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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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社会的合意の見込めない大型事業の行く末 ―北海道千歳川放水路と比較―

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リニア工事関連銘柄が急上昇したらしいけど、投資家としては読みが甘い!!
 
 
アセス評価書を読めば、こんな事業計画で社会的合意を得られるはずがないのは一目瞭然である!!
 
いや、マジで。国土交通大臣が評価書について出した意見を事業者が完全に無視し、そのうえ大臣自ら見過ごして事業認可させた例は、あの諫早湾干拓事業だけなのだから。そんなアホな事業に地元は協力できない可能性が大なのである。


本日、デタラメだらけなアセス評価書のまま、リニア中央新幹線計画が事業認可されました。
 
東京‐名古屋を47分で結ぶという壮大な目標の反面、事業計画がムチャクチャで環境負荷が甚大なうえ、とどめをさすように環境影響評価書がデタラメであったため、はっきり言って、沿線となる自治体や地域住民の合意は全く得られそうにない状況下での事業認可となりました。
 
(合意が得られそうにないどころではなく、適切な原告を選んで、国交省を相手に、評価書の問題点を根拠に訴訟を起こせば、事業認可は取り消されるのでは?と思うのであります。)
 
超巨大プロジェクトが、社会的合意が得られないまま見切り発車するとどうなるか、よく似たケースが過去にあったので、ちょっと見比べてみましょう。そういった事業には成田空港とか八ッ場ダムとか諫早湾干拓事業とかいろいろありますが、その中でも事業規模が空間的にとりわけ巨大であった千歳川放水路計画というものを例に挙げてみます。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
北海道の中央部を流れる石狩川。流域面積全国第二位の大河川です。中下流域は現在でこそ一面の水田となっておりますが、もともとは広大な湿原でした。本来は釧路湿原よりも広大であったといわれています。
 
さて、湿原を干拓したのですから、必然的に流域では洪水の被害が多発します。特に、石狩川と千歳川との合流点付近(江別市付近)での水害が深刻であったようです。この洪水被害を軽減しようと考えだされたのが千歳川放水路計画でした。
 
計画が具体化したきっかけは1981年8月のの大洪水でした。台風の通過によって長雨となり、石狩川が大増水しました。このため支流の千歳川の水が本流に排水できなくなり、逆流するような形であふれ、浸水家屋が2万6000棟を超える大規模な災害となりました。
 
この対策として北海道開発局が、洪水時に千歳川の水を巨大放水路で太平洋側に流してしまおうという計画を出し、1982年3月、建設大臣が工事実施計画を正式に決定しました。
 
イメージ 1
 
計画の概要は、長さ38㎞、幅400mの巨大な人工河川をつくり、本来は石狩川を経て日本海に注いでいる千歳川の水を、増水したときには水門をあげて放水路に逆流させ、太平洋側の苫小牧市方面へ流してしまおうというものです。完成していれば、東京の荒川放水路や新潟の大河津分水路をはるかに上回る、巨大な放水路となるはずでした。
 
しかし17年間の紆余曲折を経て、1999年7月、計画は中止となります。
 
巨大な放水路は、確かに洪水対策としては劇的な効果を生みます。反面、それにともなうデメリットも大きく、周囲への配慮がいろいろな面で不可能であり、しかも計画が大きすぎて利害調整がつかなくなってしまったのです
 
【議論の過程で浮上してきた主な懸念事項】 
●途中に、ウトナイ湖という生態系の保全上重要な湿地があり、その近傍で開削をおこなうため湿地の水源を枯渇させると予測された。
●このウトナイ湖は1991年、ラムサール条約で国際的自然保護地域となり、その保全は国際的にも無視できない問題となった。
●1億立方メートルに及ぶ膨大な残土が生じるが、行き先が示せなかったらしい。
●放水路は石狩川流域とは無関係の苫小牧市で海に出るため、洪水時の濁流は苫小牧市に流されることになる。このためなんら放水路建設のメリットのない苫小牧市において、甚大な沿岸漁業被害が予想された。
●酪農地帯を分断してしまう。
 
【計画の進め方における問題点】 
●放水路が必要だとする根拠となった、洪水時の流量試算値が過大なものであるという指摘がなされた。
●放水路計画以外の案を、あまりよく考えることなく北海道開発局自ら消去。
●5000億円の建設費。
 
こういうように、いざ実現させようとしたら、さまざまな問題が一挙に噴出し、湿地の保全を求める市民、日本野鳥の会や日本自然保護協会をはじめとする自然保護団体、専門家、漁協などを中心として大きな反対運動が巻き起こりました。しかも、こうした問題に対する解決方法を北海道開発局が見いだせないまま月日は経ち、肝心の洪水対策がおざなりになるという事態となってしまいました。
 
