環境大臣意見について続けます。
この後、環境大臣意見を踏まえ、国土交通大臣からJR東海に意見が通達されます。勘違いされている方が多いかもしれませんが、環境省が直接にJR東海へ意見を出したわけではないのでご注意ください。
国土交通省は鉄道事業を監督し、これまで旧運輸省としてリニアの開発や新幹線の延伸を行ってきたわけですから、環境大臣意見とはニュアンスが異なるかもしれません。とはいえ、環境大臣意見については国交省と環境省との間で協議済みだったでしょうし、既にその内容が広く国民の知るところとなっているわけですから、大幅に変更されることはないでしょう。
JR東海が事業を進めたい場合、その国土交通大臣意見を受けて評価書を補正したのちに、補正後の評価書を国土交通省に提出し、事業申請をおこなうこととなります。そこで、国土交通大臣意見をきちんと反映できたか、これで十分な環境保全措置ができているかを審査し、(他の書類審査も併せて)合格と認められれば、事業認可となります。
注視すべきはココ!
今現在、JR東海の作成した評価書については、環境省が「問題あり」と見解を示しました。
「問題のある評価書」のままで事業を認められるのでしょうか?
答えはたぶんノーです。
問題のある「補正後の評価書」で所轄官庁が事業認可をした場合、それは行政権の裁量を逸脱しているとして違法性があるとのこと。
かつて、東京地方裁判所が、この「裁量権の逸脱又は濫用」と認められるケースを示しています。(平成23年6月9日 新石垣空港設置許可取り消しを求める裁判の判決文の要旨)
それによりますと、その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを乱用したものであることが明らかである場合、違法となりうるのだそうです。そして事実の基礎を欠く場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定するようなケースが考えられるとのこと。
これをリニア計画に置き換え、評価書と、それへの環境大臣意見について考えてみましょう。
3月末に、準備書に対して出された知事意見には、調査が不足しているとして改めて追加調査を求める声が多数ありました。その中には、河川流量や動植物の分布状況など、1年以上かけて調査しなければならないような、重要な項目も含まれていました。南アルプスにおける河川流量なんて全く現地調査をしていなかった(公表できなかった?)のだから仕方がない。
それにもかかわらず、JR東海はこれら知事意見をほとんど無視して評価書を作成したため、改めて環境大臣から再検討を求められたところです。
しかも再検討を求められただけでなく、冒頭から「河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能瀬が高い」「本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない」「これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」「環境の保全を内部化しない技術に未来はない」と、懸念が次々と書き並べられた、異例の意見でした。
現在のところは、明らかに「手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されていない」状況にあります。
もしJR東海が今年秋の着工にこだわっているのなら、1年以上かかる再調査なと行うはずがなく、内容をほとんど補正しないまま評価書が確定することになります。
補正しないということは、
国土交通大臣意見≒環境大臣意見
および環境大臣意見で再検討を要求された沿線都県知事意見
ならびに公衆等(住民など)からの意見
国土交通大臣意見≒環境大臣意見
および環境大臣意見で再検討を要求された沿線都県知事意見
ならびに公衆等(住民など)からの意見
これらをことごとく無視するということになります。
つまり、まさに「手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定するケース」になってしまいます。そしてそれを国土交通省に再提出して事業認可を申請する…。
こんなのを国土交通省が事業認可したら、それこそ「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであり、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを乱用したものである」として、違法になってしまうのではないでしょうか?
かつて、そういうことはダメと裁判所が見解を示しており、しかもそれは空港と鉄道行政を担ってきた運輸省に対して出されたものですから、同じ轍は踏まないと思うのですがねえ…。