当方は「隠れリニア推進派」認定を受けたのであるから、「リニア反対派」への文句を続けたい。
こんな問題を放置しておいて、反対もヘッタクレもないのである。
改めて山梨県の大柳川について説明したいと思う。
繰り返しになるが、リニア中央新幹線の第4南巨摩隧道は、山梨県富士川町において、大柳川の流域を浅い土被りでくぐり抜ける。
拡大
大柳川の位置
JR東海が国交省に提出した縦断面図から推定した、トンネルの土被りである。土被りとはトンネル上端から地表までの厚さである。ご覧の通り、トンネルと大柳川本流・支流の谷底における土被りは50m前後である。山梨実験線で水枯れを引き起こしたときは、土被りは150~200mであったから、それよりも条件はずっと悪いのである。よって、河川流量を大幅に減らす可能性が高い。
いっぽう、トンネルとが交差するあたりの大柳川は、険しい渓谷に滝が連続し、温泉も湧出しており、山梨県立南アルプス巨摩自然公園に指定された景勝地となっている。富士川町のホームページを見ると、遊歩道や吊橋や公園の整備された、重要な観光地であるようだ。
また、環境影響評価書には記載されていないものの、大柳川の水は、流域の農業用水として利用されているらしい。
トンネルの建設により、大柳川の流量が減少したら、観光資源である滝がやせ細ったり、農業用水の利用に影響をきたすかもしれない…と考えるのが自然である。けれどもJR東海は、2013年9月発表の環境影響評価準備書では、具体的な予測結果を公表していなかった。数値シミュレーションを行っていないのに、「適切な対策をとるから影響は最小限にとどめられる」としただけなのである。これでは予測ではなく単なる願望である。
これが実物。
環境影響評価準備書を複製・加筆
読んでみてわかるように、具体的な数字はいっさい載っていないのである。というわけで、こんな記載内容では、その影響が小さいとする主張の妥当性を検証することすらできない。それゆえ2013年3月に山梨県知事からは、次のような意見が出された。
準備書に対する山梨県知事意見を複製・加筆
大柳川についてもキチンと調査・予測を行い、結果を評価書に記載せよというわけである。至極マトモな意見である。
こののち翌2014年6月に、JR東海は準備書を修正して評価書を作成し、知事意見への見解を示した。それがこちら。
???
「準備書での予測結果の記述内容が不十分であるから、きちんと予測を行って評価書に記載せよ」という意見に対し、「予測結果は準備書に書いてある」という見解である。
お気づきであろうか?
オウム返しになっているだけで、全く回答になっていないのである。
けれどもこの記述のままで環境影響評価が終了し、国土交通大臣も「適切に配慮すればよい」旨の見解を示して事業認可となってしまった。
環境影響評価制度における県知事意見というものは、行政指導という扱いであり、けっして法的強制力はもっていない。だから、それに従わなかったといっても、純然たる違法行為ということはできないであろう。けれども同法第33条では、事業者が適切なる環境配慮を行っているか否かを判断して事業認可しなければならないと定められているから、県知事意見にすら答えていない評価書に基づいて事業認可することは、国土交通大臣に付与された権利の濫用というべき大きな問題と言えるのではないか。
国土交通大臣の姿勢も問題であるが、それ以上に問題なのは山梨県行政の姿勢である。自らJR東海に課した意見書が無視されているのに、そんなことは等の昔のことと忘れてしまったのか、現在に至るまで、何一つ情報提供を求めていないのである。もしかしたら把握しているのかもしれないけど、少なくとも一般に公開されてはいない。
以上のように、大柳川の流量については、単なる環境破壊という枠を超えて、行政指導無視、権利濫用、行政の怠慢、情報非公開という4点がセットになっているのである。それなのに、今の今まで、この問題を指摘する声は寡聞にして聞かないのである。これはどうしたことなのだろう?
付言すると、リニアの巨摩南第四隧道は西側に向かった上り一辺倒であり、大柳川流域でトンネル内に漏出した地下水は、全て標高の低い北隣の小柳川流域の坑口へと流れ出す。そして大柳川流域に斜坑は掘らない。ゆえに、万が一流量が減少した場合、減った流量を戻すことは物理的に不可能である。