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千枚岳直下大井川河原の残土捨て場は環境大臣意見にも河川法にも反する?

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環境大臣意見で示された発生土置場(=残土捨て場)の選定要件について、JR東海が静岡県内の南アルプス山中で選んだ候補地が、それを満たしているかどうか検証しています。
 
環境大臣意見
2.6 廃棄物
(1)発生土
②発生土置場の選定要件
  今後、新たに仮置場の設置場所を選定する場合については、自然植生、湿地、希少な動植物の生息地・生育地、まとまった緑地等、動植物の重要な生息地・生育地や自然度の高い区域、土砂の流出があった場合に近傍河川の汚濁のおそれがある区域等を回避すること
  また、登山道等のレクリエーション利用の場や施設、住民の生活の場から見えない場所を選定するよう配慮するともに、設置した際には修景等を行い、自然景観を整備すること。
 
 
前回は扇沢源頭に計画されている残土捨て場(発生土置場)が、環境大臣意見で求められた要件を満たしているかについて検証してみました。今回は、大井川の河原に計画されているもう一つの大規模残土捨て場についてみてみます。
イメージ 1
環境影響評価配慮書より複製・加筆
 
この場所、新聞報道などでは「燕(つばくろ)沢付近」と称されていますが、燕沢は大井川の小支流であり、実際に残土を積むのは大井川の河原です。
 
かつて発電所建設の際に、コンクリート材料の砂利を採取し、コンクリートプラントを設置したことがあったそうです。評価書によると、JR東海としては、これを理由として「過去の改変箇所だから改変してもよい」という判断をしたとのことです。とはいえそれから20年ほどたち、砂利採取跡地も河原と一体化してしているようです。この認識、あとでもう一度論点になりますので要注意。
 
地形図や評価書に示された図から判断すると、幅100m、長さ950mほどの長方形の土地に残土を積み上げることが可能といえそうです。
 
イメージ 3
評価書より複製・加筆
 
この長方形に、盛土の限界(高さ20m、法面勾配30度)で思いっきり積み上げると、計算上は約120万立米の残土を放り込むことが可能となり、これが物理的な限界といえます。静岡県内発生量360万立米の三分の一となります。これはあくまで机上の計算です。
 
 
以上が予備知識。それでは検証にうつります。
 
 

(1)明らかに希少な動植物の生息地・生育地である
評価書では「重要な種」についての分布状況は明らかにされていないため、具体的に何が分布しているか不明ですが、静岡県内でこれまでに刊行された既存資料を総合すると、確実に希少性の高い動植物が集中的に分布している場といえます。

この場所、千枚岳(2879.8m)山頂付近を頂点とする大規模山崩れ(千枚崩れ)の直下であり、大井川の河原でもあるため、大量に砂利が供給されては洪水で流されるということを繰り返しているという場所です。
イメージ 2
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・調整・加筆
右上隅の「二軒小屋」が、登山拠点の施設。
 
したがってここに生える植物は、土砂の活発な移動に適応したものが中心となっています。ドロノキ(ドロヤナギ)、オオバヤナギといったヤナギ科の樹木、ミヤマタネツケバナ、ヤマハタザオ、カワラニガナ、シナノナデシコといった草などです。評価書の植生区分では、オオバヤナギ‐ドロノキ群集と命名されています。
 
イメージ 6
 
これらドロノキ、オオバヤナギといった樹木は寒冷な気候条件でなければ育たない種類であり、日本全国を見渡した場合の分布中心は北海道や東北地方の山間部であり、ここ大井川源流の河原が分布の最南端となっています。地形・植生・景観のうえでは、焼岳等からの土砂が梓川をせき止めている北アルプス上高地と似たような環境にあります(上高地の場合はケショウヤナギが代表的)。
 
ここの河原、このような植物の葉をエサとする高山性の希少な蝶の分布域になっていることが、何十年も前からが指摘されています。代表的なのがドロノキの葉を餌とするオオイチモンジ、あるいはミヤマタネツケバナ、ヤマハタザオを餌としているクモマツマキチョウといった種です。この場所はドロノキの分布最南端であると同時に、オオイチモンジの分布最南端ともなっています。これらオオイチモンジやクモマツマキチョウ(ともに重要種に選定)は、氷期に分布域を南に広げ、その後の温暖化とともに南アルプスに取り残されていったと考えられています。つまり南アルプスにおける気候変動の生き証人といえるわけです。
 
