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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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ユネスコエコパーク理念 「地域社会と連携した持続可能な”開発”」といえるのか? 

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今回も、リニア計画とユネスコエコパークの理念との整合性について続けます。

ユネスコエコパークの移行地域内では、「経済活動」をおなうことが認められています。JR東海は、これを根拠として、リニア中央新幹線の地上工事をおこなうとしています。

ところがユネスコエコパークにおける行動規範をまとめたセビリア宣言によると、移行地域における活動として認められているのは次のようなものです。

①農業活動
②定住
③地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発。
 

前回、簡単に触れましたが、あらためて3番について考えてみたいと思います。

本題に入る前に、ちょっと「開発」という言葉について思案。手元にある学研の漢和辞典『漢字源』によりますと、開発という言葉について

土地などを切り開いたり資源を取り出したりして産業をおこし、役立つようにする。 

という説明がなされています。同時に「開封」という言葉と同じ意味をもっているとも説明されています。この開封という言葉には「手紙や封印されたものの封を解く」という意味があります。つまり「開発」という言葉には、その土地が秘めている価値を利用するという意味合いが強いのではないかと思います。

南アルプスのユネスコエコパーク内でも、これまでいろいろな事業がなされてきました。規模の大きなものでは次のようなものがあります。

A. 森林伐採
B. ダム建設
C. 水力発電所建設
D 観光施設の設置
E. 林道建設
 

Aの森林伐採は、南アルプスの山々に生えている木を、製材やパルプ原料にするために行われるものです。
Bは水資源を利用するためです。
Cは、南アルプスがもつ豊富な水と落差を利用して水力発電を行い、電力を得るためです。包蔵電力を得るためとも言います。
Dは、南アルプスの有する雄大な景観や高山植物を「観光資源」として利用するためのものです。
そしてそれらの目的を達成するために道路が必要となり、Eののように林道が建設されました。言い換えれば

Aは森林開発、Bは水資源開発、Cは電源開発、Dは観光開発という言い方ができます。つまり、これまで南アルプスで行われてきた様々な事業は、南アルプスが持っている様々な”価値”を利用しようという目的で行われたのです。すなわち、開発という言葉の意味と合致していると言えます。

ですが、このほどJR東海の計画しているリニア中央新幹線計画というのは、別に南アルプスに用があって工事を行うわけではありません。大量の残土を捨てていったり、川の流れを大幅に変えたり、ダンプで山里を埋め尽くしたりする内容ですけど、それを行うことによって、南アルプスの利用価値が高まるわけではありません。

確かにトンネルを掘ってリニアを通すことにより、東京と名古屋とを行き来する時間は短縮され、時間的価値を生み出す事業ではありますが、時間的価値というものを南アルプスが有しているわけではないでしょう。単にルート上に位置しているだけですから。

要するに、「その土地が秘めている価値を利用する」という意味合いは皆無であり、本来の”開発”の意味とは若干異なるのではないのかな、と思うのであります。
ユネスコエコパークの移行地域内で行ってよい事業は「持続可能な形で行われる開発行為」でありますが、リニア建設は開発行為ですらない―単なる破壊行為と言える―のではないでしょうか?

まあ、これは言葉遊びのようなものであって、ここで終了します。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さて昨年11月の「建設認可」の後、JR東海は実際の工事に向けた準備を加速させています。

●用地買収に向けての説明会
●用地買収に向けての測量
●用地取得を県に委託(県の業務として税金を投入してJR東海の代行)
●工事のためのボーリング調査

こんなことがどんどん進められ、事業開始が既成事実化さつつあるようです。

長野県大鹿村では、ボーリング調査が24時間体制で始まったそうです。当初は地権者との話だけで始まりそうだったものの、「さすがにそれはおかしい」という指摘があり、周辺数戸への説明を一方通行的に行い、調査を開始したとのことです。

(長野県大鹿村村会議員の方のブログ)
http://blog.goo.ne.jp/akimtl1984/e/10b26b24ac895b14398b442657899b19 

事業認可の昨年秋以降、この大鹿村では、村役場からJR東海に対し、環境保全のための協定を結びたいという提案を行っています。ところがJR東海は、環境保全措置については環境影響評価書に従って忠実に行ってゆくから、協定を結ぶつもりはないという見解を示し、結局、平行線をたどったままになっています。

その評価書では、JR東海自身、関係自治体と協議を行ってゆくと明記していますし、国土交通大臣意見においても、そのような指導がなされています。評価書に従って事業をおこなうつもりであるなら、くだんのボーリング調査においても、事前に村と協議のうえで行わなければならないはずです。

同村では、2008年に協議も打診もないままボーリング調査が行われ、それがそのまま今般の事業計画に結びついてゆき、巨大な環境破壊()が既成事実化されつつあるという経験があります。そのため、JR東海に対する不信感はかなり強いわけで、そういうことを繰り返しては住民の不安が募る一方であるからこそ、協定の締結を要望したのです。

大鹿村の主な環境破壊
●大型車両が村の中心道路を最大1日850往復以上通行する。
●村内に斜坑が4本掘られ、工事現場だらけとなる
●300万立米の発生土が掘り出されるが行き先が未定
●鉱毒によって閉山された鉱山付近をリニアのトンネルがぶち抜く
●川の水が大幅に減少する可能性がある
●南アルプス赤石岳をのぞむ山里の景観がぶち壊される
●中央構造線の存在によって地すべりの密集している地域であり、新たな崩壊を誘発する懸念
(詳細)



JR東海はそれを突っぱねて「評価書が協定代わり」という主張を繰り返し、さらに評価書をも無視するようなかたちでボーリング調査を開始してしまいました。ただでさえデタラメな評価書の信頼をさらにおとしめる行為であり、わざわざ住民の不安と不信感をあおるような、きわめて愚かしい進め方だと言わざるを得ません。

ところで、大鹿村でボーリング調査をおこなった地点は、リニアの長大トンネルの斜坑が掘られる地点のそばです。そしてそこは、ユネスコエコパークの移行地域に含まれます。繰り返しになりますが、移行地域で行ってよい経済活動の形は、『地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発。』とされています。

JR東海の進め方は、地域社会との連携しているとはとても言えません、真逆です。ユネスコエコパークの基本理念に完全に反していると断言せざるを得ません。

この基本理念を定めたセビリア宣言は、別に条約でも法律でもないルールに過ぎないので、当然のことながら事業者や該当地域に遵守義務はありません。ですけど、これが守られなければ、南アルプスをユネスコエコパークに登録した意味がないのも、また事実です。

ユネスコエコパークというのは環境省と文部科学省とが国際社会に向けて、その地域ではルールに従ってゆくことを国際的に公約した場所でもあるので、登録したそばから、ルールを破っているのでは、先が思いやられます。

このJR東海という事業者、ホントにユネスコエコパークの概念を理解しているのでしょうか

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