯であり、森林伐採と水力発電所建設を除くと、これまで大規模な改変が行われていない場所である。改変の是非については慎重に判断されるべきであるが、何の議論も経ずに斜坑を設けることが前提となっている。
  ●政策の不一致
2010年の同時期に南アルプスの自然環境についての審議が環境省と国土交通省にて行われた。審議の結果、環境省は周辺よりも優れた環境を有すると判断して国立公園区域の大規模拡張を決定した。いっぽう国土交通省は、審議を放棄して時間短縮効果のみの視点からリニアの南アルプスルートを決定した。同じ場所の環境について、正反対の判断を下したことになる。
  ●計画段階での環境配慮の恣意的な無視
詳細はこちら 
  ●周辺自治体は南アルプスをユネスコ・エコパークおよび世界自然遺産へ登録しようと活動を行っているが、あからさまに登録申請地域の環境を悪化させる本計画との整合性が全くとれていない。
(2)自然・環境破壊
  ●膨大な残土が発生するが、事実上処分方法がない。
南アルプスのど真ん中の静岡市二軒小屋に360万立方メートルの残土が発生する。ここでは環境に配慮した処分(現地埋め立て)は不可能である。域外への搬出は、長距離に渡る道路工事とダンプ公害を前提とし、これも困難である。
  ●大型車両の頻繁な通行
震動・騒音・粉塵の発生による動植物への悪影響や小動物の轢死を招く。
  ●水循環の破壊
岩盤内の地下水流動は一度破壊されたら復元は物理的に不可能である。とはいえトンネル工事は「掘って見なければ分からない」ものであり、影響の予測も困難である。さらに地下水とつながる河川水量への影響も予測不可能。トンネルの構造上、大井川流域での湧水は全て早川側へ流出する。
  ●工事現場までの輸送路建設による大きな自然破壊。
工事現場は市街地から遠く離れた山奥であり、円滑な輸送のためには道路整備が不可欠。急峻な山岳地域での道路工事では、直接的な植生破壊、生態系の寸断、河川の荒廃、土砂崩れの誘発、外来動植物の伝播がつきもの。
  ●水質汚染
一帯は大井川や小渋川の源流域であり、非常に水質が良好な場所であるが、工事により長期間にわたって水の濁りがとれなくなる。有害な物質を含む残土が発生する可能性もある。冬季も車両の通行が行われる場合、融雪剤がまかれ、水質汚染につながるおそれがある。
  ●ルート上に十谷温泉、小渋温泉が存在するが、温泉枯渇のおそれがある。
  ●車両の頻繁な通行、大量の資材搬入にともない外来動植物が大量に進入する。
  ●工事は谷底で行われるが、間接的に高山帯の生態系へ及ぼす影響が予測不可能。
  ●工事期間は10年以上と長く、静かな山峡の地という雰囲気がぶち壊される。景観が乱されるとともに、大鹿村や早川町は鉱山都市へと一変する。
  ●人工物がほとんど存在せず、日常生活から途絶したエリアであり、通常の環境基準を守るだけでは不十分である。
 
(3)環境影響評価(アセスメント)の問題
  ●環境影響評価開始以前から着工時期が公言されている
すでに2014年度着工と計画されている。いっぽう2013年9月に準備書が公表されると、環境影響評価手続きが終了するのは早くとも2014年夏頃である。2014年度着工を可能にするためには、わずか半年で正確な軌道の位置や設計、用地買収、保安林解除、農地転用など様々な手続きを終わらせねばならない。その点を考慮すると、環境影響評価の結果とは関係なく、既に事業内容は決定済みと考えざるを得ない。
  ●事業内容が明かされない段階でアセス開始①
  具体的な事業内容および調査箇所等が明らかにされるのは準備書段階である。準備諸段階ではじめて調査方法・場所に不備が見つかったとしても、その点について再調査を求めることは事実上不可能であり、環境影響評価の体をなさない。
  ●事業内容が明かされない段階でアセス開始②
  また方法書段階では、事業実施地域は幅3㎞の帯で示されただけである。いっぽう、現地調査地域は「改変箇所から600m以内」だという。3㎞幅からどのように改変箇所を選定するのか、その過程が全く明らかにされない。本来は簡易な調査を経て改変箇所を選定し、現地調査を行わねばならない。
  ●日程的に、現地調査がまともにおこなえるはずがない。
  南アルプスの山岳部を含む240㎞の区間を、2012年度の1年間だけで調査するなど、どのように考えても不可能である。
  ●今後の走行実験結果が反映されない
  山梨実験線で12両での走行実験が行われるのは2013年9月から、終了するのは着工後の2016年度である。いっぽう環境影響評価準備書の提出が予定されているのは2013年9月18日である。これでは実測値を準備書に反映することは不可能である。つまり今後の走行実験結果についての自治体、住民等の意見を受け付けることも不可能であり、この点でも環境影響評価の体をなさない。
  ●アセス内容が無意味となる可能性
  前述の通り、着工後に走行実験結果が出されるので、その結果を受けて構造等の変更がなされる可能性がある。その際は法律の規定により、特に大きく事業内容を変えない限り、環境影響評価をやり直す必要はない。
  ●東京-名古屋間の15%にあたる42.8㎞は、山梨実験線として、法律や条例に基づく環境アセスメントを行わずに建設された。
 
 
(4)「東海地震対策」としてわざわざ危険な場所を通るけど説明がない
  ●建設目的と災害リスクとの関係が不明
「東海地震に備えて二重系統化が必要」と主張しているが、南アルプスルートでは東海地震および南海トラフ巨大地震の想定震源域北縁を通り、揺れによるガイドウェイの損傷や土砂崩れ、トンネル内壁の崩落などの恐れがある。つまり東海道新幹線との同時被災という可能性がある。
  ●南アルプスの隆起速度
南アルプスの隆起速度は「年間4㎜前後、100年間40㎝で日本最大級」というのが地質・地形学者の常識的ともいえる共通認識であるが、JR東海では「突出した値でない」という認識であり、大きな違いがある。長期的に見た場合のトンネル維持コストや安全性に影響が出るのではないか。
  ●土砂災害の常習地域
南アルプス長大トンネルの坑口となる早川は糸魚川-静岡構造線に、小渋川の谷は中央構造線に接し、地質条件は非常に悪く土砂災害に対して脆弱である。実際、過去の東海地震や大雨の際に大規模な土砂災害が発生している。小規模な土砂崩れは日常茶飯事である。また、緊急時の通路となる林道も度々寸断される。緊急時の通路が頻繁に使用できなくなるのも問題である。
  ●無事に緊急停止できるのか
以上のように、災害リスクが非常に高い地域である。超伝導リニアは時速500㎞から停止するまでに90秒の時間と6㎞以上の距離を要するが、その間に衝突事故を起こしたら大惨事となりかねない。
  ●緊急時の乗客救助が困難
南アルプスを横断する約52㎞の区間は、救助拠点となる駅および市街地から遠く離れている。そのうえトンネルに達する林道の近傍は土砂災害に対して脆弱であり、東海地震が起きたら孤立する可能性が高い。気象も不安定であり、夏場を除けばヘリによる救助も容易ではない。
  ●一帯は大部分が無人地帯であり、あえて災害対策を行う必要のない場所である。そのような場所で災害対策工事を大規模におこなうことは本来不要なことであって、無秩序な自然破壊である。

南アルプスのトンネル全体像

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南アルプスは山梨・静岡・長野3県にまたがっています。
 
環境影響評価も都道府県単位に行われます。それゆえ、準備書に記載された各種の図も、県境でばっさち切られてしまっています。
 
しかし境界線を引いたのは人間の勝手な都合。
 
当たり前ながら動物の行動も植物の分布も、風景も水の流れも、県境とは関係なくつながっています(まあ、山の尾根なら水の流れは途切れてますが)。
 
したがって見づらい!!
南アルプス全体としては、どのような工事になるのかという全貌さえ、容易につかめません。
 
というわけで、甲府盆地南西隅から天竜川の岸まで、1枚の図につなぎ合わせてみました。
 
地図が巨大になったので、別途掲載します。
こちらのリンクをご覧ください。
 
トンネルは長大トンネル3本と短いもの2本とで計5本。
作業用トンネルは計13本。
 
現時点で計画されている残土処分場は8ヵ所。
 
穴だらけ、残土だらけであります。
 
 
 
 

 
この先、1週間くらいかけて準備書全体に目を通していくつもりです。問題点が多々出てきそうですが、その結果は後ほどご報告します。

とりあえず、方法書段階での懸念事項(私の考えたもの、方法書に寄せられた一般市民や自治体からの意見)を挙げておきます。
 
きちんと調査・予測・評価がなされているでしょうか?
 

