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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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環境アセスメントと新型L0系走行実験の同時進行はすごくおかしいのである

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JR東海が、今年9月から2016年度にかけて、山梨実験線にて営業用車両L0系を用いた走行実験をおこなうと発表しています。
 
 JR東海は17日、延伸工事を進めている山梨リニア実験線(山梨県上野原市―笛吹市、42・8キロ)の完成に合わせ、9月から実際の営業で使われる新型車両「L0(エル・ゼロ)系」の試験走行を始めると発表した。
 
 実験線は、2027年に開業予定のリニア中央新幹線の路線の一部で、実験のため先行整備していた18・4キロから東西それぞれに延伸していた。新型車両による試験走行はまず5両編成でスタートし、営業運行で予定している12両に増やす計画。16年度末まで続け、最高時速500キロでの走行や耐久性などを確かめる。
 
 山田佳臣社長は同日の記者会見で、「延伸工事が順調で、当初は今年末からの予定だった試験を前倒しすることができた。L0系の性能を最大限引き出せるようにしたい」と述べた。
 
L0系は新型車両ですし、12両編成で走行実験が行われるのも初めてのことなので、いろいろと新たな知見が得られることとなります。
 
一方でJR東海は、今年2013年秋にはリニア中央新幹線の環境影響評価(アセスメント)準備書を発表すると宣言しています。(山梨日日新聞 
 
準備書というのは事業に伴う様々な環境への影響を予測・評価し、対策を記載した文書のことであり、当然、列車の走行にともなう騒音、振動、トンネル微気圧波、電力消費、磁界などの影響予測や対策についても言及がなされます。そして準備書に対しては市民や市町村・県知事から意見を提出できることが環境影響評価法で定められています。
 
っていうか、準備書への意見提出が、外部から環境配慮について意見を出せる最後の機会です。

準備書が公表される正確な日時はわかりませんが、日程を考えると、L0系・12両編成での走行実験結果が記載されるのは不可能です(そもそも実験終了の2016年度というのは着工予定2014年度よりも2年先!)。ですからこれまでのMLX01等による最大5両編成での走行に基づく予測や対策が記載されることになります。
 
したがって万が一、今後の新型車両12両編成での走行実験で新たな環境への影響が判明し、それへの新たな対応が必要となっても、準備書には反映できなくなってしまい、外部からの法律に基づく意見提出も不可能(事業者側から見れば不要)になってしまいます
 
 
 
と、ここまでは4/19に書いた内容。
 
事業者は、住民や都道府県知事からの意見をもとに準備書を書き換えてゆきます。この準備書を書き換えてゆくプロセスが、環境影響評価の核心といわれています。
 
準備書を書き換えたものは評価書と呼ばれます。さらに担当大臣(実際には環境省からの意見)から意見が出されて評価書が補正されます。補正後の評価書を公表することにより、環境影響評価は終了となります。
 
JR東海は2014年度着工を目指すとしておりますので、用地買収の日程などを考えると、2014年前半には環境影響評価を終わらせねば間に合いません。
 
いっぽう、走行実験が終わるのは2016年度。この結果を工事に反映させるのは、それ以降となります。
それじゃあ、 
 
環境影響評価が終わったあとに事業内容が変更されたらどうなるんだろう?
 
と思って調べておりました。で、環境影響評価法に、次のような条文を見つけました。なお、以下の文中では環境影響評価をアセスと表記します。
 
第三十一条
2  事業者は、第二十七条の規定による公告を行った後に第五条第一項第二号に掲げる事項を変更しようとする場合において、当該変更が事業規模の縮小、政令で定める軽微な変更その他の政令で定める変更に該当するときは、この法律の規定による環境影響評価その他の手続を経ることを要しない
 
第二十七条…事業者は、第二十五条第三項の規定による送付又は通知をしたときは、環境省令で定めるところにより、評価書を作成した旨その他環境省令で定める事項を公告し、公告の日から起算して一月間、評価書等を関係地域内において縦覧に供するとともに、環境省令で定めるところにより、インターネットの利用その他の方法により公表しなければならない。
 
第五条第一項第二号…対象事業の目的及び内容
 
簡単に解説しますと(これを理解するのに時間がかかってしまった)、
事業者は、補正後の評価書を公表した後に、政令で定めた基準以下で事業内容の変更をおこなう場合には、再度環境アセスメントを行う必要がない。
 
