今回は流量問題の本質を。
毎秒2トンの水が大井川から消える!!という準備書の記載内容が、静岡におけるリニア懐疑論に一気に火をつけた感があります。
⇒去年11/8の静岡新聞記事
⇒去年11/8の静岡新聞記事
この記載、評価書にも受け継がれています。
⇓ 拡大
(注)地点07は地点06より10㎞ほど下流側
中央新幹線 環境影響評価書(静岡県版)を複製・加筆
これですね。下の3つの段。確かに2立方メートル/秒=2トン/秒の減少という予測です。これは下流側60万人の生活用水に匹敵する量。それにもともと流量の小さい源流部で水が減ったら、渇水期には干上がって魚などが全滅してしまうかもしれない。
ものすごく心配ですね。
でもちょっと待った!
この大井川における流量減少問題については、流量が減るということを心配する以前に、「調査・予測・評価方法そのものが異常である」ということに注意すべきです。
この表をよく見ると、現況の流量には(解析)という注記があります。要するに、トンネル工事による流量減少を計算する際、コンピュータに、地質条件や降水量や気温条件などの値を入力し、「現在これぐらいは流れているはずだ」と出された値です。計算をするために、解析値を試算の前提にすること自体はおかしくありません。数値シミュレーションを行う際、一般的に行われていることです。
とはいえ解析値はあくまで理論上の数字。
じゃあ、現実の川にはどれくらいの水が流れているんだ?
と思って検証するのが正常な感覚ですよね。現実の河川における流量の値が分からなければ、こんなのは単なる数字の遊びにすぎません。例えば赤く囲った「地点06 大井川(田代ダム下流)」では、現在の解析流量は9.03㎥/sとなっていますが、じゃあ、本当はどれぐらいなのか?
実は、信じがたいことですが、計算をした地点において現実にはどのくらいの水が流れているのか、JR東海は全く調べていません。少なくとも評価書には載っていません。
いや、マジで。
はい証拠。評価書のコピーです。
中央新幹線 環境影響評価書(静岡県版)を複製・加筆
ホンモノの川でどれくらいの水が流れているのか、調べていない!?
水質への影響予測の前提のために、申し分程度に調べているものの、この流量予測地点とは違う場所ですし、しかもたった2回しか調べていないので、何の参考にもなりません。
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流量減少を計算する式(水収支モデル)の詳細は存じませんが、式の形式を見た限りでは、概要は気象庁がおこなっている天気予報(数値予報モデル)と似たようなものとみられます。
天気予報で、
「明日の最高気温は今日より8℃も下がる予報だ。今日の最高気温は計算上25℃だったから明日は17℃になると思われる。だけど実際に今日は何℃まで上がっていたのかは調べていない」
「明日の最高気温は今日より8℃も下がる予報だ。今日の最高気温は計算上25℃だったから明日は17℃になると思われる。だけど実際に今日は何℃まで上がっていたのかは調べていない」
こんなバカな予報はありません。でも、この評価書の形式はまさにコレなんです。
なんで、正体不明な「解析流量」が現況の値と言えるんだ?
なんで実際の流量を前提として計算しないんだ?
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川の流量を把握するためには、最低でも1年は必要です(本来は数年)。どの時期に流量が最大になり、どの時期に最低になるのか、最低になった場合はどれくらいまで減るのか、そういう年間の変動を知るための最低条件です。
その間、月に1度程度川を訪れて流量を測定するか、自動的に水位変動を記録する装置を川に設置する必要があります。ちなみにこの手の装置は、水害対策のため全国あちこちに設置されており、街中の川沿いを歩けばよく目にします。
http://sipos.shizuoka2.jp/sipos/index.html(静岡県土木総合防災情報)
http://sipos.shizuoka2.jp/sipos/index.html(静岡県土木総合防災情報)
道路トンネル建設のアセスにおいても、これぐらいは普通に行われています。
リニアの南アルプス横断トンネルから南へ約40㎞。静岡県との県境に三遠南信自動車道・青崩トンネルというものが計画されています。この工事における環境影響評価書のうち長野県版が長野県のHP上で公開されていますので、リニアのアセス評価書と比較してみましょう。http://www.pref.nagano.lg.jp/kankyo/kurashi/kankyo/ekyohyoka/hyoka/tetsuzukichu/aokuzuretoge/hyokasho.html
三遠南信自動車道 青崩峠道路 環境影響評価書(長野県版)を複製・加筆
はい、ちゃんと現地で河川流量を1年以上かけて観測してますね。機械による自動観測も行われています。
なお、静岡県側の分はネット上では公開されていませんが、評価書の実物が県立中央図書館に収蔵されています。やはり同様に、10か所程度で1年半かけて、流量の調査が行われています。
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長さ4~5㎞のトンネル工事でも、こうやって河川流量を1年をかけて調べています。これが通常のアセスです。それなのに、JR東海はサボっているように見えます。
なんでこんな幼稚なことをしているのか?
推測①そのための費用をケチった?
たとえ現地調査をしても5~6兆円の建設費から比べれば”はした金”です。こんなことをして不信感を買うぐらいなら、最初から調べるはずです。それ以前に、ダムの放水量なら、電力会社か県庁に問い合わせれば電話1本でわかることです。
推測② 本当の流量を知らせたらエライことになる?
