(12/24 追加)
本日、JR東海のホームページにて、山梨県巨摩山地における河川や流量に与える影響の予測結果が公表されました。湧水には影響が出ないとするものの、大柳川と南川では流量が2割以上減少するとの予測。
【大きな疑問】
●この予測は準備書に対する県知事意見(2014年3月)で評価書に記載するよう求められたのに、なぜ1年半以上も経って方出されたのか?
●河川流量等は平成18年から観測していたとするが、それならばなぜデータをアセスの過程で配慮書や準備書に記載しなかったのか?
●大柳川における流量の2割減少は、果たして影響が小さいと言えるのか?
●水資源への影響は小さいとしているが、河川生態系に与える影響については言及していない。
温室効果ガス排出の問題が、世界的な話題になったついでに。
中央新幹線計画において、電力消費量の多いことが問題になっています。
リニア計画に懸念を抱く人々の間では、とにかく原子力発電所の問題と結び付けて考えようとする傾向が強いようですけど、そちらに思考を向かわせる前に、火力発電主体の現状では、二酸化炭素排出量の増えることにも目を向けねばなりません。つまり、原発とは無関係に、エネルギー消費の増えること自体が問題ということです。けっして私の主観ではなく、アセスにおける環境大臣意見においてもその点は言及されていることです。
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ところで評価書によれば、超電導リニア方式は「結構省エネ技術に優れている」という建前になっています。ちょっと検証してみましょう。
評価書によると、東京~大阪間における輸送機関別の二酸化炭素排出量は、次表のように変化するとされています。
現状(下段左)では、全体の排出量40万トンのうち航空機が30万トンと77%を占めており、鉄道(=新幹線)は6万トンと15%程度。「航空機に比べてはるかに省エネ」とする所以です。
これが2045年になると、リニアがなくとも自然に旅客数は増えます(下段中)。それが、リニアを開業した場合(下段右端)、新たな利用者獲得による総旅客数が増えるのに伴い、二酸化炭素排出量は増えます。けれども「旅客をエネルギー効率の悪い航空機から超電導リニアにシフトさせる。」ことにより、一人当たりの排出量は現状よりも減ることになっています。
整理すると、乗客が増えても航空機からのシフトで総排出量は減殺され、旅客一人当たりの排出量は次のようになります。
現状(2005年)
総排出量40万トン÷総旅客数1200万人≒33.3㎏/一人
総排出量40万トン÷総旅客数1200万人≒33.3㎏/一人
リニア無しの2045年
総排出量43万トン÷総旅客数予測1300万人≒33㎏/一人
総排出量43万トン÷総旅客数予測1300万人≒33㎏/一人
リニア開業時(2045年)
相排出量予測43万トン÷総旅客数予測1600万人≒27㎏/一人
相排出量予測43万トン÷総旅客数予測1600万人≒27㎏/一人
(旅客数は評価書のグラフから目分量で読み取ったもの)
この結果より、次のような理屈が成立します。
2045年には、東京~大阪間の旅客数は現状の1200万人から1300万人まで増えると予測される。すると必然的に二酸化炭素排出量の増加が予想される。ここに新たな高速鉄道を導入するにあたり、それを超電導リニアにすればさらに1600万人程度まで増やすことができるうえ、それだけ増えても二酸化炭素排出量は「リニア無しで1300万人のケース」と変わらない。さらに一人当たりの排出量も減らすことが可能である。
なるほど、2045年に総排出量がどのみち増加するのであれば、その増加分でより多くの乗客を運ぶ超電導リニア方式は優れているという考え方ができます。言ってみれば、航空会社から二酸化炭素の排出権をJR東海側に渡すような感じです。
事業者の論理としては正論であり、環境保全上は強い疑問があるものの、だからといって強制力を課して排出量削減を命じるようなことはできません。将来のことですから、排出源取引などで削減措置をとることも、原理としては可能です。
国交省もこんな見解で「JR東海は努力している」とみなし、事業認可したのでしょう。
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けれどもこの理屈については、議論の余地があるかと思います。なぜなら、いくらJR東海が”努力している”といっても、それはあくまで超電導リニア方式を前提とした話だからです、したがって次のような根本的な事項が無視されているといえます。
2045年には、利用者数は現状の1200万人から1300万人まで増えると予測される。すると必然的に二酸化炭素排出量の増加が予想される。ここに新たな高速鉄道を導入するにあたり、総排出量を現状以上に増やさぬための施策について検討する必要がある。
