ゆうべNHKを見ていたら、
「13年後の開業を目指すリニアの試乗会!」
っていう感じのニュースがありました。社長さんのインタビューつきで。
はいはい、景気のいい話は報道するけれども、困ったことはま~~ったく報道しないんだな…。
一言ぐらい残土の話をしてくれたっていいのに。
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JR東海は、静岡県の大井川源流に吐き出す残土360万立方メートルは、すべて南アルプス山中に捨てる計画としています。
残土発生量の概要
静岡県の環境影響評価審議会資料より転載
準備書より複製・加筆
そのために7ヶ所の残土捨て場候補地をあげましたが、そのうち1ヶ所は標高2000mの稜線上というとんでもない場所です。
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
この場所は、工事用トンネルを掘って、余計な残土を76万立方メートルも増やしながら捨てにいくつもりですので、相当な量を捨てるつもりであると思われます。地形図上で計測してみると、厚さ50mで埋め立てれば100万立方メートル程度、谷を限界ギリギリまで埋め立てると300万立方メートルくらい入りそうです。
おそらく残土捨て場の本命として出したのでしょうが、いくらなんでも場所が悪すぎます。自重による崩壊の危険性、地すべり・山崩れを誘発する危険性、高標高による緑化困難、絶滅危惧種が多数存在…静岡市より撤回を求められていますし、県知事意見でもこの場所は考え直すよう求められる見通しとなっています。
市としても、準備書意見で回避を求めた以上は許可を出せるはずもなく、出したとしても森林法の林地開発許可に反する可能性(土砂災害を誘発するおそれのある森林伐採は許可できないきまりになっている)もあり、ここはまず使えません。
ここを断念するケースを考えてみます。
その場合、工事用道路トンネルと斜坑1本は不要となるので、残土は260万㎥程度に減ります。とはいえ東京ドーム2杯分です。これを残り5ヶ所に分配することになりますが、うち3ヶ所は既に発電所建設時の残土が積み上げてあるため、たいして受け入れられません。小さいほうから4ヶ所合計で40万立方メートルというところでしょう。残りは220万立方メートル。
標高2000m残土捨て場候補地の次に受け入れ容積の大きいのは、千枚岳直下の大井川沿いの平坦地です。
準備書より複製
この場所は、地図上で計測すれば、南北約950m、幅100mくらいの敷地を確保することが能です。ここに残土を積み上げることを考えます。
盛土の勾配は一般的に30°まで、高さは20mまでとされています。
この条件のもとで計算すると、残土の受け入れ容積は最大120万立方メートルとなります。
これでは半分ぐらいしか入りません。
仮に、周囲に垂直な壁を築くとすれば、計算上はもっとたくさん積み上げることが可能です。単純に2,200,000立方メートルを95,000㎡で割れば、約23mの高さとなります。電信柱の2倍程度です。
高さ23m、周囲2100mの壁を南アルプス山中につくる?