なおオオイチモンジは環境省版のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に、静岡県版レッドデータブックで絶滅危惧ⅠAに指定されている、きわめて希少性の高いチョウです。しかも長らく生息情報が絶えていたものの、30~40年ぶりに確認されたのが残土捨て場付近でありました。ここをつぶしたら、完全に南アルプスから絶滅する可能性があります。
 
また。河原を大きく改変する計画ですが、川の中にも何種類かの希少性の高い生物が確認されています。
 
このように、この場所では希少性の高い高山蝶数種をはじめ、確認された動植物に重要種が多く含まれています。
 
したがって、希少性の高い動植物が集中的に分布していることに間違いありません。しかもこれらは「土砂の移動が活発な河原」という特異な条件に依存した種であり、代わりに行くべき場所がないのです。
 
以上のように、明白に環境大臣意見に反しています。
 
【引用した文献資料】
●静岡県自然保護協会 編集(1975)「南アルプス・奥大井地域学術調査報告書」
●杉本順一(1984)「静岡県植物誌」
●宮脇昭ほか 編集(1987)「静岡県の潜在自然植生」静岡県
●諏訪哲夫 編集(2003)「静岡県の蝶類分布目録」静岡県昆虫同好会
●静岡県 編集(2004)「守りたい静岡県の野生生物-県版レッドデータブック」 植物編・動物編
●静岡市や静岡県が環境影響評価準備書に対して提出した意見書
 
 
(2)土砂の流出があった場合は大井川の汚濁・荒廃に直結する
 環境大臣意見では「土砂の流出があった場合」という書き方ですが、この場所は、流出することが必定です。というのも、地図を見て一目瞭然ですけど、ここは河原です。河原である以上、年に1度程度は濁流に見舞われる場所です。しかも土石流のような流れが頻発する場所です。
 
イメージ 5
平成25年11月7日 静岡新聞朝刊
 
イメージ 4
 
そんな場所に残土を盛りつけたら、増水するたびにえぐられてしまいます(河原での砂利採取後の崖を連想してください)。かといって流出を防ぐためにコンクリートでガチガチに固めてしまったら、川と森との生態系的つながりを分断し、著しく景観を損ねてしまいます。
 
そのうえ川幅を狭めることによって流れを強くし、侵食作用を活発化させるとともに、盛土(残土の山)が土石流をせき止めて上流側の川床を上昇させ、植生の変化とそれによる希少な昆虫の消失、河川水の伏流を招く可能性があります。
 
要するに、河原に残土を大量に積み上げると、川の汚濁どころか地形を変えてしまうのです。これでは環境大臣意見の要件を満たせないだけでなく、河川法に違反する可能性もあります(後述)。
 
 
(3)登山道等のレクリエーション利用の場や施設から丸見えである。
この場所は、林道東俣線沿いになります。この林道は南アルプスの登山基地である二軒小屋ロッヂに通ずる唯一の自動車道です。二軒小屋ロッヂを利用する登山客や観光客は、ここまで送迎バスに揺られてやってきますので、いやがおうでも残土捨て場を目の当たりにすることになります。
 
しかもこの林道東俣線は、評価書の「自然と人との触れ合い活動の場」に選定されており、環境影響評価をおこなったJR東海自らがレクリエーション施設と認めているのです。
 
レクリエーション施設に隣接して大量の残土を積み上げるわけですから、環境大臣意見を全く満たせておりません。
 
 
主に以上の3点、
重要な動植物の生育場所である
土砂の流出が起こるばかりか地形そのものを変えてしまう
レクリエーション施設から目の当たりになる

という観点から、この場所は環境大臣意見を満たせていないと考えられます。

また、河原に大量の残土を積み上げて環境を大きく変えてしまうことは、基本的に河川法によって禁止されています。どのように許可申請を出すというのでしょう?
 

