リニア建設に伴う大井川の流量減少問題についての話です。
アセスにおいて川の流量が減少するとの予測が示され、問題となっています。今のところは下流域の農業・工業・上水道への影響と、源流域に生息する水生生物や景観への影響とが、大きな問題となっています。
環境影響評価手続きの中でJR東海が考案した対策は、
●施行時に防水シートを設置する
●薬液注入を行う
●施行時に防水シートを設置する
●薬液注入を行う
といったところです。どちらもトンネル工事によって一般的に行われており、それが役に立たない場合もあることは、山梨実験線で現実となっています。
事業認可を受けた後、JR東海は導水路を建設することを提案してきました。これはリニアの通るトンネルの途中から大井川に向けてトンネルを分岐させ、トンネル内に湧き出た水を放流するというものです。
導水路案 JR東海ホームページより複製
しかしこの案については、発生土の増加など新たな環境負荷が生じるうえ、導水路出口より上流側における河川環境(生態系・景観・釣り場・ユネスコエコパーク構成要素としての価値)の保全には役立ちません。
ところで流量減少による影響は以上のように指摘されておりますが、全く話題にあがっていない事項が一点あります。
それは発電用水。
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導水路出口より上流には、
西俣(にしまた)
東俣(ひがしまた)
田代川(たしろがわ)
木賊(とくさ)
東俣(ひがしまた)
田代川(たしろがわ)
木賊(とくさ)
の各堰堤が設けられており、いずれも大井川水系から取水して発電しています。このうち田代川堰堤は東京電力、その他は中部電力のものです。アセスにおいては、このうち東俣を除く各堰堤の集水域において大幅な流量減少が予測されました。
しかし環境影響評価書においては、環境保全措置および法に基づく事後調査(監視)の対象としたのは登山施設の井戸水位だけであって、取水堰については何ら言及していません。影響を受けるのが電力会社2社だけだから構わないのでしょうか?
西俣堰堤から取られた水は、東俣堰堤からの取水と合わせて二軒小屋発電所に送られ、西俣に放流されています。両堰堤から合わせて常時1.15㎥/s、最大11.0㎥/sが取水されており、常時認可出力は2100kW、最大認可出力は26000kWとなっています。
田代川堰堤は、二軒小屋発電所の下流にあります。ここから取水された水は、県境をくぐり、田代川第一、第二の、二か所の発電所を経て早川に放流されます。認可取水量は4.99㎥/s、両発電所を合わせた常時認可出力は11400kW、最大認可出力は40100kWあるようです。
木賊堰堤は田代川堰堤より約4,5㎞下流の大井川本流に位置します。ここから取水された水は大井川支流に設けられた赤石ダムに貯められ、赤石発電所に送られます。赤石発電所の最大使用水量は28㎥/s、最大認可出力は40500kWです。赤石ダムは多くの沢からの水を集めていますが、その2/3以上は木賊堰堤からの取水でまかなわれているようです。
導水路では、これら3か所の取水堰には水を回せません。水力発電施設と減水区間および導水路の位置関係を図示しますと次のようになります。
導水路と発電用水取水堰との位置関係
導水路の起点の標高は1150mぐらいで出口は1130mを想定していますが、西俣堰堤は標高1710m、田代川堰堤は標高1392m、木賊堰堤は標高1170mなので、原理的に戻せないんですね。
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水力発電所は落下する水の力によってタービンを回し、発電します。ということは流量が減ったら発電能力が低下することになります。
この図に書かれた流量の値は、年間の平均的なものだそうです。しかし問題がより深刻なのは渇水期。渇水期の流量減少については、JR東海は次のように試算しています。
例えば田代川堰堤については、評価書では渇水期流量を現況4.08㎥/sと見積もり、これが2.28㎥/sに減ると試算しています。しかし例年、渇水期ピークの流量は取水せずとも2㎥/s程度に落ち込んでいるため、そこからトンネルへ2㎥/s漏水してしまうと、その間は取水量が大幅に減ったり、場合によっては全く発電できなくなるかもしれません(注)。
中部電力の西俣取水堰についても、JR東海は渇水期流量が、現況の1.18㎥/sから0.62㎥/sに減少すると予想。現在の取水量は不明ですが、流域面積を考慮して0.5㎥/s程度でしょう。この予測が現実になれば、西俣取水堰は長期にわたって取水できなくなります。すると二軒小屋発電所の能力は半減します。
(注)評価書の渇水期流量は平均値で試算しているようです。ということは、渇水のピーク時には、より流量減少が著しくなるはずです。例えば現況の田代川堰堤での渇水期流量を4.08㎥/sと見積もっていますが、平均値とすれば、暖冬で雨の多い年と、厳冬で降水自体が少なく、降っても雪だった年とを合わせたものですから、厳冬年にはより流量は少なくなるはずです。実際、堰を管理する東京電力の資料によると、年間2週間から一月程度は2㎥/s程度にまで減少するとしています。
さらに東京電力には、環境維持のため最低0.43㎥/sは下流に流す義務があります。すると東京電力が発電に使える水は激減します。
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こんな事態が予想されますが、電力会社はどのような対応をとるのでしょう?
