大井川の導水路トンネル案についてである。
この導水路案、トンネル湧水を放流することにより流量減少の対策にはなりうるけれども、水が戻ってくるのは本坑トンネルよりはるか下流であって、上流部の生態系への対策には一切役立たない。そのうえ、10万立米ほどの発生土を余計に増やしてしまうし、途中で沢の水を引き込むかもしれないという愚案である。
詳しくは過去のブログ記事をご覧いただきたい。
ところで改めて考えると、この導水路案というものは、何のために打ち出されたのか、よく分からなくなってしまう。
事業認可を受けた後、JR東海は「大井川水資源検討委員会」というものを設置した。そこでの検討結果として導水路案が出されたことを、今年4/14に、県に報告している。それに5月に入ってからは、大井川の流量減少を懸念している下流自治体に対しても、導水路案についての説明を行っている。ということは、単純に考えれば、水資源対策のために計画したと解釈される。
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ただ、分からないのは環境影響評価書における見解との整合性である。
JR東海は、大井川源流部の宿泊施設2地点(椹島ロッヂと二軒小屋ロッヂ)における井戸水位低下のみを、大井川の流量減少ことによる「水資源への影響」として評価書に記載している。下流の水利用についても影響があると考えているのかどうかは、評価書には明記されていないのである。
なお、流量が減少した場合の「水資源」に対する環境保全措置としては、「ポンプで汲み上げるなどを検討」としているだけであって、導水路の「ど」の字も出てこなかった。
静岡編 環境影響評価書より
また、河川流量が減少することで影響を受けるものとしては、河川に生息する動植物、河川景観といったものがあげられる。しかしJR東海の見解では、流量減少による動植物への影響は、影響範囲はごく一部に限られることから小さいとし、河川景観に与える影響については議題にすらしないというものであった。当然、どちらについても大した環境保全措置は書かれていない。というわけで、生物や景観維持のために造るわけでもなさそうである。
静岡編 環境影響評価書より
このように、河川流量減少による懸念についての見解は、
●景観への影響は視野の外
●動植物への影響は無視できるから特に対策はしない
●下流の利水に与える影響については明言せず
●井戸の水位は下がるかもしれない
●動植物への影響は無視できるから特に対策はしない
●下流の利水に与える影響については明言せず
●井戸の水位は下がるかもしれない
というところである(渓流魚については最近、漁協から異論を受けて修正の可能性)。
したがって、この評価書によれば、導水路など造る必要はないはずである。宿泊施設2地点の井戸水など、支流に簡易水道用の堰でも作れば簡単に確保できる量であろう。
それに、流量が毎秒2トン減少するというのは、あくまで予測であって、実際に掘ってみたらもっと少なくて済むということだってあるかもしれない(逆も然り)。流量が減少しないのに導水路なと造ったら、ムダに環境破壊を増やすだけに終わってしまう。
というわけで現段階では、そもそも必要かどうかも分からないはずである。「トンネル完成まではポンプで汲み上げる」としているのであるから、完成後に流量が減少したのを確認してから着工すべきである。それに、環境への影響を本気で考えるのなら、こんな導水路を掘るよりも電力会社と水利権交渉を行って渇水期に水を流してもらった方が、まだしも有効である。
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ではなぜ、現時点で必要性があるかどうかさえ不明な導水路案を、環境影響評価手続きの終了後に打ち出したのであろうか?
これは私の勝手な予想であるが、導水路ではなく放水路ではないかという気がするのである。
毎秒2トンという量は、トンネルとしては異例に大きな数字らしいけれども、長さを考えれば極端ではないらしい。トンネル竣工後における湧水量についてまとめた結果、次のような経験式が作成されているらしい。トンネル断面積も地質も無視した、ものすごく大雑把な式であるけれども。
http://mishi.weblike.jp/82_yusui_yosoku.html
http://mishi.weblike.jp/82_yusui_yosoku.html
(恒常流水量とトンネル湧水量との関係)
Q=0.1×L^2
Q=0.1×L^2
(相関係数 0.53)
Q:恒常湧水量(㎥/min)
L:トンネル延長(km)
Q:恒常湧水量(㎥/min)
L:トンネル延長(km)
この式に大井川流域における数字としてL=30を代入すると、式1では1.5㎥/sが導き出される(本坑10.7㎞+先進坑10.7㎞+斜坑6㎞+作業用トンネル数㎞)、。リニアのトンネルは断面積が大きいこと、破砕帯と川との交点をぶち抜くこと、川底に沿った位置にトンネルを伸ばすことを考えると、JR東海の予測した2㎥/sという数値は、これまでの経験則からみても、的外れな数字ではないと思われる。
ローカル色丸出しで恐縮だが、2㎥/sという値は、静岡市を流れる藁科川中流部での、冬場の流量に相当するのである。
2015年2月1日撮影
今冬は降水量が多かったから、毎秒2トンよりも少し多いかもしれない。
こんなに大量の水が工事中のトンネル内をドバドバ流れるとしたら、はっきりいって工事を行うことも、トンネルを維持することも物理的に不可能であろう。だからこそ、途中に横穴をあけ、大井川に流してしまおうと考え、それを「導水路」と称してるのではないだろうか?
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いずれにせよ、導水路案と環境影響評価手続きとの関係が不明なままである。
「流量が減少したら下流の利水に影響を及ぼすかもしれないから導水路を造る」というのであれば、まずは環境保全措置としての導水路案の位置づけを明記したも環境影響評価書を作り直すべきであろう。