今回から、燕沢付近平坦地の発生土置場候補地の立地条件について考察してみようと思います。衛星画像①で、左下の大井川沿いの平坦地がその候補地です。右端の扇沢発生土置場候補地が使えない場合、300~350万立方メートルの発生土を、全て燕沢付近平坦地に集約させて捨てる方針なのだそうです。
衛星画像①
なお、新聞報道等では、発生土置場候補地となっている大井川沿いの平坦地のことを燕沢と呼んでいるように見受けられますが、地形図では、大井川に流入する沢に燕沢という記載があり、やや混乱があるようです(このブログでも混同しています…)。そこで今後は、燕沢とする場合は支流の沢をさし、JR東海が発生土置場にしようと考えている平坦地については、「燕沢付近平坦地」と呼ぶことにします。
発生土置場候補地「燕沢付近平坦地」の西側には、標高2880mの千枚岳がそびえています。千枚岳には山小屋があり、南アルプス第3の高峰・悪沢岳(3141m)へ向かう拠点として、またお花畑が見られるとして知られています。
その千枚岳の東側斜面には、山頂すぐ下の標高2770m付近を頂点として大きな崩壊が生じています。これは千枚崩れと称され、その様子は衛星画像でも明らかです。
衛星画像②
地形図を見ると、千枚崩れから流出する上千枚沢が大井川に合流する地点では、等高線が同心円状に描かれています。千枚崩れから崩れ落ちた膨大な礫が、山のふもとに急勾配の円錐状に積み重なっているわけです。このような地形を沖積錐とよびます。
衛星画像では、沖積錐の大部分は木々に覆われていますが、沖積錐を貫くように木の生えていない部分があり、この部分では、現在でも土砂の移動が活発であるため、樹木が生育できないのです。
地形図をよく見ると、沖積錐の中央は谷となっているから、現在は千枚崩れから供給される礫(※)が堆積する速度よりも、上千枚沢が沖積錐を削る速度が上回っているのでしょう。こうして、大井川本流へと礫が供給されているわけです。また、沖積錐を大井川本流が削り、削った礫を下流に流す作用も働いているとみられます。
(※礫…れき 直径2㎜以上の岩石のこと。)
(※礫…れき 直径2㎜以上の岩石のこと。)
衛星画像によると、この一帯の崩壊地は千枚崩れだけでないことも分かります。その北側および南側の斜面は全体として崩れていますし、大井川をはさんで対岸にも、かなり大きな崩壊地を流域にもつ沢が3本流入しています。この他にも小規模な崩壊地が散見されます。
「燕沢付近平坦地」付近をクローズアップした画像です。
衛星画像③
このように、「燕沢付近平坦地」付近の大井川本流へは、周囲の高い山々から大量の礫が供給されているのです(ちなみに千枚崩れから流れ出す沢およびその対岸南側の沢2本は、いずれも砂防ダムが連続して設置されている。)。
崩れ落ちた礫は、大井川の流れによって下流に運ばれることになります。ところが大井川本流が礫を下流へ運ぼうとしても、すぐ南側には川幅の狭い部分があるため、ここより下流には運ばれにくくなります。要するに礫が詰まりがちなわけでして、詰まった部分が「燕沢付近平坦地」に当たるわけです。
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ところで、国土地理院のHPでは、過去に撮影された空中写真(航空機から精密なカメラによって撮影された地表の写真)を閲覧することができます。
「燕沢付近平坦地」について、立地条件を考察しようと、過去の空中写真を見比べていて気になった点があります。
発生土置場候補地に流れ下る燕沢の上流、衛星画像②で点線で囲んだところに崩壊地があります。衛星画像③の右下に映っているのと同一です。衛星画像①では、千枚崩れがあまりにも巨大なため小さく見えますが、それでも幅が300~400m、長さ700~800mに達する大規模なものとみられます。
この場所、40年近く前には、これほど大きくはなかったようなのですよ。同じぐらいのスケールにして、1976年撮影と2014年撮影のものとを比較してみましょう。
こんな感じです。
はい。38年の間に、崩壊地が著しく拡大しているのが一目瞭然です。
掲載は省きますが、1949年の空中写真では小さな崩壊が発生し始めています。1995年撮影の空中写真では、2014年に近い大きさにまで崩壊が拡大しています。つまり、この場所は現在に至るまで70年以上にわたり崩壊が拡大し続けていると考えられます。
JR東海は、この燕沢の直下に、長さ1000m、高さ50mもの巨大な発生土置場を設けようとしているわけです。評価書の中でJR東海は、「燕沢付近平坦地」の安定性について見解を述べていますが、、この崩壊地については何も言及していません。これでは、全く話になりません。