大井川の河川流量がリニアのトンネル工事で減るという予測がアセスで示され、問題となっています。それについて昨日(11/30)、静岡県庁にて開かれた中央新幹線環境保全連絡会議で、JR東海がトンネルと大井川とを結ぶ導水路案を提示したそうです。
とりあえず、この計画の位置関係を示します。
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資料1 南アルプスの位置 Clik here to view.

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資料2 導水路ルート案とその効果?
第4回大井川水資源検討委員会資料を複製
トンネルの標高1150m付近から南にトンネルを分岐させ、11㎞ほど下流で大井川本流に接続させ、トンネル内に出てきた湧水を流そうという構想です。、
この導水路案、JR東海が自主的に設けた大井川水資源検討委員会なる”有識者会議”にて決定されたものです。大井川水資源検討委員会という名称からみて、水資源対策という位置づけなのでしょうけど、これまでの説明や環境影響評価手続きの流れから見ると、実に奇妙な話なのです。
「水を流してくれるのなら一件落着」ってわけにゃいかんのですよ。
「トンネルの建設によって大井川の流量が減少するかもしれない」という懸念に対し、地元の自治体や住民などからの意見を受けて、「わが社はこういう対策をとります」という方針を記したものが環境影響評価書です。そして環境影響評価法により、その評価書が事業認可を受けるために必要な図書とされています。つまり地元自治体、国、そして住民に対して事業者の環境対策を公約したものになります。
導水路案というのは、それをあっさりと否定しているような気がするのですよ。言い換えれば環境影響評価手続き自体を否定していることにもなってしまいます。
というわけで、環境影響評価書との整合性を検証すると、次のような疑問が生じるのであります。
【疑問1】
環境影響評価書においては、導水路案について河川環境各項目(※)に関わる環境保全措置の手法としては全く言及していない。したがってこのほどの導水路案が、環境保全措置に該当するのかどうか不明である。
環境影響評価書においては、導水路案について河川環境各項目(※)に関わる環境保全措置の手法としては全く言及していない。したがってこのほどの導水路案が、環境保全措置に該当するのかどうか不明である。
(※)水資源 、地下水位、動物・植物・生態系、人と自然との触れ合い活動の場、景観
【疑問2】
評価書においては、同書に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって、河川環境各項目への影響は回避できるとしている(資料3を参照)。したがって、導水路を建設する根拠は評価書には示されていない。それにもかかわらず導水路が必要であると主張するのであれば、
評価書においては、同書に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって、河川環境各項目への影響は回避できるとしている(資料3を参照)。したがって、導水路を建設する根拠は評価書には示されていない。それにもかかわらず導水路が必要であると主張するのであれば、
A 評価書に記載された環境保全措置では回避できない環境への影響が生じることを、JR東海が認めた?
B 環境保全措置ではなく建設工事のために必要。つまり導水路ではなく湧水処理のための排水路という位置づけ?
B 環境保全措置ではなく建設工事のために必要。つまり導水路ではなく湧水処理のための排水路という位置づけ?
ということになる。Aなら評価書の否定だし、Bなら単なる工事規模の拡大に他ならない。
【疑問3】
評価書においては、同書に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって河川環境各項目への影響は回避できるとし、そのうえで流量の観測を行い、水利用に影響が生じた場合には、新たな案を検討するという方針が示されている。事後的な対応が可能という見解である(資料3参照)。
評価書においては、同書に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって河川環境各項目への影響は回避できるとし、そのうえで流量の観測を行い、水利用に影響が生じた場合には、新たな案を検討するという方針が示されている。事後的な対応が可能という見解である(資料3参照)。
いっぽう大井川水資源対策検討委員会においては、工事中の湧水も導水路によって排水すべきという方向で議論が進められてきた。つまり本坑の完成に先立って導水路を建設する方針である。事前に導水路を造ってしまえという見解である。
このように、大井川水資源対策検討委員会で示された案は、評価書の案を否定するものである。
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資料3 静岡編 環境影響評価書より複製・加筆
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資料4 JR東海HPより第2回大井川水資源対策検討委員会 議事概要を複製・加筆
【疑問4】
また、評価書の記述に従えば、同署に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって河川流量への影響を回避できることも想定されていることとになる。
また、評価書の記述に従えば、同署に記載された範囲の環境保全措置を実施することによって河川流量への影響を回避できることも想定されていることとになる。
導水路は、長さ11㎞以上のトンネルを新たに掘るというものである。新たに発生土が10~20万立方メートル増加するし、ダンプカーの通行台数だって増える。頭上の枝沢を涸らしてしまうかもしれない。けれども、余計な環境負荷をかけておいて、造ってみたけど不要な施設であったらシャレにならない。
要するに、未然防止のための措置としては、余計な環境負荷を増やすリスクが大きいと思う。大井川水資源対策検討委員会の資料を見た限りでは、そのリスクについての評価がなされていない。
要するに、未然防止のための措置としては、余計な環境負荷を増やすリスクが大きいと思う。大井川水資源対策検討委員会の資料を見た限りでは、そのリスクについての評価がなされていない。
【疑問5】
仮に導水路で大井川にトンネル湧水を自然流下させたとしても、そこより上流は流量が戻らない。アセスでの予想範囲内だけでも、その区間は15㎞に及ぶ(資料2参照)。特に西俣取水堰~東俣合流点の約7㎞は激減したままとなる。この区間で生物に影響た生じた場合、JR東海は移植で対応をとる方針を示しているが、どこまで、どの種類の、どれだけの数に影響が生じうるのか全く調査していない段階では、その妥当性を検証することすらできない。適切な移植先が見つかるかどうかも分からない。
下の写真のような渓谷美が失われたとしても、導水路案では対策にならないのである。
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資料5 導水路頭上(二軒小屋非常口下流)の大井川
2014年10月に撮影されたもの
【疑問6】
仮に導水路で大井川にトンネル湧水を戻しても、自然流下できるのは減少分2㎥/sのうち約1.3㎥/sであり、残る0.7㎥/sはポンプで汲み上げることが必要であるという。
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資料6 第4回大井川水資源検討委員会資料
、
このポンプくみ上げには、少なく見積もっても1000kWのエネルギーが必要である。
水の密度×重力加速度×くみ上げる流量×くみ上げる高さ
1000㎏/㎥×(9.82m/s^-2)×0.7㎥/s×150m=1000kW
実際には摩擦による損失があるので、必要なエネルギーは3割ぐらい多いらしい。
また、本日の静岡新聞記事によれば、場合によっては斜坑にまで揚水することも検討しているのだという。その場合、必要なエネルギーは2倍となる。大井川源流部の二軒小屋水力発電所の常時出力(2100kw)に相当してしまう。
南アルプスユネスコエコパーク移行地域内において、多くのエネルギーを用い、人工的な動力源によって河川環境を維持することは、移行地域における開発行為に資して求められる条件「自然資源の持続的な利活用」に該当するのか、甚だしく疑問である。
細かく見てゆけば他にもツッコミどころがありますが、キリがないのでここらへんでやめておきます。
確かに水資源対策という視点では有効なのかもしれませんが、いずれにせよ、環境影響評価書の変更が必要ではないかと思います。