前回は、「JR東海の主張どおりに環境影響評価(アセスメント)と新型営業用車両L0系での走行実験を同時におこなうのは絶対におかしい」という点を指摘しました。
環境アセスメントについて今までの流れと、JR東海の主張する今後の流れを図示しますと
こんな感じになります。今後の走行実験結果が出てくるのは、環境アセスメントが終了した後です。それではその結果をアセスメントに反映することはできなくなり、どんな事態になろうとも、誰も何も言えなくなってしまいます。これは環境アセスメントの本質にかかわる大問題です(詳細は前回5/27の記事をご覧ください)。
ところで
「着工前倒しを要望」
という声が沿線自治体首長の皆々様から出ています。(5/27神奈川新聞)
という声が沿線自治体首長の皆々様から出ています。(5/27神奈川新聞)
一方JR東海からも「2014年度早期着工を目指す」という声がでているようです。(5/24信濃毎日新聞)
でもこれって、環境アセスメント制度を考えるとムチャな話なんですよ。いや、ムチャというより、自治体トップから事業主体のJR東海までもが、こぞって「環境配慮など軽視しますよ」と宣言しているようなものです。
どのマスコミも、このことに何ら疑問を掲げることなく報じていますが、とっても不思議に思います。
かなり速いペースで環境アセスメントを進める場合を考えてみます。
JR東海は秋に準備書を公表するとしています。準備書というのは事業に伴う様々な環境への影響を予測・評価し、対策を記載した文書のことです。具体的な公表日時がいつになるか分かりませんが、仮に2013年9月上旬としておきます。
環境影響評価法の規定により、準備書を公表してから一ヶ月と2週間の間は、一般からの意見を受け付けなければなりません。9月上旬から一ヶ月+2週間経つと10月半ばに意見受付終了となります。
このあとJR東海は受け付けた意見をまとめ、関係都県や市町村に送付しなければなりません。意見集約に少なくとも2週間はかかると考え、10月末頃と仮定します(これまでの鉄道事業の事例ではいずれも一ヶ月程度かかっている)。
意見概要を受け付けた各都県(知事)や市町村は準備書に対する審議を行い、120日以内に意見をJR東海に提出しなければなりません(市町村は都県に意見提出)。法律上、審議期間は短くしようと思えばいくらでも短縮できるようですが、通常は120日いっぱいかかっているようです。というわけで、120日後の2014年3月初めに、知事意見がJR東海に提出されるとします。
JR東海は知事意見をもとに準備書の内容を修正します。準備書を修正する期間に制限はありません。ここにいかに時間をかけるかは、事業者の裁量次第とも言えます。修正されたものは評価書と呼ばれ、これについて環境大臣は45日以内に意見を述べなければなりません。
JR東海は、環境大臣意見を元に再び評価書を修正し、最終的に「補正後の評価書」を作成します。これを公告することにより、(その後に事業内容に大幅な変更がない限り)環境影響評価の手続きは終了となります。
環境影響評価法に基づいた鉄道事業の環境アセスメントにおける、知事意見提出から補正後の評価書公告までの期間を調べてみますと次の通りでした。http://www.env.go.jp/policy/assess/3-2search/search.html
東京の地下鉄13号線(池袋-渋谷間8.9㎞)…224日
仙台市高速鉄道東西線建設事業14㎞…205日
成田新高速鉄道線建設事業19.1㎞…160日
大阪都市計画都市高速鉄道第8号線(井高野-今里)12㎞…148日
北海道新幹線(北海道域:250.7km)…1年と27日
北海道新幹線(青森県域:28.8km)…1年と33日
北陸新幹線(南越(仮称)・敦賀間:31.1㎞)…1年と16日
仙台市高速鉄道東西線建設事業14㎞…205日
成田新高速鉄道線建設事業19.1㎞…160日
大阪都市計画都市高速鉄道第8号線(井高野-今里)12㎞…148日
北海道新幹線(北海道域:250.7km)…1年と27日
北海道新幹線(青森県域:28.8km)…1年と33日
北陸新幹線(南越(仮称)・敦賀間:31.1㎞)…1年と16日
最低でも5ヶ月、区間の短い地下鉄工事でも7ヶ月くらいはかかっているようです。
これを参考に、2014年3月初めと見込まれる知事意見提出から5~7ヶ月後とすれば、環境アセスメント終了は早くても2014年8~10月となります。
いっぽう沿線自治体トップの皆々様のご意向は「2014年度早期着工を目指す」ということですので、2014年度の真ん中、9月末までに着工したいと考えているとします。すると補正後の評価書公表から着工までの期間は長くても2ヶ月程度。
この間に、測量、設計、全国新幹線鉄道整備法や鉄道事業方に基づく国土交通省による事業の審査、用地買収、保安林解除、農地転用など、多方面にわたる様々な準備や手続きを行わなければなりません。
たったの2ヶ月で終わるものなのでしょうか??
常識的に考えて不可能です。例に挙げた十数キロの地下鉄工事とは違い、南アルプスから大都市大深度地下まで、様々な環境をもつ延々240㎞(実験線部分のぞく)という規模です。あらかじめ用地買収や測量、設計が終了していなければ絶対に不可能でしょう。
現在は環境影響評価の真っ最中であり、その結果としてはじめて路線の構造や改変箇所が決まってくるわけですから、現段階で測量や設計ができているはずがありません。できていたとすれば、それは「今後の環境影響評価の結果は既に出ている」、もしくは「結果は考慮しない」ことになります。
環境影響評価法に用地買収に関する規定はないようですが、あらかじめ土地を購入してあったなら、環境アセスメントなんてハナから無視していたことになります。
あるいは極力ペースを速くするために、各自治体での審議を短縮させるとか、JR東海による準備書修正期間を短くするといったことも考えられます。
いずれにせよ、環境アセスメントの内容を粗雑にすることには変わりありません。
分かりにくいと思いますので、今述べたことを図にまとめてみますとこうなります。
また、前回指摘したとおり「2014年度前半着工を目指す」のは、今後行われる新型営業用車両L0系12両での走行実験結果を環境アセスメントに反映しないことを意味します。
自治体や事業主体のトップが「2014年度前半着工を目指す」と発言するのは、こういうおかしな進め方を、自ら率先して行わせようとしていることに他ならないと思います。
リニア計画は、規模・内容・改変箇所とも前例のない事業です。常識的に考えて、通常の鉄道建設などよりも丁寧で詳しい環境配慮が求められて当然です。
それなのに、どうして環境配慮の手続きを簡略化させたがる動きが活発なのでしょうか。そしてどうしてどのマスコミも計画を持ち上げるばかりで、あからさまにおかしな点を追求しないのでしょうか。