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工事用道路トンネル新案と評価書との整合性やいかに?

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JR東海が9月に入って表明した静岡市内での工事用道路トンネル新案について、評価書との整合性という観点から問題点を考えてみたいと思います。

計画の詳細は不明ですが、新聞報道によれば、西俣の斜坑(JR東海は非常口と自称)付近から、燕沢平坦地に向かって長さ4500mほどのトンネルを掘る計画だそうです。

①工事用道路トンネルの建設理由がさらに不明確となるのでは? 
工事用道路トンネルの建設目的は、普通に考えると本体トンネル工事にかかわる車両の通行のためと思えるのですが、JR東海の主張によると、必ずしもそうではないようです。

静岡編評価書の「8-4-1 動物」に対する環境保全措置(環境対策)には、次のような記載があります。
イメージ 1
図1 環境保全措置としてのトンネル建設
評価書より複製 

これに従うと建設目的は、「本体工事にともない地上の林道に大量の工事用車両を走らせると、付近に生息している猛きん類(ワシ・タカ類)の生態に悪影響を及ぼすおそれがあることから、トンネルを掘ってその中に通すことが対策として必要である。」ということです。

環境負担そのものであるトンネル建設を”環境保全措置”と位置付けていることに「?」を抱いておりましたが、本体工事による環境破壊の規模がケタ違いであるため、「大事の前の小事」といった意味合いでのみ成り立っている、無理のある論理です。

とにかくこの論理、非常に重要ですからご注意ください。繰り返しますが、工事用道路トンネルの建設目的は輸送力確保のためではなく、あくまで「猛きん類のための環境保全措置」なのです。

この主張に従うと、今般の計画変更について以下のような疑問が生じます。

イメージ 9
イメージ 2
図2 工事用道路トンネル新旧案対比
イ~ア~オが評価書確定時
このたびイ~カのあたりに変更する計画 


当初、工事用道路トンネルはイ~ア~オのルートで想定されていました。このトンネルが「猛きん類のための環境保全措置」であるのならば、この「イ~ア~オ」ルートの地上付近には猛きん類が生息しており、それへの影響回避であったはずになります。

ところがJR東海は、新しい工事用道路トンネルとして、西俣斜坑口(ウ)と燕沢平坦地(カ)とを直接結ぶルートを表明しました。

既存の林道はウから登山施設の二軒小屋ロッヂを経て「カ」に達しており、以前の案とは異なります。この地上部に猛きん類の生息域がかかっているかどうかは分かりません。

ですから新たな工事用道路トンネルについても、その建設目的として「猛きん類のための環境保全措置」を標榜するのであれば、二軒小屋ロッヂ付近にも猛禽類が生息しており、新トンネル建設はそれへの影響回避である旨をJR東海自らが説明しなければなりません。あるいは、もしも生息域にかかっていない場合には、環境保全措置としての建設理由はおろさねばなりません。

どちらのケースにせよ、改めて環境保全措置としての妥当性が維持されているのかどうか、評価書を更新したうえで説明する必要があると思われます。


②工事工程の大幅変更 

工事用の補助トンネルとはいえ、長さが4500mもあります。以前の案ではトンネルな長さは約3000mを想定していましたから、単純に考えれば、工事期間は1.5倍に延びます。補正評価書作成時の建設理由を引き継いだ場合、このトンネルは、あくまで本体工事にかかわる車両を通すための環境保全措置として造るわけですから、本体着工はその完成後にならなければなりません。

したがって工事工程は大幅にずれるはずです。

補正評価書の時点では、工事の工程は図3のように予測されていましたが、すでに意味をなさなくなっています。これに基づいて試算された工事用車両の通行台数も変更されるので、それによる騒音・振動の発生予測・対策も、変更されなければならないはずです。
イメージ 3
図3 工事工程表
評価書より複製・加筆 