(1)掘ってよい場所かどうかの議論が皆無
  ●原生的な空間という認識が欠如
南アルプススーパー林道の通る北沢峠以南のおよそ110㎞にわたる稜線には、道路やトンネルはもとより送電線、地下水路といった人工的な構造物は一切横切っていない。植生のうえでも、太平洋側で最大級の自然林が残されている。原生的な空間の広がりとしては、太平洋側で最大である。推進者側には、こうした原生的な空間が存在することの価値が完全に欠落している。また斜坑が設けられる大井川源流の静岡市二軒小屋は、発電所・登山小屋関係者を除くと無人地帯であり、森林伐採と水力発電所建設を除くと、これまで大規模な改変が行われていない場所である。改変の是非については慎重に判断されるべきであるが、何の議論も経ずに斜坑を設けることが前提となっている。
  ●政策の不一致
2010年の同時期に南アルプスの自然環境についての審議が環境省と国土交通省にて行われた。審議の結果、環境省は周辺よりも優れた環境を有すると判断して国立公園区域の大規模拡張を決定した。いっぽう国土交通省は、審議を放棄して時間短縮効果のみの視点からリニアの南アルプスルートを決定した。同じ場所の環境について、正反対の判断を下したことになる。
  ●計画段階での環境配慮の恣意的な無視
詳細はこちら 
  ●周辺自治体は南アルプスをユネスコ・エコパークおよび世界自然遺産へ登録しようと活動を行っているが、あからさまに登録申請地域の環境を悪化させる本計画との整合性が全くとれていない。
(2)自然・環境破壊
  ●膨大な残土が発生するが、事実上処分方法がない。
南アルプスのど真ん中の静岡市二軒小屋に360万立方メートルの残土が発生する。ここでは環境に配慮した処分(現地埋め立て)は不可能である。域外への搬出は、長距離に渡る道路工事とダンプ公害を前提とし、これも困難である。
  ●大型車両の頻繁な通行
震動・騒音・粉塵の発生による動植物への悪影響や小動物の轢死を招く。
  ●水循環の破壊
岩盤内の地下水流動は一度破壊されたら復元は物理的に不可能である。とはいえトンネル工事は「掘って見なければ分からない」ものであり、影響の予測も困難である。さらに地下水とつながる河川水量への影響も予測不可能。トンネルの構造上、大井川流域での湧水は全て早川側へ流出する。
  ●工事現場までの輸送路建設による大きな自然破壊。
工事現場は市街地から遠く離れた山奥であり、円滑な輸送のためには道路整備が不可欠。急峻な山岳地域での道路工事では、直接的な植生破壊、生態系の寸断、河川の荒廃、土砂崩れの誘発、外来動植物の伝播がつきもの。
  ●水質汚染
一帯は大井川や小渋川の源流域であり、非常に水質が良好な場所であるが、工事により長期間にわたって水の濁りがとれなくなる。有害な物質を含む残土が発生する可能性もある。冬季も車両の通行が行われる場合、融雪剤がまかれ、水質汚染につながるおそれがある。
  ●ルート上に十谷温泉、小渋温泉が存在するが、温泉枯渇のおそれがある。
  ●車両の頻繁な通行、大量の資材搬入にともない外来動植物が大量に進入する。
  ●工事は谷底で行われるが、間接的に高山帯の生態系へ及ぼす影響が予測不可能。
  ●工事期間は10年以上と長く、静かな山峡の地という雰囲気がぶち壊される。景観が乱されるとともに、大鹿村や早川町は鉱山都市へと一変する。
  ●人工物がほとんど存在せず、日常生活から途絶したエリアであり、通常の環境基準を守るだけでは不十分である。
 
(3)環境影響評価(アセスメント)の問題
  ●環境影響評価開始以前から着工時期が公言されている
すでに2014年度着工と計画されている。いっぽう2013年9月に準備書が公表されると、環境影響評価手続きが終了するのは早くとも2014年夏頃である。2014年度着工を可能にするためには、わずか半年で正確な軌道の位置や設計、用地買収、保安林解除、農地転用など様々な手続きを終わらせねばならない。その点を考慮すると、環境影響評価の結果とは関係なく、既に事業内容は決定済みと考えざるを得ない。
  ●事業内容が明かされない段階でアセス開始①
  具体的な事業内容および調査箇所等が明らかにされるのは準備書段階である。準備諸段階ではじめて調査方法・場所に不備が見つかったとしても、その点について再調査を求めることは事実上不可能であり、環境影響評価の体をなさない。
  ●事業内容が明かされない段階でアセス開始②
  また方法書段階では、事業実施地域は幅3㎞の帯で示されただけである。いっぽう、現地調査地域は「改変箇所から600m以内」だという。3㎞幅からどのように改変箇所を選定するのか、その過程が全く明らかにされない。本来は簡易な調査を経て改変箇所を選定し、現地調査を行わねばならない。
  ●日程的に、現地調査がまともにおこなえるはずがない。
  南アルプスの山岳部を含む240㎞の区間を、2012年度の1年間だけで調査するなど、どのように考えても不可能である。
  ●今後の走行実験結果が反映されない
  山梨実験線で12両での走行実験が行われるのは2013年9月から、終了するのは着工後の2016年度である。いっぽう環境影響評価準備書の提出が予定されているのは2013年9月18日である。これでは実測値を準備書に反映することは不可能である。つまり今後の走行実験結果についての自治体、住民等の意見を受け付けることも不可能であり、この点でも環境影響評価の体をなさない。
  ●アセス内容が無意味となる可能性
  前述の通り、着工後に走行実験結果が出されるので、その結果を受けて構造等の変更がなされる可能性がある。その際は法律の規定により、特に大きく事業内容を変えない限り、環境影響評価をやり直す必要はない。
  ●東京-名古屋間の15%にあたる42.8㎞は、山梨実験線として、法律や条例に基づく環境アセスメントを行わずに建設された。
 
 
(4)「東海地震対策」としてわざわざ危険な場所を通るけど説明がない
  ●建設目的と災害リスクとの関係が不明
「東海地震に備えて二重系統化が必要」と主張しているが、南アルプスルートでは東海地震および南海トラフ巨大地震の想定震源域北縁を通り、揺れによるガイドウェイの損傷や土砂崩れ、トンネル内壁の崩落などの恐れがある。つまり東海道新幹線との同時被災という可能性がある。
  ●南アルプスの隆起速度
南アルプスの隆起速度は「年間4㎜前後、100年間40㎝で日本最大級」というのが地質・地形学者の常識的ともいえる共通認識であるが、JR東海では「突出した値でない」という認識であり、大きな違いがある。長期的に見た場合のトンネル維持コストや安全性に影響が出るのではないか。
  ●土砂災害の常習地域
南アルプス長大トンネルの坑口となる早川は糸魚川-静岡構造線に、小渋川の谷は中央構造線に接し、地質条件は非常に悪く土砂災害に対して脆弱である。実際、過去の東海地震や大雨の際に大規模な土砂災害が発生している。小規模な土砂崩れは日常茶飯事である。また、緊急時の通路となる林道も度々寸断される。緊急時の通路が頻繁に使用できなくなるのも問題である。
  ●無事に緊急停止できるのか
以上のように、災害リスクが非常に高い地域である。超伝導リニアは時速500㎞から停止するまでに90秒の時間と6㎞以上の距離を要するが、その間に衝突事故を起こしたら大惨事となりかねない。
  ●緊急時の乗客救助が困難
南アルプスを横断する約52㎞の区間は、救助拠点となる駅および市街地から遠く離れている。そのうえトンネルに達する林道の近傍は土砂災害に対して脆弱であり、東海地震が起きたら孤立する可能性が高い。気象も不安定であり、夏場を除けばヘリによる救助も容易ではない。
  ●一帯は大部分が無人地帯であり、あえて災害対策を行う必要のない場所である。そのような場所で災害対策工事を大規模におこなうことは本来不要なことであって、無秩序な自然破壊である。

