大井川の流量が減少するという予測結果にかかわる問題について、ちょっと整理したい。
予測結果に対するJR東海の対応についての問題は、次のように整理されると思う。
①予測結果の公表方法についての問題
②予測結果の妥当性についての問題
③影響を受ける対象が不明確
④対策(環境保全措置)をとるべき対象が不明確
⑤環境保全措置の妥当性
⑥住民不在
②予測結果の妥当性についての問題
③影響を受ける対象が不明確
④対策(環境保全措置)をとるべき対象が不明確
⑤環境保全措置の妥当性
⑥住民不在
①と②については、こちらをご覧いただきたいhttp://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cDovL2Jsb2dzLnlhaG9vLmNvLmpwL2ppZ2l1YThldXJhbzQvMTI4Njk2MzMuaHRtbA--
図1 導水路案の概要
しかし評価書に記載された環境保全措置の内容(図2)には、導水路を設置してトンネル湧水を放流し流量減少に対処するという案は示されていない。そのうえ、現在までに明らかにされている内容は、Dで後述の通り、評価書記載の環境保全措置を否定するものであることから、環境保全措置には該当しないとも解釈されるのである。
B 保全する対象が曖昧である。
評価書においては、各種の水利用、動物17種、生態系3種について、大井川水系の流量が減少した場合に与える影響を予測している。ところが予測結果において、導水路を必要とするような影響が生じるおそれがあるとは記述していないのである。したがって評価書を文章通り忠実に解釈すれば、導水路を環境保全措置として設置する必要はないことになる。保全対象が曖昧である以上、保全のあり方や有効性をめぐって、水を利用する側や環境保全を求める側とJR東海との間に、認識の齟齬が生じるのではないかと懸念されるところである。その内容についてみてみよう。
つまり評価書の構成上では、「流量が減少した場合に影響が生じるおそれがある」とJR東海が認めている水利用とは、椹島や二軒小屋の井戸に限定されている可能性が高い。したがって導水路を水利用に係る環境保全措置として設けるのであれば、それは中・下流の水利用への保全措置ではなく、あくまで椹島ロッヂにおける井戸利用のみを保全対象として建設するものと解釈されてしまう(二軒小屋の井戸へも対応できない)。椹島ロッヂにおける水の使用量は不明であるが、水位が低下した場合に導水路を必要とするほどであるとは考えられず、導水路設置の根拠としては不自然である。
【動物・生態系への環境保全措置でもない?】
評価書「8-4 動物・植物・生態系」における、水生動物各種(重要な動物17種、生態系3種)に係る予測結果においては、「本種の生息環境である河川の一部で流量が減少すると予測されるものの、同質の環境が広く残されることから生息環境への影響は小さい」という表現が用いられ、流量が減少した場合における環境保全措置については言及されていない。一例を図5に掲げる。すなわち本評価書においては、流量が減少しても影響は小さいのであるから、動物・生態系への環境保全措置という面からも導水路を建設する必要性はないはずである。
ところが、JR東海が導水路案の根拠とする「大井川水資源検討委員会」の議事概要・資料によれば、このようなおそれについては全く検討がなされていないようなのである。それにもかかわらず、早期着手が望ましいのだという。これでは、導水路建設が無用な自然破壊につながるおそれを排除できず、問題ではないか。
D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。
