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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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付帯施設と環境アセスメント -住民意見提出を回避させたじゃあるまいな?ー

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何でも後回し  

ということが生み出した問題点について、今一度、考える必要があると思います。


【要旨】
リニアの付帯施設(発生土置場、変電所等)については、本来であればアセス手続きにおいて、一般市民等の検証を受けなければならなかった。しかしアセス手続き中に計画を具体化できないとして事後調査に切り替えることにより、一般市民等からの意見提出の機会が失われてしまっている。法的には問題ないとしても、環境保全上あるいは社会通念上、これはおかしくないだろうか?


この問題点については、環境影響評価制度をおさらいする必要がありますが、ここで説明しますと長くなりますので、こちらをご覧ください。
⇒【環境省 環境アセスメントガイド】
http://www.env.go.jp/policy/assess/1-1guide/index.html

ええと、環境影響評価法では、一般市民から「環境の保全の見地からの意見」を提出する機会を3度定めています。

配慮書作成時
方法書作成時
準備書作成時

です。それは住民にとってどんな意味を持つのか?
いろいろと考えられますが、とりあえず
●問題発見・問題提起
●情報の提供
●自己の権利防衛
●公益の保護
●事業活動の監視
●合意形成のための参加
 
といったところでしょう。環境保全という範囲に限定されますが、事業への住民参画を法律で定めているわけです。事業による環境保全策について住民が参画する権利を法律が定めている…この点は重要です。

リニア中央新幹線計画は、環境影響評価法に基づいて環境影響評価手続きが進められ、配慮書段階(2011年6月)、方法書(2011年9月)、準備書段階(2013年9月)の各段階において、一般の住民からの意見が聴取され、事業者の見解が示されました。まあ、ロクな回答がなかったわけですが、今日の指摘はそこではありません。
環境影響評価手続きにおいては、リニア建設計画のうち、JR東海の直接関係する事業によって影響を受ける可能性のある場所のうち、おそらく半分程度しか明かされませんでした。
すなわち、

発生土置場(静岡県と山梨県早川町塩島を除く)
発生土の仮置場
関連する道路工事
一部の変電所

については、候補地はおろか、事業計画自体も挙げられていませんでした。

で、これらについてどうしたのかというと、「具体的な位置・規模等の計画を明らかにすることが困難な付帯施設に関する環境保全措置の内容をより詳細なものにするための調査」として法第14条7のハを適用し、後回しにしたわけです。
…チンプンカンプンですよね。。。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

事業者がおこなった調査・予測・評価結果および環境保全措置についてまとめたものが準備書です。この記載項目について、環境影響評価法第14条7のハでは、これらと並んで次のようなことを書くよう定められています。

法第14条7のハ(要旨)
環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置を準備書に記載しなければならない

分かりにくい表現ですけど、ここでいう「将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるもの」とは、一般的には、例えば移植した植物がうまく育たなかった場合など、問題が将来的に判明したとき等にとるべき対策のことをさします。「当該環境の状況の把握のための措置とは、その植物の生育具合を見定めるための方法を指します。

つまり、この規定は、正体発生するかもしれない問題を監視するための方法を準備書に書かなければならないとしているのです。この監視体制のことを事後調査とよびます。いわゆるモニタリング調査のたぐいであり、河川の流量調査、井戸の水位、騒音の監視なども含まれます。

ですけど本件リニア計画の場合、通常とは異なった解釈が行われています。

「環境の保全のための措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には、当該環境の状況の把握のための措置を準備書に記載しなければならない」

「将来になって場所が決まってからその場所の環境の状況は判明する。その場所の環境の状況に応じて環境保全措置が決まるから、その環境の状況を把握するための手法を準備書に記載しなければならない。」

というように読み替えられているのですね。これはJR東海の解釈ではなく、配慮書への環境大臣意見で述べられた内容に基づきます。計画当初より、環境影響評価手続きの中では事業計画の全貌が見えてこない事態が想像されたために、「全く環境配慮ができない最悪のケース」を回避するための布石であったと思われます。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

