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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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準備書への知事意見が出そろう これでどうやって着工するの?

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25日までに、リニア中央新幹線沿線7都県の知事意見が事業者であるJR東海に提出されました。それを受けて思ったことを改めて書き直します。
 
新聞報道では「厳しい意見相次ぐ」といったニュアンスで書いているところが多いようです。私も前回そう書きましたが…。ざっと目を通しますと、たくさんの注文がついているものの、決して「厳しい意見」が並んだわけではありません。これでも弱いといえます。
 
今回、JR東海のおこなったアセス結果において、あまりにも内容が不足しているため、それを指摘すると膨大な量になり、あたかも「厳しい意見」のように見えたといえるでしょう。
 
「厳しい意見」というのは例えば、地形の改変が、ある動物の生態に与える影響を予測するために、改変場所におけるその動物の利用パターンや年齢や個体数など各種データを用いて、生態学的・統計学的に意味のある調査を行わせるとか、そういった難しい調査を要求するようなことをいいます。
 
ちなみにダム工事や海岸埋め立て等では、これくらい普通に要求されるようです。沖縄の辺野古埋め立て計画におけるジュゴンの扱い(その調査結果が妥当という意味ではないので…念のため)とか、ダム建設の際に、イヌワシの営巣・繁殖状況を詳細な調査結果に基づいて影響を予測させるとか。
 
本件の知事意見を見渡した限りでは、こういう本格的な再調査を要求しているわけではないようです。特に希少性の高いはずのイヌワシ・クマタカ・ミゾゴイとかも、いたってフツーな扱いに終始しています。
 
南アルプス周辺では、これら3種の繁殖が確認されています。
 
イヌワシの繁殖が1か所でも確認されたら、国交省や電源開発とかがゴリ押しするようなダム工事でも、計画そのものがひっくり返ってしまうことも多いのですが…。
 
 
 
特に神奈川・岐阜・愛知は弱い意見という印象を受けました。
 
例えば河川流量や井戸の現地調査が不足している問題について、東京、山梨では「調査を行って評価書に記載すること」としていますが、岐阜や愛知では「着工後に事後調査を行うこと」としています。後者の場合、着工後に問題が起きてもOKというニュアンスです。
 
この温度差は何なのだろう?

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
さて、各県の知事意見は大きく2種類に分けられます。
 
《知事意見の意味その1》
環境影響評価の最低基準を満たせていないから、せめてそれぐらいはやってくれ
環境影響評価をおこなうための「技術的指針等を定める主務省令」というマニュアルがあります。http://www.env.go.jp/policy/assess/2-2law/5.html
 
1997年の環境影響評価法施行後、環境省が環境影響評価を行うための統一基準をつくり、それに合わせて各事業種類ごと、主務省が手直ししてつくったマニュアルです。新幹線を含む鉄道建設事業の技術的指針は旧運輸省が作り、最近、環境影響評価法の改正に伴って国土交通省が手直ししました。
 
「これに従って環境影響評価を行えば形式的には問題ない」というマニュアルであり、これを満たしたうえで、どれほど環境に配慮できるのかが問われるところです。
 
JR東海の作成した準備書ならびに環境影響評価の進め方は、この技術的指針を満たせていません
●川の下を潜り抜けるのに、トンネル上方の河川環境を調査していなかった。
●騒音発生源と調査対象地点との位置関係を示していない。
●環境保全措置や事業計画における複数案の検討過程を記載していない。
●具体的な環境保全措置を示していない
●具体的根拠もなく「影響は小さい」としている
などなど…
 
というわけで「最低基準(マニュアル)すら満たしていないからせめてそれは満たせ」というのが知事意見の大部分を占めています。山梨県知事意見では、ご丁寧に「主務省令のここに該当」なんて注記がつけられています
 
要するに不足している調査項目や不十分な評価結果があまりにも多くの項目にわたるため、「厳しい意見」のように見えるんですね。
 
《知事意見の意味その2》
建設発生土の取り扱いが不明だから必要なアセスの半分もできていない
 
このブログで何十回も書いてきたことです。リニア中央新幹線計画においては、5680万㎥もの大量のズリ(岩のカケラ)が生じます。このズリは建設資材として使うことが可能なので、リサイクルの制度上では「建設発生土」とよばれます。リニアの場合、地上区間はすべて高架橋なので、当該事業内で再利用することはできず、他の事業に回すことになります。それでも使い切れなかった分が残土として捨てられます。
 
