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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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河川流量 ―年2回の調査で何が分かるのですかな?―

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今年最初の投稿になります。
新年早々、無味乾燥&ややこしい話で恐縮ですが、よろしくおつきあいのほど願います。
 


 
前回触れたとおり、JR東海は河川流量について、年2回の調査を行うことで年間変動を把握したと主張しています。それから各県の評価書において、事後調査(事業認可後の調査)で、トンネル着工前の1年間、同様な調査を行うともしています。
 
ところが水文学や河川工学の本を少し読めばわかるのだけれども、これは原理的に不可能なのです。河川の水環境について書かれた本の基本中の基本のことなのですが…。
 
というわけで、今さらながらですが、河川流量というものにおさらいしてみます。
 
【河川流量というもの】 
まず基本的な知識として、流量というものについて説明します。
流量とは、ある地点を1秒間に流れる水の量です。
 
ある程度大きな川の場合、大雑把にいえば、
 
流量=川の断面積×流速(その地点での流れの速さ)
 
で表されます。断面積は㎡、流速はm/sですので、両者をかけると、流量の単位は㎥/s(立方メートル毎秒)となります。
 
断面積は測量を行って、川幅と水深を求めることで判明します。図1のように、流れの方向に直角に、一定の間隔Xごとに深さhを求めれば、台形の面積を求めることで各々の区画ごとの面積が判明します。これらを合計すれば、断面積が求められるわけです。
イメージ 9
図1 河川断面積の求め方
 
また、流速はプロペラのついた器具で測ります。同じ地点でも、底の方、川岸近く、水面付近は摩擦が加わるため終息は小さい傾向にあるため、何か所か測定して平均値を求めるといった作業が行われます。
 
ところで、連続して観測する必要がある場合(例えば水防の観点)、常に流速を測り続けることは困難です。そのため、流量測定とともに水深=水位をを測定し、水位と流量との関係をグラフによって把握し、その後は機械で水位を自動観測すれということが行われています。流量と水位との関係を示したグラフを、水位-流量曲線とよびます。川岸に設けられている水位計というものは、こうした目的の装置なのです。

なお、大きな石がゴロゴロしていているような場所では、以上のような手段で流量を測定することが不可能です。
 
イメージ 1
写真 どこにでもある沢(静岡市清水区興津川支流)

例えば写真のような沢の場合、流れが幾重にも分かれ、それぞれが段差だらけなので、測量によって断面積を求めることも、流速を測定することもできないからです。こうした沢の場合、石をどけて流れを均一にしたうえで小さな堰を設置するといった作業が必要です。この堰だって、JIS規格で定めら形式にせねばなりませんし、出水後はきちんと作り直すことが必要になります。はっきりいって、大変な労力がいります。
 
南アルプスをはじめ、リニアのトンネルがくぐり抜ける沢には、このように段差の大きな流れが多数含まれていると思われます。現場の地形に応じて適切な流量測定体制を整えていたのか、あるいは今後どうするのか、評価書では適切な情報が掲載されていないため、実態は不明のままです。
 

【流量の年間変動】 
それでは、このように観測された河川流量について、実際のデータをみてみましょう。
 
取り上げるのは、静岡市を流れる安倍川支流の藁科川という川の、奈良間という地点での流量観測データです。できるなら大井川上流部のデータが欲しいのですが、一般には公開されていないため、簡単に入手できる藁科川で代用します。なお、JR東海が南アルプスで流量観測を行っていたとする地点での流域面積と、この奈良間での藁科川の流域面積はほぼ同じであるため、参考にはなるかと思います。
データの出所は国土交通省の水文水質データベースhttp://www1.river.go.jp/
 
イメージ 2
表1 藁科川 奈良間における2012年の日平均流量 
 
イメージ 3
図2 藁科川と奈良間観測所の位置
 
表1は、2012年における、日平均流量の年間推移です。単純に日平均流量を合計し、365日で割ると、年間の平均流量は10.61㎥/sという値になります。
 
表では何も分かりませんので、これを折れ線グラフにしてみます。
 
イメージ 4
図3 藁科川(奈良間)における2012年の流量推移
 
 
グラフを見ると、ドッと増えたかと思うとグンと減っており、変動が激しかったことがわかります。つまり、普段は少ないように見受けられ、単純に365で割っただけの平均流量は、川の通常の流れを表していないようにも見受けられます。
 
そこで「年間○○日はこれだけの流量がある」ことを知るために、グラフを描き替えます。一番大きな値を左端に移し、右に向かうにつれてだんだんと小さくするようにするのです。こうして描かれた曲線を、流況曲線と呼びます。流況曲線を作成することは、河川の流れを知るための基本中の基本作業です。
 