「いつまでこんなことをやってるんだ」と大蔵省や建設省からも注文がつき、1997年9月、北海道知事のもとに、学者や反対派住民、それから北海道開発局までを勢ぞろいさせた会議が設置されることになりました。
 
その会議の出した提言は「放水路は中止し、洪水対策としては堤防強化と遊水地建設を基本に考えるべき」というものであり、知事はこの旨を北海道開発局に伝え、また紆余曲折を経て、1997年の中止となりました。

千歳川放水路とリニア計画。放水路と鉄道という全く別のものなのですが、事業計画や問題の性格が瓜二つなんですよ
 
【共通点1 前代未聞の巨大プロジェクト】
千歳川放水路は、放水路建設としては日本史上最大のものである
リニアについては言わずもがな
 
【共通点2 大きな自然破壊】
前述の通り、放水路事業は貴重な動植物の宝庫であるウトナイ湖を消滅させかねない事業であった
リニア計画においては、水枯れ、膨大残土、大量ダンプなどで南アルプスと大井川がメチャクチャになるのをはじめ、岐阜においても、希少な植物の宝庫である小湿地群を破壊する可能性がある
 
【共通点3 水源の枯渇】
ウトナイ湖は東西を緩やかな台地に挟まれており、その台地中を流れてくる水が低所で湧きだすことによって涵養されている。放水路計画は、その台地をウトナイ湖の湖面以下にまで開削する計画であり、湖に流れ込むべき水を引き込んでしまうことが予測された
リニア計画においては、一級河川大井川の地下に総延長26㎞ものトンネルを掘るため(本坑、先進坑、斜坑)、毎秒2トンの河川流量減少が起こるとJR東海がアセスで試算。水系の配置と関係なく一直線に大断面トンネルを掘るため、あちこちで同様の懸念がある
 
【共通点4 水源枯渇への対策が実現不可能】
千歳川放水路の場合、放水路両岸に深さ20~30mの止水壁を設け、山側にたまった地下水をポンプアップでウトナイ湖に放流するという案が出された(東京電力が福島第一原発の事故処理でやっていることの巨大版)。
リニアの場合、通常の防水対策以外に何も案を考えていない。問題が起きたらカネでどうにかしようとしてるフシがある
 
【共通点5 計画中にルート途中が国際的自然保護地域となる】
放水路計画が正式決定したのは1982年3月。その後、ルートの中ほどにあるウトナイ湖は1991年10月、ラムサール条約に登録されることになる
南アルプスルートでのリニア建設指示が国土交通省から出されたのは2011年5月。その後2014年6月、南アルプスはユネスコエコパークに登録されることになる
 
【共通点6 大きなメリットが出る地域がある一方でデメリットだけを受ける地域が出現】
千歳川放水路は上述の通り、千歳川流域の洪水対策としては劇的な効果が見込まれた。しかし石狩川流域とは全く関係のない苫小牧市で太平洋につながることになる。放水路から吐き出される濁流による沿岸漁業への甚大な悪影響に加え、苫小牧市の土地が大きく削られてしまうことになる
リニアの場合、メリットを受けるのは基本的に東京・名古屋だけである。東京と名古屋とを47分で結ぶために南アルプスをぶち抜く。このためリニアのメリットとは全く関係のない静岡県静岡市の南アルプス山中に膨大な残土を捨てることになる。生態系や景観の破壊、それに災害誘発の危険性まで懸念されている。その上62万人の生活を支える大井川の水を、大量にトンネル内に引き込んでしまう。同じく南アルプス山中の長野県大鹿村においても、リニア開業によるメリットはほとんどないと思われる一方で、残土運搬にともなう甚大な環境破壊や川の枯渇が懸念されている
 
【共通点7 目的達成のための代替案を考えていない】
千歳川放水路計画の場合、放水路以外にも石狩川本流の拡幅、堤防の強化、遊水地の整備など9つの案があったらしいが、特に議論されることなく放水路計画が選択された。これに固執したため肝心の洪水対策が実施できないこととなり、放水路計画中止の原因ともなった
リニアの場合、いろいろな角度から、走行形式やルートについて考えるべきであるけれども、リニアの実現こそが目的であるため代替案の検討の余地がないというおかしな状況
 
【共通点8 計画の立案段階で環境対策を考慮せず】
千歳川放水路の場合、最初はウトナイ湖をぶち抜くルートを考えていたほど、自然環境への認識が欠けていた。それに、漁業被害を認識していたら放水路計画は最上のものとはいえなかったはずである
リニアの場合、計画にお墨付きを与えた中央新幹線小委員会、技術評価検討委員会どちらも、環境面からの審査はしていない。審議会のメンバーにも環境保全の関係者は一人も参加していない。(千歳川放水路の時代から20年経つのにこの認識)

