リニア建設に伴う環境破壊というと、
トンネル工事に伴う川の流量減少
希少動植物の分布地消滅
大量の工事用車両の通行に伴う生活環境の悪化
希少動植物の分布地消滅
大量の工事用車両の通行に伴う生活環境の悪化
騒音・振動
エネルギー消費の増大
といった問題が頻繁に取り上げられる。これらとに比べると、ほとんど話題に取り上げられることが無いのだけれど、良好な自然環境の残されている地域では、
外来動植物の拡散
ということに、もっと注意が払われていいと思う。特にユネスコエコパークに登録されているいる南アルプスにおいては、その質の保全という点で、きわめて重要な問題である。
外来の動物・植物ともに重要な問題であるけれど、動物の問題のほうにはあまり調べがついていないので、とりあえず植物の方に偏った内容となっているが、ご容赦願いたい。
現在日本各地に広まっている外来植物の多くは、
●種子を大量につける
●種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
●他の植物の生育しにくい、やせた荒地でも育つ
●種子が軽量・ごく小型で、風・水・物に付着するなどして散布されやすい
●他の植物の生育しにくい、やせた荒地でも育つ
といった特徴をもつ。キク科植物のように綿毛で風に載って運ばれてきたり、マメ科植物のように地下にバクテリアを共生させて栄養に乏しい地でも生育できるようにしたりと、工事によって生じた裸地やコンクリートの隙間などに真っ先に侵入するために、非常に都合のよい性質を備えているのである。
だから「人やモノの移動が活発、裸地の出現」という2大条件をそろえた、農耕地、造成地、流通施設、道路・線路沿いには、外来種植物がはびこることになる。現在では市街地・農耕地をとわず繁茂しているヒメジョオンやヒメムカシヨモギなどという草は、明治以降の鉄道敷設に伴って生育地を拡大してきたため、鉄道草と呼ばれていたこともあったらしい。
放棄水田に繁茂する外来種植物の数々
白い花がヒメジョオン
手前に茶色く枯れているのはコバンソウ
その周囲の白っぽく枯れているのはヒメコバンソウ
緑色の葉はアレチノギクかヒメムカシヨモギ(正体不明)
2015年6月20日 静岡市駿河区にて
外来種植物の多くは、輸入穀物に紛れ込むなどして意図せずに運ばれてきたものであるが、中には荒地で育ちやすい性質ゆえに砂防目的で意図的に植えられるものや、近年では観賞用のものが野生化したものもある。
昨年1月に当ブログで指摘したことの繰り返しになるが、静岡県版の環境影響評価書によると、静岡県内の現地調査範囲内でみつかった高等植物は756種だという。このうちシダ植物を除く種子植物は686種であり、そのうち、明らかな外来種植物は以下の21種であった。
エゾノギシギシ (タデ科)
オランダミミナグサ (ナデシコ科)
イタチハギ (マメ科)
ハリエンジュ (マメ科)
コメツブツメクサ (マメ科)
ムラサキツメクサ (マメ科)
シロツメクサ (マメ科)
メマツヨイグサ (アカバナ科)
マツヨイグサ (アカバナ科)
アメリカセンダングサ (キク科)
コセンダングサ (キク科)
ダンドボロギク (キク科)
ヒメムカシヨモギ (キク科)
ハルジオン (キク科)
セイタカアワダチソウ (キク科)
ヒメジョオン (キク科)
セイヨウタンポポ (キク科)
コヌカグサ (イネ科)
シナダレスズメガヤ (イネ科)
オオクサキビ (イネ科)
オランダミミナグサ (ナデシコ科)
イタチハギ (マメ科)
ハリエンジュ (マメ科)
コメツブツメクサ (マメ科)
ムラサキツメクサ (マメ科)
シロツメクサ (マメ科)
メマツヨイグサ (アカバナ科)
マツヨイグサ (アカバナ科)
アメリカセンダングサ (キク科)
コセンダングサ (キク科)
ダンドボロギク (キク科)
ヒメムカシヨモギ (キク科)
ハルジオン (キク科)
セイタカアワダチソウ (キク科)
ヒメジョオン (キク科)
セイヨウタンポポ (キク科)
コヌカグサ (イネ科)