(4)環境大臣意見どころか河川法に違反する?
河川管理のありかたを定めた河川法には、次のような条文があります。
第二十七条  河川区域内の土地において土地の掘削、盛土若しくは切土その他土地の形状を変更する行為又は竹木の栽植若しくは伐採をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならないただし、政令で定める軽易な行為については、この限りでない。
2~3 略
4  河川管理者は、河川区域内の土地における土地の掘削、盛土又は切土により河川管理施設又は許可工作物が損傷し、河川管理上著しい支障が生ずると認められる場合においては、当該河川管理施設又は許可工作物の存する敷地を含む一定の河川区域内の土地については、第一項の許可をし、又は第五十八条の十二、第九十五条若しくは第九十九条第二項の規定による協議に応じてはならない

要するに、河原に残土で盛土をおこなう場合も、木を切る場合も、河川法によって河川管理者の許可を受けねばならないのです。しかも、問題の生じるおそれがある場合は、協議にすら応じてはいけないのです。

ここでいう「河川管理」という言葉には、河川環境の保全という意味合いも持ち合わせています(第1条、第2条)。
 
河川法第27条に照らし合わせてみますと、大量の残土を河原に積み上げる行為は、明らかに河川の環境を大きく損傷し、そのうえ地形そのものを変えてしまい洗掘や河床上昇を誘発してしまう可能性が高いので、現計画のままでは、河川管理者(ここは静岡県?)は、JR東海の申請を許可してはならないはずです。
 
(ちなみに公共事業によるダムや堰などの建設の場合、設置・地形改変の申請を出す側と許認可審査をする河川管理者とが一致することが多い。その場合は内々の協議をすることによって申請は不要になると河川法で定められている。リニアの場合、あくまでJR東海による民間事業であるため、残土を河川に捨てるには河川管理者の許可が必要である。)
 
 

ところで、そもそもJR東海の主張自体にムリがあります
 
●残土を積み上げる場所は、砂利採取跡地・コンクリートプラント跡地だけにとどまるはずがないということです。
かつて採取された砂利の正確な量はわかりませんが、おそらく5万立方立方メートル程度でしょう。発電所と水路トンネル建設だけのために、何十万立米も採取するはずがないからです。
 
(砂利採取量の試算)
二軒小屋付近での水力発電の水路トンネルの長さは約8300m。
仮に水路トンネルの内径を2m、外径2.4mとすれば壁(=コンクリート)の容積は1.15万立方メートル。コンクリートのうち骨材の占める割合は約7割ということなので、使用された砂利は約0.8万立方メートル。このほか発電所自体の建設にも使われたはずであるが、全部合わせても5万立方メートル弱であろう。
 
いっぽう、JR東海がこの場所に捨てようとしている残土の量は、かつて採取された砂利の10倍~20倍を目論んでいるはずです。ということは、今まで改変されていない場所にまで残土捨て場を拡大しなければ入りきりません。
 
冒頭に、JR東海は「かつて改変された場所だから残土捨て場にしてよい」認識だと触れましたが、そんなものは到底守る気はないのです。というより、守って否たら全く処分できません
 
●それから、「評価書 第6章 知事意見への見解」や「第8章 動物」においては、先に述べたオオイチモンジおよびエサとなるドロノキについて、今年度からモニタリングを行うとしています。ということは、重要な種の生息場所であることをJR東海自らが認めていることになります。なぜそんな場所を残土捨て場に選ぶのでしょうか? 環境大臣意見などもとより守る気がないことが明白なのです。

もう、言ってることもやろうとしていることもメチャクチャなのです。
 
 


(検証結果)
千枚岳直下の大井川河原に計画されている残土捨て場については、立地条件が、環境大臣意見で求められた要件を全く満たしていない。そればかりか、河川法に違反する可能性がある。
 
ところで、今回の記載内容はすべて既存資料や地形図に基づいています。ということは、現地調査を行う前、言い換えれば計画段階環境影響配慮書の作成段階で、この程度のことはわかり、生態系保全上の重要性も認識できたはずです。それにもかかわらずこの場所を残土捨て場に挙げたのは、全くの無知か、確信犯的に自然破壊を行おうとしているかのどちらかといえそうです。
 
 

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