静岡編の環境影響評価書と事後調査計画書を検証していてまたも気になる点がありました。
JR東海は、大井川の水について、事後調査つまりモニタリングを行うとしています。その理由について、評価書には次のように書かれていて、これが気になりました。
赤い線を引いたところに、「地下水を利用した水資源に与える影響の予測には不確実性があることから、環境影響評価法に基づく事後調査を実施する」とあります。
静岡県でリニア工事によって水資源に影響を与えるとすれば、誰しも大井川を思い浮かべますよね。工事を行うのは大井川の源流であり、しかも評価書には流量が毎秒2トン減るという予測も出ているからです。
その大井川の水利用形態は、基本的に、川をダムや堰でせき止めて水を引いてくるという使い方です。つまり、大井川水系でいう”水資源”とは、常識的には河川水を意味するはずです。
でも評価書には地下水を利用した水資源と書かれていますよね。
う~ん、何だこりゃ。
また間違いだろうと、ずうっと見過ごしておりました。
ところが改めて評価書を読み返すと…
調査地域とは、対象事業実施区域及びその周囲で水資源への影響が生じる恐れがあると、JR東海が認める地域であるとしています。
これを見過ごしていた…。
ここでいう「対象事業実施区域及びその周囲で水資源への影響が生じる恐れがあると、JR東海が認める地域」というのは、畑薙第一ダムよりも北側だけをさしています。
ゆえに、調査・予測する地点は、畑薙第一ダムよりも上流側にある発電所と、登山施設の井戸2本だけに限られています。
で、流量が予測するという結論が出ているわけですが、
このような環境保全措置を行い、場合によってはポンプでトンネル内への湧水をくみ上げて川に戻すから、流量の減少は最小限にとどめることが可能であり、したがって水資源(つまり水力発電所)への影響は起こらないとしています。
ただ、地下水位への影響予測には不確実性があるとしています。ですので冒頭の通り、地下水を利用した水資源つまり井戸への影響を見定めるために、法に基づいてモニタリングをおこなうとしたわけです。
冒頭の部分を繰り返します。
お分かりいただけたでしょうか?
環境影響評価法に基づいて行うとしている河川流量モニタリングは、下流の島田市や掛川市など、大井川から水を引いて使っている地域のために行うのではなく、あくまで「登山施設の井戸」のためなのですよ。
先日28日、島田市で大井川の利水関係者を対象として、事後調査計画についての説明会が開かれました。これは非公開で行われています。このことについて(当然ながら)批判があるようですが、島田市等は環境影響評価書における”対象事業実施く危機”ではなく、JR東海の認めた「影響がある地域」でもないので、説明を行うのはJR東海の”自主的”な行動となり、住民など無視しても構わないのです。
まあ、「しょうがないからつきあってやる」って感じ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「対象事業実施区域」や「調査範囲」については、別な問題に含んでいるかもしれません。
かつて小田急線の高架化事業がもめて裁判になったことがあります。この裁判の際、「原告適格があるのはどこの住民か」という判断も、争点になったそうです。結局、最高裁まで突き進んだわけですが、最高裁は高架化事業のアセス根拠となっていた東京都環境影響評価条例でいう「関係地域=対象事業実施区域」に居住する住民に適格を認めたそうです。
これ以降、裁判所は、環境問題が裁判の争点となる際、原告適格審査には環境影響評価法・条令の対象事業実施区域の住民に適格を与えることが高齢になっているとのこと。
静岡県におけるリニアの対象事業実施区域は、南アルプスの山中です。居住する人はゼロです。
もしも静岡県民が南アルプスや大井川の流量減少を訴えようと思っても、裁判所がこれまでの慣例を引き継ぐなら、や大井川の水利権を所有する限られた者(農業関係者、法人、自治体等)を除いて誰にも原告適格が与えられず、裁判を起こすことすらできなくなってしまうかもしれません。
もっとも、リニア計画の根拠となっている全国新幹線鉄道整備法の第1条は、同法の目的について
「この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。」
とうたっており、国民という言葉を2度も使っているので、これに異を唱えるのは国民なら誰でもよいという解釈も成り立つかもしれませんが…
杞憂だといいのですが。
しかしまあ、ここまで調べて、JR東海とはある意味で、本当にすごい企業だなあ…と痛感しました。
本当に静岡および南アルプスのことを、邪魔者か障害物にしか思っていないのでは!?