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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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評価書(静岡県版)にブチ切れた その2 セミやキツネを守って川を守れるかっつーの!

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環境影響評価に「生態系」という項目があります。
 
これがデタラメそのものなんです。
 
以下の記事は、準備書の段階で書いたブログ記事(1/14)をほぼ踏襲しています。
分かりにくい概念ですが、ぶっちゃけ、こんな具合でしょうか?
 
「生き物同士のつながり(食う・食われるの関係、住み分けなど)に対し、その事業がどのような影響を与えるか」を予測・評価する。
 
生き物同士のつながりって言ったって、極めて複雑です。とらえるスケールの大小、気候、地形、水条件、地表を構成する物質(石とか砂とか)の移動…それこそ無限の区分基準があります。
 
生態系は地形・地質・気候によって、あるいはスケールのとり方によって幾通りにも分類できますが、これを全て評価対象とすることは事実上不可能なので、次のA、B、Cのような条件を満たす種や植物群落が影響評価の対象になります。
 
「A.上位性の注目種」
生態系の頂点に立つ捕食者が存続するためには、エサとなる多様な小動物と、その小動物のエサとなるさらに小さな生物や植物が広範囲にわたって健全に生きてゆく環境が不可欠です。したがって食物連鎖上位の動物を保全対象にすることは、広い範囲の環境保全につながるという概念です。ちなみにこのような種のことを、アンブレラ種とよびます。傘のように、様々な種を覆って保全すうるという意味です。
 
「B.典型性の注目種」
改変の対象地域で広く見られる動植物は、その場所の自然環境を代表しているものであり、それを保全することは、その場所の自然環境の保全につながるという考え方です。
 
「C.特殊性の注目種」
湿地、岩稜、汽水域、湧水、崖、高山、特殊な地質など、他に代替のない自然環境に基盤をもつ生態系を守ろうという概念です。
 
ふつう、それぞれか2~4種ずつ代表を選んで環境影響評価の対象とします。最初にも述べたとおり、地形が複雑な場所でしたら、ほんの少し移動するだけで環境は大きく変わりますので、生態系区分もよりきめ細やかに詳しくなされねばなりません。
 
これらを総合し、その地の環境を評価・保全しようとするのが、現在の日本で行われている生態系評価の概念です。
 
で。リニア中央新幹線の準備書を見てみます。なんで準備書?と疑問に思われるかも知れませんが、評価書でも全く修正していないから、皮肉を交えて(評価書を複製するのが面倒だし)あえてこうしています。
イメージ 1
 
 
 
これだけ?
 
キツネ
クマタカ
ツキノワグマ
ヒメネズミ
エゾハルゼミ
ミヤコザサ-ミズナラ群集(ミズナラの林)
 
わずか6種で南アルプスの生態系を評価できるってか!?
 
ムチャクチャです!!
 
キツネ、クマタカ、ツキノワグマ、ヒメネズミ、エゾハルゼミ、ミヤコザサ-ミズナラ群集(ミズナラの森)…こんなもん評価対象にしたって、工事計画とはぜんっぜん関係ないでしょ!
 
まず根本的な間違いとして、工事を計画しているのは川岸であり、残土を捨てるのも河原であり、そのうえトンネル工事で川の水が減るって予測しているのに、川の生き物が対象になっていません

そりゃまあ、キツネやクマだって水辺には来るでしょうが、別に水辺に全面的に依存した生き物じゃあないでしょ。少なくとも、川の水が減って直接的に大ダメージを受けるような生き物じゃあない。
 
現地調査で確認された、動植物リストから、パッと見て水辺を主要な生活空間にしていると直感した生き物たちを挙げてみるとこんな感じ。
 
(哺乳類)
カワネズミ、イタチ、コウモリ類
(魚類)ヤマトイワナ、アマゴ、カジカ
(両生類)ヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオ、カジカガエル…
(鳥類)ヤマセミ、アカショウビン、カワガラス、ミソサゾイ、キセキレイ…
(樹木)ドロノキ、サワグルミ、トチノキ、シオジ、フサザクラ、オオバヤナギ、オヒョウ、エゾエノキ、カツラ
(草本)カワラニガナ、シナノナデシコ、ミヤマタネツケバナ、コンロンソウ、ダイモンジソウ、シダ類
そして水生昆虫をはじめとする何百種類にのぼる水中の小動物。
 
 
ちょっと、これらの生き物のつながりを考えてみます。
 
 
渓流魚であるイワナ・アマゴ・カジカ等の渓流魚の餌は、夏場を除いて水生昆虫が大半を占めます。水生昆虫は渓流魚だけでなく、カワネズミ、コウモリ類、鳥類、カエル類など、河川とその周辺に生息する様々な動物にとって重要な餌となっています。
 
水生昆虫の餌は落葉です。斜面における落葉の移動距離は最大で25m、通常15m以内という報告がなされているため、河川への落葉は、ほぼ全てが 河畔林・渓畔林といった水辺林によってもたらされると考えられます。
 
それから、水中における落葉の分解速度は樹種によって異なりますので、水辺林に多 種の樹木が生育することにより、河川中の落葉は一挙に消費されつくすことなく、長期にわたって水生昆虫の餌となり続けます。
 