私はたぶん、こちらだと思います。
ここから先が今回の本題。
冒頭の図8-2-4-5で、JR東海は「地点06田代ダム下流」での解析流量は9.03㎥/sであり、トンネル完成後は7.14㎥/sに減少すると予測しました。
しかしこのダムを管理する東京電力が河川環境維持のために下流側へ流している流量は、夏場は1.49㎥/s、冬場は0.43㎥/sだけです。
つまり、実際の河川流量は、このぐらいにまで減る可能性があります。
ここから疑問を感じ、実際の流量統計を探しておりました。
で、発見。こちらがその証拠。静岡県庁のホームページより複製しました。http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-320/documents/siryou2-1sankou.pdf#search='%E7%94%B0%E4%BB%A3%E3%83%80%E3%83%A0+%E7%B6%AD%E6%8C%81%E6%B5%81%E9%87%8F'
少々古いですが、平成19年の田代ダムにおける取水量と放水量です。全部を合わせた値は、地点06で本来流れている流量に相当します。
グラフのうち、濃い水色部分が発電用水に取水された分で、紺色は余った分。薄い水色は、取り決めによって川に常時流される分。実際に川に流される量は、紺色部分と薄い水色部分を合わせた量になります。
冬場の2か月間は、河川流量は取水しなくとも2㎥/s程度なのです。これに取水が加わり、現実の川には0.43㎥/sしか流れていません。
これに対し、JR東海の予測はピンクの点線部分。確かに年平均値の減少に対する予測としてはこれでも妥当かもしれませんが、実際の河川の年変動という観点からでは、全く妥当性を欠いています。
なお、この年が異例に少ないわけではなく、その前年も似たような推移をたどっています(リンク先参照)。平成18年の場合、秋にも2㎥/s近くにまで減少していました。
さて評価書には、ここの上・下流側の地点05、07における渇水期の予測が載せられています(位置については冒頭の地図参照)。
この試算における現況流量は4.08~3.17㎥/sであり、実査の冬季流量2㎥/sよりも1~2㎥/sも大きくされており、妥当性について強い疑問があります。それでもこんなのしか参考に使えないのですが、そこでの減少量は1.8~1.5㎥/sと予測。
この条件下でトンネルを掘って流量を減らしたらどうなるのでしょうか?
さらに注意していただきたいことをもう一点。
この地点06は、西俣と東俣とが合流している場所の下流側になります。このうち、東俣の流量はトンネル工事の影響はさほど出ないという予測が出ています(表を参照)。ということは、地点06の減少は、西俣の大幅減少を意味しています。
冒頭の地図と表6-3-1(13)をよくご覧になっていただきたいのですが、「地点01西俣二軒小屋発電所取水堰上流」では、渇水期の現況1.18㎥/sが0.62㎥/sに、0.56㎥/s減ると予測されています。ところがこの取水堰、川から取水しているのは0.6㎥/s程度で、河川環境維持のために常時下流へ流しているのは0.12㎥/s、渇水期の本来の流量は、おそらく1㎥/sもありません(合流後が2㎥/sだから当然)。それから0.56㎥/s減ったら、干上がってしまいます。
つまり、冬場には、地点06の下流側から01あたりまで、10㎞以上にわたる長い区間で干上がる可能性があるということです。
ちょっと整理しましょう。
実際の大井川の地点06では、冬場の流量はもともと2㎥/s程度であり、取水のため0.43㎥/sにまで減少している。これは文献調査で明らかである。いっぽうトンネル工事による減少量は1.5~1.9㎥/sと試算された。0.43㎥/sから1.5~1.9㎥/s減少したらゼロになってしまう。東京電力に取水を停止してもらっても、もともとの流量は2㎥/sしかないので無意味である可能性が高い。
さらに、この流量激減は大井川最上流部の西俣の奥地にまで及ぶ可能性が高い。
こういうわけです。これを受けて、JR東海が本当の流量を評価書に載せない理由が見えてきました。
すなわち、トンネル工事によって、冬季は長期にわたり、大井川源流部の広い範囲を干上がらせるという試算結果が出ていたということです。
事業を進めたいのならば、とてもじゃないけどそんなことは評価書に記載できないと判断したのでしょう。「2か月ほど大井川が消滅する」なんて記載したら流域から批判・反対の声が高まるのは必至ですし、「適切な環境保全措置が講じられていない」として事業認可を受けられなくなる可能性が現実味を帯びてきます。それゆえ、実際の流量を評価書に載せるのはためらい、正体不明の「解析流量」でごまかした。
こんな具合じゃなかろうかと…。
手抜きというレベルではなく、これは虚偽・粉飾・隠ぺいです。
データ改ざんの一種かもしれません。これで事業認可したら、環境影響評価手続き上の瑕疵(かし)であり、違法性があるんじゃないかと思います。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そういえば、政府の成長戦略だか何だかに、リニアの大阪開業前倒しを明記したとかなんとか聞きますが、最低限の環境影響評価すらマトモに行えない事業者に、国家プロジェクトの遂行能力があると、どーして判断できたのでしょうか?
カネをつぎ込む前に、違法性スレスレの、どーしようもない評価書を、公文書としての使用に耐える最低水準にまで引き上げるよう指導してください。
それが政府の存在意義でしょう!?
マジで公害まき散らしになりますよ。