前項と重複するが、導水路の必要性は本坑の貫通まで不明であるはず。そもそも評価書における水資源についての環境保全措置は、「工事期間中はポンプ汲み上げにより流量は減少しない。この間に湧水の状況を監視しながら影響を見定め、適切な環境保全措置を選定する。」という方針(図6)を基本として環境影響評価手続きが終了し、その一環として事後調査が行われているはずである。
このほか、少なからず発生土置場の拡大、工事用車両の通行台数の増加、新たな施工ヤードの設置など、評価書における各種予測の前提も変わることになる。
以上のように、導水路を環境保全措置として位置付けた場合には、現在の評価書との間に大幅な矛盾が生のである、それを放置することは好ましくなく、評価書の修正が必要ではないかと思う。
市や県の専門家会議、あるいは大井川下流域を中心とした地域でリニア計画に疑問をもつ人々のご懸念・議論を見ていると、①~④を素っ飛ばして、どうも⑤にとらわれているような気がしてならない。
例えば導水路案は有効なのか、導水路建設による環境への影響はいかがなものか。トンネル湧水を川に戻しても水質は保全されるのか、大規模施設を狭いトンネル内に設けることが可能なのか、といった具合である。
市民の水源を預かる行政機関としては、何よりも安定した水供給を最優先に考えなければならないから、そうした姿勢に偏るのは理解できるが、もっと自由な立場である一般市民、すなわち人間生活だけでなく自然環境に関わる問題として考える立場としては、もっと広く深く考えるべきだと思うのである。
もちろん、住民が環境保全措置の妥当性を検証することは重要である。けれども、妥当性を検証するためには、そもそも何のための環境保全措置なのか?というところを十分に整理しなければならない。上の③と④である。
環境保全措置とは、環境影響評価の結果に基づいて導き出されるものである。だからその妥当性を検証するためには、技術面や有効性より何よりも先に、環境影響評価書における論理構成上の妥当性を検証しなければならないのである。
後述するが、自ら作成した環境影響評価書の論理構成と、これまで地元に向けて行ってきた説明とを、JR東海自ら無視して出してきたのが導水路案である。アセス手続き中に話題にもしなかった大工事計画を事業認可後に表明したわけで、立派なルール違反である。
だから導水路案について考えるのであれば、技術面・環境面の議論はひとまず横に置き、なによりルール違反を追及せねばなるまい。つまり、これまでの説明との整合性を検証するのが必須というわけである。その作業を省いて導水路案を論ずることは、住民自らJR東海のルール違反に付き合うことを意味してしまう。それはすなわり、大井川の流量減少という問題を、南アルプス全体にかかわる大きな環境問題から、単に利水の問題に矮小化してしまうことに直結してしまうのである。
導水路は、おそらく水利権対策として出してきた案である。「とりあえず下流に水を流して流量の帳尻合わせをすれば、水利権の観点から問題提起される可能性は低い」とでも踏んだのであろう。あるいは国交省あたりから入れ知恵されたのかもしれない。
したがって導水路案の妥当性を論ずる前に、以下の4点を確認することが必要であると考える。
A 導水路案は評価書でいう環境保全措置に該当するのか?
B 保全する対象が曖昧である。
C 導水路自体が無用の自然破壊になるおそれを検討していない。
D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。
また、これらを追及することにより、環境影響評価書の作り直しを要求する道筋も開けると思うのである。影響を及ぼす範囲をJR東海に公式に再検討させることで、重大な環境破壊が生じた場合に権利侵害を及ぼしうる地域の再確認にもつながるかもしれない。
以下、7/13に書いたブログの再掲・要約である。
A 導水路案は評価書でいう環境保全措置に該当するのか?
