先日の投稿と重複しますが、JR東海は、南アルプス山中に掘り出す大量の発生土をめぐり、そのうち静岡県内に掘り出す360万立方メートルについて、現在のところ、大井川源流域の7地点・計8か所に分散して捨てるという計画を立てています。
このうち標高2000mの扇沢源頭については、災害誘発の危険性があり、あまりにも問題が大きいため、おそらくは中止…というより県が許可しないと思われます。
もし県が認可したら、それはそれで市民・県民からの差し止め訴訟の対象にもなりうるだろうと思います。「残土崩壊・山崩れ⇒河床荒廃⇒災害の恐れ」という可能性がありますので。
もしも、扇沢源頭を中止した場合には6地点に分散させることになりますが、6地点のうち5地点は規模が小さく、また、発電所建設時の発生土が既に積まれているため、合計しても30~40万立方メートルが限界だとみられます。したがっておよそ300万立方メートル超という大量の発生土を、残る1地点に集中させることになります。
その候補地が、大井川沿いの平坦地である燕沢とよばれる地点です。図1ですと、上流側から2番目の発生土置場となります。
図1 発生土置場の位置
環境影響評価書より複製・加筆
もともと、環境影響評価準備書の段階から、燕沢だけは楕円で示されており、大規模なものを想定していることが予想されていました。
図2 燕沢付近発生土置場候補地
環境影響評価書 関連図より複製、スケールを加筆
環境影響評価書 関連図より複製、スケールを加筆
準備書で示された楕円を、長辺約950m、短辺125mの長方形とみなし、30度の勾配で発生土を積み上げてゆくと、おおよそ120万立方メートルの規模となります。私としては、これぐらいが物理的な限界だろうと考え、それでもとてつもない環境破壊を引き起こすおそれを懸念しておりました。
しかしながら前述の通り、JR東海としてはこの場所に長さ1000m、高さ50mの規模での盛土を想定しているとか…。
http://www.at-s.com/news/detail/1141962488.html
マジですか?
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2012年に開業した新東名高速道路。
静岡県内区間だけで、のべ4600万立方メートルという、リニアをはるかに上回る膨大な量の発生土が生じました。この発生土を処分するにあたり、日本道路公団およびNEXCO中日本は、道路の盛土区間や、サービスエリア(SA)、インターチェンジの造成、関連工事(農地・工業用地造成)に転用したということです。
巨大な盛土構造となっている静岡SAもそのうちの一つ。
間近で見たらどんな感じなのだろうと、先月、ちょっと様子を見に行ってきました。
地図ではこの位置になります。静岡市街地西郊の、低山に挟まれた谷を2つまたぐように埋め立てています。
図3 写真撮影箇所
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
図中の矢印付き番号は写真撮影箇所と方向
北向きが上り方面
盛土エリアは南北2か所であり、南側の盛土エリアには350万立方メートルが盛られており、北側エリアは、それより小さいようです。
まずは小さい方の北側エリアへ向かいました。こちらは上り車線用のサービスエリアとなっています。
幹線道路(この道自体、新東名の工事に関連して拡幅されている)を南に曲がると、集落の向こう側から、枯草に覆われた斜面がのしかかるように迫っている光景が目に入ってきました。
写真①
中央に小さな丘がありますが、その両側に見えている枯草の斜面が、全て盛土になっています。実に高いです。もう少し近づいてみましょう。
写真②
住宅の向こうに高い土手が見えます。10年くらいまえまでは、こんな巨大土手は存在せず、向こうの山の麓までは手前道路と同じ高さで茶畑が広がっていたのですが、跡形もありません。土手の上側に、サービスエリア内を走っている自動車が見えます。
中央の標識の通り左折すると、土手をのぼってサービスエリアおよびスマートインターチェンジに向かうことができます。その斜面上の道路から眺めるとこのような光景が広がっていました。
写真③
右手に白く光っているのは、かつて盛土の下を流れていた川で、付け替えられてこの位置になりました。この川より左手は、全て盛土になります。
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次に、南側エリアに向かいました。
川沿いを進んで行くと、枯草に覆われた高い土手が見えてきました。この土手が盛土になります。地形図から推察すると、やはり高さは30~40mになりそうです。そしてやはり同様に、土手の斜面を登って盛土中のトンネルに吸い込まれてゆくゆく坂道があり、これを進んでゆくと、サービスエリアおよびスマートインターチェンジに接続します。
写真④
まず気になったのが、写真左手に映っている小型砂防ダムの連なりです。近づくとこんな感じです。
写真⑤
ここの谷間は、もともと茶畑や水田として利用されており、その中を小川が流れていました。その小川ごと、谷間を30m以上の厚さで埋め立ててしまったため、盛土の上に川を付け替えなければならず、侵食防止のために、こんな異様な構造にする必要が出てきたのだと思います。
砂防ダムの最下段には、盛土の下に開けられた穴から水がドボドボ流れ出していました。
写真⑥
もともとは、小魚の豊富で牧歌的な姿であった小川の現状であって、見るも無残に思えます。なお、ここより下流側一帯も大規模に改修されており、護岸がコンクリートブロックでガチガチに固められ、動植物の姿は貧弱に見えます(写真割愛)。上流部がこれだけ改変されてしまうと、下流側での出水状況も変わるのでしょうか?
砂防ダム群の上はこんな状況です。
写真⑦
3mほどの深さの溝が設けられ、一応、川としての構造がなされています。その中は、枯草(たぶんツルヨシやアメリカセンダングサ)で埋め尽くされていますが、違和感を抱きました。
静岡市では昨年10月5~6日に、台風18号の通過により、24時間400㎜前後の大雨が降り、中小河川ではどこでも、このような草はきれいさっぱり流されてしまっています。
(参考 静岡市内の東名高速道路下を流れる吉田川 2014/10/12撮影)
それなのに、こうして草が立ったまま残されているのは妙な感じです。ということは、大量の雨が降っても水はほとんど盛土の下に浸透してしまい、表面を流れる量はごくわずか(少なくとも草をなぎ倒すほどではなかった)になるということではないでしょうか。ここの盛土の材料はトンネル工事で生じた岩クズですから、当然と言えば当然なんですけど。
ここから1㎞以上南下し、ようやく盛土区間の端近くまでたどり着きます。そこから北側を見渡すとこのような光景となります。
写真⑧
矢印のあたりまで全て建設発生土の盛土であり、人家も田畑も川も、その下になっています。なお、矢印先端の奥には、写真①で示した下り車線の盛土があります。
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かつて静岡県立図書館に置いてあったパンフレットを見たときのメモ(何の資料だったか失念)によると、大きいほうの南側(下り車線)のエリアには、約350万立方メートルの建設発生土が盛られたそうです。地形図で確認すると、長さ1300m程度、高さ30m前後と、まさにJR東海が南アルプス山中に計画している発生土置場と同サイズになります。
また、神奈川県相模原市鳥屋地区に計画している車両基地も、360万立方メートルの発生土を使うということなので、同じような規模になるかと思われます。
JR東海は、これに匹敵する巨大盛土を南アルプス山中で造成すると言っているのですが…(つづく)