冷や水をかけるのが趣味?と思われてしまうかもしれない。
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リニア中央新幹線整備事業について差止訴訟を起こす予定らしいけれども、やっぱり、南アルプスを争点にしたがっているようなのだ。
10月30日 東京新聞記事のコピペ
訴訟を準備しているのは市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」で、南アルプスを貫くトンネル工事などによる沿線の自然環境への影響について、JR東海がまとめた環境影響評価は不十分な内容だと主張。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015103001002064.html
訴訟を準備しているのは市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」で、南アルプスを貫くトンネル工事などによる沿線の自然環境への影響について、JR東海がまとめた環境影響評価は不十分な内容だと主張。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015103001002064.html
この記事、静岡新聞でもそっくり同じものだったから、共同通信などから配信されたものかもしれない。
それはさておき、前々回指摘したように、南アルプスでの環境影響評価がメチャクチャであることは大問題である。けれども、それは事業認可を覆すような問題とは言い難く、しかも原告適格が皆無であるのだから裁判で問える性質ではないと思う。
残念ながら日本の法体系では、自然を謳歌する権利(自然享受権)は認められていないようである。したがって無人地帯の南アルプスにおける自然破壊は、どれほどメチャクチャであろうと誰も原告にはなり得ない。何かしら生物を絶滅させても、学術上重要な場所や美しい景観をぶっ壊しても、特別に法律や条令などで保全されている地域でない限り、それを第三者が差し止める法的な術はないようなのである。
(一例)
文化財保護法に基づいた史跡指定が解除されることになり、それに反対する研究者から差止めを求める訴訟が起きたことがある。けれども保全によって得られる利益は公益に吸収される(つまり公益より一段下と位置付けれられる)と判断され、そのうえ文化財保護法には研究者の権利を明文化していないという理由より、原告適格を否定され、訴えが退けられたということである。
類似の「訴え退け」は枚挙にいとまがないようである。
ちょっと考えてみても、自然保護を目的として工事差止めを訴え、それが認めらたケースというのは思いつかない。長良川河口堰、アマミノクロウサギ裁判、諫早湾干拓、辺野古基地移設、圏央道高尾山トンネル、新石垣空港…みんな原告敗訴であったり訴えが退けられたりしている。
いっぽうで、自然破壊の懸念の強かった大型プロジェクトを中止・内容変更に至らしめた事例というと、裁判外の手法に拠ったものが多いような気がする。愛知万博、千歳川放水路、藤前干潟埋め立て、北陸新幹線と中池見湿地、新石垣空港と白保サンゴ礁、小笠原空港計画、長野五輪会場変更…
いくつかの環境法関係の本を読み比べてみた観想であるが、自然環境を保全する手法としては、日本の裁判制度は全く機能していないというのが、大方の専門家の見解が一致しているらしいのである。
裁判所というのは、もとよりこういう場所、言ってみれば「事業者のホーム」なのだから、そこに持ち込んで争おうというのは、環境を守る術として適切なのかどうか、私には分からない。以前も触れたように、JR東海や国土交通省が、事業推進について法的な問題がないことをPRするだけの場に終わってしまうリスクもあると思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
J法律書をにらめっこしていううちに、R東海が南アルプスルートにこだわった最大の理由は、社会的トラブルを避けるためではないかと思うようになった。もしかしたら、所用時間や建設費の問題は二の次なのかもしれない。
中央新幹線のルートについては、JR東海は当初より南アルプス貫通ルートを主張していたが、期成同盟会が諏訪経由ルートを主張していたため、国土交通省中央新幹線小委員会においては”お義理”のような感じで木曾谷ルートを含めた3ルートを比較検討した。で、やはり予定通り南アルプスルートになったわけである。
