前回は、大井川の流量減少が起きた場合の対策としてJR東海が表明した導水路建設案は、生態系への対策としては全く無意味であることを指摘しました。
ところで、これは工事終了後における万一の場合の話。
工事が始まっていない現段階では、先のことはもとより、JR東海がこれまで行ってきたという河川流量調査が、適切かどうか、よく検証しなければなりません。
2013年9月、環境影響評価準備書において、トンネル工事により大井川の流量が大幅に減少するという試算結果が出されました。
試算結果について、このブログでは、試算の前提とした現況解析値が疑わしいうえ、その妥当性を検証するための根拠、つまり現実の河川流量が評価書に記載されておらず、評価書として不適切であるという指摘を何度もしています。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Clik here to view.

図1 河川流量予測地点
環境影響評価書を複製・加筆
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Clik here to view.

表1 河川流量予測結果
環境影響評価書を複製・加筆
赤く囲ったのが、「大井川の流量が毎秒2トン減る」という騒ぎの発端となったもの
環境影響準備書や評価書というものを作成するのは、事業者の予測結果や環境保全措置が妥当かどうか、住民や自治体が検証するためです。それが検証できないつくりになっているので、これでは無意味と言わざるを得ません(ところが日本のアセスは事業者性善説にたっているので、どんなに内容が悪かろうと、強制的に修正させることができない)。
自らの河川流量観測結果に信頼を持てないのか何だか知りませんが、JR東海は、着工前の1年間、毎月1度、トンネル近傍の河川において河川流量の測定を行うとしています。この観測結果をもって、工事中のモニタリング基礎とするそうです。
ところが1年間の観測では、たまたまその年が通常よりも降水量が大幅に異なっていた場合でも、その値が「通常の値」として認識されてしまいます。しかも、月に一度の観測では、年間変動を把握できるはずがありません。
(例えば今年の12月は、頻繁に低気圧が通過したため、太平洋側でも降水量が多く、南アルプス周辺でも平年の2倍となっている。河川流量が例年より多い可能性があるし、春の雪解け水も多いかもしれない。)
それゆえ、今年11月18日に県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議においても、このような疑問を念頭において、「複数年間にわたって観測を行うべきではないか」という質問が出されました。
これに対するJR東海の見解は、いろいろと驚くべきものでした。
県庁のホームページより、質疑結果を貼り付けます。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Clik here to view.