図4が補正評価書における騒音についての予測結果です。
イメージ 4
図4 騒音予測について
評価書を複製 

上部の「オ)予測対象時期」も、「カ)予測条件」も変わる場合は、「キ)予測結果」も変わるはずです。具体的に必要となる環境保全措置も、再検討が必要となるかもしれません。

もしかしたら、騒音予測値はたいして変わらないのかもしれませんが、このような疑念が論理的に存在する以上は、それを払しょくするための再調査が求められるはずです。つまり、評価書の修正が必要になると思われます。

 
③工事用道路トンネル建設に伴う地上環境への影響が不明 
●坑口付近での改変 
図2におけるウ、イ地点付近を拡大したものを図5に掲げます。
イメージ 5
図5 西俣非常口(斜坑)付近の詳細
評価書関連図を複製・加筆 

旧計画での坑口は西俣左岸の標高1460m付近に想定されていました。図5において点線枠で示されているところです。ところが新案では西俣斜坑付近のどこかかから南へトンネルを掘ることになるので、入り口を反対岸に移すことになります。

また、新たなトンネルの南側坑口となる燕沢発生土置場付近でも大幅な工事計画の変更があります。図2でのカ付近を拡大したものを図6に示します。

評価書確定時では、大井川右岸(図6では左手)での改変行為は宿舎建設だけとしていましたが、新案では、新たに坑口および工事施工ヤードを設けることになります。

イメージ 6
図6 燕沢付近の詳細な図
評価書を複製・加筆 

ちなみに工事用道路トンネルの燕沢側出口が設けられる可能性のあるあたりの光景を図7に示します。このあたりの森林を伐採したうえで整地し、施工ヤードを設けるのでしょう。工事施工ヤードは、評価書によれば広さが100m四方程度で、コンクリートプラントや発生土の仮置場、濁水処理施設などを設ける計画となっています。

イメージ 8
図7 燕沢平坦地北側の大井川本流
2014年10月撮影 

評価書では重要な動植物に対し、「確認された場所は改変箇所から相当に離れた場所であったことから生息環境に変化は生じない」という評価結果を示し、具体的な環境保全措置は必要ないとしたものが多数ありました。図8に一例を添えておきます。
イメージ 7図8 「確認された場所は離れた地域だから影響は及ばない」とする例
この説明が今後も成立するのかどうか、きちんと記述内容を修正する必要がある。 

しかし改変予定地が大幅に変更されるとなると、この評価結果については無意味となります。したがって新案では評価結果はどうなるのか、それを改めて示す必要がありますし、変わらないと主張するなら、その根拠を示す必要があります。

●工事用道路トンネル頭上の沢 
新たなトンネル案ではいくつかの沢(JR東海が使用した関連図で河川記号の記された沢は7~8本)をくぐり抜けるため、その流量に影響を及ぼすかもしれません。

特に西俣側坑口を、対岸の同じ標高の場所へ移動させる場合は、坑口から150m程度の位置で悪沢を土被り50m未満でくぐりぬけることになります(図5参照)。この場合、悪沢の流量に与える影響が懸念されるところです。西俣斜坑近くの悪沢については、本体工事によって西俣の流れが減った場合の水の供給源・水生生物の避難場所となりうるので、その環境維持はきわめて大事であると考えられます。

補正評価書の段階では、本体トンネル掘削にともなる河川流量への影響を監視するとして、月一度の計測地点を8か所、常時計測地点を3か所設けるとしていました。しかしこの中に、工事用道路トンネルの建設による影響を受けそうな沢は含まれていません。悪沢とその他2支流について、わずか年2回の調査で済ますとしています。しかも環境影響評価法に基づかない自主的調査という位置づけです。

この事後調査計画で妥当なのか、水生生物への影響を事前に察知して有効な対策を施せる余裕があるのか、改めて検証する必要があるでしょう。



以上のように、道路トンネルの位置を変更するのであれば、評価書を構成している論理が崩れてしまうので、あらためて作成しなおす必要があると考えます。同じことが導水路トンネル、燕沢発生土置き場について言えます、

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