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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニアが運ぶ”夢”って何だろう?

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リニア中央新幹線というものは、

51年前の1962年に理論的な研究が始まり、
40年前の1973年に基本計画路線に定められ、
2年前の2011年に整備計画路線に昇格され、
2年後の2014年に着工し、
14年後の2027年に東京~名古屋間が暫定開業し、
32年後の2045年に大阪までの全線が完成する
 
という運びになっています。
 
計画のはじまりから終わりまで、実に70年以上もかかります。
 
しめて10兆円という建設費の償却が終わるのは今世紀終盤になると見込んでいるのでしょうから、全てが完結するには100年近い歳月が必要になるのかもしれません。
 
当然のことながら、この間、社会も経済も大きく変化します。それにともない、人々の価値観も大きく変化します。

社会は常に変化してゆきますが、長期プロジェクトというのは当初の目的を掲げて延々と続けなければならないのが宿命です。それゆえ時代の変化とのギャップが生じてしまい、突然目的を変更したりして、無用な社会的混乱に陥ってしまうケースも多いようです。
 
水が余っているところへダム建設、
減反政策の一方で進められる干拓事業、
需要が減りつつあるのに際限なく高速道路をつくる、
木なんて切るつもりがないのに大規模林道をつくる
いろいろとムリだと分かってきたのに核燃料サイクルをやめられない…
 
いろいろありますね。
 
リニア計画は超がつくほどの長期プロジェクト。そして東京~大阪を1時間で結ぶ「夢の超特急」。計画当初の1970年代の思想や価値観に基づく”夢”を、今世紀半ば以降にまで必然的に引きずっていかねばなりません。
 
その”夢”はどんな価値観によって支えられているのでしょうか。そして「高度成長期のタイムカプセル」とでも言うべきリニアの建設により、どんな社会を後世に伝えようとしているのでしょうか?
 
リニア計画に携わる人々の思想を垣間見てみようかと思います…
 
●田中角栄『日本列島改造論』
リニア計画の発端となった本だそうです。日本が土建社会へと突き進むきっかけとなったものと位置づけられています。とにかくカネをばらまいて日本列島をコンクリートで固めてしまおうという趣向。
 
●国交省中央新幹線小委員会の答申
・リニアが完成することにより、単に移動時間が短縮されるだけでなく、国民に技術立国としての自信・自負と将来社会への大きな希望を与える。
・6000万人都市が出現することにより国土構造を変革するとともに国際競争力を大きく向上させる。
・磁界、緊急時の安全性、環境保全、トンネル掘削等、様々な課題は技術的に対処可能である。
とのこと。要するにまあ、人々の生活は常に変革し続けていかなければならず、リニアはそれを叶えてくれるとのこと。
 
リニア開発にあたった鉄道総合技術研究所が編集した『ここまで来た!超電導リニアモーターカー ―もう夢ではない。時速500キロの超世界』 の巻末268ページ目より
「人々は自分たちの生活をより便利にしたいという欲望を持っている。この欲望は、その時代々々の技術レベルを超えていて、それが常に技術の進歩を促してきた。物質的豊かさを求めてきた社会の意識構造が、近年では、精神的・文化的な豊かさを重視し、「量」から「質」へと転換してきた。輸送手段に対しても、より高速で、より快適で、より環境に適合したシステムを求めている」

●信濃毎日新聞 国土交通省中央新幹線小委員会の家田委員長のインタビュー
「電力不足が心配だ」という質問に対し、「電力消費はそれに伴ってどんなメリットを生むかというバランスが重要。電力消費を考えて、より高度な乗り物の開発や整備をやめようという国では将来がない」
●同じく家田氏が、建設通信平成23年1月1日号に寄せたリニア計画推進を強くPRする文章…
長ったらしいから、かいつまんで引用。
『国内の社会資本整備では維持管理やストックマネジメントばかりを重視するなど、現在の日本が陥りがちな世界観を指摘し、そうした閉塞感の漂う風潮に異を唱える。現状をそれほど落とさないようにしようと思った時点で、ベクトルは下に向かってしまう。「リノベートして上に行こうとしなければ現状維持すらできない」と警鐘を鳴らす。』全文はこちら
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/archive/2012/04/04
 