リニア環境影響評価準備書の問題点 疑問点

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環境省のホームページに、環境影響評価準備書の見方、読み方、そして意見提出方法についてまとめられたページがあります。
 
「アセス助っ人 準備書を採点する」
 
かなり参考になります。ぜひこのページをご覧になって、意見を提出していただきたいと思います。
 
 
JR東海意見受け付けフォーム
 
 
 
さて私のほうも1ヶ月かけて大部分に目を通しました。
 
気が付いた準備書(静岡県版)の問題点・疑問点をまとめておきます。
 
(1)環境影響評価法においては、準備書に「環境の保全のための措置」を記載し、その内容に対して意見を受け付けるよう義務付けられている。しかし本準備書においては「環境の保全のための措置」を検証するために不可欠な、当然開示されるべき情報が不足している南アルプス内における残土処分の検討、山梨・長野側を含め多数の斜坑や作業用トンネルの建設を予定しているなど、方法書段階では公衆等に対して明らかにされていなかった計画も初めて準備書にて出されている。残土処分方法、山梨リニア実験線における今後の走行実験結果の取り扱いなど、いまだ事業内容の大幅な変更につながる要素も多い。調査内容が不十分であると思われる項目も多岐にわたる。したがって本準備書は、準備書としての用件を満たしているとはいえない。
 
以下、
記載内容不足で、環境保全ができているかどうか判断することができないという点については赤く
事業内容の不透明さは青で、
記載内容の矛盾は緑
調査・評価・環境保全対策の不十分さは紫
 
で示します。
 
 
(2)今後の山梨実験線における走行実験結果の扱いがどう計画に反映されるのか不透明である。今後の計画変更による混乱を避けるためにも、今後の実験結果をアセスに反映させるべきである。
 
(3)大型車両の通行ルートとして、井川ダムから川根本町方面へ向かう道路が示されている。町の中心を10年以上にわたり大型車両が通行し、生活環境への影響は大きいと考えられるが、同町を対象にした環境影響評価は行われていない。これはおかしい。
 
(4)あらゆる面にわたり、環境配慮上の検討過程が不明である。これは環境影響評価で明らかにされるべき重要な点である。
 
(5)斜坑や工事用道路トンネル、残土置き場等の規模や構造が不明。それなのに流量の予測ができている(不思議)。
 
(6)騒音、振動、流量など数値計算に基づく予測結果全般に対し、単一の試算結果だけを表示し、評価の根拠としているが、こういう試算において単一の値がでるというのはありえない。上限、下限を示すべきである。
 
(7)粉じん、騒音、振動について、「工事施行ヤードと直近の登山ルートの拠点となる施設が約900m離れていることから、環境影響は極めて小さいと予測する」と結論付けている。きわめて主観的な判断であるうえ、具体的な数字が一切示されておらず、検証しようがない
 
(8)大気環境全項目について、現地調査地点、予測地点ともに少ない
 
(9)騒音の現地調査地点の選定がおかしい。どうやら滝か堰堤のそばで測定しているようである。こんなデータをもとにした現状との比較など無意味である。
 
(10)建設機械による騒音と、車両の通行に伴う騒音とを分けて評価している。重なるケースを想定していない。
 
(11)水環境について、調査・予測地点があまりにも少なく、流水や湧水がどのように分布しているかという基本的な情報についての整理もおこなわれていない。現地調査自体も年2回しか行われておらず、得られたデータがその地域の環境を表現できているかどうか疑わしい
 
(12)流量予測に用いられた予測式が妥当かどうかの検証が行われていない
 
(13)水環境予測の前提に用いられた地質断面図が不明瞭
 
(14)トンネル掘削により大井川源流域での流量の減少が予想されているが、有効な対策を出していない。
 
(15)大井川源流に残土置き場を造成するが、それにともなう水質汚染を予測していない
 
(16)「水資源」の項目では流量が減少すると予測しているのに、水質については減少しない前提で試算してい
 
(17)動植物の調査結果については確認種リストが掲げられているだけで、調査地点も、どこで何が見つかったのかという実態も、改変予定地との位置関係も全く分からない。これで影響がないと結論付けられても検証しようがない
 
(18)2014年6月に、川をつぶして仮設道路がつくられたが、そのあとにその場所で水生生物の調査をおこなっている。
 
(19)大量の大型車両が通行する林道東俣線沿いで生物調査を行ったとしているが、なぜか鳥類だけ調査をしていない
 
(20)動物への影響を回避するために作業用道路トンネルをつくるとしているが、この建設自体が大量の残土を発生させたり川を汚したりと、大きな負荷を生み出す。その妥当性について検討していない
 
(21)ロードキル(動物の交通事故死)対策を講じていない
 
(22)水生生物の調査範囲は改変予定地から600m以内と狭すぎる。トンネル工事にともなって流量減少が起きたら、その影響は地表の改変箇所とは無関係に広がるはずである
 
(23)このあたりの河川がどういう環境(地形、川底の状況、水深、植生など)にあるか、調査していない
 
(24)南アルプス国立公園では採取・損傷を禁じられている指定動植物というものがあり、長野の準備書ではそれが重要種に位置づけられているが、静岡県では対象外である。同じ南アルプス国立公園の周辺なのに、長野と静岡で植物の重要種の選定基準が大幅に異なる。奥大井県立自然公園内においても同様の制度があるが、準備書では対象外となっている(神奈川県では県立公園内指定種を重要種に選定)。現地調査で確認された植物のうち90種はこれに該当する。
 
(25)「地域を代表する植生」として、改変予定地とは関係のない山腹の植生を調査対象とし、影響は少ないと結論付けている。改変予定地の河川、谷底等の植生は評価対象外である
 
(26)外来植物の搬入対策がなされていない
 
(27)景観調査地点が4ヶ所しかない。そのうえ他県で用いられている予想図も出されていないのに「影響はない」と結論付けられている
 
(28)残土は90%は本事業内でリサイクルするといっているが、物理的にありえないし、域外に搬出すると、この準備書の記載内容を大幅に書き換えなければならなくなる
 
(29)山梨県境の標高2000m前後の山のてっぺんに残土を積み上げるという、ムチャクチャな計画が出されている。
 
(30)南アルプスの隆起量について、論文を都合よく解釈変更している(前回記事)。
 
(31)イヌワシ、クマタカへの対策として「徐々に工事の規模を大きくしてゆけば慣れる」という都合のいい対策が出されているそもそも「2027年開業」と言っている時点で、ありえない対策である。
 
(32)静岡・山梨の県境をまたいで調査をしているが、その結果は山梨県版準備書には未記載
 
(33)主要な「人と自然との触れ合いの場」として椹島・二軒小屋ロッジ(宿泊施設)を例に上げ、「登山・釣り客の利用がある」と書いているが、工事による釣り場への影響は評価対象外となっている
 

 
 
 

準備書意見というもの

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環境影響評価制度というものは、環境保全対策方法をまとめた評価書という文書を作成することを最終的な目標としています。
 
で、事業者は評価書を作るために、下調べとしていろいろと調査をおこないます。調査には、文献資料の調査、現地調査、数値予測など様々な手法が用いられます。
 
その調査結果をまとめ、環境保全対策の案をまとめた文書のことを準備書と言います。いわば、評価書の下書きです。
 
準備書に記載された案で環境保全が適切に行えるか、ということが、現在問われていることになります。
 
一般市民の人々も、この審査に関わる権利があり、事業者であるJR東海に意見を述べることができます。
 
 
ただ、勘違いしてはいけないのは、準備書というのはあくまで環境保全対策案を記した文書であり、それに対しての意見はあくまで環境保全という観点に限られます。これは環境影響評価法十八条で定められていることです。
 
計画の賛成・反対を問うものではない
地域振興や、経営面に対する意見も的外れ
というわけです。
 
 
一応JR東海の「意見受付フォーム」には事業そのものに対する意見も受け付けているようです。しかし法律で明らかな通り、事業者であるJR東海としては、計画そのものの是非や、経営面の懸念に対してはマトモに返事をしなくてもよいことになります
 
