先週のことになるが、静岡市が委託して行った「平成26年度南アルプス環境調査」の結果が公表された。9日に公表されたのであるが、その後専門家からの指摘を受けて11日に修正版が公表された。
結果はPDFファイルとしてまとめられており、静岡市役所ホームページで閲覧可能である。
調査項目は、
●トンネルの存在による水資源への影響
●大気質
●水質
●動植物
である。
このうち、トンネルの存在による水資源の影響調査というのは、JR東海が環境影響評価において「大井川の流量が2㎥/s減少する」という予測結果を出したことに端を発している。
浅学菲才の身であり、情けないことであるが、数値シミュレーションの方法や予測結果の妥当性について言及するための知識は持ち合わせていない。このため、以下に述べることは、あくまで一般論として言えることにとどまることをお断りしておく。
このほど静岡市が委託して行った試算は、JR東海の用いたものとは異なるモデル式を用いて行われたそうである。また、JR東海から情報が提供されなかったため、斜坑(非常口)の存在は考慮していないということである。また、本坑に並行して掘られる先進坑についても言及していない。
この条件で試算した結果、全区間でのトンネル湧水量は1.5㎥/s、うち大井川流域において1.2㎥/sに達するという数字が導き出された。
上述の通り、大井川の川沿いに掘られる2本の斜坑の存在を考慮せずに1.2㎥/sの水が湧き出すと試算されたであるから、考慮した場合は、もっと多くなるはずであり、JR東海の試算した2㎥/sという値に近くなることが推察される。つまり、2種類のシミュレーションで、ともに似たような値が導き出されたといえる。
したがって、このほどの市調査の意義というのは、「2㎥/sの減少」が、シミュレーション結果としては「もっともらしい値」であることを示した点にあるのではないかと思うのである。
次に、動植物の調査では、県や国のレッドリスト掲載種などの重要種が46種確認され、JR東海の現地調査では確認されていなかった種が新たに13種見つかったという。なおJR東海の現地調査で確認された重要種は114種であった(と思う)。
この動植物調査の意味であるが、JR東海の調査を補完するという意味も持ち合わせているのであるが、それよりも「完璧な調査はありえない」ことを示したことが重要であると思う。つまり、完璧な調査はもとより不確実なのだから、それを見越して環境保全措置を講ずる必要があるということである。
市の調査では、JR東海が確認できなかった種が新たに13種確認されたわけであるが、逆に、JR東海が確認したにもかかわらず、市の調査で確認できなかった種も70種近くに及んだ。市の調査結果の末尾にも記されている通り、調査対象は生き物であるのだから、調査時の天候、調査年の気候条件によって出現する個体数や時期に変化が生じるのは当然である。それに動員した人数、調査範囲の面積によっても調査結果は左右されるであろう。樹上に生息する昆虫など、簡単に捕獲できるとも思えない。
というわけで、どれだけ調査日時をかけても、完璧な調査をおこなうことは不可能なのである。
だからこそ環境影響評価においては、既存の文献調査や、地元に詳しい人々からの聞き取り調査を徹底したうえで、「生息している可能性の高い種」については適切な環境保全措置を考案することが必要とされる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
JR東海の作成した評価書では、現地調査で確認された重要種のみ、(比較的)詳しい予測を行い、環境保全措置を講じるという構成になっている。
いっぽうで”文献のみで確認された”という多数の動植物に対しては、ロクな考察もおこなわずに「生息・生育環境は保全される」などという見解を導いているのであるが、こんなことは論理的に不可能である。
JR東海の調査では、現地で確認できず「文献のみで確認された」とするヤマトイワナをめぐり、地元漁協から「実際の生息は確実なのだから環境保全措置を講じるべき」という異論が出て問題が大きくなり、さらに市の調査ではJR東海の調査地域近傍で確認されて混乱の様相を呈し始めている。これなんか、環境保全をロクに考えていなかったことが、混乱の原因であろう。
参考までに、「文献でのみ確認された」植物への予測結果を掲載しておく。
文献のみで確認された重要な植物種に対する影響評価
環境影響評価書静岡編より
140種の植物に対し、一律に同じ予測結果が出てくるなんてありえるのですかな?