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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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南アルプスでのリニア残土は防潮堤造成には使えません

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最近、静岡新聞の投稿欄に、「南アルプスに出されるリニアの残土を海岸に運んで堤防造成に使えばいいのではないか」という意見が散見されます。
 
このような話、Yahoo!知恵袋でもよく見かけるし、リニアを推進すべきだとする方のブログなどでも見かけます。
 
最近は不明ですが、2011年ごろには、静岡県内の市議会・県議会議員でも、このような主張をされている方がおられたようですし、川勝県知事も、2011年時点では「リニアの残土は良質な建設材料になる」とおっしゃっていたので、同じような考え方が根底にあるのかもしれません。
 
南アルプス山中に大量の残土(発生土)を捨てることによる環境破壊を懸念してのことと思われます。確かに、このブログでもさんざん文句を書いてきました。標高2000mの稜線上とか、大規模山崩れ直下とか、どうしてそんな場所に残土を捨てるんだと。ですから、運び出した方がいいんじゃないかという、そのお気持ちは理解できます。
 
しかしですねえ・・・
 
運び出せないのがそもそもの問題なのですよ。

静岡県内に掘り出される発生土は、360万立米と試算されています。
 
お隣長野県大鹿村の場合、村内4か所の斜坑より、300万立米の発生土が掘り出される見込みです。村内に処分場はないので、全量を村外に運び出すことになります。
 
静岡において、「防潮堤工事に使う」ことを実行するのなら、同じ状況になりますよね。
 
大鹿村では、4つの斜坑から一気に集中して掘り出される時期があるため、工事最盛期となる着工後4年目には、1日に863往復、計1736台の大型車両が、村の中心道路を行き来することになります。作業時間を1日8時間とすると、1分間に3台の車両が通行することになります。
 
これはムチャクチャな話です。そもそも山村の道路ですから、中心道路といっても片側1車線です。そこに863往復の大型ダンプや大型トレーラーが入ってくる。道路事情からみて物理的に無理な話でしょう。時速30キロで走行するなら、片側の車線には常に、常に167m間隔で大型車両が並んでいることになります。反対側からも同じ間隔でやってくるわけですので、これでは道を渡ることもままならない。しかもこんなことを押し付けても、村には何のメリットもない。

静岡の話に戻ります。
 
もしも360万立米を海岸まで運ぶなら、南アルプス山中に計画されている残土運搬トンネル1本は不要となるので、運搬量は340万立米程度となります(これでも、大鹿村を上回る量)。この340万立米という量が、南アルプス山中の二軒小屋という場所に掘り出されます。
 
工事期間を仮に9年とします。

★2027年開業のために、2016年に斜坑掘削開始、2024年にトンネル完成と仮定。本当なら評価書に工事日数や工期の詳細を書くべきだけど、何も書かれていないのであくまで予想。土曜日も工事を行うつもりらしいので年間作業日数を290日と仮定。
 
340万立米÷(10年×290日/年)=1172立米/日
ダンプカーの積載容量は5.5立米なので、必要な台数は
1172立米/日÷5.5立米/1台=213台/日

というわけで、10年間毎日、ひたすら同じ量ずつ搬出すると仮定した場合、それだけの日数の間、単純計算で新たに213往復のダンプカーが必要となります。
 
ところで静岡では、冒頭に記したように、発生土は全て南アルプス山中に埋め立てることになっています。ですから、南アルプスへの入り口にあたる井川ダムを通行する工事用車両には、基本的にダンプカーは含まれず、大部分が資材を出し入れする車両に限られます。環境影響評価書によると、その井川集落では、最盛期に1日216往復を予想しています。
 
発生土を海岸にまで運ぶのなら、この216往復の資材運搬車両に、さらに213往復のダンプカーが加わることになります。
 
ですから、「平均毎日400往復」というのが、発生土を海岸まで運び出す場合に必要な台数になるといえるでしょう。

さて、二軒小屋から海岸まで運び出すことを考えます。
イメージ 1
まずは、25㎞先の畑薙第一ダムを目指します。
 
畑薙第一ダムまでの道路は、林道東俣線といって、静岡市の管理している林道です。一般車両の通行は禁止されています。幅員は4mであり、ダンプカーのすれ違いは困難です。しかも未舗装で四六時中路肩が崩壊していますが、そんな条件であるため、動物が平気で横断しているし、路肩にも希少な植物が分布しています。。途中、二軒小屋ロッヂ、椹島ロッヂという登山施設があり、登山口との間を行き来する登山客が歩いています。ここまで約1時間半
 
畑薙第一ダムから先は、県道60号線を通って、さらに26㎞先の井川ダムを目指します。
 
前半はやはりヘアピンカーブの連続する崖際の道です。後半は井川集落内を進みます。大型車両ですので、井川ダムまで26㎞の距離でもやはり1時間ほどかかります。ここまで2時間半
 
井川集落を過ぎ、ダムサイトまで行けば、道路が二手にわかれます。県道60号線をそのまま進めば、ヘアピンカーブの連続する峠道を経て40~50㎞先の静岡市街地に向かい、大井川沿いに進めば、大井川川沿いのヘアピンカーブの道を進み、80㎞ほど進んで島田市街へ到達します。ちなみに井川ダムと静岡市街地を行き来するバスの所要時間は2時間半ですので、ダンプカーでもこのぐらいかかるのでしょう。海岸までもう少し距離がありますから、井川ダム~海岸は最短で3時間程度
 
といいうわけで、海岸までは片道5時間以上かかるとみられます
 
 
また、夜間に山道や静岡市街地を走行することはできないので、発生土を運び出すダンプカーは、全て午前中に二軒小屋を発たねばなりません。したがってものすごく車両が集中するはずです
 
午前中に資材を出し入れするトレーラー等が100往復として、そこにさらにダンプカーが200往復⇒幅員4mの東俣林道で、半日にダンプカーや大型トレーラーが300往復
 
物理的に不可能なのです。物理的に不可能なうえに、井川集落がダンプ公害に巻き込まれてしまうことになります。
 
また、こんなことを実行するなら、林道東俣線を大規模に拡幅する必要が生じます。延長25㎞にわたって山肌を削り取るか、川岸を埋め立てるかせねばなりません。
 
これはこれで、大規模な自然破壊・景観破壊となってしまいます。川と森とを25㎞にわたって完全に寸断してしまうことになるので、生態系の破壊という点では、残土処分場建設よりも悪質かもしれません。
 
★大井川鐡道を使って運び出せば…と思う方もいらしゃるかもしれませんが、どのみち井川駅までは大量のダンプカーで運ばねばなりません。したがって林道東俣線を拡幅せねばならない、井川集落内を通行せねばならない、という点は変わらず、環境保全という点では無意味なのです。
 


以上のように、南アルプス山中に出した発生土を海岸まで運び出すことは不可能です。運び出そうとすると、別の環境破壊をもたらしてしまうのです。
 
JR東海自身、運び出せないことは百も承知なので、稜線上や山崩れ直下に捨てるというとんでもない案を、本気で打ち出してきたわけです。
 
ですから、問われるべきは、「どうやって処分するか」ではないのです。
 
南アルプス山中に掘り出してもいいのか?ということが問われねばなりません。
 

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