導水路案は、トンネル工事によって大井川の流量が減少し、水利用に影響が出るケースに対処するために建設されるものと解釈されることから、評価書に記載された水資源に係る環境保全措置に該当するように見受けられる。今年4/14に県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議の場においても、JR東海はそのような説明をしている。
導水路案は、トンネル工事によって大井川の流量が減少し、水利用に影響が出るケースに対処するために建設されるものと解釈されることから、評価書に記載された水資源に係る環境保全措置に該当するように見受けられる。今年4/14に県庁で開かれた中央新幹線環境保全連絡会議の場においても、JR東海はそのような説明をしている。
図1 導水路案の概要
自作およびJR東海ホームページより
しかし評価書に記載された環境保全措置の内容(図2)には、導水路を設置してトンネル湧水を放流し流量減少に対処するという案は示されていない。そのうえ、現在までに明らかにされている内容は、Dで後述の通り、評価書記載の環境保全措置を否定するものであることから、環境保全措置には該当しないとも解釈されるのである。
図2 環境保全措置の概要
評価書をコピー・加筆
導水路案が、評価書でいう環境保全措置に該当しない場合は、環境影響評価法の上では施工上の都合で設けられる施設(例えば排水路)という位置づけになり、保全措置としての機能は副次的な扱いとなりかねない。解釈次第で、環境保全のための議論の方向性が左右されるおそれがあるため、この点は整理されるべきではないだろうか。
B 保全する対象が曖昧である。
評価書においては、各種の水利用、動物17種、生態系3種について、大井川水系の流量が減少した場合に与える影響を予測している。ところが予測結果において、導水路を必要とするような影響が生じるおそれがあるとは記述していないのである。したがって評価書を文章通り忠実に解釈すれば、導水路を環境保全措置として設置する必要はないことになる。保全対象が曖昧である以上、保全のあり方や有効性をめぐって、水を利用する側や環境保全を求める側とJR東海との間に、認識の齟齬が生じるのではないかと懸念されるところである。その内容についてみてみよう。
【水利用への環境保全措置ではない?】
評価書においては、水資源にかかる影響評価対象とする地域は「トンネルの工事及び鉄道施設の存在に係る水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」であると記述されている(図3)。
評価書においては、水資源にかかる影響評価対象とする地域は「トンネルの工事及び鉄道施設の存在に係る水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」であると記述されている(図3)。
図3 水資源の調査地域
評価書をコピー
これを受け、JR東海が把握した「調査地域」における水利用の実態としては、水産用水、個人井戸(二軒小屋・椹島両ロッヂ)、発電用取水が挙げられている。一方、島田市など大井川中・下流域における上水道や農業用水等への利用については言及されていない。したがって評価書の上では、中・下流域は「水資源への影響が生じるおそれがあると認められる地域」に該当していないことになる。予測結果(省略)において、流量が減少した場合に水利用に与える影響例として、椹島・二軒小屋の井戸だけを対象とした見解が導かれていることや、法に基づく事後調査は「地下水を利用した水資源に与える影響の予測の不確実性」を理由として行うとしている(図4)ことも、この認識に基づくものと考えられる。
図4 事後調査計画
評価書をコピー・加筆
図4の赤線部をご覧いただきたい。地下水の利用(=井戸)には影響が出るかもしれないから事後調査を行うとしているが、河川水の利用への影響については一切言及していないのである。
このほか、調査地域内における水産用水や発電用取水に及ぼす影響については予測すら行われておらず、扱いが不明のままである。
つまり評価書の構成上では、「流量が減少した場合に影響が生じるおそれがある」とJR東海が認めている水利用とは、椹島や二軒小屋の井戸に限定されている可能性が高い。したがって導水路を水利用に係る環境保全措置として設けるのであれば、それは中・下流の水利用への保全措置ではなく、あくまで椹島ロッヂにおける井戸利用のみを保全対象として建設するものと解釈されてしまう(二軒小屋の井戸へも対応できない)。椹島ロッヂにおける水の使用量は不明であるが、水位が低下した場合に導水路を必要とするほどであるとは考えられず、導水路設置の根拠としては不自然である。
【動物・生態系への環境保全措置でもない?】