シナダレスズメガヤ (イネ科)
オオクサキビ (イネ科)
なお、その後の追加調査で、新たな種が確認されているかもしれないし、また在来種に思える種の中にも植林されたはずの樹木が何種があるので、正確な数字は事業者でないと判断できない。とりあえず21種という数字も用いると、外来種植物の割合は3%ということになる。
同様の作業を、山梨県版評価書についておこなってみると、種子植物1186種のうち明白な外来種は約226種であり、その割合は19%である。また、長野県版評価書についておこなってみると、種子植物1200種のうち明白な外来種は約150種であり、割合は約13%であった(数え漏れがあるかもしれない)。
面倒なのでやる気も起きないけれど、東京都、神奈川県、愛知県版ならさらに比率が高いことが、容易に想像される。
これらと比較してみると、やはり静岡県版評価書における3%という数字は、かなり小さいのではないかと思う。
なお静岡県内の調査地点のうち、扇沢源頭の標高2000m地点(発生土置場候補地)で確認された種子植物は196種である。重要種として確認地点を伏せられた種が何種があるから、実際にはおそらく約200種というところであろう。このうち外来種植物は、シロツメグサ、セイヨウタンポポ、コヌカグサの3種である。割合は1.5%にとどまっており、品川~名古屋の全調査区域の中で、最も低い値であることは確実である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
南アルプスへの外来種植物の搬入をこの程度で食い止めてきたのは、ひとえに一般車両の通行を禁じてきたからに違いない。
リニア中央新幹線の建設工事は10年以上に及ぶ。評価書によれば、その間は大井川源流部の東俣林道を使って、毎日300~500台の大型車両が、大量の物資と人とを乗せて、外部と南アルプスとを行き来することになる。この車両・積荷・ヒトに外来種植物の種子がくっついていたらどうなるだろうか?
工事にともない、表土をはぎとられる場所があちこちに生じることになる。さらに発生土置場という、植物の全くない裸地も広い面積で生じる。むきだしの地表が広い面積で現れることとなる。
そこに大量の種子が、フリカケのようにばらまかれてしまうのである。他の植物が生えていないのだから、外来種植物の種子にとっては競争相手のいない天国である。
高度成長期には、南アルプスでも電源開発や森林伐採が盛んに行われていたが、それでも外来種の侵入は21種に抑えられた。現在は、当時と比較して明らかに平野部や人家周辺の外来種植物は増えているのだから、種子供給源が増えていることになる。冒頭の写真のように市街地郊外には、訳の分からない外国産の植物がうじゃうじゃ生えているのである。工事用車両はそこを通ってくるのだから、種子を大量に付着させてくるに違いない。どこかの河原で採取される砂利(コンクリート材料)なんて、外来種種子のカタマリである。
当時以上に侵入の危険性が高いのは明明白白である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さらに困るのは、工事による改変箇所が外来植物の種子供給源となってしまう事態である。
現在の南アルプスの谷沿いにおいて、がけ崩れや倒木跡など、自然に生じる裸地の植生が復元してゆく過程を考えてみる。
裸地には、周囲からの飛散や動物の移動にともない、イタドリ、フジアザミ、ヤマハタザオ、ミヤマハンノキ、ノリウツギ、タラノキといった種類の種子が進入してくる。真っ先に侵入する在来植物のことを先駆性植物とよぶ。先駆性植物が成長し、土壌の流出を防ぎ、土地が安定してきたところでカラマツやアカメガシワなど明るい場所を好む樹木が生え、最終的にブナやミズナラ、高所ならオオシラビソ等の高木の茂る森林へと変わってゆくものと推察される。高校の生物で習う、「二次遷移」といわれる勝ち得である。
