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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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南アルプストンネル工事開始は1年後? 残土はどーすんの?

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昨日(10日)、静岡県庁で中央新幹線環境保全連絡会議が開かれました。ウェブ上の検索してみると、静岡新聞・中日新聞・朝日新聞(静岡版)の伝える記事がヒットしますが、このうち朝日新聞の記事は次のようなものでした。

 JR東海は10日、南アルプスで予定しているリニア中央新幹線トンネル工事について、約1年後の着工を想定していることを明らかにした。県庁でこの日開かれた県中央新幹線環境保全連絡会議(会長・和田秀樹静岡大名誉教授)の第4回会合で説明した。
 JRによると、これまでトンネル工事の着手までに1年程度かかるとの説明をしてきたが、着工の目標時期を明示したのは初めて。
 会合では着工時期について委員から質問があり、JRの担当者が「スケジュールは細かいところまでわかっていない状況」と断ったうえで、「1年程度後にトンネル着工まで想定している」と述べた。着工までに一部林道の舗装工事に加え、作業員宿舎や工事ヤードの設置も終える考えを示し、工事発注後には工事説明会を開くという。

引用終わり

1年後?
そんな無茶な…。

と同時に、記事を書いた記者は簡単な疑問が脳裏に浮かばなかったのでしょうか。

トンネル掘削を開始するためには、作業員宿舎や林道の整備だけでなく、発生土置場が不可欠です。

これ、どーすんのよ!?



JR東海が、静岡県の大井川源流部に掘り出すと想定している発生土量は約360万立方メートル。東京ドーム3杯分に相当します。これを南アルプス山中7地点・計8か所に分散して積み上げる=捨てる主張しています。

イメージ 1
図1 発生土置場候補地の位置
環境影響評価書より複製・加筆
このうち南から2つ目の発生土置場は2か所に分散する計画

このうち、標高2000mの稜線上に位置する扇沢という場所には、地形から推定して5割~7割程度を捨てようとしているとみられます(図1で一番上側の発生土置き場)。

で、この扇沢については、このブログで何十回も繰り返したように、大井川本流から500mも高い、急峻な支流の源流という場所であるため、大雨や大地震によって、万一崩れだしたら巨大土石流となってしまいます。扇沢は、平均勾配が30度以上ある
急な谷側であるため、その上に発生土を積み上げることは、滑り台の上に砂を積み上げるようなものなのです。


イメージ 3
図2 扇沢の残土捨て場(発生土置き場)候補地付近を拡大
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆

イメージ 2
図3 Google Earthより複製・加筆
図2の左側から扇沢方面を俯瞰した様子

このようにおかしな計画であるため、環境影響評価準備書への意見で、静岡市長・静岡県知事から回避を要請されていましたが、結局はJR東海が無視したままで、国交省による事業認可となりました。

したがって現計画どおりに、JR東海が1年後にトンネル工事に取り掛かるためには、この扇沢に発生土を置くことが必要となります。

そしてその場合には、森林法という法律に基づいて、林地開発許可というものを得なければなりません。おさらいになりますが、昨年6/18のブログ記事を引用し、森林法についてみてみます。

(開発行為の許可)
第十条の二 地域森林計画※1の対象となつている民有林において開発行為をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合は、この限りでない。
 一~二 略
三  森林の土地の保全に著しい支障を及ぼすおそれが少なく、かつ、公益性が高いと認められる事業で農林水産省令で定めるものの施行として行なう場合
  2  都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない
※1 扇沢付近の森林は、特殊東海製紙という民間企業が所有する林であり、静岡県の地域森林計画の対象となっている。 
※2 農林水産省令=森林法施行規則で定めるものには「鉄道事業法による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設 」とあるが、これは鉄道施設が対象。発生土置場は該当せず、許可申請の対象となるはずである。

すなわち、以下のケースに該当する場合には開発許可をしてはならないということです。
 
  一  当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
   一の二  当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
   二  当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。

   三  当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。
 
  3  前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たつては、森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しなければならない。
  4  第一項の許可には、条件を附することができる。
  5  前項の条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課
することとなるものであつてはならない。
  6  都道府県知事は、第一項の許可をしようとするときは、都道府県森林審議会及び関係市町村長の意見を聴かなければならない。
 
つまり、南アルプス一帯の森林は民有林であり、地域森林計画の対象となっていまするため、ここで開発行為を行うためには、この森林法第十条第二項の規定に従わねばなりません。そして下線を引いた箇所から明らかな通り、災害を起こすおそれのある開発行為、環境悪化をもたらすおそれのある開発行為については、許可をしてはならないと定められているのです。

それから法律の条文をよくお読みください。開発許可の権限は県知事がもち、許可を行う際には市長の意見を聴かねばなりません。その静岡県知事・静岡市長ともに、この扇沢源頭で残土処分は危険であると認めていることから、許可してはならないことになります。
◇   ◇   ◇   ◇   ◇

この場所を使用できない場合(使用させてたまるか)、JR東海は、大井川河原の燕沢とよばれる地点に運び込むという案を、昨年8月の段階で示唆しています。 図1でいえば、上から2番目の楕円で示された発生土置場になります。
(静岡新聞記事)

しかし燕沢というのは土石流が堆積してできた平坦地であり、こんな場所に巨大な盛土を行うことも、やはりあまりにクレイジーです。

イメージ 6
図4 燕沢付近の地形
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆

記事には「関係者によると、燕沢の盛り土の高さは50メートル前後、延長1キロ程度になる見込み。擁壁を設置するなどの対策が必要になるが、JRによると50メートル級の盛り土は技術的に問題ないとされる」と書かれていますが…

マジで?


高さ30mでもこんな規模になります。(新東名高速道路 静岡SAエリアの盛土)

イメージ 4

写真右手の光っているのが川で、そこから左手の斜面は、全て盛土になります。地形図から判断すると高さは30~35m程度。真ん中に自動車が小さく写っています。

で、長さ1㎞の盛土というのはこんな感じ。
イメージ 5
新東名高速道路 静岡(SA下り車線)
上野写真とは逆方向から撮影

写真はトンネル坑口の上から撮ったもので、奥に見えている山まで全て盛土になっています。この場所には350万立方メートルの発生土を埋めたということなので、南アルプスの燕沢に計画している発生土置場もこのぐらいの規模を想定しているのでしょう(なお、神奈川県相模原市の鳥屋地区に計画している車両基地も、このぐらいの規模になると思われます)。

こんなのを南アルプス山中につくるの?

静岡SAはもともと谷津田だったところだけど、燕沢は土石流が積み重なった地です。

そんな場所に巨大盛土を行ったら、盛土が頻繁に発生する土石流を受け止め、大井川本流をせき止めてしまいます。そんな状況となったら、生態系も、下流への土砂運搬形態も、メチャクチャになってしまいます。また、ユネスコエコパークにおける開発行為というのは、持続可能性が必須条件なのですが、その観点からも、きわめて愚かしい計画だと言わざるを得ません。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇


JR東海のいう「1年後を目途に着工したい」というのは、これらクレイジーな発生土置場を南アルプス山中に築き上げることを前提としているのです。はっきり言って、ムチャクチャです。




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