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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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知事意見を無視した評価書を作成したらどうなる?

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先日、こんな記事がありました。
 
JR東海は27日、2014年度の設備投資計画を発表した。連結ベースでの総投資額は3260億円。このうちリニア中央新幹線の建設関係費として230億円を初めて計上、14年秋の着工を目指す。 
これは、環境影響評価準備書への知事意見の出そろった25日のすぐ後のニュースです。
 
それからこちらはJR東海のHPにあった
《【社長会見】平成26年度重点施策と関連設備投資について》より
超電導リニアによる中央新幹線計画については、環境影響評価書の公告、工事実施計画の認可申請を行うとともに、工事計画を着実に進めます。

だそうです。
 
やる気満々ですが、「あの準備書」で、ホントに着工が認められるのでしょうか?
 
何度も書きましたが、環境影響評価の手続きに従い、JR東海は知事意見をもとに準備書記載内容を修正し、評価書を作成して国土交通省に提出します。受理した国土交通省は複製を環境省に送付し、そこで審査が行われます。
 
(余談ですが、国土交通省経由という回りくどいことをしているのは、許認可権者である国交省が審査をするという、行政手続き上の建前のためだそうです。)
環境省は、審議において、事業者が知事意見に誠実に答えているかを検証することになっています。
 
ちょっと、知事意見について具体的に見てみましょう。わかりやすいところで山梨県知事意見を引用します。
 
イメージ 1
 
赤い線のところで、トンネル真上の温泉について湧出量を把握し、評価書に記載するよう求めています。同県富士川町において、十谷温泉の直下をリニアの長大トンネルが貫く計画になっていることから影響が懸念され、調べろということです。

温泉の湧出量や泉質を把握するためには、最低でも1年間は必要です。静岡県立中央図書館に、伊豆の下田市で計画中の伊豆縦貫自動車道の環境影響評価準備書・評価書が収められていますが、ここではトンネル工事にともなう温泉の状況把握のために、10か所の泉源について1年以上の継続調査を行っています。すなわち、これぐらいはやらなきゃマズいはずです。
 
それから青い線のところでは、トンネルがくぐりぬける2つの川について、現地調査を行うよう求めています。このうち大柳川というのは、以前このブログでも触れたように、「トンネルが川底から100m程度と非常に小さな土被りでくぐり抜け、河川流量に大きな影響が出そうなのになぜか調査をしていない」と指摘したところです。案の定、再調査が求められることになりました。
 
 
イメージ 2
 
河川の流量調査は、工事が与える影響予測・評価の基礎として、その川の現状を知るために行われます。データのない川で現状を知るためには、最低でも1年間の継続調査を行い、豊水位、平水位、低水位、渇水位を把握する必要があります。
 
知事意見に従って評価書を作成するのなら、ここの項目だけでも「調査1年間+データ処理数か月」ぐらいの期間が必要となるはずです。したがって評価書の作成までに1年半程度かかり、それから国の審議を受けるので、着工は2015年後半以降となります。

ところがJR東海の意向通りに「今年秋までに着工」するのなら、1年半どころか一月程度で評価書を作成しなければ間に合いません。知事意見に沿って準備書の記載内容を修正することは時間的に不可能になります。したがって追加調査はおこなわず、その理由を何かごにょごにょ書いて評価書とし、環境省の審査を受けるつもりなのでしょう。
 
その場合、知事意見で、「調査地点が不足しているから評価書までに追加調査しろ」と書かれ、それを実行していない評価書が送られてくるのですから、環境省としても「問題がある」と判断し、知事意見を繰り返さねばなりません。
 
環境省意見で「問題がある」とした評価書で国交省が事業認可をすると、環境影響評価法上の違法性を問われる可能性があるのは前回・前々回指摘した通りです。
 
過去の裁判において、以下のような見解が出されているそうです。
 
北村喜宣(2013) 「環境法」 弘文堂 所収
新石垣空港建設許可の取り消しをめぐる判例より
許認可権者は、アセスメント手続きにおいて作成された環境情報を踏まえて環境配慮適合性を判断するが、それが違法となるのは、「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものが明らかである」場合という。そして、事実の基礎を欠く場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定したことをあげる。重大な手続き上の瑕疵は、処分の違法につながりうる。
 
赤字部分は判例文そのまま(東京地方裁判所 平成23年6月9日)
ちなみに、この新石垣空港建設のアセスが違法になったわけではないらしい。

少なくとも山梨県知事意見書では、水環境について追加調査を求めており、そのほかにも多岐にわたる再調査・追加調査を求めており、それらの大部分を無視した評価書で事業認可したら、『手続き上の瑕疵のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定』に該当し、違法性が問われてしまう(あるいは問うことができる)のではないのでしょうか
 
過去に裁判所がこのような見解を示した以上、国土交通省としても、そうそうデタラメなことはできないでしょう。ちなみに空港建設の許認可も国土交通省(新石垣空港がもめていたころは運輸省だったのかな?)。こういう過去はよくご存じのはず。
 
こういう事態は容易に想定できるのに今年秋の着工を目指すのであれば、環境省の審査や過去の判例をスルーできるような、よほど説得力のある「知事意見を無視できる理由」があるとでもいうのでしょうか?
 
皆目、検討がつきません。

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