おそらくリニア計画に疑問を抱く人々は、
「ああ、JR東海の経営が心配だ。もし倒産したらどうしよう~!」なんてことはあんまり考えておらず、
 
「おいおい、こんなものができちゃって生活できるのかよ」とか、
「うちらの水源の沢はどーなるんだ?」
「あそこの沢には岩魚がいるけど、工事で水が涸れたらどうなるんだ?」
「こんな山奥をダンプカーが何百台も通れるわけないだろ!」
 
という、生活に密着した不安や自然環境破壊への疑問が根底にあるものだと思います。
 
その疑問をそのままJR東海にぶつければよいわけです。この準備書の内容で解消できるか、という視点で読め下せばなお良し。
 
 
さて、環境省のホームページに、環境影響評価準備書の見方、読み方、そして意見提出方法についてまとめられたページがあります。
 
「アセス助っ人 準備書を採点する」
 
これが意見を考えるうえで参考になります。ぜひこのページをご覧になって、意見を提出していただきたいと思います。
 
 
JR東海意見受け付けフォーム
 
締め切りは11月5日です。
 
 
私の提出した準備書(静岡県版)への意見概要
 
 
以下、
記載内容不足で、環境保全ができているかどうか判断することができないという点については赤く
事業内容の不透明さは青で、
記載内容の矛盾は緑
調査・評価・環境保全対策の不十分さは紫
 
で示します。
 
(1)環境影響評価法においては、準備書に「環境の保全のための措置」を記載し、その内容に対して意見を受け付けるよう義務付けられている。しかし本準備書においては「環境の保全のための措置」を検証するために不可欠な、当然開示されるべき情報が不足している南アルプス内における残土処分の検討、山梨・長野側を含め多数の斜坑や作業用トンネルの建設を予定しているなど、方法書段階では公衆等に対して明らかにされていなかった計画も初めて準備書にて出されている。残土処分方法、山梨リニア実験線における今後の走行実験結果の取り扱いなど、いまだ事業内容の大幅な変更につながる要素も多い。調査内容が不十分であると思われる項目も多岐にわたる。したがって本準備書は、準備書としての用件を満たしているとはいえない。
 
(2)今後の山梨実験線における走行実験結果の扱いがどう計画に反映されるのか不透明である。今後の計画変更による混乱を避けるためにも、今後の実験結果をアセスに反映させるべきである。
 
(3)大型車両の通行ルートとして、井川ダムから川根本町方面へ向かう道路が示されている。町の中心を10年以上にわたり大型車両が通行し、生活環境への影響は大きいと考えられるが、同町を対象にした環境影響評価は行われていない。これはおかしい。
 
(4)あらゆる面にわたり、環境配慮上の検討過程が不明である。これは環境影響評価制度で定められた義務の放棄である。
 
(5)斜坑や工事用道路トンネル、残土置き場等の規模や構造が不明。それなのに流量の予測ができている。これでは正確さに疑問が残る。
 
(6)騒音、振動、流量など数値計算に基づく予測結果全般に対し、単一の試算結果だけを表示し、評価の根拠としているが、こういう試算において単一の値がでるというのはありえない。上限、下限を示すべきである。
 
(7)粉じん、騒音、振動について、「工事施行ヤードと直近の登山ルートの拠点となる施設が約900m離れていることから、環境影響は極めて小さいと予測する」と結論付けている。きわめて主観的な判断であるうえ、具体的な数字が一切示されておらず、検証しようがない
 
(8)大気環境全項目について、現地調査地点、予測地点ともに少ない
 
(9)騒音の現地調査地点の選定がおかしい。どうやら滝か堰堤のそばで測定しているようである。こんなデータをもとにした現状との比較など無意味である。
 
(10)建設機械による騒音と、車両の通行に伴う騒音とを分けて評価している。重なるケースを想定していない。
 
(11)水環境について、調査・予測地点があまりにも少なく、流水や湧水がどのように分布しているかという基本的な情報についての整理もおこなわれていない。現地調査自体も年2回しか行われておらず、得られたデータがその地域の環境を表現できているかどうか疑わしい
 
(12)流量予測に用いられた予測式が妥当かどうかの検証が行われていない
 
(13)水環境予測の前提に用いられた地質断面図が不明瞭
 
(14)トンネル掘削により大井川源流域での流量の減少が予想されているが、有効な対策を出していない。
 
(15)大井川源流に残土置き場を造成するが、それにともなう水質汚染を予測していない
 
(16)「水資源」の項目では流量が減少すると予測しているのに、水質については減少しない前提で試算してい
 
(17)動植物の調査結果については確認種リストが掲げられているだけで、調査地点も、どこで何が見つかったのかという実態も、改変予定地との位置関係も全く分からない。これで影響がないと結論付けられても検証しようがない
 
(18)2014年6月に、川をつぶして仮設道路がつくられたが、そのあとにその場所で水生生物の調査をおこなっている。
 
(19)大量の大型車両が通行する林道東俣線沿いで生物調査を行ったとしているが、なぜか鳥類だけ調査をしていない
 
(20)動物への影響を回避するために作業用道路トンネルをつくるとしているが、この建設自体が大量の残土を発生させたり川を汚したりと、大きな負荷を生み出す。その妥当性について検討していない
 
(21)ロードキル(動物の交通事故死)対策を講じていない
 
(22)水生生物の調査範囲は改変予定地から600m以内と狭すぎる。トンネル工事にともなって流量減少が起きたら、その影響は地表の改変箇所とは無関係に広がるはずである
 
(23)このあたりの河川がどういう環境(地形、川底の状況、水深、植生など)にあるか、調査していない
 
(24)南アルプス国立公園では採取・損傷を禁じられている指定動植物というものがあり、長野の準備書ではそれが重要種に位置づけられているが、静岡県では対象外である。同じ南アルプス国立公園の周辺なのに、長野と静岡で植物の重要種の選定基準が大幅に異なる。奥大井県立自然公園内においても同様の制度があるが、準備書では対象外となっている(神奈川県では県立公園内指定種を重要種に選定)。現地調査で確認された植物のうち90種はこれに該当する。
 
(25)「地域を代表する植生」として、改変予定地とは関係のない山腹の植生を調査対象とし、影響は少ないと結論付けている。改変予定地の河川、谷底等の植生は評価対象外である
 
(26)外来植物の搬入対策がなされていない
 
(27)景観調査地点が4ヶ所しかない。そのうえ他県で用いられている予想図も出されていないのに「影響はない」と結論付けられている
 
(28)残土は90%は本事業内でリサイクルするといっているが、物理的にありえないし、域外に搬出すると、この準備書の記載内容を大幅に書き換えなければならなくなる
 
(29)山梨県境の標高2000m前後の山のてっぺんに残土を積み上げるという、ムチャクチャな計画が出されている。
 
(30)南アルプスの隆起量について、論文を都合よく解釈変更している(前回記事)。
 
(31)イヌワシ、クマタカへの対策として「徐々に工事の規模を大きくしてゆけば慣れる」という都合のいい対策が出されているそもそも「2027年開業」と言っている時点で、ありえない対策である。
 
(32)静岡・山梨の県境をまたいで調査をしているが、その結果は山梨県版準備書には未記載
 
(33)主要な「人と自然との触れ合いの場」として椹島・二軒小屋ロッジ(宿泊施設)を例に上げ、「登山・釣り客の利用がある」と書いているが、工事による釣り場への影響は評価対象外となっている
 
南アルプスの環境を維持できないのなら、計画全般の再検討を求める
 
 
 

南アルプス横断仰天計画 標高2000mの残土捨て場&毎日ダンプ1700台

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環境影響評価制度というものは、環境保全対策方法をまとめた評価書という文書を作成することを最終的な目標としています。
 
で、事業者は評価書を作るために、下調べとしていろいろと調査をおこないます。調査には、文献資料の調査、現地調査、数値予測など様々な手法が用いられます。
 
その調査結果をもとに環境保全対策の案をまとめた文書のことを準備書と言います。いわば、評価書の下書きです。
 
準備書に記載された案で環境保全が適切に行えるか、ということが、現在問われていることになります。
 
一般市民の人々も、この審査に関わる権利があり、事業者であるJR東海に意見を述べることができます。
 
 
ただ、勘違いしてはいけないのは、準備書というのはあくまで環境保全対策案を記した文書であり、それに対しての意見はあくまで環境保全という観点に限られます。これは環境影響評価法十八条で定められていることです。
 