他の工事に転用するにせよ、どこかに捨てるにせよ、いずれにせよ運搬には大量のダンプカーが必要であり、その走行によって沿道では騒音・振動といった影響が発生します。そしてどこかの土地(海かもしれない)を埋め立てなければなりません。その埋め立て先においては、直接的に生態系は壊滅するし、重機の稼働による騒音・振動も生じます。完成後も土砂や混濁物質の流出による水の濁り、水質汚染といった懸念もありますし、もしかしたら残土中に有害物質が含まれるかもしれません。
 
つまり、建設発生土をどのように処分するにせよ、その処分の過程における環境影響評価が欠かせないのです
 
ことに本事業においては、列車の走行する軌道や駅舎の建設工事・存在だけでなく、建設発生土の処分場の建設・存在が、環境に大きな影響を与えます。面積的には地上設備の半分、あるいはそれ以上を占めるかもしれません。というわけで、建設発生土の取り扱いについても環境影響評価を行わねば意味がありません。
 
ところがJR東海は、その建設発生土の取り扱いについて、準備書においても具体的な処分方法をほとんど示していません。環境影響評価をおこなう以前の問題です。
 
これでは沿線の自治体がどれほど事業を進めたくても、物理的・法的に進めさせることができません。事業を実現させるためにもアセスをやり直す必要があるという判断が働いたのかもしれません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
《JR東海は、各意見を反映させた環境影響評価書を国に提出。その後、工事実施計画を今夏までに認可申請し、今秋にも着工することを目指している。ただ、国の認可時期や沿線自治体との調整にも左右され、着工がずれ込む可能性もある。》

この文章、神奈川新聞から転用したものですが、静岡新聞でも使われていたし、25日の朝日新聞朝刊でも見かけました。
 
共同通信か何かが作成した文章を使いまわしているのかな?。

『着工がずれ込む可能性もある』のではなく、ずれこまなければ工事はできません。
前回も書きましたが、この後のスケジュールをざっと説明しますと…。
 
①JR東海は知事意見やこれまで寄せられた公衆等からの意見を基に準備書の記載内容を修正して評価書を作成し、知事意見を添えて国土交通省に提出する。
 
②国土交通省は、受け取った評価書と知事意見とを環境省に送付する。環境省は、評価書が知事意見や公衆等からの意見を反映しているかを、環境の保全の見地から審査する。
 
③審査結果は環境大臣意見として国土交通省に提出される。
 
④国土交通省は環境大臣意見を受け取ってから45日以内に、同意見書を勘案して環境の保全の見地からの意見をJR東海に述べる(国土交通大臣意見)。
 
⑤JR東海は国土交通大臣意見を受けて評価書を補正し、最終的なアセス結果として国土交通大臣および関係知事・市町村長に提出する(②から⑤までは90日以内)。
 
⑥国土交通省は、事業認可の際に、設計図、事業計画の書類等とともに、補正版評価書を環境面からの審査基準として用いる。
 
⑦事業認可。土地買収等はここから。
結構、先はまだまだ長いのです。

南アルプスを抱える山梨・静岡・長野の知事意見では、さまざまな項目について再調査や再検討をおこない、評価書に記載するよう要求しています(二度手間になるのに先にやっておかなかったJR東海の姿勢が不可解)。JR東海がしんしに受け止めるのなら、これに基づいて調査・再検討を行い、準備書の内容を書き換えなければなりません。
 
景観への影響、列車走行による騒音などの再調査・評価、温室効果ガス排出量といった項目は、室内作業でデータを処理すれば可能なので、それほど時間はかかりません。準備書審議の最中から行っていることも可能です。
 
問題となるのはこういった簡易な項目ではなく、現地調査が不可欠となる項目です。
◎河川や湧水の流量、井戸の水位調査⇒最低でも1年間必要
◎生物相の調査⇒最低でも1年間必要
◎道路の騒音・振動の調査⇒季節によって交通量の異なる場所では、騒音が最大となる季節での調査が必要