評価書「8-4 動物・植物・生態系」における、水生動物各種(重要な動物17種、生態系3種)に係る予測結果においては、「本種の生息環境である河川の一部で流量が減少すると予測されるものの、同質の環境が広く残されることから生息環境への影響は小さい」という表現が用いられ、流量が減少した場合における環境保全措置については言及されていない。一例を図5に掲げる。すなわち本評価書においては、流量が減少しても影響は小さいのであるから、動物・生態系への環境保全措置という面からも導水路を建設する必要性はないはずである。
図5 河川に生息する動物に対する予測結果(渓流魚のアマゴの例)
評価書をコピー・加筆
Ⅲ 導水路自体が無用の自然破壊になるおそれを検討していない。
そもそも、大井川の流量が大幅に減少するという試算は、あくまで予測であり、実際に減少するか否かは、トンネルが貫通するまで不明であるはずである。一方で導水路の建設は、発生土と工事車両の増加という環境負荷要因に直結するほか、頭上の沢の流量や本流の水質等への影響が懸念される。したがって導水路を早期に完成させたにもかかわらず、トンネル完成後にも流量が減少しなかった場合には、無用な自然破壊を増やすだけになってしまう。
そもそも、大井川の流量が大幅に減少するという試算は、あくまで予測であり、実際に減少するか否かは、トンネルが貫通するまで不明であるはずである。一方で導水路の建設は、発生土と工事車両の増加という環境負荷要因に直結するほか、頭上の沢の流量や本流の水質等への影響が懸念される。したがって導水路を早期に完成させたにもかかわらず、トンネル完成後にも流量が減少しなかった場合には、無用な自然破壊を増やすだけになってしまう。
ところが、JR東海が導水路案の根拠とする「大井川水資源検討委員会」の議事概要・資料によれば、このようなおそれについては全く検討がなされていないようなのである。それにもかかわらず、早期着手が望ましいのだという。これでは、導水路建設が無用な自然破壊につながるおそれを排除できず、問題ではないか。
D 導水路を環境保全措置に位置付けた場合、評価書に記載された内容が大幅に否定されることになる。
前項と重複するが、導水路の必要性は本坑の貫通まで不明であるはず。そもそも評価書における水資源についての環境保全措置は、「工事期間中はポンプ汲み上げにより流量は減少しない。この間に湧水の状況を監視しながら影響を見定め、適切な環境保全措置を選定する。」という方針(図6)を基本として環境影響評価手続きが終了し、その一環として事後調査が行われているはずである。
図6 環境保全措置の方針
評価書をコピー・加筆
ところが「第2回大井川水資源検討委員会」での審議結果(図7)のように、大量にトンネル湧水が発生することを見込んで早期に導水路建設に着手するのであれば、図6に示された内容が全面的に変更されることになってしまう。
図7 第2回水資源検討委員会議事概要のコピー
JR東海ホームページより
ご覧のとおり、図7でオレンジの枠で囲った提言は、図6における評価書での環境保全措置の方針とは、全く異なる内容なのである。図7を新たな方針とするのであれば、評価書は否定されることになる。
次に、中・下流域における水利用へ保全措置に位置づけるのであれば、水資源に影響を及ぼすおそれのある地域が評価書作成時点よりも広範囲に及ぶことを、JR東側が認めることとなる。
あるいは、河川に生息する動物・生態系への対策とするのであれば、評価書に記した17種の動物および生態系3種についての予測結果と保全措置とを否定することになる。もう一度、図5のアマゴの項目をご覧いただきたい。影響は小さいのだから、その内容に従う限りでは導水路なんて無用のはずである。
ゆえに、評価書を変更せずに導水路を建設するのであれば、影響が生じないと結論付けられた懸案に対して大掛かりな施設を建設して対応することになり、書面の上では屋上屋を架すことになってしまう。
もしかするとJR東海や大井川水資源検討委員会としては、「万が一に備えて導水路を造っておいた方がよい」という考え方を持っているのかもしれない。それならば、導水路建設による環境負荷と、それによって得られる効果とを見比べて最善策かどうか検討しなければならないはずである。現段階では、Cで指摘したリスクすら検討していないのだから、未然防止策としては不適格であろう。
このほか、少なからず発生土置場の拡大、工事用車両の通行台数の増加、新たな施工ヤードの設置など、評価書における各種予測の前提も変わることになる。
以上のように、導水路を環境保全措置として位置付けた場合には、現在の評価書との間に大幅な矛盾が生のである、それを放置することは好ましくなく、評価書の修正が必要ではないかと思う。