計画の賛成・反対を問うものではない
地域振興や、経営面に対する意見も的外れ
というわけです。
 
 
もちろん、その点に関しても様々な問題があり、意見を述べたくもなります。それに一応JR東海の「意見受付フォーム」には事業そのものに対する意見も受け付けているようです。しかし法律で明らかな通り、事業者であるJR東海としては、計画そのものの是非や、経営面の懸念に対してはマトモに返事をしなくてもよいことになります
十中八九、「建設の意義/事業見通し/経営面につきましては、国土交通省中央新幹線小委員会において審議され、当社が建設主体として妥当であるという答申をいただいております」というオチになると思われます。
 
おそらくリニア計画に疑問を抱く人々は、
「ああ、JR東海の経営が心配だ。もし倒産したらどうしよう~!」なんてことはあんまり考えておらず、
 
「おいおい、こんなものができちゃって生活できるのかよ」とか、
「うちらの水源の沢はどーなるんだ?」
「あそこの沢には岩魚がいるけど、工事で水が涸れたらどうなるんだ?」
「こんな山奥をダンプカーが何百台も通れるわけないだろ!」
「南アルプスはどうなっちゃうの?」
 
という、生活に密着した不安や自然環境破壊への疑問が根底にあるものだと思います。
 
その疑問をそのままJR東海にぶつければよいわけです。この準備書の内容で解消できるか、という視点で読め下せばなお良し。
 
 
さて、環境省のホームページに、環境影響評価準備書の見方、読み方、そして意見提出方法についてまとめられたページがあります。
 
「アセス助っ人 準備書を採点する」
 
これが意見を考えるうえで参考になります。ぜひこのページをご覧になって、意見を提出していただきたいと思います。
 
 
JR東海意見受け付けフォーム
 
締め切りは11月5日です。
 

 
ところで、南アルプスを思いっきりメチャクチャにするという事業内容が、あまり世間に知られていないように思われます。新聞記事などでも、「水環境を懸念する声がある」「残土の取り扱いを危惧する声がある」と、ごく小さな扱い。
 
というわけで、簡単にびっくり仰天計画をまとめておきます。意見を提出される、されないにかかわらず、こんな計画が着々と進行していることを知っていただきたいと思います。
 
【南アルプス横断ルートの概要】
イメージ 1
山梨県富士川町最勝寺(標高280m)から丘陵地帯のトンネルに入る。1本目のトンネルは長さ約850~900m。三枝川で一瞬地上(乗車時間にして約6秒)に出て、2番目のごく短いトンネル(または切り通し)を通り、もう一度川を渡って3番目のトンネル(長さ約2600m)に入る。ちなみに、1本目のトンネル坑口となる丘陵と盆地との境目がA級と判断される市之瀬断層であり、糸魚川-静岡構造線系の活動領域。

富士川町の高下集落付近で地上に出て、350mほど(約2.5秒)地上を走行した後、4番目のトンネルに入る、これは長さ約8500mと長大であり、大柳川の上流域をごく薄い土被りでくぐりぬけ、早川町新倉にいたる。早川の橋梁は長さ350m程度(約2.5秒)、高さ約170mと、とてつもなく高くなる。
 
早川の橋梁を渡ると5番目のトンネルに入る。これが南アルプス本体を貫く長大トンネルとなる。この長大トンネルは長さが約24900mあり、早川流域から上り勾配(推定00.3パーミリ)で大井川流域をくぐり抜け、静岡・長野県境からは下り勾配(推定0.4パーミリ)となり、小河内沢の下をくぐり、長野県大鹿村日向休という地点で小渋川の谷底に出る。転付峠付近での土被り1000m前後、大井川上流部で450m前後、悪沢岳北方から小河内岳付近までが1000~1400mとなっている。非常口(斜坑)は4本だが、いずれも長さ3㎞以上はあると見られる。
 
小渋川の橋梁は長さ約250m、高さ70m程度である。これを渡る(1~2秒)と6番目のトンネルに入る。これは長さ15000mほどであり、途中で中央構造線を貫く。青木川、虻川といった川を、50m程度とごく薄い土被りでくぐりぬける。青木川を越えた付近から勾配は0.02パーミル程度になる。豊丘村・喬木村境の壬生沢川という川で地上に出る。500mほど地上を通り(約3.5秒)、7番目の短いトンネル(約100m)で河岸段丘を抜け、天竜川橋梁にいたる。
 
ちなみに最勝寺から天竜川の間、地上を走行するのは合わせて16~17秒程度。
 
イメージ 2
着色部分は、地表からの深さ300m未満で水枯れを引き起こしやすい部分
緑…300~200m黄…200~100m橙…100m未満
 
びっくり仰天内容
①長大トンネルが連続、計約52000m 
・富士川町畔沢-富士川町高下 約2600m
・富士川町高下-早川町新倉 約8500m
 大柳川をごく薄い土被りで貫く
・早川町新倉-(静岡市地下)-大鹿村釜沢 約24900m
 蛇行している大井川源流の西俣、小河内川を一直線に潜り抜ける。小河内沢の土被りは150m程度
・大鹿村釜沢-豊丘村・喬木村境の壬生沢川 約15000m
 青木川、虻川をごく浅い土被りで貫く
 
②残土発生量の詳細はいまだに非公開だけどとんでもない量
今のところ分かっているのは、早川町内に300万立方メートルと静岡市大井川源流に360万立方メートル。静岡市の分は大井川源流域で処分。つまり南アルプス山中に捨てる。
 
③標高2000mの亜高山帯が残土捨て場 
静岡県部分からの残土については、長さ2.5㎞のトンネルを白根南嶺の山腹に掘り、中にベルトコンベアーを敷設し、山梨県境の山のてっぺん(亜高山針葉樹林)に捨てるという、およそ非現実的でムチャクチャな自然破壊計画になっている。ちなみにこの処分場候補地は地すべり地帯であり、大崩壊を誘発する可能性もある。
 
④それでも捨てきれないので、大井川源流部の河原6ヶ所を埋め立てる。
この残土処分場建設に対する環境アセスメントは行っていない。
 
⑤トンネル本体より、作業用トンネルの合計距離のほうが長い 
南アルプス本体を貫くトンネルは約25㎞だが、作業用トンネルの合計はたぶんもっと長い。今のところ長さが判明している長野・静岡の作業用道路トンネルは3本合わせて7.5㎞。このほか少なくとも4本の斜坑と、本坑に並行する先進ボーリング坑(直径4~5m)が掘られる。ちなみに中部電力が畑薙ダム以北に掘った発電用水トンネルの総延長よりも、このボーリング坑のほうが大規模。全部合わせれば長さは40㎞くらいにはなると思われ、相当な残土を出すとともに、巨大水抜きパイプとなる。
 
⑥長野県大鹿村内での大型車両通行台数は、1日1700台以上
作業が1日8時間なら17秒に1台の割合。これが10年以上続く。村のメインストリートはダンプカーが占拠することになる。間違いなく生活に支障が出るが、JR東海としては「騒音は基準を下回りますので問題ありません」という姿勢。
 
⑦大井川源流と、大鹿村小河内川の流量は3割減少するという予想
予想をしているだけマシで、富士川町の大柳川、早川町の内河内川、豊丘村の虻川等は、予測対象にもなっていない。
 
⑧富士川町の大柳川、大鹿村の青木川、豊丘村の虻川は、川底から100m以内の薄さでトンネルが掘られる。確実に流量減少につながるが、減った分の水は別の流域に排出される。
 
⑨早川橋梁は前例のない規模  
とても険しい早川の峡谷に架けられる橋は、長さ350m、高さ170m程度とみられる。きわめて急峻なV字谷なので、おそらく山腹内をえぐって地下に作業用地が設けられる。
 