諏訪湖ルートでも所要時間は数分しか変わらない。これだけの大プロジェクトであるから、数分の差で初期投資が回収できなくなるようなアホな試算はしていないはずである。いっぽう建設費は南アルートのほうが安いと試算されたものの、未知の事項(地質、環境保全コストなど)があまりにも多いし、南アの隆起速度や南海トラフ地震発生を考慮すると、維持コストだって未知数である。トータルの事業費予測は、はっきりいって未知数であると感ずる。
それにも関わらず南アルプスルートである。
こちらの場合、地元市町村さえ黙らせて着工してしまえば、上記のように第三者より文句を言われるおそれは低い。川の水を消そうが、発生土をそこらに捨てようが、希少種を絶滅させようが、誰かの権利侵害を侵すわけではないので法的な責任を問われる筋合いがない。これこそ最大の利点であろう。
南アルプスルートでの沿線人口は1万人にも満たず、裁判を起こせる原告適格のある人数は本当に少ないはずである。失礼を承知で書かせていただくと、物の数にも入らないと判断したに違いない。
そんな企業が一番おそれている、もしくは嫌がっているのは、裁判ではなく、逃げ隠れできない協議の場であると思う。マトモに理詰めで攻めていったら(?)、こんな事業は実現できないんだから。
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南アルプスのもつ自然環境について
1 恩恵
2 学術的に貴重
3 観光資源
4 土地を提供すれば金になる
5 邪魔な障害物
6 ゴミ捨て場
2 学術的に貴重
3 観光資源
4 土地を提供すれば金になる
5 邪魔な障害物
6 ゴミ捨て場
など、いろいろな解釈が可能であろう。価値観が多様であるのだから、どれが正論なのかは、簡単に結論を下すことができない。だからこそ議論の場が必要であると思うけど、議論の場として見た場合、裁判というシステムは機能不全であると思う。
自然保護が法廷で扱えない以上は、法廷以外の場で扱うべきである。その一つの場が、南アルプスユネスコエコパーク制度だと思う。
ユネスコエコパークという制度の基本理念は次のようなものである。
生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)とは、「UNESCOの『人間と生物圏(MAB)計画』の枠組に基づいて国際的に認定された陸上・沿岸・海洋生態系の区域、または、これら区域の集合体」をいう。保存地域の推薦は各国政府により行われ、各保存地域は、一連の最低基準を満たすとともに、ネットワークに加入するには一連の最低条件を遵守しなければならない。
各生物権保存地域の機能は3項目存在しており、それぞれ相互補完的な機能を果たしている。具体的には、まず、遺伝資源、生物圏、生態系、景観を守るという「保全機能」があり、ついで、持続可能な経済発展・人材育成を促進するという「経済と社会の発展」機能があり、さらに、実証プロジェクト、環境教育・研修、保全や持続可能な成長の地域的、国内的、世界的問題に関する研究や実験を支援するという「学術的支援」機能がある。
【生物圏保存地域 セビリア戦略と世界ネットワーク定款 2012.8.21 仮訳版 文部科学省ホームページより】
自然環境の保全と持続可能な利活用を目的として、南アルプスはユネスコエコパークに登録されたはずである。
そこで前代未聞の巨大開発が行われようとしているのだが、現状のように「事業者と行政だけで話を進めよう」っていうのは明らかにユネスコエコパーク制度の理念に反しているわけである。アンダーラインを引いた部分に基づき、地元の住民やNPO、関心のある利用者、専門家が参加した話し合いの場が当然設けられるべきであろう。
リニア計画を進めるJR東海や、南アルプス最大の地権者・特殊東海製紙の一方的な進め方に懸念があるのなら、是正させるための場として、協議の場の設置を行政に提案・要求するのも正論だと思うのだ。
けれども現段階において、山梨・長野・静岡3県ともに、住民参加型でユネスコエコパークの管理運営を話し合う場が設けられたという話も、設置を求める動きが行われているという話も聞かない。
自分のことを棚に上げてこんなことを言う資格はないと思うけれども、あえて言わせていただくと、リニア計画に異を唱えるのであれば、現行制度で何ができるのか、もっといろいろな手法を考えるべきだと思うのである。
最近、ヘンな姿勢を続けているせいか顎関節が痛いし肩こりもひどいし、パソコンの画面を眺めていると後頭部が痛くなってくる…というわけで更新が滞っています。