南アルプスがユネスコの生物圏保存地域、通称エコパークに登録されました。
おめでとう
とはいっても素直に喜べないのが現在の状況。
その南アルプスをぶち抜き、残土を捨て、川の水を抜くリニア計画が進行中…。
エコパーク制度の詳細およびエコパークとリニア計画との非調和性については、今年の元日に別記まとめてありますので、詳しくは下記URLをご覧ください。
http://park.geocities.jp/jigiua8eurao4/SouthAlps/hozen/ecopark.html
これは準備書が出された段階で書いたものですが、当時の不安・懸念は全く払しょくされていないと思います。
これは準備書が出された段階で書いたものですが、当時の不安・懸念は全く払しょくされていないと思います。
さて環境影響評価書に「南アルプスエコパークについて」とありましたのでみてみましょう。
環境影響評価書 静岡県版 資料編をコピー
こんな具合です。長野県版・山梨県版ではさらに雑な内容。
エコパーク制度を研究されている知人の方に言わせると「非常に腹のたつ」内容とのこと。
この文章を書いたのがJR東海本社なのか、子会社のJR東海コンサルタンツなのか、その他のコンサルタント会社なのか存じませんが(誰が担当したのか書きなさいよ!)、冒頭2行で「自然環境上重要な地域である」としながら、その後は伐採・ダム・電源開発と、いかに南アルプスが開発されつくされて自然など残っていないのかを強調するという、意味不明な文章になっています。
既に開発されつくしてどこでも破壊していいと判断できるような場所なら、なんでユネスコ・エコパークに登録できたのでしょう? 根本的に認識が誤っている証拠といえるでしょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
厳重に保護すべき「核心地域」、核心地域を守るための「緩衝地域」、持続可能な自然の利用をおこなう「移行地域」というように、重要な場所を三段階の保護地域で囲むことに、ユネスコ・エコパークの特徴があります。
エコパークの登録基準により、緩衝地域が満たしていないければならない条件は、
・核心地域のバッファーとしての機能を果たしていること
・核心地域に悪影響を及ぼさない範囲で、持続可能な発展のための地域資源を活かした持続的な観光であるエコツーリズム等の利用がなされていること
・環境教育・環境学習を推進し、自然の保全・持続可能な利活用への理解の増進、将来の担い手の育成を行っていること
・核心地域のバッファーとしての機能を果たしていること
・核心地域に悪影響を及ぼさない範囲で、持続可能な発展のための地域資源を活かした持続的な観光であるエコツーリズム等の利用がなされていること
・環境教育・環境学習を推進し、自然の保全・持続可能な利活用への理解の増進、将来の担い手の育成を行っていること
となっています。
また、移行地域が満たしていなければならない条件は、
・核心地域及び緩衝地域の周囲または隣接する地域であること
・緩衝地域を支援する機能を有すること
・自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組を推進していること
・核心地域及び緩衝地域の周囲または隣接する地域であること
・緩衝地域を支援する機能を有すること
・自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組を推進していること
となっています。JR東海は、工事は移行地域で行うから問題ないとしています。
ふつうに考えれば、自然保護が優先され人間活動が抑制されるべき地域で営む産業といえば、受け入れ人数を管理したアウトドア活動や観光、環境教育、持続可能な農林水産業といったところでしょう。これなら現在南アルプス周辺の集落で営まれている農業、林業、観光業を中心とした産業形態や、登山、エコツアー、渓流釣りといった自然の利用方法と大差ないと思われます。
高度成長期のように、天然林を片っ端から切り倒してゆくような国産材需要も見込まれることはないでしょうし、これ以上の水力発電計画もありません。エコパーク登録に必要となる追加事業も、トイレ・登山道の整備や鹿による高山植物食害対策のようなものかと思います。むしろ利用者へのソフト面での受け入れ態勢が重要かと。
このように現状を維持してゆくような利用・活動形態なら、持続可能な利活用を探ってゆくことができると思います。
これに対し、リニアの工事は10年以上、穴を掘り続け、山中に残土を捨て、川の水を抜き、ダンプカーが走り回る…どこが自然環境の保全と調和した持続可能な発展のためのモデルとなる取組なんだ??
ちなみに、このブログで再三指摘してきた「標高2000mの残土捨て場」候補地は、移行地域と緩衝地域との境界に位置しており、実際に残土が捨てられた場合、移行地域の役割「緩衝地域を支援する機能を有すること」を達成できなくなってしまいます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そもそも評価書の内容は根本的に間違っていることとして、過去の改変とはケタが違うことがあげられます。
●大井川源流部では電源開発で導水トンネルが総延長22㎞ほど掘らてはいますが、その断面積は2~3平方メートル。いっぽうのリニア工事関連のトンネルは、静岡県内だけでも総延長33~34㎞、断面積は40~50倍、出てくる残土の量はたぶん10~15倍。
●確かに南アルプスでは広い面積にわたって伐採が行われてきました。しかし伐採をしても、長い年月のうちには森は再生します(再生可能な資源)。ところがリニアの工事で南アルプス山中に捨てられる360万㎥の残土なんていうものは、いつまでたっても醜い姿をさらし続けてしまいます。数十年にわたって、泥の流出、崩壊のおそれ…。つまり、容易に環境が再生できない。標高2000m稜線上の残土捨て場など、大崩壊の危険性すらある。
●確かに発電で大井川の水を取水しています。とはいえ、その水は発電機を回し、電力エネルギーとして人々の生活を支える礎となっています。ところがトンネル工事による水枯れは、ただ無意味に川の環境を破壊するだけです。発電用水の取水はいざとなれば止めることができますが、トンネル湧水ではそんなことも不可能。
●以上の開発は、「南アルプスがもつ資源」を求めて行われてきたものだけど、リニアについては「邪魔だからぶち抜くだけ」。
●確かに長野県の大鹿村での工事は『移行地域』で行われます。同村内では1日最大1700台におよぶ大型工事用車両が通行するとしていますが、これがエコパークの価値や利用にどのような影響を与えると考えているのか、全く言及がない。
自らが行おうとしている工事は、これまでの開発とは規模も様式も意味合いも全く異なり、そのうえ完全に不可逆的な破壊であるという自覚が全くないんです。
今から10年後の2024年、南アルプスの管理状況についてユネスコに報告書を提出することになっています。2024年はリニア建設工事の真っ最中。そこで環境が適切に管理・保全できていなければ、登録が抹消される可能性もあります。
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評価書においては、エコパークに指定されるような南アルプスの価値とはどのようなものなのか、それに対して自社のリニア建設工事による自然破壊がどのような影響を与えるのか、どのような対策を考えているのかを示すべきです。
ところが、単にこれまでの開発を引き合いに出して自社の正当性を訴えるだけに終始し、しかも工事の影響を必死になって矮小化させようとしたため重要な論点には何も触れておらず、結局何も中身がないという、情けない文章になっています。
南アルプスが国際的な環境保全地域に認定されたことにより、そこで行われる大規模な工事は、必然的に国際的な注目を浴びることになります。JR東海はユネスコという国際機関に対しても説明責任をもつことになりますが、そのことの自覚はできているのでしょうか?
悪いけれども、このような認識で工事を進めてもらうのは困ります。困るっていうか、山にも川にも、それを守る人々にも失礼にあたると考えます。