ところが、発生土置場等から飛散した外来種植物が、在来の先駆性植物と置き変わったら…その時点でアウトであろう。その場所を占拠し、在来の植物を締め出してしまう。 本来生えていた植物が失われるだけでなく、その植物をエサとしている昆虫にも影響を与えかねない。
さらに、そこが二次的な種子供給源となり、川の流れ、風、動物や登山者への付着により、奥へ奥へと運ばれていってしまう…。つまり南アルプスの生態系が、外来種の侵入によって本来の姿を失ってしまうおそれがあるといえる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
外来種植物のなかには、いったん侵入してしまうと根絶が不可能なものが多い。セイタカアワダチソウなど、1本の株で数万の種子を飛散させ、根から化学物質を放出して他の植物を寄せ付けず、しかも根の切れ端から再生するとなっては、ほとんど無敵である。
最近増えているセダムとよばれる類いも強い生命力をもつ。筆者の個人的な経験であるが、2㎝の切れはしを机の上に放置し、干からびたのを植木鉢にに置いておいたら、そこから復元してしまった。以後、水も肥料もやらないのに、ベランダの隅で6年余りにわたり毎年花を咲かせている。ほとんど不死身である。
海岸の護岸にびっしりとはびこったセダムの一種(オカタイトゴメ?)
葉に微小な突起があり、原産地不明の園芸種オカタイトゴメと判断した。
2015年6月20日 静岡市駿河区久能海岸にて
このセダム、さらに厄介なことに、見た目が在来種のタイトゴメにそっくりである。こういうのは、外来種なのか在来種なのか、簡単に見分けがつかないのである。イネ科植物にも在来種との見分けのつきにくいものが多い。
こういう種では、うかつに刈ったりして対応することができない。刈ってみたら希少種であった…では困る。
それにここは南アルプスである。むやみやたらに除草剤を散布するわけにもいくまい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
したがって、
●現在確認されている外来種についてはこれ以上拡散させないこと
●これ以上侵入させないこと
が重要である。
ところが環境影響評価書においては、どちらもマトモに検討しているとは言い難い。
現地調査で確認された外来種植物の数を挙げたが、あれは私が一覧表を眺めて数えたものである。ふつう、こういう作業は事業者がおこなって評価書に記載しておかねばならない。長野版ではどこで何の種が確認されたのかも分からず、評価書としての役割を果たしていないのである。つまり外来種植物の繁茂現況についてさえ整理・公開していないわけで、非常識だと思う。
また、評価書記載の環境保全措置として、タイヤ洗浄を行うことが掲げられている。同じく資料編には、具体例として、国土交通省による富山県の立山カルデラ砂防事業における報告がコピーされている。
タイヤ洗浄は、やらないよりはマシなので、行うこと自体に異論はないが、それでよしとする認識が誤りである。立山カルデラでの報告では、
「タイヤ洗浄装置の検証の結果、工事車両等のタイヤによって外来植物が運ばれてくることが一因であると判明し、洗浄装置によって種子の侵入抑制に一定の効果があることが実証された」
と結ばれている。つまり、タイヤ洗浄は万能ではない。
「タイヤ洗浄装置の検証の結果、工事車両等のタイヤによって外来植物が運ばれてくることが一因であると判明し、洗浄装置によって種子の侵入抑制に一定の効果があることが実証された」
と結ばれている。つまり、タイヤ洗浄は万能ではない。
当たり前のことで、ダンプカーの車体にもくっついてくるだろうし、何より荷台・積荷に付着してくる場合には、タイヤ洗浄では対応できない。考えてみてほしい。外国から外来種が運ばれてくるの経路は、意図的でなければタイヤ付着ではなく積荷付着である。
トンネル建設には大量のコンクリートが必要である。その材料である砂利やセメントは、平地から遠路はるばる運んでくるのだという。セメント材料(砂利)にくっついている種子にはどうやって対応するのだろう?
続くけど、長くなるのでまた次回。