とはいえ法律の範囲内であったとしても、事業者に課せられた義務や住民サイドという面から見ると、どうもノープロブレムとは言い難い。。。


というのも、事後調査において住民参画については一切法律で規定していないということがあげられます。繰り返しになりますが、通常の環境影響評価において事後調査が対象とするのは、事業着手後のモニタリング計画を主眼としているからです。そこでは環境影響評価は終了していますから、住民による意見提出は終わっているはずなのです。

けれども本件リニア事業の場合、「場所が決まっていないからアセスのやりようがない」ものを、拡大解釈によって全て事後調査の対象にしてしまいました。

JR東海は、発生土置場など環境影響評価の過程では位置等を明らかにすることのできなかった付帯施設については、次のような事後調査を行う方針であると公表しました。

イメージ 1

(長野版 事後調査計画書)

長くなるので省略しましたが、一応、環境影響評価と同じように環境の把握のための調査をおこない、その結果を公表するとしています。ところが住民および一般市民の参画については一切示していません

これによって生じているおかしな話。

9/4、長野県の南信州新聞に次のような記事が掲載されました。まあ長野だけでなく他地域でも似たような状況かと思われますが。

本紙の調べでは、大鹿村の298万立方メートルは、同村の10万立方メートルの他、松川町の窪地埋め立てなど3カ所で620万立方メートル、駒ケ根市内の市道改良で3万立方メートル、中川村内の県道改良で13万立方メートルの活用が検討されており、候補地の受け入れ量が発生量を大幅に上回っている。
 豊丘村は窪地2カ所の埋め立てで、喬木村は工業団地の整備で村内発生分を処理できる見通し。搬出経路としては、長沢田村線や竜東一貫道路が予想される。 

記事からでは、行政とJR東海だけで話が進められているように見受けられます。関係する市町村のホームページ等を見渡しても、一般市民等の関与を求めるような呼びかけにはたどり着くことができません。これでは住民不在とされてもしかたがないでしょう。

けれども、もしも準備書の段階で発生土置場候補地について触れていたのであれば、その場所の妥当性、工事計画、調査手法・結果の妥当性、環境保全措置について、環境影響評価法に基づき、住民および一般市民が意見を提出することができていたはずです。例えば「候補地になっている場所に希少な生物が生息しているのに現地調査で見落とされている」といったことを指摘することができます(例:静岡県版準備書)。

前述の通り、これは地域の環境保全のために一般市民がもつ権利です。

けれども事後調査に振り替えることより、一般市民はその権利を行使する機会がはく奪され、行政もそれを容認していると言わざるを得ない状況になってしまっています。


見方を変えれば、JR東海は、本来は受け付けなければならないはずの住民意見提出を回避することができた、と解釈することもできます。もしも発生土置場について内々に候補地を挙げておきながら、意図的にこれを狙っていたとすれば、極めて悪質…。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

いずれにせよ、JR東海の示した方針、および現在の進め方では、事業者と行政機関、土地所有者だけで話が進んでしまい、客観的な指摘の入る余地はありません。これでは「推進する側にとって都合のよい論理」だけで進めることが可能となってしまいます。

環境は、特定の人だけが所有するものではありません。ゆえに環境をどのように保全してゆくかという議論は、様々な価値観・利害をもつ人々意見を突き合わせることによって、はじめて結論が導き出せるものだと思います。「内輪の論理」で進めてはダメでしょう。

というわけでJR東海様へ。

発生土置場候補地の調査について、「けっして住民意見提出を回避することを目的として事後調査対象としたわけではない」とご主張されるのであれば、今後公開されるであろう調査結果について、意見提出の機会を保証すべきであると考えますが、いかがでしょうか?

評価書に対する国土交通意見にも、このような一文がありますよね?
イメージ 2


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