南アルプスは昨年6月にユネスコエコパークに登録されています。その環境の保全は、一国の枠を超えて、国際的な責務といえます。
ユネスコエコパークの移行地域内では、「経済活動」をおなうことが認められています。JR東海は、これを根拠として、リニア中央新幹線の地上工事をおこなうとしています。
環境影響評価配慮書より複製・加筆
環境省のホームページより複製・加筆
(移行地域という言葉の意味についてはこちらの記事を参照)
http://blogs.yahoo.co.jp/jigiua8eurao4/13628960.html
ところがユネスコエコパークにおける行動規範をまとめたセビリア宣言によると、移行地域における活動として認められているのは次のようなものです。
①農業活動
②定住
③地域社会、運営団体、科学者、NGO、文化活動に関する団体そして経済活動に関わる団体が相互に連携し、持続可能な形で行われる開発。
持続可能性
が、「経済活動」を行う上での必須条件です。
持続可能な開発という概念は、世界各国で公害、エネルギー涸渇、自然破壊が共通課題となった1970年代から、国際的に認知され始めたようで、1992年のブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連会議を経て、日本の環境基本法の基本理念にも取り込まれるに至っています(第1条、第3条、第4条)。
sustainable developmentという言葉が「持続可能な”開発”」と訳されていますが、developmentという言葉と日本社会の実情に合わせると、むしろ「持続可能な”発展”」と訳すべきではないかという指摘もあります。
いずれにせよ、「持続可能」という概念を簡潔に説明しますと、「現在ある自然環境や天然資源を、現在の世代で使い果たしてしまうのではなく、将来世代も利用可能な形で受け継ぐようにする」というようなところではないかと思います。
もうちょっと具体的に言えば、
●動植物の乱獲を行わないようにする
●動植物の生息地を必要以上に破壊しない
●水・空気・食糧といった自然から受ける恩恵を将来にも受け継がせる
●有限な資源の使用量を少なくする
といったところでしょう。まるで道徳の授業のような美辞麗句ですけど…。
えー、そもそもリニア計画というのは、この概念に真っ向から逆らっているのではないかと思います。
最も端的に現れているのはエネルギー消費の点です。日本の大動脈である東京~名古屋~大阪において、旅客の輸送手法を、現在よりもエネルギー効率のはるかに悪いタイプに切り替えようというわけですから、これは有限な天然資源の浪費ともいえます。化石燃料由来のエネルギー消費を抑えようというのが「持続可能な開発/発展」の基本概念ですから、それとは遠くかけ離れています。
ゆえに国の環境政策の基本である環境基本法の概念から全く外れたことを、全国新幹線整備法という法律を根拠として国策として認めてしまったわけで、この点については疑問があります。
※詳細な説明は先般の記事をご覧になってください。
さて、「持続可能な開発ないし発展」を実践しようという場がユネスコエコパークなのですが、このほど、実に皮肉な事態となっています。
昨日(2月14日)、南アルプス東側の山梨県北杜市においてユネスコエコパークの登録証授与式が執り行われました。
式では、ユネスコエコパークを構成する長野県大鹿村の大鹿歌舞伎も披露されました。
同じ日、南アルプス西側に位置する大鹿村内では、JR東海によるボーリング調査が24時間体制で開始されました。これはまだ試験段階だそうですが、伝え聞くところによると、集落からはやや離れた場所でありながら、相当な騒音が生じているということだそうです(マスコミではまだ報じられていません)。
何よりも調査が住民との事前協議を行わずして開始されそうになったということで、不信感が漂っている中での調査開始であり、「騒音+不信感+今後の不安」ということで、住民の方々はたいへんなストレスを感じておられるそうです。
「調査の試験」という段階でこれだけの騒音とストレスを感じておられるのですから、本格的に工事が始まり、重機やダンプカーが24時間体制で轟音をとどろかせれば、本当に人の住み続けることのできない事態に陥ってしまうかもしれません。騒音という環境破壊によって集落が消滅の危機に陥るわけですから、「持続不可能」ということになります。そしてユネスコエコパークの理念なんぞ、吹き飛んでしまいます。
ユネスコエコパーク認証式の行われている傍らで、その理念を揺るがす事態が、早くも起こりつつあるのです。
持続可能性という点については、まだまだたくさん問題がありますので、次回に続きます。
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ところで南アルプスユネスコエコパークを構成する市町村のうち、リニアが貫通するのは南アルプス市、早川町、静岡市、大鹿村、飯田市です(飯田市内でリニアの工事が行われるのはユネスコエコパーク登録地域から離れた区域)。
このうち飯田市は市内に駅が建設されることにより、音頭をとってリニア計画を推進しています。
リニアの事業というものが、飯田市内で完結する事業であるのならば、どれほど積極的に推進されても構いません。しかしそうではなく、迷惑だけをこうむる自治体もあるのです。それにもしかすると、その積極性がユネスコエコパークの存続に致命的なダメージを生み出すかもしれません。登録地域内での事業推進は慎重にならねばならないのに、飯田市の登録地域外での工事が優先的に進められれば、既成事実として後戻りできなくなってしまうおそれがあるからです。
かように複数の市町村にわたって利害が一致しない事業であるのに、ひとつの市だけで積極的になることは、いろいろと危うさをはらんでいるのではないかと思われます。