繰り返しますが、千歳川放水路計画が中止となったのは、あまりにも巨大な計画であって利害調整ができなかったことと、建設目的に説得力がなく社会的合意が得られなかったことが、根本的な原因といえるでしょう。

利害調整ができなかったというのは、「住宅や農地への被害を漁業被害に転嫁させる。千歳川流域で防災効果が見込めても、苫小牧市では環境破壊だけが生じる。」ということが挙げられます。被害の種類と場所が変わるだけという見方ができてしまったのです。
 
合意を得るといういのはカネの問題だけじゃありません。その事業が、慣れ親しんだ故郷や豊かな自然環境を破壊してまで進めねばならない目的を備えているか否かを、よく話し合うことが重要ではないでしょうか。すなわち、治水目的とはいえ、大きな自然破壊や地域社会の破壊を侵さねばならない放水路というものの必要性を、北海道開発局が説明できなかったことに起因するといえるでしょう。他の案に比較して放水路の優位性を説明できなかったともいえます。
 
計画の早期段階で、行政や専門家のみならず、洪水被害に会った地域住民、漁協、自然保護を訴える人々を一堂に会した協議の場を設け、その場において合意に達した治水対策であれば、これほどの混乱はなかったのではないでしょうか。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
リニアの場合、「民間事業」ゆえに「経営に関わらない外野は黙っていろ」という意見まで聞かれますけど、大型プロジェクトというものは地域住民の合意を得て初めて成功するものですから、それを無視せよというのは暴論以外の何物でもありません。
 
むしろ、JR東海はじめ推進する側がそのような認識のままに進めるのであれば、千歳川放水路以上の紛争状態に陥るのは間違いありません。そして事業者であるJR東海は、地域住民はもとより、地元自治体の信頼を得ることを避けてきたようにしか見えないのです。知事から出された環境影響評価準備書の修正要求にすら応じなかったという異常な対応は、JR東海のもつ悪しき態度の分かりやすい例といえるでしょう。
 
⇒環境影響評価書 静岡県編の問題事項
 
⇒静岡県における発生土置場の問題点
 
静岡の人間ですので大井川や南アルプスの話になりがちで恐縮ですが、南アルプスに大量の残土を捨てたり、大井川から62万人分の水を消し去ったところで、南アルプスおよび大井川流域の住民には、リニア開業のメリットは何もない。JR東海は、リニア開業によって東海道新幹線のダイヤが便利になるという説明をしていたけれども、それがムチャクチャな自然破壊と等価であるかは疑問があります。
 
千歳川放水路の場合は「人命と財産を守る」という立派な目的がありましたが、リニア計画の場合はそれもないわけです。人口6000万人のメガ・リージョン(なんだそりゃ?)をつくるとか、世界の最先端をゆく技術革新とか、SFのような事業目的を並べても住民が納得できるわけがないし、東海地震対策だといっても妥当性を検証したわけではない。結局、事業目的が何なのかよくわからない。ですからハッキリ言って、静岡県としてはそんなものを受け入れる義理も義務も筋合いもないわけですよ。
 
メリットはおろか、納得できる事業目的の説明もないのに、「人口6000万人のメガ・リージョンをつくるために南アルプスに残土を捨てさせなさい。国から事業認可はもらっていますので。」という態度で進めようとするのですから、地元としては拒否しなければ面子もたたない。まして大井川の水は生活に直結するものであり、それを明確な目的もなく奪うのであるのだから、地元自治体としても態度を硬化せざるを得ないでしょう。
 
千歳川放水路計画の場合、北海道開発局は地元の自然保護団体や地域住民との協議を何度も開いていました。単なる説明会ではなく、話し合いの場を一応設け、反対派グループの開いたシンポジウムにもきちんと出席していたのです。
 
ところがJR東海においては、住民との協議の場はこれまでいっさい設けず、環境影響評価手続きに基づく説明会の場でも質問回数を制限したり、沿線事務所は平日日中にしか開かいていないなど、合意を求めるどころか住民との接触を避け続けてきました。
 
今後も一方的な工事説明会しか開かないとしていますから、これでは、永遠に合意形成は不可能でしょう。
 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
要するに、リニアは千歳川放水路と比較しても、さらに事業規模が大きく、環境への配慮に乏しく、そのうえ事業の必要性の根拠が希薄であるがために、直接に向き合わなければならない人・地域に対して、必要性を認識して合意に達してもらうことが絶望的だし、JR東海にその合意形成能力は皆無に等しいとみられるのですよ。
 
国土交通大臣からの事業認可は得ても、社旗的合意を得ることは絶望的であり、問題が噴出して泥沼化するのではないかと思うのであります。
 
ゆえに、千歳川放水路を同じ道を歩んで自滅するのではないでしょうか。

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