代表的なところではこんな感じです。
 
また、南アルプス一帯では、残土の発生量や車両の通行台数を減らすために、静岡・長野とも斜坑の数について再検討を要求していますし、静岡では残土処分計画の全面的再検討も要求されました。斜坑の数を減らしたり残土処分方法を見直せば、先に作成した準備書の記載内容はもとより、全体の事業見通しそのものも大幅に変更しなくてはなりません。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
以上のように、各都県の知事意見に素直に従うと、最低でも2年は着工できなくなります。10月に着工するならば、こうした意見はすべて無視して、先般の準備書内容をほぼ無修正のまま評価書として国に提出しなければなりません。
 
少し前回の繰り返しになりますが、知事意見を無視した評価書が提出された以上は環境省としても「問題がある」と判断しなければなりません。
 
法律の規定では、環境大臣意見はそのまま国土交通大臣意見となりJR東海に提出されます。JR東海はこれをもとに再度、評価書を検討し、最終的に許認可権者である国土交通大臣に修正版評価書として提出します(⑤)。10月着工を目指すのであれば、ここでの再検討もほぼ無視しなければなりません。
 
その場合、知事意見・環境大臣意見ともに無視した評価書がそのまま国土交通大臣に提出されることとなります。知事意見・環境大臣意見で「問題がある」とされた評価書に基づいて、許認可権者である国土交通大臣はそのまま事業認可できるのでしょうか?
 
「問題がある」という環境大臣意見を無視して国土交通大臣が事業認可したら、仮に裁判沙汰になった場合、「許認可権者の権利濫用」として環境影響評価法上の違法性を問われる可能性があるそうです(環境法関連の多数の文献で指摘されている)。私の思い込みではなく、裁判所がこうした見解を示しています(新石垣空港建設事業をめぐる裁判判決文より)。
 
もっとも、そこまでおかしなアセスの事例はこれまでほとんどなかったようですね。アセスにおける騒音基準のあり方等から裁判に発展し、一審判決で事業認可を取り消されたという事例(圏央道あきる野IC問題など)はありますが、全面的に問題のあることが自明な評価書に基づく事業認可について、裁判の争点とした例はないようです。
 
つまり、問題のある準備書・評価書であった場合は、どうにかクリアできるように準備書段階・評価書段階で事業内容を修正してきたわけなんですね。それが環境影響評価というものだからです。とはいえ、これが容易にできないのが超電導リニアの特性であり宿命なのですが。⇒前回の記事 

というわけで、いくら国交省がJR東海とベタベタくっついていたとしても、さすがにこんなリスクのあることはしないでしょう。
 
というわけで、仮にJR東海が強引に知事意見を無視しても、許認可の前段階で事業内容の修正を要求される可能性が高いと思われます。すなわち、アセスやり直しは避けられない…。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
また、残土処分場については、静岡を除いて「事後調査」すなわち場所や処分方法を決めるのは評価書確定後でも構わないというニュアンスになっています。
 
とはいえ全ての都県において、場所・方法が決まり次第、環境影響評価手続きを一から行うことを要求しています。
 
その際、きちんと環境影響評価手続きを行えば、最低でも(今から)3年はかかります。残土捨て場となるような里山や谷津田のような場所は、多かれ少なかれ、オオタカ、サシバ、ハイタカ、ツミ、クマタカといった猛禽類の行動域にかかっている可能性が高く、その調査に時間がかかるのです。環境省作成のマニュアルにより、猛禽類調査は12月から2シーズンにわたって行わなければならなりません。
 
繰り返しますが、リニアの建設工事は9割がたトンネル工事なので、仮に本業である鉄道建設の事業認可が先になされても、残土処分方法・先が決まらない限りは物理的・法的に工事を行えません。すなわち、残土処分地が決定し、本格的に工事が行われるまでにはまだ数年はかかるはずです
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
要点がまとまりませんが、兎にも角にも、このまま着工することは不可能です。事業計画全般にわたる見直しが避けられません。
 
どうするつもりなのだろう?

それから、なんでこんな大事になってるのにテレビじゃ報
道されないんだろう?

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