こちらが奈良間における流況曲線です。
 
イメージ 5
図4 藁科川(奈良間)における2012年の流況曲線
 
実は、流況曲線というものは河川管理(治水、利水など)に必要な、次のような値を知るために作成されます。
 
豊水流量1年のうち、95日はこれより小さくなることのない流量
平水流量1年のうちでこれよりも多い日数と小さな日数とが等しくなる流量
低水流量…1年のうち275日はこれより小さくなることのない流量
渇水流量…1年のうち355日はこれより小さくなることのない流量
最大流量…1年間で最も大きな流量
最小流量…1年間で最も小さな流量
 
2012年の各値は次の通りです。
豊水流量…10.13㎥/s
平水流量…6.30㎥/s
低水流量…3.67㎥/s
渇水流量…1.01㎥/s

最大流量…191.19㎥/s
最小流量…0.73㎥/s
 
先に述べた、単純に流量を365日で平均した10.61㎥/sという値は、川の平均的な値を示しているわけではないことが分かります。台風による一時的な増水が、平均値を押し上げているためです。
 
また、最大流量と最小流量との比を河況係数とよび、流量の変動の大きさを見積もるときの目安にします。この値は約262です。最も多いときは最も少ないときの262倍に達するわけです。
 

【流量の年変動】 
もうちょっと期間を長くとって、データの公開されている2005~2013年の各年について、それぞれの値を比較してみましょう。
 
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表2 奈良間における2005~2013年の流量に関する諸数値

過去9年間において、最も流量が小さくなったのは2006年の0.63㎥/sという値です。この年は、前年12月にほとんど降水がなかったため、年始にひどい渇水になったのです。また、最も流量が大きくなったのは2011年の378.75㎥/sという値であり、これは9月の台風15号によるものでした。過去9年間での平水流量は4.95㎥/sであり、これが、この地点での最も平均的な値といえます。
 
それから各年・各月の平均流量を求めてグラフ化すると次のようになります(太い線)。
イメージ 7
図5 奈良間における月別平均流量(2005~2013年) 
 
冬場の流量は小さく、梅雨時にかけて増加し、8月にはいったん小さくなり、9月の台風シーズンに再び大きくなるということが分かります。
 
2012年の値だけを見ていたのでは、こうした変動については全くわかりませんね。
 
 

【JR東海の河川流量調査に対する認識は非論理的】 
さて、ここで改めて、静岡県庁での審議会で示された、JR東海の河川流量調査に対する認識を確認してみましょう。
 
JR東海は、事後調査(事業認可後の調査)として、トンネル着工前の1年間、河川の流量を観測するとしています。1年間ではデータが足りず、複数年間の連続観測を行うべきではないかという意見に対し…
 
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表2 静岡県中央新幹線環境保全連絡会議(平成26年11月18日) 質疑資料
 
このように、「年2回の調査で河川流量を把握している」という見解を示しました。
 
もうお分かりかと思いますが、この見解は明らかに誤りなのです。年2回だけの調査では流況曲線を作成することは不可能なのですから。月一回の調査でも、1年足らずでは不十分でしょう。
 
JR東海の主張通り、「年2回の調査」を行っていたことを考えます。
環境影響評価書で、流量調査日が特定できたのは、豊水期調査日が平成24(2012)年8月9日前後、渇水期調査日が同年12月4日頃でした。
この両日、藁科川の奈良間では、流量は次のような値でした。
 
(豊水期)8月9日…3.05㎥/s
(渇水期)12月4日…6.33㎥/s
 
豊水期よりも渇水期のほうが流量が多いことになっています。この年はたまたま11月の下旬にまとまった降水があったために、12月でも流量が多かったのですが、「年2回の調査」だけでは、これが「通常の値」として認識されることになってしまいます
 
当然のことながら、最大流量も最小流量も平水流量も平均流量も河況係数も分かりません。つまり、河川流量の状況を知るためのデータ処理さえできないのです。
 
つまりこの2回だけの調査では、なんら得るところがないのです。
 
それに、環境影響評価においては、生態系への影響を考えねばなりません。流量だけでなく水位、水温の変化だって把握せねばならない重要なデータです。こうしたデータも、年2回だけでは何も分かることはありません。、
 
それなのにJR東海は、「年2回の調査で流量の変動傾向も把握している」としていますね。表現が悪いかもしれませんが、とんだ嘘つきに他なりません。
 
 


)これ、静岡県だけではありません。東京~愛知の全都県で、同じような見解を示しています。 


 

何やら、税金を投入して名古屋~大阪間を2027年に同時開業させるという話を聞きました。そういう話を出したのは国土交通省の鉄道関係の部署かと思います。そのいっぽう、上記のような河川流量の観測・調査手法を定めているのも国土交通省です。引用してきた藁科川のデータだって、出所は国土交通省なんですから。
 
その国土交通省が、きわめて非科学的かつ非論理的なことを言っている事業者に、多額の税金を投入するというのは、あるべき姿勢を誤っているのではないのでしょうか。

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