こりゃあ、ありえないでしょう。
そもそもこの場所は大規模崩壊地の直下。
砂防ダムを築いて土砂の流出を防いでいる場所なのに、そんなところに残土を捨てるという発想自体が理解不可能です。それに、そんな場所で河川空間を大規模に改変することは、河川法で基本的に禁じられています。
よって、ここに大量の残土を捨てられる見通しはなく、まだまだ大量の残土の行方が定まっていないことになります。
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残土の問題は南アルプスだけじゃなく、全線にわたってるんですね。
残土の問題は南アルプスだけじゃなく、全線にわたってるんですね。
たとえば神奈川県。
神奈川県では1140万立方メートルが発生するとされていますが、具体的な処分方法を示したのは、車両基地造成に回すとした360万立方メートルだけとなっています。残り780万立方メートルについては行方が定まっていません。
当然、これら全てが他の公共事業等に転用できるはずがありません。リニア以外にも大小の建設工事で残土は大量に出てくるからです。
審議会でも真っ先に疑問視され、再三にわたって「県内における受け入れ容量はどのくらいか調べているのか」とたずねられ、3回目(!)にしてようやくJR東海が提出した資料によると、
公共事業用 277万立方メートル
民間業者 181万立方メートル
合計 458万立方メートル
民間業者 181万立方メートル
合計 458万立方メートル
つまり、神奈川県内にある全ての残土処分場をJR東海1社で埋め尽くしても、まだ320万立方メートルもの量があふれてしまうのです。しかもこんなことをしたら、リニア以外の建設工事で発生した残土の受け入れ先がなくなってしまいます。
したがって海岸埋立、県外搬出などの手段をとらなくては残土処分先を確保することができず、物理的に工事をおこなうことができません。
そしてどちらにせよ、そのためには新たな環境影響評価をやり直さなければなりません。特に海面埋立の場合は公有水面埋立法という法律に基づく複雑な手続と漁業補償なども必要になってきます。
また、山梨県では早川町に掘り出される330万立方メートルの残土を処分するために、数十万立方メートルの残土を余計に生み出してトンネルをほって町外に搬出し、道路整備や駐車場造成をおこなうという案が出てきました。
これはJR東海の案ではなく、何が何でも着工させたい山梨県が出したものです。
こんなことは環境影響評価の過程では全く出てこなかったので、もし実行するとなると、環境影響評価手続を最初からやり直さなければなりません。これが終了するまでには再び2年ほどかかります。
岐阜県の審議会議事録を見てみると、やはり同様な問題が生じているようです。
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リニアの工事では、品川-名古屋で5680万立方メートルもの残土が発生します。計算上、東京ドーム42~43杯に相当します。現時点で再利用の見込みを出しているのは、前述の神奈川のほかには、山梨県での変電所200万立方米程度?と長野での道路工事10万立法米だけです。まだ5000万立方メートルもの処分方法が全く決まっていません。
ちょっと試算。
50,000,000㎥÷10m=5,000,000㎡
5,000,000㎡の平方根は2236m。
つまり、もしもこの残土を平均10mの高さ(電信柱より少し低め)にならすと、500ヘクタール、2236m四方の土地が必要となってしまいます。7都県合わせて必要な処分場の合計面積はこのぐらいになるのでしょう。
静岡空港より広いなあ…。実際には、それぞれの残土捨て場ごとに沈砂池、遊水地等を設ける必要があるため、もっと広い面積が必要となります。
リニアの路線の、品川-名古屋間における新設の地上区間は31.4㎞です。用地幅は22mとしているので、路線そのものの敷地面積は約690,800㎡となります。斜坑・縦坑や駅の用地を考えても、100万~200万㎡といったところでしょう。
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たぶん、残土処分に必要な面積のほうが大きい!
重複しますが、現段階では、残土処分場については候補地の目途すらたっていないことから、全く環境影響評価が行われていません。言い換えれば、リニア計画の全事業地の半分程度は環境影響評価を行っていないのです。
これじゃあ物理的にも法的にも着工できないのでは…?
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ここまで書いてきて疑問に感じたのですが…
着工するつもりなら、全ての残土処分場について、それぞれの土地ごとに環境影響評価を行い、購入し、ダンプカーで残土を遠路はるばる運び入れ、重機でならし、緑化しなければなりません。
アセス費用、環境対策費、土地代、運送費、工事費…
いくらかかるんだろう?
処分方法が全く決まっていないのなら、その費用を算出することはできていないと考えるのが自然ですが…
JR東海が建設指示を受ける前に公表した工事費用の表には、残土処分のことなどなど一言も書いてありません。
残土処分だけで、空港を1つ造るような大規模な土地造成になるのですから1000~2000億円程度かかると思います(静岡空港の建設費は2500億円)。山梨の実験線延伸工事では100万立方メートル程度を処分するのに40億円(税金で)かかったとのことですので、やっぱり2000億円くらいかかるのかな?
これって5兆1000億円の予想建設費に含まれているのでしょうか?