アメリカへリニア技術を無償提供&5000億円融資云々という話が出てきましたが、それは横に置いておきます。
環境影響評価準備書に対する知事意見が提出されてから3週間が経ちました。
もしJR東海が今年秋の着工にこだわっているのなら、スケジュールの都合上、もうそろそろ評価書が作成されることになります。
知事意見について見てみると、再調査や再評価を求めるものが多数出され、中には河川流量や動植物のように、調査自体に1年以上かかるようなものもありました。残土処分方法を明らかにしたうえでアセスをせよというものもありました
(例 山梨県知事意見)。
赤や青の線を引いた部分がそうですね。
こうした意見に忠実に回答するためには1年半~2年の期間が必要ですが、当然のことながら、そんなことをしていたら今年秋の着工は不可能です。おそらく着工後の「事後調査」と称し、事業認可後の調査に回すのでしょう。
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「事後調査」
分かりにくい言葉です。
最近まで、「工事中または完成後に環境が適切に保全されているか確認すること」が事後調査だと思い込んでいましたが、環境影響評価制度に詳しい知人に伺いますと、そうではないそうです(これは法38条で定められた報告書作成義務)。
以下、概念が分かりにくいので、法律の文章を引用して説明してみたいと思います。
事後調査というのは、「環境影響評価法第十四条1のハ」という部分で規定されています。
(評価書の作成)
第二十一条 事業者は、前条第一項、第四項又は第五項の意見が述べられたときはこれを勘案するとともに、第十八条第一項の意見に配意して準備書の記載事項について検討を加え、当該事項の修正を必要とすると認めるときは、次の各号に掲げる当該修正の区分に応じ当該各号に定める措置をとらなければならない。
一 第五条第一項第二号に掲げる事項の修正
⇒ 同条から第二十七条までの規定による環境影響評価その他の手続を経ること。
二 第五条第一項第一号又は第十四条第一項第二号から第四号まで、第六号若しくは第八号に掲げる事項の修正
⇒ 次項及び次条から第二十七条までの規定による環境影響評価その他の手続を行うこと。
三 前二号に掲げるもの以外のもの
⇒第十一条第一項及び第十二条第一項の主務省令で定めるところにより当該修正に係る部分について対象事業に係る環境影響評価を行うこと。
2 事業者は、前項第一号に該当する場合を除き、同項第三号の規定による環境影響評価を行った場合には当該環境影響評価及び準備書に係る環境影響評価の結果に、同号の規定による環境影響評価を行わなかった場合には準備書に係る環境影響評価の結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価書を、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより作成しなければならない。
一 第十四条第一項各号に掲げる事項
第二十一条 事業者は、前条第一項、第四項又は第五項の意見が述べられたときはこれを勘案するとともに、第十八条第一項の意見に配意して準備書の記載事項について検討を加え、当該事項の修正を必要とすると認めるときは、次の各号に掲げる当該修正の区分に応じ当該各号に定める措置をとらなければならない。
一 第五条第一項第二号に掲げる事項の修正
⇒ 同条から第二十七条までの規定による環境影響評価その他の手続を経ること。
二 第五条第一項第一号又は第十四条第一項第二号から第四号まで、第六号若しくは第八号に掲げる事項の修正
⇒ 次項及び次条から第二十七条までの規定による環境影響評価その他の手続を行うこと。
三 前二号に掲げるもの以外のもの
⇒第十一条第一項及び第十二条第一項の主務省令で定めるところにより当該修正に係る部分について対象事業に係る環境影響評価を行うこと。
2 事業者は、前項第一号に該当する場合を除き、同項第三号の規定による環境影響評価を行った場合には当該環境影響評価及び準備書に係る環境影響評価の結果に、同号の規定による環境影響評価を行わなかった場合には準備書に係る環境影響評価の結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価書を、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより作成しなければならない。
一 第十四条第一項各号に掲げる事項
二~四 略
第十四条は以下のとおり
第十四条 事業者は、第十二条第一項の規定により対象事業に係る環境影響評価を行った後、当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として、第二条第二項第一号イからワまでに掲げる事業の種類ごとに主務省令で定めるところにより、当該結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書(以下「準備書」という。)を作成しなければならない。
一~六 略
七 環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの
イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)
ロ 環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)
ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置
一~六 略
七 環境影響評価の結果のうち、次に掲げるもの
イ 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)
ロ 環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)
ハ ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置
非常に分かりづらいのですが、「21条の2」に基づき、評価書には「環境の保全のための措置」と「環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置」とを書くことになります。
リニアの場合、現状では何も決まっていないことがたくさんあり、それが判明するのは将来=事業認可後だから、当面の措置として現状把握をする必要があり、そのために、再び調査をするという方針を評価書に書いておけばよいという解釈が成り立ちます。これは着工前だけど事業認可後なので「事後調査」となりうるようです。
JR東海は各地の説明会や準備書審議会で、「事業の詳細を明らかにできるのは詳細な測量等を終わらせた事業認可後」と繰り返していましたが、これがまさに、第十四条の「環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置」であり、当該環境の状況の把握のための措置が、事業認可後の調査ということになります。
例えば「残土について事後調査せよ」という意見が、長野県や神奈川県から出されました。これについて解釈しますと、
残土処分に関係する環境保全策(環境の保全のための措置)を決めるためには、残土の処分方法・場所を決めなければならない。それは事業認可後に決まる(将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるもの)ってJR東海は言ってるのだから、現時点ではわからないのだろう。だから、場所や方法が決まったら適切に調査する(当該環境の状況の把握のための措置=事後調査)と評価書に書いてくださいね。
こんな具合なのでしょう。
言葉遊びかヘリクツのようですが、おそらくこの解釈により、「調査をしていない」というのは事業認可のうえでは不問に付されます。
整理しますと、
確かにJR東海による調査は不十分である、知事意見でも再調査をして評価書に記載するよう求めている。しかし法律を忠実に解釈すると、評価書には事業認可後に再調査する旨を記載しておけばよいことになっている。これが事後調査である。したがって知事意見は全て事後調査で回答するとすれば、事業認可には何ら関係がない可能性が高い。
こんなところなのでしょう。
つまり、事後調査とは、
「事業開始後の調査」
ではなく
「事業認可後の調査」
にもなりうるのですな。
もちろん、法第21条に基づき、事業者が自主的に環境影響評価を一からやり直すことも可能です。しかしまあ、そんなことは望むべくもないでしょう。
ついでながら、知事意見を完全に無視したところで、知事としては法律上、文句を言う規定はありません。知事意見に答えないことは問題ですが、文句を言ったって、環境影響評価法の上では何の拘束力ももちません。
知事意見<法律
ですので。
しかしすごいですねえ。
国交省中央新幹線小委員会の答申
「具体的な環境配慮はアセス段階で」
JR東海作成の環境影響評価配慮書
「大まかなルート等は方法書段階で明らかになるので環境配慮方針はその際に明らかにする」
JR東海作成の環境影響評価方法書
「詳細な環境配慮方針は準備書で説明する」
JR東海作成の環境影響評価準備書
「具体的な環境配慮は評価書で」
「具体的な環境配慮はアセス段階で」
JR東海作成の環境影響評価配慮書
「大まかなルート等は方法書段階で明らかになるので環境配慮方針はその際に明らかにする」
JR東海作成の環境影響評価方法書
「詳細な環境配慮方針は準備書で説明する」
JR東海作成の環境影響評価準備書
「具体的な環境配慮は評価書で」
と先送りを続け、今度は評価書で「不足している調査は事業認可後に」と書くことになりそうです。事業認可後に調査結果が出されても、それについては一般市民も市町村長も県知事も環境大臣も、誰も意見を言うことができず、事業計画には全く反映されなくなります。
ぶっちゃけ、「都合の悪いことは全て事業認可後に先送りして文句を言われなくなる」という裏ワザです。
そうなった場合
第一条に規定された環境影響評価の目的「その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること」から逸脱してくるんじゃないのでしょうか?
少なくとも、第三者の意見を組み入れて事業計画を修正してゆくという、環境影響評価の正規手続きからは逸脱します。