さる13日、JR東海が、南アルプスを横断するトンネルのうち、山梨県区間7.7㎞(早川町)について、工事を行う業者の入札を始めたとのこと。
南アルプス区間約50㎞のうち、最長の25㎞トンネルは、東から山梨県早川町、静岡県静岡市、長野県大鹿村にまたがっているけれど、このうち早川町で、真っ先に工事を行う業者が決まることになる。
静岡県区間(静岡市)については、先日JR東海自身が1年後の掘削開始を公言し始めたけれども、実際には発生土処分、大井川の流量問題、ユネスコエコパーク制度との整合性など、問題がどんどん増えてきて、それに対してJR東海自身がきちんとした回答を示そうとしないので、問題がこじれそうな気配なのである。
長野県区間(大鹿村)についても、大量のダンプカー通行による日常生活へのshん酷な影響、川の流量調査をめぐる問題、ボーリング調査をめぐるトラブル、協定を結びたい行政側とそれを拒むJR東海との”あつれき”と、やはち問題が泥沼化しそうな雰囲気。また、大鹿村から残土を運び出す、おびただしい量のダンプカーが通行することになる、隣の中川村でも、やはり住民の間に懸念が広まり、JR東海に対する批判が強まっているそうだ。
こうした中、早川町だけでドンドン事業計画が進んでゆくのは、発生土処分が、山梨県による道路建設という別の事業にすり替わって、事実上解決されたことになってしまったことに大きな要因があるのだろうと思う。
ところで、南アルプスというひとつの山岳について、事業の進捗具合が自治体の境界で異なってゆくことは、環境配慮や、地元との合意形成の上で疑問があるように感じてしまう。
南アルプス部分拡大
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というのも…
静岡市ではリニア計画をユネスコエコパークの管理運営計画に沿ったものに改めてゆこうとする動きが行われている。大鹿村でも、住民の生活を守ることを第一として環境保全をめぐる動きがあり、これもユネスコエコパークの管理運営の一端を担うともいえる。
南アルプスユネスコエコパークは、3県10市町村に分かれているものの、その管理運営はバラバラにおこなわれてよいはずがなく、一定の共通ルールが定められるべきである。それを実現しようとしているのが、静岡市の作成した管理運営計画(案)になるそうだ。http://www.city.shizuoka.jp/deps/seiryuu/pabukome_alps.html
けれども早川町のほうでは、適切な環境保全が可能かどうか、よくわからない段階で事業計画が進んでおり、静岡市や大鹿村では協議中であっても早川町側ではトンネル掘削を開始…なんて事態が生じてしまうかもしれない。
そのような事態となったら、いくら協議を行おうとも、トンネル位置や斜坑の位置、発生土の取り扱いなどを見直すことは不可能になってしまい、環境保全を図ることなど物理的に不可能になってしまう。つまりそれでは、南アルプス全体を一括した管理など難しくなってしまう。
また、こうした進め方を、工事に懸念を抱く住民の側から見れば、あたかも一端で工事を既成事実化させて残る地域にも早期着工を促すように見えるわけで、不安を余計に膨らませることと思う。
南アルプス区間が一番の難工事になるとともに、用地買収が一番簡単であるから、真っ先に着工したいという考え方が生まれたのだろう。けれども、環境保全という観点からは、南アルプス区間は最後まで手をつけず慎重に調査や協議がおこなわれるべきで、住民・行政ともそのような形を望んでおり、その方向でなければ合意形成はあり得ないのに、それに応じようとしないのは、なぜなのだろう?