という意味だと思います。「ある基準以上の変更をする場合は再度行わなければならない」と、義務として書いてくれたほうが分かりやすいと思うのですが…。
 
それはともかく、「政令で定めた基準」はどの程度か…。
これも調べました。
 
環境影響評価法施行令 第十八条の抜粋
 法第三十一条第二項 の政令で定める軽微な変更は、別表第三の第一欄に掲げる対象事業の区分ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更であって、同表の第三欄に掲げる要件に該当するものとする。
2  法第三十一条第二項 の政令で定める変更は、次に掲げるものとする。
一  前項に規定する変更
二  別表第三の第一欄に掲げる対象事業の区分ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更
三  前二号に掲げるもののほか、環境への負荷の低減を目的とする変更(緑地その他の緩衝空地を増加するものに限る。)。

チンプンカンプンで回りくどい文章ですが、要するに
 
「軽微な変更」→表を参照して基準以下だったら再調査は不要
「政令で定める変更」→表の第二欄に掲げてある項目以外の変更…これも再調査不要
 
ということだと思います。
で。これがその表。
 
イメージ 1
左から第一欄、 第二欄、第三欄 となっています
 

いかがでしょうか。
「政令で定める軽微な変更」はこの7種類。これらは、この基準以下の変更ならアセスのやり直しは不要。そして、この7種類以外の変更は、「第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」となるので同じくやり直す必要なし。
 
これで環境保全が有効になるとは思えないし、納得しろと言われても素直に受け入れられそうにないのですが…。
 
例えば、表には路線の長さや位置に関する記載はあるものの、幅など規格や改変面積に関する項目は書かれていません。「第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」に該当するので、環境アセスメントのやり直しは不要という扱いになるのでしょうか?
 
あくまで懸念ですが、12両での走行実験の結果、騒音対策や微気圧波対策などのためとして、トンネルの幅を広げる必要が出てきた…なんてことがあるかもしれません。
 
方法書によるとリニアのトンネル内側の幅は約13mです。掘削幅は14m程度になると見込まれますが、両側に数十㎝広げるだけで、残土の量は1割増になります。残土の量が増加すれば処分方法や搬出方法にも影響します。周辺環境に与える影響は確実に増大しますが、どのような扱いになるのでしょう?
 
「表の第二欄に掲げる事業の諸元の変更以外の変更」…規格や残土だけでなく、リニアの問題として頻繁に挙げられる電力消費や電磁波などもこれに該当しちゃいますね…。
 
 

また、この表の基準はシャクシ定規であり、現地の様々な実情は完全に無視されることになっています。
 
騒音対策等でルートを少し変更することを考えてみます。移動先に貴重な自然環境が残されていたとしても、移動した距離が300m以内なら再調査は不要ということになりますね。

 この解釈が原因となり、現在延伸計画中の北陸新幹線で実際に問題が発生しています。北陸新幹線においては、福井県敦賀市内でアセス当時のルートが騒音対策として変更された結果、貴重な生態系が息づき、長年の保護運動の結果としてラムサール条約に登録された中池見湿地をぶち抜くことになってしまいました。しかし事業主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は現在のところ再調査は不要としています。
 
湿地近傍のルートといえば、リニアにおいても、小規模な湿地が点在する岐阜県内で大きな問題となりそうですが。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 
これらはあくまで懸念であり、実際に起こるかどうかは分かりません。
 
しかし、走行実験が終了するのが着工後になっていることから、理屈の上ではにはありえる話でもあります。繰り返しますが
 
2014年前半、環境アセスメントが終わった
2014年後半、アセスで問題なしとして着工にいたった
2016年頃、走行実験が終わり、あらたな問題点が判明した
2017年頃、新たな問題点に対処するために、路線の構造等を変える必要が出てきた。環境への負担は増大することとなったが、再調査は不要と判断された…。

こんな感じです。
 
 
ものすごくおかしな話だと思いませんか?
 
これでは環境アセスメントなど全く意味がありません。北陸新幹線の事例など、環境影響評価法の隙間をぬって、アセス抜きで自然破壊を強行するようなものです。
 
 
本当に環境配慮をするつもりがあるのなら、L0系12両での走行実験結果を準備書に反映させなければならないはずです。長野での新聞報道によると、自民党が着工を前倒ししたいなんて言い出しているようですが、それは国会議員自ら「法の隙間をすり抜けろ」と言っているのに等しいような気もします。

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