リニアは今秋着工!
…って、へんな報道が飛び交っています。
この先、国土交通省において、環境影響評価法第33条に基づく補正後の環境影響評価書の審査、および全国新幹線鉄道整備法第9条に基づく事業計画等の審査が行われます。
これをクリアして、初めて事業認可がなされます。事業認可が終わってから用地確保がなされ、それから各種土地改変の申請等がなされ、そこでOKが出て、はじめて着工となるはずです。そりゃまあ、品川駅構内の隅でちょこちょこ仕切りを設置するぐらいでも「着工」かもしれませんが。
さて、先月18日に環境影響評価書に対する国土交通大臣意見が出され、様々な項目について再検討が要求されました。環境大臣意見で出された「重大な懸念がある」という言葉をそのまま引用し、知事意見を勘案せよというものもありました。これを受けてJR東海が評価書の補正作業を行っていたはずですが、知事意見では1年以上を要するような調査(生物相、水環境など)を再度要求するものもあり、まともに対応していたら、たった一月程度で評価書の補正が終了しているわけがありません。
というわけで、たった一月で出された補正評価書は、何も変わっていないシロモノであろうことが、容易に想像されます。
日本政府として、「重大な懸念がある」という見解が示された評価書です。十分な補正がなされていなかったら事業認可をしてはいけません。
ところで、行政手続き上、評価書というのは次のような意味を持つとされています。
かつて沖縄県の新石垣空港設置許可の是非を問われた裁判で、東京地方裁判所が環境影響評価制度について次のような見解を述べたそうです(平成23年6月9日)。
まず、環境影響評価というものは、事業の許認可を判断するための情報を提供するために行われるとされました。
そして、その判断が違法となるのは、「その判断が事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど、免許等を行う者に付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであることが明らかである」場合であるとしています。そして、「事実の基礎を欠く」場合として、手続き上の瑕疵(かし)のために重要な環境情報が収集されないまま評価書が確定したことをあげています。
リニアの環境影響評価書について考えてみると、「事実の基礎を欠く」ものが非常に多いのではないでしょうか?
たくさんありますが、自分で目を通した南アルプスに関係する部分で、特に大きな争点となりそうな河川流量関係でいえば…
●静岡県の大井川における、実際の流量を記載していない。
●同じく大井川における、トンネル工事の影響について、渇水期の予測地点が少ない。
●山梨県を流れる河川については、流量の現地調査も工事の影響予測も全くしていない。
●長野県の青木川、虻川もトンネルでくぐり抜け、流量への影響が考えられるが、全く評価対象としていない。
●同じく大井川における、トンネル工事の影響について、渇水期の予測地点が少ない。
●山梨県を流れる河川については、流量の現地調査も工事の影響予測も全くしていない。
●長野県の青木川、虻川もトンネルでくぐり抜け、流量への影響が考えられるが、全く評価対象としていない。
これは、準備書の時点から問題となっていた項目です。さきほど30分ほどの短時間でざっと目を通したところでは、本日公表された補正後評価書においても直されていません。
これでアセス結果が固まってしまったのです。評価書における以上のような点は、現地の環境に関する情報を提供するためには不十分と言えるのではないでしょうか?
また、かつて大阪地方裁判所は、次のような見解を示したことがあります。(西大阪延伸線事業認可事件:平成18年3月30日)
「本件評価書における環境影響評価の判断の過程に看過し難い過誤等があり、被告の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告の上記判断は不合理であり、裁量権の逸脱があるものとして違法と解すべき」
要するに、「環境への影響が大きいと言える結果に対し、ヘリクツをごねて無理やり影響は小さいと言いくるめてしまったらダメよ」というわけです。
大井川の流量で考えますと、補正後評価書におけてもトンネル工事に伴う毎秒2トンの流量減少を、影響は小さいと結論付けています。
確かに梅雨時や台風シーズンなら、毎秒2トンの減少でも大きな影響はないかもしれません。ところが、元々流量の少ない冬~春先の渇水期の場合はいかがでしょうか? 上記記述とややかぶりますが、静岡県の調査(っていうか中電の報告)では、冬季の流量は毎秒2トン程度とされています。毎秒2トンの流れから毎秒2トンも減ったら、ほとんど干上がってしまいます。こんな状況となったら、河川生態系は消滅し、利水にも影響が出ます。
これでは渇水期における重大な影響を無視して「影響は小さい」と結論づけていることになります。「判断過程の看過し難い過誤」と言えるのではないでしょうか?
また、この予測の妥当性については、十分な検証がなされているとは言い難い状況であると思います。このほど初めて予測結果の検証用に相関図が掲載されました、![イメージ 1]()
この図表は、右・上に移動するたびに目盛が10倍に増えるという特殊な形式をとっています。その点にご注意ください。
おそらく、計算流量と実測流量との誤差は、絶対値としては一定の範囲内におさまっていると思われます。しかし誤差の範囲が一定ということは、実際の流量が大きいときには大したことがなくとも、流量の小さいときには、大きな誤差ということになります。実測流量5㎥/sのときの0.5㎥/sの誤差と、実測流量0.6㎥/sのときの0.5㎥/sの誤差とでは、意味合いは全く異なりますね。
先に述べたとおり、流量減少の影響が大きくなるのは流量がもとより小さいときです。その重要なときにアテにならないのでは困るわけですが、JR東海は「これで良し」としちゃったわけです。これでも国土交通省がOKというのなら、それだって、「看過し難い過誤」にあたるのではないでしょうか?
さらに言えば、「知事意見を勘案せよ」という国土交通大臣意見にも全く答えていないし、「最新の手法による流量予測のやり直し要請」にも答えていない…。
まだごく一部にしか補正後評価書には目を通していませんが、かようなポイントに注目していけば、十二分に「問題あり」といえるシロモノであると見受けられます。修正されないままで事業認可をしたら、国土交通省は違法性を問われるんじゃないでしょうか?