表2 静岡県中央新幹線環境保全連絡会議(平成26年11月18日) 質疑
質問は、流量の変動を把握するために、複数年間の調査を行うべきではないかというものです。それに対しJR東海は、「平成18年から調査を続けているため流量の変動は把握している。だから追加調査は不要である。」という見解を述べたのです。
???
平成18年から観測している?
ならば、把握している状況を示してくれと思うのが普通の感覚ですけど、冒頭に述べたとおり、現実の河川流量は、環境影響評価書をいくら見回しても載っていません。流量観測結果を把握していると言っているのに、その結果が、これまで一度も公表されていないのです。
「把握している」といっても、そのデータを公表しないことには、本当に把握しているのかどうかさえ、疑われても仕方がありません。繰り返しになりますが、環境影響評価手続きでは、そうした観測結果を明らかにして、事業者がどのように環境配慮しているのかを公表し、環境保全の見地からの意見を受けつけるものなのに、公表もしないで「把握している」と言っても、まったく無意味なのです。
これでは「情報隠ぺい」と言われても仕方がないでしょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、南アルプスルートを選定すれば必ず大井川をトンネルで潜り抜けることになるので、関係者なら誰しも、何となく川に影響が出そうだなと思うはず。
JR東海は、いつから、大井川への流量に与える影響を検討し始めたのだろう?
流量の問題に関心を持ったとき、真っ先に抱く疑問ではないでしょうか?
今年1月に静岡市で開かれた公聴会において、牧之原市長も、このような疑問を述べておられました。
公聴会の様子はYouTube動画でご覧になれます。
さて、今年8月の補正評価書には、こんな図があります。
Image may be NSFW.
Clik here to view.![イメージ 4]()
Clik here to view.
河川流量を予測するに使用したモデル式の、再現性を確認するための図と称しているものです。再現性つまり河川をコンピュータ上で表現したとき、その仮想の河川に流れている流量が、現実の河川流量を、どれほど的確に表しているかを検証するための図です。縦軸が計算上の流量、横軸が現実に観測した流量になります。
そもそも、この図そのものが、どうしようもないシロモノなのですが、逐一詳しく取り上げるとキリがないので、それは横に置いておきます。
【具体的な問題点】調査地点が不明。相関性が観測年によって異なるのか地点によって異なるのか判断できない。年2回の調査で何が分かるのか不明。対数目盛を使用しているために誤差が小さく見える…といったところ。
【具体的な問題点】調査地点が不明。相関性が観測年によって異なるのか地点によって異なるのか判断できない。年2回の調査で何が分かるのか不明。対数目盛を使用しているために誤差が小さく見える…といったところ。
一番の問題は右側の凡例にあります。一番上のところ、「平成18年」とありますよね。つまり平成18年の時点で、河川流量を観測し、その結果と試算結果との整合性と検証していたわけです。
評価書が公表された時点では、環境影響評価手続き開始以前の調査結果が載っているが、これは何なのだ?という疑問がありましたが、県庁での質疑結果は、これへの回答となったのです。
これは、きわめて悪質な態度ではないでしょうか?
環境影響評価手続きが始まるまでのおさらいです。
昭和48年11月 基本計画線に決定
昭和49年7月 運輸大臣から国鉄に対して地形・地質等調査を指示(この後、2度にわたって貯砂結果が提出される)
昭和62年11月 運輸大臣から日本鉄道建設公団に対し、南アルプス部の地形・地質調査を指示。
平成18年 大井川にて流量観測・試算を開始
平成19年4月 JR東海が中央新幹線構想を公表
平成20年10月 地形・地質等調査結果を提出
平成21年12月 需要予測・建設費等の調査結果を提出
同年 前原国土交通大臣が中央新幹線小委員会に諮問。建設の是非、ルート、営業主体・建設主体の指名等を審議。
平成23年5月 国土交通大臣がJR東海に対し、超電導リニア方式・南アルプスルートによる中央新幹線の建設を指示
同年 6月 JR東海が計画段階環境配慮書を公表、環境影響評価手続きが始まる。
同年 9月 環境影響評価方法書を公表
平成25年9月 環境影響評価準備書を公表 大井川の流量が減少するという予測結果が初めて出される。
平成26年8月 事業認可。8年前から大井川で流量観測を行っていたことが明らかになる。
平成18年というのは、まだ「調査指示」の段階であり、JR東海が「自社による超電導リニア方式の中央新幹線事業の実現」を公表する前のことです。
ルートを検討する交通政策審議会中央新幹線小委員会が開かれたのは平成21年12月であり、国土交通大臣より建設指示の出されたのは平成23年5月でした。それから同年6月に計画段階環境配慮書を作成して環境影響評価手続きが始まり、平成25年9月の準備書において、はじめて「大井川の流量が毎秒2トン減る」という試算結果が明らかにされたのです。
大井川での流量観測と試算結果は、平成18~21年の4年間に得ていたわけです。その予測結果を公表したのは事業認可の1年前、その事実を明かしたのは3か月前、しかし観測結果はいまだ未公開ということになります。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
以上のように、大井川での観測データとモデル式の試算結果は、ルート選定の場であった中央新幹線小委員会に提出・公表し、議論の材料とすることが、タイミング的には可能であったはずです。
この中央新幹線小委員会では、3度のパブリックコメントが行われていたので、大井川に関するデータが明らかにされていれば、それを資料として流域自治体等から「ルート選考にあたっては河川流量への影響を考慮すべき」と意見提出を行うことも可能であったはずなのです。
もしかすると、国交省あるいはJR東海としては、この段階では環境配慮をおこなう法的義務がなかったとして、データを提出しなくてもよかったという言い訳を考えているのかもしれません。(全国新幹線鉄道整備法では計画段階での環境配慮を求めていない。ただし生物多様性基本法には計画段階の環境配慮義務がある。両法の力関係については知りません。)
しかし環境影響評価の第一段階である計画段階環境配慮書の段階において、既に得ていた、きわめて重要なデータを公表しなかったというJR東海の姿勢は絶対に責められるべきです。この時点では、まだルートは幅3㎞と曖昧であったため、データを公表することによって、より河川流量への影響の少ないルートを、流域との合意を得ながら選定することがかのうであったはずなのですよ。
また、その先の方法書において、より適切な予測手法を求めることだって可能だったのです。「当社はこのような地点で、このような手法で流量を観測し、このような試算式を用いて予測を行っている。これから環境影響評価として、これまでと同じ方法で調査・予測を行うが、いかがだろうか?」というように。
JR東海は、当初から環境に配慮すると主張していましたが、これでは環境に配慮していないどころか、二重の情報隠ぺいと言われてもしかたがないでしょう。
以上のように、大井川の河川流量調査については
①JR東海は平成19(2007)年に中央新幹線構想を公表する前の平成18(2006)年から流量に与える影響を検討していたが、影響を及ぼすという試算結果を公表したのはそれより7年先の平成25(2013)年9月であった。
②具体的なデータは環境影響評価手続きを経た今でも非公開のままである。
③おそらくJR東海が取得したデータは、役に立たないシロモノであろう。
④今後も適切な調査を行うつもりはない。
ということが言えると思います。
中央新幹線環境保全連絡会議は、これから先も継続して開かれる予定です。この場において、この大問題を、ぜひ追及していただきたいと思います。