なんでもアメリカに超電導リニア技術を無償提供するそうです。
今のところ産経新聞しか伝えていないようなので、どこまで信頼できるのか、よくわからりませんが…。
私kabochadaisukiは、こういう技術輸出に関することは全くの門外漢なのだけども、JR東海という民間企業の技術を、政府が密室会議でポーンとあげちゃっていいのかな? という疑問を抱きました。
中央新幹線計画においては、一応、JR東海は民間企業だし、国交省や政治家も「民間事業なので」という建前により、あまり指導するようなことはしていません。
今回はこのような話らしい(新聞記事より引用)
技術提供の場合、「ライセンス料」を受け取るのが一般的だが、短期的な資金回収よりも、リニア新幹線を米に確実に売り込むことを優先する。無償提供であっても、車両や部品の量産効果に伴うコスト削減、世界的な知名度の高まりによる販路開拓で、十分に利益を得られると見込んでいる。
技術提供の場合、「ライセンス料」を受け取るのが一般的だが、短期的な資金回収よりも、リニア新幹線を米に確実に売り込むことを優先する。無償提供であっても、車両や部品の量産効果に伴うコスト削減、世界的な知名度の高まりによる販路開拓で、十分に利益を得られると見込んでいる。
おかしくないかい?
どうして”民間企業”の開発した技術を政府の方針というか一存で無償提供できるの?
国鉄および独立行政法人が開発主体であったから政府が勝手に扱ってよいという認識なのかな?
だったらリニア中央新幹線だって政府が指導しなさいよ。
よくわかりません…
それよりわからないのが、日本のアセスでさえ非常にいい加減なものが、アメリカの環境アセスメントを突破できるのかという疑問。ちなみに日本でのアセスがきわめていい加減なのは、どんなに詳しく丁寧に調査・予測をしたところで、計画を全く修正できず(ルート変更不可能、残土は物理的に消せないなど)・、意味がないところに原因があります。
アメリカでは州ごとに環境影響評価制度が異なっているようですが、連邦政府が意思決定に関わる事業計画に対しては、国家環境政策法(National Environmental Policy Act:通称NEPA法)という法律に基づくアセスメントが行われるそうです。
もし造るとなれば、現計画ではバージニア州内だけだけれども、アメリカ連邦政府が導入計画に関わっている以上、このNEPA法が適用されるはずです。
NEPA法とは、1969年に、世界に先駆けて環境アセスメント制度を規定した法律で、その後、各国の環境影響評価制度のモデルとなっています。環境先進国と呼ばれるようなドイツやオランダなども、これをモデルとしているだけあって、様々な先進的取り組みが含まれており、はっきりいって日本のアセスメント制度とは比べ物にならんほど厳しいもののようです。
《日米、環境アセスメントの大きな違い》
●調査・予測・評価を行うのは環境諮問委員会(CEQ:Council on Environmental Quality)という大統領直轄機関
⇒日本では事業者だから「問題ない」のオンパレードにしてしまう。それが通用しない。
●審査するのは環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)
⇒日本だと環境省と自治体。自治体は事業者と一体化していることが多いから、「問題ない」としがちだけど、そうはいかない。
⇒日本では事業者だから「問題ない」のオンパレードにしてしまう。それが通用しない。
●審査するのは環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)
⇒日本だと環境省と自治体。自治体は事業者と一体化していることが多いから、「問題ない」としがちだけど、そうはいかない。
●戦略的環境影響評価
⇒NEPA法は、政策のあらゆる段階に適用されるらしいので、「リニア導入の是非」という政策段階でも、この法律に基づいた環境配慮が求められると思われる。日本の中央新幹線小委員会のように、走行方式やルートの決定過程において、全く環境面からの審議をしないなどという馬鹿げたことは行われないはず。
⇒NEPA法は、政策のあらゆる段階に適用されるらしいので、「リニア導入の是非」という政策段階でも、この法律に基づいた環境配慮が求められると思われる。日本の中央新幹線小委員会のように、走行方式やルートの決定過程において、全く環境面からの審議をしないなどという馬鹿げたことは行われないはず。
どちらも国交省中央新幹線小委員会作成の答申より複製
こんなアホなことはできない
●調査対象
1 提案行為が環境に与える影響
2 当該提案が実施された場合に回避することのできない環境へのすべての悪影響
3 提案行為の代替案
4 人間をとりまく環境の局地的、短期的な利用と生産性の長期的な維持、向上との関係
5 提案行為が実施された場合に起こる不可逆的で回復不可能な資源の消失
⇒「代替案」というのが非常に重要で、「ワシントン-ボルチモア間に公共交通機関を設ける必要があるのなら、リニア以外にどのような案があるのか」ということを環境面から検討しなければならない。日本のように「最初からリニアで決定」ではない。リニアより優れた案があるのなら、あるいは環境破壊をしてまで造る必要性が認められなければ、そこでボツとなりかねない。
●住民の意見提出機会は4回
⇒日本では3回。自然保護運動や市民運動の活発な土地がら、自然破壊が問題になるケースなら、意見書が数十万通送られることもあるらしい。
⇒日本では3回。自然保護運動や市民運動の活発な土地がら、自然破壊が問題になるケースなら、意見書が数十万通送られることもあるらしい。
どんな事業でも、立地場所の選定が環境配慮の大前提であり、アメリカのアセス制度では、この段階での検討が義務付けられているわけです。
特に鉄道のように線状の開発では、ルートの選定過程における環境配慮が非常に重要です。ところが超電導リニアは時速500キロで突っ走るから、周囲の環境に合わせてルートを柔軟に変えることができません(だから南アルプスを串刺しにして自然破壊が問題となっているのである)。これは「代替案の比較検討が不可能」ということであり、NEPA法における環境アセスメントでは致命的な欠陥でしょう。
なお、冒頭の新聞記事では「世界的な知名度の高まりによる販路開拓」なんて書いてあるけれども、EU加盟国では戦略的環境アセスメントが導入されており、そもそも高速鉄道網を構築中であることも考慮すると、高速鉄道よりも環境面よりも優れていることを説明せねばならず、販路は皆無でしょう。
さらに、「大きな環境破壊をしてまで造る必要性があるのか」ということが問われる。日本では不問とされていたことであるが、どう答えるのでしょう?
向こうで事業を担当するのがJR東海なのか、日本政府なのか、アメリカ政府なのか、合同であちらで法人を立ち上げるのか、現段階では全然分かりません。しかし少なくとも今の日本でJR東海が行っているようなアセスでは、本格的に環境問題を議論する前に、必要性の判断段階で却下されるに違いありません。重要な自然保護地域を避けることなく串刺しにするような計画、計画に疑問に抱く声をことごとく無視するような進め方ならなおさらです。
リニア技術について、アメリカの環境アセスメントでどのような審判が出されるのか、実に興味深いところです。
【参考リンク】
環境影響評価法の日米比較と法施行による環境訴訟に与える影響について