●中央新幹線沿線学者会議(2001)『リニア中央新幹線で日本は変わる』より
 リニア中央新幹線の開通によって日本の動脈の質的・量的グレードアップが実現されれば、三大都市圏の集積のメリットを最大限に活かすととともに日本列島全体の時間距離を短縮し、経済社会活動の効率性をさらに高めることが可能になるということである。
 日本が活気ある経済活動を維持し、21世紀の国際社会をリードしてゆくためには、限られた国土の潜在的機能を最大限に引き出してゆく必要があるだろう。つまり、美しい自然、歴史、風土をうまく取り込みながら、三大都市圏を約1時間で結び、効率的かつ巨大な経済圏を実現してゆくこと、全国の人と人との交流を可能な限りスムーズにして快適な生活圏を作りあげていくことが必要なのである。
(中略)
 ところで、リニア中央新幹線に対しては、財源などの問題からその建設を時期尚早とする声もある。確かに今の日本は財政難にあり、賞しか・高齢化にともない今後も余力投資の減少が進行すると見込まれている。しかし、社会経済的な総合効果でなく、交通事業者の採算性だけにとらわれた萎縮した公共投資に終始していたならば日本の将来の発展はない。』
 
●産経新聞の「ちょうちん記事」
【目覚めよ 日本力】
〈次世代技術〉超電導リニア、世界唯一の500キロ台鉄道が実現へ 

●肝心のJR東海
どういう姿勢で進めようとしているのかよくわかりません。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/chuoshinkansen01.html
 
(参考)JR東海の葛西会長
「原発継続しか活路はない」
福島の原発事故から2ヶ月の時点でこれを公言したとは・・・。
 
 
以上の発言等からでも感じられるように、リニア中央新幹線のもつ”夢”を通じて受け継がれていく価値観とか思想というと、
・科学技術の発達は疑いもなくよいことである。
・科学技術発達のデメリットなど許容せよ。
・日本は今後も技術立国でなければならない
・エネルギー消費が増えるのは経済成長の証し。
・経済成長は際限なく続くし、そうでなくてはならない。
・人間は忙しければ忙しいほどよい。ヒマな時間など許さん。
・都市が巨大化するのはよいことだ。
・自然環境の保全なんて二の次、三の次。っていうか、自然は人間に征服されるべきもの。
・乗り物は速ければ速いほどよい。
・計画に市民が関わることなんぞ考えてもいない。
といったところだと思うのですよ。
 
なんだかんだ言っても、昭和30~60年代の、科学技術発達や経済発展を最上のものと仰ぎ、それをもたらすお上や科学者が絶対的な発言力を持つと見なされていた、高度成長期の頃を象徴する考え方を色濃く反映していると思います。
 
こうした考え方が経済成長に寄与し、社会が(物質的には)豊かになり、様々な技術や知見が積み重なってきたことは事実です。
 
 
でもいっぽうで様々な問題を引き起こしてきたことも紛れもない事実です。
 
現在、顕在化している様々な問題-例えばエネルギー問題、環境問題、自然破壊といったもの-は、こうした価値観が持ち合わせている根本的な矛盾に基づいているといえるでしょう。
 
様々な科学技術が発達するにつれ、災害の誘発、バイオテクノロジー発達にともなう諸問題、IT犯罪など新たなリスクも増える一方です。インフラの老朽化、借金大国、東京への一極集中など様々な社会的な弊害も引き起こしていますし、大事な決定に対し、市民が意思表示できないという状況も変わりません。原発事故というのはこうした価値観の抱く矛盾が最大・最悪の形で現れたものでしょう。
 
伝統とか知恵とか知識とか良好な自然環境といったものなら、いくらでも受け継いでいってくれて構わないけれども、超伝導リニアのような”問題が多くてキワどい”科学技術に依存した社会というのは、けっして持続可能ではないし、社会にも自然環境にも負担が大きいわけです。そういう意味で、安易に未来へ受け継がせていってはマズイ価値観をも併せ持っているのではないでしょうか?
 
そして、これが肝心だと思うのですが、科学技術がどうのこうのと言う以前に、何をもって幸福と感じるかという価値観も、高度成長期とは全く異なっていることに目を向けたほうがいいんじゃないでしょうか。

(参考)NHK『「絶望の国」の幸福論、視聴者の反応は』
http://seiji.yahoo.co.jp/close_up/1283/
 
少なくとも今の時代、科学技術の発達が人々の幸福につながるなんて単純な考え方をしている人は、あんまりいないと思います。
 
 
 

別に科学技術を捨てろとか、江戸時代に戻れとか、そういう極端なことを言っているわけじゃあございません。
 
ただ、社会全体が方向転換しなければマズイ…ていうか、変化しちゃっている時代なのに、時代錯誤な面が強い”夢”を、さらに40年も50年も先にまで引き継がせるってのはおかしいんじゃないかな~?と思うわけであります。
 
こういうことも議論すべきだと思うのですよ。

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