そう。二酸化炭素排出量の増加が予想されるのであれば、それを減らすことを第一に考えなければならないのです。それを審査するのは国、つまり国土交通省の役割のはず。
排出量が多いのは、ひとえに超電導リニアという走行形式によります。このように鉄道としては排出量増加に結び付く走行形式を導入する以上は、そのデメリットを補って余りある環境保全上の利益を生み出せるかどうか、あるいはどうして排出量増加に目をつむることができるのか、検証しなければなりません。
超電導リニア方式を採用することを国の施策として決定したのは2011年5月の国土交通省中央新幹線小委員会によります。これはアセスの開始前になります。ところが、この委員会で提示された資料からでは、二酸化炭素排出量についての議論は全く行われていなかったように見受けられます。
最終的に国土交通大臣に提出された答申(2011年5月12日)では、
こんな記述がなされています。とりあえず国としては、超電導リニア方式は、在来型新幹線方式に比してエネルギー消費の面で劣ることは認めているようです。そのほか信頼性や環境対策など様々な面で在来型新幹線のほうが優れているとしながらも、「速いから」の一点張りで超電導リニアを採用したとのこと。
けれども、この答申を作成した委員会の会合では、具体的な資料による議論はなされていないようです。例えば平成22年4月15日の第2回小委員会では、「技術事項に関する資料について」という資料が配布されていますが、ここで触れられた環境問題とは、騒音・振動と磁界についてのみです。それ以前に国として超電導リニアシステムの技術的検証を行った第18回「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」での報告書でも、やはり環境対策については騒音・振動と磁界が対象であり、温室効果ガス排出量やエネルギー消費については全く触れていません。
これでは、なぜ超電導リニア方式による温室効果ガス排出増について目をつむることができるのか、何も分かりません。これって、必要な審査が欠如していたってことじゃないのかな?
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1995年に発効した京都議定書に基づき、温室効果ガス排出慮を削減するための法整備が進められました。その代表的なものが「地球温暖化対策の推進に関する法律」です。
国・事業者・国民の責務を定めた法律ですが、そこでは国の責務として次のような規定があります。
第三条
第2項
国は、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策を推進するとともに、温室効果ガスの排出の抑制等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意するものとする。
第2項
国は、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策を推進するとともに、温室効果ガスの排出の抑制等に関係のある施策について、当該施策の目的の達成との調和を図りつつ温室効果ガスの排出の抑制等が行われるよう配意するものとする。
第3項
国は、自らの事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置を講ずるとともに、温室効果ガスの排出の抑制等のための地方公共団体の施策を支援し、及び事業者、国民又はこれらの者の組織する民間の団体(以下「民間団体等」という。)が温室効果ガスの排出の抑制等に関して行う活動の促進を図るため、技術的な助言その他の措置を講ずるように努めるものとする。
国は、自らの事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置を講ずるとともに、温室効果ガスの排出の抑制等のための地方公共団体の施策を支援し、及び事業者、国民又はこれらの者の組織する民間の団体(以下「民間団体等」という。)が温室効果ガスの排出の抑制等に関して行う活動の促進を図るため、技術的な助言その他の措置を講ずるように努めるものとする。
これによれば、国のかかわる事業については、温室効果がガスの削減のための措置を検討じなければならないとされています。東京~大阪という国の大動脈を担う高速鉄道について、その走行形式を決定するという事項は、これに当たるのではないでしょうか。
けれども何も検討をしていない。
というわけで、改めて振り返ると、超電導リニア方式の採用にあたり、適切な審査を経ていなかったのではないかと思います。