⑩ものすごい生態系の破壊
分かりやすいところで野鳥の繁殖地という視点で見てみる。準備書に、富士川町-豊丘村間における「改変の可能性のある範囲(つまり地上の工事予定地)」で確認された留鳥・夏鳥を拾い上げてみると、
イヌワシ(静岡、大鹿)
クマタカ(早川、静岡、大鹿、豊丘)
ノスリ(大鹿)、
サシバ(富士川)
ミゾゴイ(富士川、大鹿)
コチドリ(大鹿)
イカルチドリ(大鹿)
ブッポウソウ(大鹿、豊丘)
オオアカゲラ(早川、静岡、大鹿)
サンコウチョウ (富士川、大鹿、豊丘)
サンショウクイ(富士川、大鹿、豊丘)
ヤマセミ(静岡、大鹿)
アカショウビン(早川、静岡)
フクロウ(富士川、静岡、豊丘)
ヨタカ(静岡、大鹿)
アオバト(大鹿、豊丘)
オシドリ(静岡、大鹿)
ヤマドリ(静岡)
水鳥、小鳥、猛きん類と様々。生息環境も河原、里山、社寺林、深山と多様。さらにここを越冬地としている冬鳥も見つかっている。湿地・干潟の干拓を除くと、ひとつの事業でこれだけたくさんの重要野鳥が出てくるのは珍しいと思う。
 
⑪鉄道建設の環境アセスメントで、ふつうこんな植物名が出てくるか?
ゴゼンタチバナ、タカネフタバラン、クルマユリ、ツバメオモト、オサバグサ、メタカラコウ、マルバダケブキ、ヤマイワカガミ、ハリギリ、トモエシオガマ、イワオウギ、ナナカマド、ミネザクラ、ダイモンジソウ、オサバグサ、ルイヨウショウマ、ダケカンバ、オオシラビソ、コメツガ…
名前を聞いて姿をイメージできた方は植物通あるいはベテラン登山家。いずれも相当な山奥に行かねば見ることのできない植物ですが、こういう植物相の場所で工事を計画しているわけです。ちなみに見つかった植物756のうち、ざっと見て2~3割は亜高山帯の植物種。
 
 
なおJR東海は、準備書において、いずれも「環境に配慮した結果」と述べています。
 

やはり残土で南アルプス貫通はムリ!!

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昨日5日をもって、準備書への意見提出が締め切られました。
 
各方面から意見が出され、いくつかはウェブ上でも公開されています。
私も意見を出しましたが、その内容については、おいおい掲載していこうかと思います。
 
とにかくこの準備書、問題が非常に多い。別にリニアに批判的だからそういうまなざしで見ているというわけではなく、本当に雑なんです。問題がいっぱいありすぎて、どこから説明していこうか迷ってしまう・・・。
 
とりあえず、静岡県版準備書と、その記載内容から見えてきた事業計画そのものにかかわるような大問題について簡単に触れてみようかと思います。
 
南アルプスを貫く長大トンネル群を掘るにあたり、膨大な残土が発生します。全体でどの程度の量になるのか、いまだに明確でないのですが、南アルプス山中の早川に300万立方メートル、大井川源流に360万立方メートル、小渋川に300万立方メートルが掘り出されるという新聞報道がなされています。
 
この残土の行き先は、実はまだほとんど決まっていません。わずかに早川流域に1地点、大井川源流部に7地点の「発生土置き場」候補地が挙げられているだけです。
 
そのうち大井川源流部の候補地がムチャクチャ
 
イメージ 1
1つは、大井川最上流部左岸の、白根南嶺(北岳から南下する尾根)の山腹に長さ2900mのトンネルを掘り、その中にベルトコンベアーを設置し、稜線部の標高2000m付近にある緩傾斜地に捨てようというもの。
 
別の地点は、大規模な崩壊地からの土砂が分厚く堆積した、大井川の川岸に延びる緩傾斜地。

どちらも「わざわざ土石流の材料を積み上げるようなもの」と、静岡市での審議会において専門家から厳しい批判を受け、エコパーク登録関係の審議会からも撤回するよう意見が出されています。
 
前者に対する反対意見
 
後者に対する疑問の声
 
面積的には、この2地点で大井川源流部7地点の6~7割を占めます。
 
その処分場候補地が使えなくなると、360万立方メートルの残土のうち大半は行き場がなくなります。
 
すると-
 
大井川源流部には、他に残土を置くような平坦地は存在しません。河原を埋め立てるようなことをすれば、それはこれまで調査地に挙がっていなかった場所を改変することになるので、アセスのやり直しに直結します。
 
南アルプスから運び出すとどうなるのでしょう?
 
これを行うと、長野県大鹿村のように、1日1000台以上のダンプカーが通行しなければならなくなります。大井川沿いの井川集落における環境破壊はすさまじいものになりますし、大井川沿いの林道を長距離にわたり大改修する必要が出てきます。そしてやはり、これまで影響が及ばないとされていた地域においてアセスのやり直しが避けられなくなります。
 
 
アセスをやり直すと、再び1~2年間の調査が必要となります。すると、「2014年着工」というのはムリになってしまいます。
 
残土の扱いについては、全ての都県で決まっていないようですが、とりわけ南アルプスにおいては、それが解決しない限り、着工することは制度的にも物理的にも不可能なのです。
 
 

「残土は9割リサイクル」というまやかし

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大井川源流部の工事予定地 JR東海環境影響評価準備書より転載
 
準備書によれば、大井川源流部へは360万立方メートルの残土が掘り出されるらしい。そのうち9割をリサイクルするのが目標で、それでも余ってしまう残り1割は、7ヶ所の「発生土置き場候補地」に「適切に処理」するそうだ
 
でもこの計画は矛盾だらけなのである。
 
まず、静岡県内で予定されている工事は、トンネル本体、斜坑、ボーリング坑といった穴を掘ることだけである。リサイクルのしようがない。
 
それでもリサイクル方法として、10月8日に市内で開かれた説明会では「工事施工ヤードの造成に用います」なんて話があった。けれども、その施行ヤードの面積は1万平方メートル程度であり、宿舎予定地など4ヶ所を合わせても4万平方メートルである。
 
残土360万立方メートルの9割は324万立方メートルである。これを締め固めると250万立方メートル程度には体積が減少するらしい。
 
250万㎥÷4万㎡=62.5m
 
厚さ60mの盛土の上に作業用地?
 
ありえない。
 
どう考えても、工事現場の整地への盛土は、厚くてせいぜい5m程度である。すると230万立方メートル(締め固めなければ約300万立方メートル)は余ってしまう。
 
あとは林道整備くらいしか使用方法はないけれども、準備書の中で「林道の整備は最小限にとどめる」とし、拡幅はおこなわないと断言している。この準備書の記載内容は、その前提に基づいている。林道拡幅工事を行うのなら、アセスの対象範囲が何十倍にも拡大されてしまうから、当然と言えば当然だけれども。
 
とはいえ南アルプス山中から外部に運び出すことも不可能である。
 
山を越えて西側の長野県大鹿村の場合、300万立方メートルの残土を村外に搬出することもあり、村外に出る唯一の道に毎日1700台もの大型車両が通行することになるらしい。大井川に当てはめると、静岡の平地まで90㎞ものヘアピンカーブの道(東俣林道~県道60号井川湖御幸線)を、毎日1700台ものダンプカーが通行することになってしまう。道路容量からいって物理的に不可能だし、それに合わせて拡幅工事をするとしたら、アセスの全面的なやりなおしと数年がかりの工事が必要となる。何よりダンプ公害を静岡市民に受け入れさせねばならない。

するとやっぱりこの300万立方メートル+冒頭の1割(36万立方メートル)は、行き先がない。「9割リサイクルを目標としていましたが、やはり困難でした」ということになるのだろう。
 
そもそも9割をリサイクル可能だと考えていたのなら、残り36万立方メートルを処分するのに7ヶ所も処分場は不要なはずである。ハナからほぼ全量を南アルプス山中に捨てることを意図していたとしか考えられない。
 
その証拠
 
上の地図で赤く囲った発生土置き場のうち、北側の候補地付近を拡大してみる。
イメージ 2
国土地理院 地形図閲覧サービスうぉっちずより複製・加筆
 
地図左端の谷底(標高1500m前後)に斜坑口があり、ここから残土が掘り出される。掘り出された残土は2本の「工事用道路トンネル」というものを通って、標高2050m地点へと運ばれる。西側は長さ2500m、東側は2900mの長大トンネルである。このトンネルの北側、標高2000m地点が残土捨て場の候補地らしい。この候補地自体のムチャクチャさは次回に触れようと思う。
 