したがって水生昆虫の 維持には、水辺林の存続が欠かせないんですね。
 
いっぽう、水生昆虫が羽化して水中から姿を消す夏季には、渓流魚の餌の大半は、水辺林からの落下昆虫によって供給されているという報告がなされています。
 
それから今述べた水辺林。この中も非常に重要。
 
ハイキングに行ったときに、ボーッと歩くのではなく、注意深く周りを見渡していただくとお気づきかと思うのですが、水辺って、植物の種類が豊富なんです。土壌水分・湿度が高いうえ、川の流れなどで頻繁に倒木や土砂崩れが起き、その跡地に小さな草が生えたりしてくるからなんです。洪水や土砂の移動の影響を受けるっていいうのがミソで、こういうのを生態学用語で擾乱(じょうらん)とよびます。
 
水辺林では擾乱が頻繁に起こるから生物の種数が多いともいえます。
 
それに水辺林というのは、水辺で暮らす鳥や両生類の重要な生息場所ともなります。あたりまえですが、カエルなんかは沢沿いの湿った森なんかに多く、山の上にはごく少ないですよね。植物でも湿ったところを好むものは、当然ながら、沢沿いの水辺林に多く生えてきます。そして水辺の大木は、羽化した水生昆虫を狙う小鳥の採餌場にもなるし、営巣場所にもなる。
 
イメージ 2
渓流と水辺林のイメージ
南アルプスとはあまり関係のない、静岡県静岡市清水区興津川上流部にて
 
また、川岸とは言っても特に水辺に近く土砂の移動の活発な場所には、ヤナギ類など一部の種を除いて高木が生育せず、開けた河原となります。こうした河原には、洪水に強い性質をもった植物が生育し、またそれを食べる昆虫が集まります。南アルプスの残土捨て場候補地一帯は、こうした環境に応じた、高山性の蝶など、独自の生態系が成立しています。
 
こういう場所が工事予定地になっているので、当然、いろいろな動植物への影響が懸念されます。
 
イメージ 3
 
でも、関係のないミズナラ林が評価対象になっているんです。
 
イメージ 5
 
ほらね。わずか3.2%しか改変しないんだって。
改変しない森林を
評価対象にして
何の意味があるんだ⁉
 
 
 
 
それから前回指摘した通り、標高2000m地点に残土を捨てようと目論んでいます、標高2000mになると、寒すぎてミズナラ林は成立せず、変わって寒さに強いシラビソ、コメツガ、トウヒといった針葉樹林が成立します。いわゆる亜高山針葉樹林というものであり、北海道北部と共通した植物種が分布します。ミズナラ林とは、気候という点で、根本的に成立条件が異なります。
 
イメージ 4
環境省のHPより転載
たぶん、亜高山帯針葉樹林に100万立米単位で建設残土を捨てるのは、初めてのことじゃないのかな?
 
 
それなのに、なんで全然関係のない山腹のミズナラ林やらセミなんて評価対象にしてるんだ?
 
 
 
 
こういう、複雑な生態系を完全に無視しているのが、この評価書なんです。
 
捻挫で病院に行ったら、熱を測って「平熱だから大丈夫だよ」と言われて帰されるようなものです。

バカにしてるんですか?

現在、静岡県の伊豆半島(下田市)において、伊豆縦貫自動車道建設事業の環境影響評価が行われています。その準備書が、静岡県立中央図書館に置かれています。このアセスでは、生態系において
【山地の樹林地】
 「上位性」
  ⇒テン、オオタカ、サシバ、フクロウ
 「広い面積を覆う代表的な森林構成種」
  ⇒スダジイ群集、コナラ群集、スギ・ヒノキ植林
 「優先する植物を食べる昆虫」
  ⇒ナカキシャチホコ、クロクモエダシャク(どちらも蛾)
 「生態系基盤とつながりの深い生物」
  ⇒タゴガエル
【丘陵地】
 「上位性」
  ⇒アナグマ、フクロウ
 「典型性」
  ⇒イノシシ、メジロ、ヤマアカガエル、ヒメハルゼミ
 「優先する植物を食べる昆虫」
  ⇒ホソバシャチホコ
 「特殊性」
  ⇒キクガシラコウモリ、谷津田の生物
【耕作地】
 上位性
  ⇒イタチ、カワセミ、ヤマカガシ
 典型性
  ⇒水田雑草群落、オイカワ、ヨシノボリ、水生昆虫、ホソヘリカメムシ、トノサマガエル
【開放水域】
 上位性
  ⇒ミサゴ、アオサギ、カワセミ
 典型性
  ⇒ゴクラクハゼ、シマヨシノビリ、ミゾレヌマエビ、水生昆虫、イシマキガイ
ごく普通の里山環境でのアセスでさえ、このように何通りかに区分し、30種程度の生物を対象に挙げるのが、現在の生態系評価の水準なんです
 
ふつうの水準も守れなくてどうすんの!?
 
この水準を適応すれば、リニアの評価書では、
まず河川と森林とに区分。
河川は渓流、河原、崖とに3区分。
 
森林は亜高山帯と温帯とに区分。
亜高山帯は常緑針葉樹のシラビソ林、崩壊地跡地のダケカンバ林、崩壊地とに3区分。
温帯林は水辺林と山腹の林とに区分。
水辺の林は斜面下部と河原のヤナギ林とに区分。
山腹の林は植林地とミズナラ林とに区分。
 
 
これで渓流、河原、崖、シラビソ林、ダケカンバ林、崩壊地、山腹の林、斜面下部の林、ヤナギ林、ミズナラ林、植林地との11に区分、この11それぞれ典型種、上位種を2~3種ずつえらんで、合計60種ぐらいは評価対象に選ばなければなりません。


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