リニア中央新幹線は、地上の河川の配置とは無関係にトンネルを一直線に掘るため、大井川はじめあちこちの川で、流量の減少が懸念されます。
このような懸念に対し、JR東海は、環境影響評価書でこのように対策をとるとしています。
NATM工法をとることで、地下水の湧出量を減らし、河川流量への影響も小さくできるとしていますね。
NATM工法。
果たして効果はいかほどのものか?
NATMとは、New Austrian Tunnel Method=新オーストリア工法の略語。機械で岩に穴を掘り、掘ったらすぐにデッカイ鉄の棒を岩盤に打ち込み、周り一面をコンクリートを吹きつけ、防水シート等を貼り、さらに分厚くコンクリートで塗り固めてゆくという工法なのだそうです。
というわけで、NATM工法はもとより最新の土木技術を投入して建設された(であろう)、新しいトンネルの様子を見に行ってまいりました。2008年に完成した、新東名高速道路の伊佐布トンネル(工事中は清水第四トンネル)です。日本道路公団【途中からNEXCO中日本)が5兆円のプロジェクトとして造ったわけですから、最新技術の固まりなのでしょう(たぶん)。
(参考)
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
伊佐布トンネルは長さ2520m、静岡市の清水区と葵区の境をなす、標高400m前後の山地に掘られました。上下線2本掘られ、それぞれ掘削断面積が200平方メートルに達する巨大なトンネルです。
なおリニアのトンネルは、掘削断面積は107平方メートルで、南アルプスの場合、横に並行して断面積58平方メートルの先進坑が掘られます。併せて斜坑も7本掘られ、掘削容積としては、この伊佐布トンネルとは比較になりません。
ちなみにこちらは、開業前の2011年8月14日、清水区側の坑口を撮影したものです。
この伊佐布トンネルは地形図から判断すると、東(清水側)坑口の標高は約200m、西(静岡側)坑口の標高は約170mで、トンネル内に湧出した水は、すべて西側へ流れてゆき、川に流されています。こちらの川は長尾川といいます。というわけで、この長尾川に行ってきました。
こちらが西側の様子。上下線の間に造られた橋から、新東名を見上げています。新東名の路盤までの高さは40m以上あり、私の撮影場所から川底までも30mほどあります。写真左下に黒く細長いものが写っていますが、これが、トンネル湧水の排水口です。
橋から川を見下ろすとこんな具合です。
木が生い茂って分かりにくいですが、砂防ダムの直下の4か所で、水が注ぎこんで泡立っているのが確認できると思います。このうち右端の流れは、伊佐布トンネル内に湧き出した地下水です。
ここでは降りられないので、ずっと下流側から川の中をジャボジャボ上ってきて撮影したのがこちら。
結構な勢いがあるように見えます。残念ながら、動画のアップがうまくできません。
本当なら流量を計るべきですが、一人だったし何も用意してこなかったので残念ながら撤退。容量の分かっているポリバケツとストップウォッチがあれば大雑把な値は測定可能ですので、興味のある方はチャレンジなさってください。ただし堰堤直下ということで水深が1m以上あり、足場を組むか立ち泳ぎをしなければ難しいかも…。、
この写真や動画を撮影したのは今月16日です。静岡では、今年の6月以降少雨が続いており、気象台における5/1~8/17の降水量は545.5㎜と、平年値924㎜の60%しか降っていません。特に6月の月降水量97㎜というのは、1940年の観測開始以来、6月として過去2番目に少ない値でした。
ということは、撮影時のトンネル湧水量は、降雨で増えているというようなことはなく、1年を通して、これぐらいは流れ続けているように見受けられます。
上に掲げた地形図をご覧になって分かる通り、伊佐布トンネルは特に大きな川を潜り抜けているわけではありません。それでもこれだけの地下水漏出があるのです。しかも竣工したのは6年前。それ以来、止まらないわけです。
この伊佐布トンネルは、掘削断面積約200平方メートルだそうです。計算の簡略上、断面を半円とすると、周囲の長さは58mになります。長さ2520m上下線2本ですから、伊佐布トンネルの表面積(?)は29万2320㎡となります。
いっぽうリニアの工事で大井川流域の地下に想定されているのは、掘削断面積107㎡の本坑9400m、55㎡の先進坑9400m、68㎡の斜坑(非常口)6600mです。同様に半円と考えると、大井川の地下に想定されているトンネルの表面積は、合計約90万7300㎡となります。
大井川の地下に縦横にトンネルを掘り、しかも伊佐布トンネルの3倍の表面積をもつ。ということは、同じ工法をとったとしても3倍以上の地下水が流れ出してしまうのではないでしょうか…?