計5400mのトンネルを掘れば、それ自体から相当の残土が発生する。上記説明会では、ここにベルトコンベアーを敷設して残土を持ち上げると言っていたけれども、同時に大型車両も通行するし、地質条件も悪いために壁を厚くせねばならないから、その断面はかなり大きいはずである。掘削断面積は40平方メートルはあるだろう(参考:ベルトコンベア併設の九州新幹線筑紫トンネル斜坑の場合31平方メートル程度)。
 
掘削する容積は40㎡×5400m=216000立方メートル
 
これが砕かれて残土になると容積は1.8倍程度に膨れ上がることから38.8万立方メートルほどになる。これだけの残土を余計に増やしてでもその先に運ばねばならない量というものを踏まえると、最初からその何倍もの量をこの場に捨てるつもりだったとしか思えないのである。
 
ここに数十万立方メートルの残土を捨てるのに加え、大井川沿いにさらに6つの残土捨て場候補地があげられている。そのうち二軒小屋の南側にある燕沢合流点付近の候補地も、規模が大きそうである。これら候補地の容量を全部合わせれば、300万立方メートルぐらいにはなりそうである。
 
こういうことを考えると、やっぱり最初から大井川源流部に全量を捨てるつもりだったと思わざるをえないのである。

それにしても、なぜ「9割リサイクルを目指す」なんて意味不明なことを書いたのだろう?

リニア工事による大井川渇水の数字がナゾ

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残土問題の続きを書こうと思ってましたが、本日の静岡新聞夕刊一面に次のような記事が出ていました。
 
 
というわけで、ちょっとこの問題について簡単に触れようと思います。
 
この記事は、準備書で、大井川上流部の流量が2立方メートル/秒減少するいう予測がでていたことによるものです。
 
一部抜粋。
JR東海の予測結果は、リニア完成後に大井川上流部で流量が現況から毎秒約2トン減少するという内容。毎秒2トンは、上水道を7市約63万人が利用する大井川広域水道企業団の水利権量と同じだ。
これは準備書「水資源」のところにある表に基づきます。
 
でも本当に「2トン/秒」の減少なのか、準備書の記載内容だと分からないのですよ。
 
準備書の「水資源」の表を見ると、例えば田代ダム(二軒小屋の取水堰)の下流側で現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に減少すると予測されています。記事はこの記載に基づきます。下に貼り付けた図の青く囲った部分に当たります。
 
ところがこの表、よく見ると現況の流量のところに(解析)という文字が添えられています。
 
これは、流量を予測する計算の前提として用いた、理論上の値のことをさすんですね。トンネル工事終了後の流量も、当然この解析値が前提となっています。
 
それじゃあ、本当の流量はどうなんだ?と思って準備書を見回してみると、「水質」というところに実際に現地で測った値が載せられていました。
 
で、「水質」のところで、先ほどと同じ田代ダム下流側の流量実測値を見てみると、1.2~1.3㎥/秒という値になっています。
 
 
実際の流量は1.2~1.3㎥/秒程度なのに、計算の前提とした値は9㎥/秒?
 
詳細な説明は準備書を見ていただかないと難しいので省きますが、他の地点についても同様な傾向にあります。全体として、解析値は実測値の5~7倍となっています。
 
なんかおかしくありませんか?
 
この準備書を読むにあたっては、本当は
「現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に2立方メートル/秒の減少」
 
ではな
 
「2~3割の減少」
 
と解すべきであり
 
ということは
 
「現況1.3㎥/秒が1㎥/秒にまで減少」
 
することを意味しているんじゃ・・・?
 
 
イメージ 1
 
 
さらにわけの分からないことに、長野県版準備書では水資源の予測においても実測値を用いています。それなのになぜか大井川では解析値を用いているのです。これはいったいどういうことなのでしょう?
 
まさか、流量の激減を隠すつもりなのでは・・・?
 
 
いずれにせよ、大井川は「ダム銀座」と知られ、発電用水、農業用水、水道用水、工業用水として大量に取水されています。いっときは「河原砂漠」とまで言われ、長年の「水返せ」運動により、細々ではあるものの、ようやく流れを取り戻したという歴史があります。
 
それでも、これらの水は主に流域で使うという目的で取水されているものです。水が減ってもまだ納得がゆきます。それに対しトンネル工事による渇水はただダラダラ隣の山梨県側へ流れ出すだけであり、流域にとっては迷惑以外の何物でもありません。
 
膨大な残土、ひどく荒らされる谷、そして渇水…
 
リニアは静岡県に対して何をもたらすのでしょうか?
 
ぜひ沿線自治体の方々に伺いたいところです。そういえば、長野県飯田市も渇水を大変懸念されておりましたが、いかがなされたのでしょう?

流量予測が全くあてにならない

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残土問題の続きを書こうと思ってましたが、大井川の渇水問題に関連し、流量予測の妥当性について続きを書きます。
 
8日金曜日静岡新聞夕刊の記事です。
 
 
この記事は、準備書で、大井川上流部の流量が2立方メートル/秒減少するいう予測がでていたことに対し、大井川から取水している様々な団体から懸念の声がJR東海に提出されたというものです。
 
一部抜粋。
JR東海の予測結果は、リニア完成後に大井川上流部で流量が現況から毎秒約2トン減少するという内容。毎秒2トンは、上水道を7市約63万人が利用する大井川広域水道企業団の水利権量と同じだ。
 
毎秒約2トン減少というのは、準備書「水資源」のところにある表に基づきます。
 
でも本当に「2トン/秒」の減少なのか、準備書の記載内容だと分からないのですよ。
 
準備書の「水資源」の表(図1上段)を見ると、例えば田代ダム(二軒小屋の取水堰)の下流側で現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に減少すると予測されています。記事はこの記載に基づきます。下に貼り付けた図の青く囲った部分に当たります。
 
ところがこの表、よく見ると現況の流量のところに(解析)という文字が添えられています。
 
これは、流量を予測する計算の前提として用いた、理論上の値のことをさすんですね。トンネル工事終了後の流量も、当然この解析値が前提となっています。
 
それじゃあ、本当の流量はどうなんだ?と思って準備書を見回してみると、「水質」というところに実際に現地で測った値が載せられていました。
 
で、「水質」のところで、先ほどと同じ田代ダム下流側の流量実測値を見てみると、1.2~1.3㎥/秒という値になっています。
 
 
実際の流量は1.2~1.3㎥/秒程度なのに、計算の前提とした値は9。03㎥/秒?
 
詳細な説明は準備書を見ていただかないと難しいので省きますが、他の地点についても同様な傾向にあります。全体として、解析値は実測値の5~7倍となっています。
 
なんかおかしくありませんか?
 
この準備書を読むにあたっては、本当は
「現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に2㎥/秒ぶん減少する」
 
ではな「2~3割の減少」と解すべきであり、「現況1.3㎥/秒が1㎥/秒にまで減少」することを意味しているんじゃ・・・?
 
はたまた、解析値は実測値より8.7㎥/秒ほど多く見積もられているから、工事終了後の予測値7.14㎥/秒もその程度多く見積もっており、本当は0㎥/秒になることを意味しているのでは…?
 
 
図1 JR東海の準備書より、流量の実測現況値と現況解析値
 
イメージ 1
図2 水質調査・予測地点と水資源調査・予測地点
「解析値」は取水による流量減少を無視しているのかとも思いましたが、この予測地点上流側での取水による流量減少は、最大でも4.99㎥/秒(東京電力:田代ダム)であり、しかも取水時間は限られているため、8.7㎥/秒の差には結びつきません。
さらに奥の取水堰は、調査地点の上流側で本流に戻されるため、調査地点の流量には関係ない)
 
やっぱり、解析値が実測値を表現できていないと思わざるを得ません。このような前提条件での予測が、果たして妥当なものなのでしょうか?
 
 
さらにわけの分からないことに、長野県版準備書では水資源の予測においても実測値を用いています。それなのになぜか大井川では解析値を用いているのです。これはいったいどういうことなのでしょう?
 
まさか、流量の激減を隠すつもりなのでは・・・?
 
