「リニア反対の面をかぶった推進派」認定をされてしまったからには、徹底的に悪役に徹しようと思うのである。
山梨のブロガーさんのページで教えて頂いたのだけれど、山梨において、「沿線住民・怒りの集会@山梨」というものが開かれるらしい。
この名称を見たとき、正直なところ、冗談かと感じてしまったのである。
山梨で「怒り」…?
JR東海がメチャクチャな進め方をしていて、行政もそれを制御できないのであるから、沿線各地で「怒り」を覚える人が大勢出てくるのは当然であろう。私だってその一人である。
けれども、どうも、山梨という言葉が引っかかるのである。
リニアに”反対”している方々の反対根拠のなかで、大きなウェイトを占めるのは環境破壊と進め方の強引さであると思う。
で、この2点を住民との関わりにおいて扱うのが環境影響評価制度なのだけれど、品川~名古屋において、一番ムチャクチャな進め方をしたのは山梨県であり、それについて、現在に至るまで何ら争点になっていないということは、大方の方々がそのような進め方を容認なさっているのかもしれない、と考えたからである。
(もしかしたら、地域レベルでは問題視されているのかもしれないけれど、全く情報が流れてこない以上は、事業を進める側としては、問題の声は無いに等しいのである。)
ムチャクチャな進め方というのは、
A.大柳川の流量予測調査問題
B.早川芦安連絡道路
の2点である。どちらもこのブログで何度か指摘したので、詳細はそちらをお読みいただきたい。大雑把にまとめると次のようなものである。
A.大柳川の流量予測調査問題
大柳川は、富士川右岸の支流である。位置等の詳細は、リンク先をご覧いただきたい。
説明すると冗長になるので、要点を箇条書きでまとめると、
・リニアの第4巨摩隧道(長さ8627m)は、山梨県富士川町において大柳川流域を浅い土被りで通過する。
・このため、河川流量に影響を及ぼす可能性がある。大柳川は県立自然公園に指定されるように、渓谷美を売り物とした景勝地であるため、流量が減少したら、渓谷美や生態系に影響を及ぼす心配がある。もちろん水利にも影響があろう。
・しかしJR東海は、環境影響評価準備書において、河川流量への影響予測を行っていなかった。
・このため、準備書に対する山梨県知事意見において、大柳川の流量予測をおこない、その結果を評価書に掲載するよう求められた。
・このため、河川流量に影響を及ぼす可能性がある。大柳川は県立自然公園に指定されるように、渓谷美を売り物とした景勝地であるため、流量が減少したら、渓谷美や生態系に影響を及ぼす心配がある。もちろん水利にも影響があろう。
・しかしJR東海は、環境影響評価準備書において、河川流量への影響予測を行っていなかった。
・このため、準備書に対する山梨県知事意見において、大柳川の流量予測をおこない、その結果を評価書に掲載するよう求められた。
ここまでは常識的な対応である。問題はこの後である。
・しかしJR東海は、評価書でも予測結果を掲載せずに事業認可申請をおこない、国土交通大臣もこれを認めた。
・このJR東海の姿勢に対し、山梨県知事から目立った指摘は、現在に至るまでなされていない。
・私の知っている範囲では、「リニア反対派」から一連の過程についての指摘もなされていない。
・しかしJR東海は、評価書でも予測結果を掲載せずに事業認可申請をおこない、国土交通大臣もこれを認めた。
・このJR東海の姿勢に対し、山梨県知事から目立った指摘は、現在に至るまでなされていない。
・私の知っている範囲では、「リニア反対派」から一連の過程についての指摘もなされていない。
といった経過である。要するに、
①JR東海が知事意見を無視
②国土交通大臣がそれを容認
③山梨県知事もそれを黙認
④県民・県議会からの指摘もない
①JR東海が知事意見を無視
②国土交通大臣がそれを容認
③山梨県知事もそれを黙認
④県民・県議会からの指摘もない
というわけである。環境影響評価手続き上の大問題を、4重にわたって放置しているのである。これでは、「山梨県民は大柳川渓谷なんて、どうでもいいと思っている」と事業者・行政側に判断されても、弁解の余地はないであろう。
B.早川芦安連絡道路
(お断りしておくが、道路の必要性について言及するつもりは全くない。事業計画の進め方に大問題があるのである。)
山梨県の早川町は、南アルプスをぶち抜く長大トンネルの東側にあたる。くだんの道路計画は、同町最北端と芦安温泉との間にある夜叉人峠付近に、長さ4㎞弱のトンネルを掘り、道路盛土にリニアの発生土を使い、道路完成後は、それを使って芦安温泉付近までリニアからの発生土を運び、谷を埋め立てて大規模駐車場を建設しようというものである。総事業費70~80億円のうち山梨県が過半、JR東海が30億円を出すという。
Google Earthより複製・加筆
JR東海が建設費を出し、リニアの建設発生土を使用するからリニア計画とは切っても切れない関係なのだが、事業主体は山梨県であるためリニアとは別事業扱いとなり、環境影響評価を行わなくてすむことになってしまったのである。
静岡市や大鹿村では、処分方法をめぐって継続審議になっている発生土の問題が、この道路事業にすり替えることにより、解決してしまったのである。だからこそ、早川町では工事入札にまで話が進んでいるのであろう。
奈良田温泉や芦安温泉付近では、大量のダンプカーが通行することで、大変な状況になることが予想されるが、これはJR東海の環境影響評価では全く扱われていないのである。ちなみに早川芦安連絡道路計画は、全て南アルプスユネスコエコパークの登録地域内である。
このような進め方は、環境保全を率先しなければならないはずの行政機関の責任放棄であるし、ユネスコエコパークの理念から逸脱しているし、そもそもどういう環境への影響があるのか、全く分からないままに工事が進められてしまう。
リニア計画の進め方に「怒り」を覚えるのであれば、このような進め方こそ、怒りの対象にされるべきであろう。けれども、このような進め方についても、「リニア反対派」の人々からは、一向に問題視する声は上がっていないようである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大柳川でのアセス手続き軽視も、早川芦安連絡道路のムチャクチャな進め方でも、OKということなのだろうか? 表立った批判の声があがらないということは、事業者や行政から見れば、「何も問題はない」のと同じであろう。
それとも、リニア本体工事はムカつくけれども、関連する道路工事は大歓迎ということなのだろうか?
こんなわけで、山梨という場において、「怒り」を訴えることが妥当なのかどうか、よく分からないのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
こんな書き方をしたのは、南アルプスの環境を守るために、お願いだから、山梨県の方々に奮起していただきたかったからです。上述の通り、大鹿村や静岡市では、環境を守るために現在も協議が続けられています。ところが、山梨県側でムチャクチャな進め方で着工してしまうと、協議なんぞ全く無意味になってしまいます。これでは、環境保全など叶うはずもございません…。