 
いずれにせよ、大井川は「ダム銀座」と知られ、発電用水、農業用水、水道用水、工業用水として大量に取水されています。いっときは「河原砂漠」とまで言われ、長年の「水返せ」運動により、細々ではあるものの、ようやく流れを取り戻したという歴史があります。
 
それでも、これらの水は主に流域で使うという目的で取水されているものです。水が減ってもまだ納得がゆきます。それに対しトンネル工事による渇水はただダラダラ隣の山梨県側へ流れ出すだけであり、流域にとっては迷惑以外の何物でもありません。
 
膨大な残土、ひどく荒らされる谷、そして渇水…
 
リニアは静岡県に対して何をもたらすのでしょうか?
 
一方、大井川から赤石山脈をはさんで西側の長野県大鹿村を流れる小河内川でも、流量予測をめぐって問題が発覚しました。準備書公表時点では「流量は3割減少する」とされていたものが、意見提出締め切りの5日になって突如「5割減少する」と変更されました。http://www.shinmai.co.jp/news/20131106/KT131105ATI090043000.php(信濃毎日新聞)
 
JR東海は「データの入力を誤った」とし、こっそりとホームページの準備書記載コーナーで訂正しただけ。川の水が半減すれば、生活用水にも生態系にも多大な影響が及びますが、アセスの根幹に関わることを公表すらしていない…、これでは信頼しろというほうがムリです。
 
 

そういえば、このタイミングで関西の自治体トップの方々から2027年大阪同時開業を実現してくれという要望が出されましたが、それはすなわち、「こんなムチャクチャな工事を、デタラメな環境影響評価でも構わないから着工せよ」ということなのでしょうか?

水環境予測・調査がデタラメ

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残土問題の続きを書こうと思ってましたが、大井川の渇水問題に関連し、流量調査・予測の妥当性について、さらに追記して書きます。
 
8日金曜日静岡新聞夕刊の記事です。
 
 
この記事は、準備書で、大井川上流部の流量が2立方メートル/秒減少するいう予測がでていたことに対し、大井川から取水している様々な団体から懸念の声がJR東海に提出されたというものです。
 
一部抜粋。
JR東海の予測結果は、リニア完成後に大井川上流部で流量が現況から毎秒約2トン減少するという内容。毎秒2トンは、上水道を7市約63万人が利用する大井川広域水道企業団の水利権量と同じだ。
 
毎秒約2トン減少というのは、準備書「水資源」のところにある表に基づきます。
 
でも本当に「2トン/秒」の減少なのか、準備書の記載内容だと分からないのですよ。
 
準備書の「水資源」の表(下の表・上段)を見ると、例えば田代ダム(二軒小屋の取水堰)の下流側で現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に減少すると予測されています。記事はこの記載に基づきます。下に貼り付けた図の青く囲った部分に当たります。
 
ところがこの表、よく見ると現況の流量のところに(解析)という文字が添えられています。
 
これは、流量を予測する計算の前提として用いた、理論上の値のことをさすんですね。トンネル工事終了後の流量も、当然この解析値が前提となっています。
 
それじゃあ、本当の流量はどうなんだ?と思って準備書を見回してみると、「水質」というところに実際に現地で測った値が載せられていました。
 
で、「水質」のところで、先ほどと同じ田代ダム下流側の流量実測値を見てみると、1.2~1.3㎥/秒という値になっています。
 
 
実際の流量は1.2~1.3㎥/秒程度なのに、計算の前提とした値は9。03㎥/秒?
 
詳細な説明は準備書を見ていただかないと難しいので省きますが、他の地点についても同様な傾向にあります。全体として、解析値は実測値の5~7倍となっています。
 
なんかおかしくありませんか?
 
この準備書を読むにあたっては、本当は
「現況9.03㎥/秒が7.14㎥/秒に2㎥/秒ぶん減少する」
 
ではな「2~3割の減少」と解すべきであり、「現況1.3㎥/秒が1㎥/秒にまで減少」することを意味しているんじゃ・・・?
 
はたまた、解析値は実測値より8.7㎥/秒ほど多く見積もられているから、工事終了後の予測値7.14㎥/秒もその程度多く見積もっており、本当は0㎥/秒になることを意味しているのでは…?
 
 
イメージ 1
表 JR東海の準備書より、流量の実測現況値と現況解析値
 
図 水質調査・予測地点と水資源調査・予測地点
 
「解析値」は取水による流量減少を無視しているのかとも思いましたが、この予測地点上流側での取水による流量減少は、最大でも4.99㎥/秒(東京電力:田代ダム)であり、しかも取水時間は限られているため、8.7㎥/秒の差には結びつきません。
さらに奥の取水堰は、調査地点の上流側で本流に戻されるため、調査地点の流量には関係ない)
 
やっぱり、解析値が実測値を表現できていないと思わざるを得ません。このような前提条件での予測が、果たして妥当なものなのでしょうか?
 
 
さらにわけの分からないことに、長野県版準備書では水資源の予測においても実測値を用いています。それなのになぜか大井川では解析値を用いているのです。これはいったいどういうことなのでしょう?
 
まさか、流量の激減を隠すつもりなのでは・・・?
 
この表からは、別な角度からも、現地調査の信頼性を疑うようなことが垣間見えます。
 
大井川のように太平洋側を流れる河川の流量は、一般的に梅雨時や台風シーズンに多く、冬場は少なくなります。流量の多い時期を豊水期、少ない時期を低水期といいます。
 
ところが、表下段の「地点番号03 西俣川」という地点(緑の下線部)では、冬場の低水期のほうが、流量が多いという妙な調査結果が示されています。
 
JR東海の調査では、夏場は流量が大きく、冬場は大きいという前提に基づき、夏・冬の年2回しか調査をおこなっていません。太平洋側の川なら、確かにそうした傾向にあるのは当然ですが、調査した日が、その川のその時期の状況を適切に表しているという保証はどこにもありません。この2回の調査をもって、夏場の調査結果を豊水期の代表値、冬場の調査結果を低水期の代表値と見なしてしまうから、こんな妙な結果になったのです。
 
なお、この逆転については、夏場は水力発電をフルに稼動させるため、取水の影響が強く出ていたためだと思われます。
 
流量逆転の理由は何であれ、これでは大井川上流域の流量変動を把握しているとは言えません。最低でも1年間の継続的調査は欠かせないはずです
 
より規模の小さい道路建設のアセスでも、流量の年間測定は常識的に行われています。9兆円の事業計画に比してムチャクチャ経費がかかるわけでもなく、自記水位計を据えておくだけで十分なはずです。ウソだとお思いでしたら、こちらのアセス評価書をご覧ください。長さ4km弱のトンネル工事ですが、きちんと行われています。なぜ、JR東海はそんな最低限のことも省くのでしょうか? 
 
 
 
大井川は「ダム銀座」と知られ、発電用水、農業用水、水道用水、工業用水として大量に取水されています。いっときは「河原砂漠」とまで言われ、長年の「水返せ」運動により、細々ではあるものの、ようやく流れを取り戻したという歴史があります。
 
それでも、これらの水は主に流域で使うという目的で取水されているものです。水が減ってもまだ納得がゆきます。それに対しトンネル工事による渇水はただダラダラ隣の山梨県側へ流れ出すだけであり、流域にとっては迷惑以外の何物でもありません。
 
膨大な残土、ひどく荒らされる谷、そして渇水…
 
リニアは静岡県に対して何をもたらすのでしょうか?
 
一方、大井川から赤石山脈をはさんで西側の長野県大鹿村を流れる小河内川でも、流量予測をめぐって問題が発覚しました。準備書公表時点では「流量は3割減少する」とされていたものが、意見提出締め切りの5日になって突如「5割減少する」と変更されました。http://www.shinmai.co.jp/news/20131106/KT131105ATI090043000.php(信濃毎日新聞)
 
JR東海は「データの入力を誤った」とし、こっそりとホームページの準備書記載コーナーで訂正しただけ。川の水が半減すれば、生活用水にも生態系にも多大な影響が及びますが、アセスの根幹に関わることを公表すらしていない…、これでは信頼しろというほうがムリです。
 
 

そういえば、このタイミングで関西の自治体トップの方々から2027年大阪同時開業を実現してくれという要望が出されましたが、それはすなわち、「こんなムチャクチャな工事を、デタラメな環境影響評価でも構わないから着工せよ」ということなのでしょうか?
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