杞憂かもしれませんが、「他の地点からの取水を増加させ発電能力を強化する」といったことは考えられないでしょうか。
大井川水系内で取水を強化させたら、長年の「水返せ運動」で確保した河川環境維持流量が減らされてしまうかもしれません。大井川の中・下流域は、もとより発電用に水を取られており、「本流は土管の中を流れている」などと例えられます。1970年代は、下流の塩郷堰堤より下流では渇水期に全く水のなくなるという有様でした。30年以上におよぶ粘り強い運動の結果として、最終的には2005年に、各堰堤・ダムより「河川環境維持流量」を獲得することに成功し、水が流されることになりました。これが減らされてしまうことはないのでしょうか?
ちなみにダムの堆砂を除去して貯水能力を回復させるという案は、JR東海は「堆砂の処理等の理由で実現困難」としています。発生土は平気で大井川源流部に置き去りにするのになあ…。
あるいは、流量減少の及ばない流域にて新たな電源開発を模索するなんてことはないでしょうか?
例えば畑薙第一ダム以北での電源開発に先立っては、結果的に開発対象とならなかった沢も、取水堰設置の候補地に挙げられていたそうです(信濃俣河内、仁田河内沢、上河内沢、所の沢、倉沢)。これら日の目を見なかった計画が復活するなんてことはないでしょうか。
発電用水が減少し、原理的に対策が不可能ゆえ何らかの影響が出ることが予想されるのですから、水を減らすJR東海としては、どのように対応してゆく方針であるのか、きちんと説明する義務があるように思われるのですが…?
最後に感情的になりますが、電力会社が「発電能力が低下しても構わない」と考え、新たな取水を行わないと判断なさっても、、どうも簡単に納得しがたいと感じます。既存の発電施設を建設するにあたり、取水堰やダムによる河川生態系の分断、道路建設、発生土の処分といった具合で、それなりに大きな自然破壊を伴っています。こうした自然破壊を侵してまで造られた以上は、その施設は有効に使用すべきでしょう。
リニア建設による流量減少は、その犠牲を無駄にしかねないと思われるのです。
(調べていて湧いてきた疑問)
●河川水を何らかの目的のために使用する際には、河川管理者から「流水の占用の許可」を受けなければならない。電力会社は河川法第二十三条の二(流水の占用の登録)に基づき、大井川の水を占用することが認められている。
●河川水をトンネル内に引き込むことは、水を減らすことには違いないが、水を使用する目的ではないため、占用の許可の対象とはならないという。
●トンネルは適切な法手続きを経て建設されるため、河川法施行令第十六条の四第一号第一項で禁じられている「みだりに河川の損傷する行為」にも該当しないという。
●河川水をトンネル内に引き込むことは、水を減らすことには違いないが、水を使用する目的ではないため、占用の許可の対象とはならないという。
●トンネルは適切な法手続きを経て建設されるため、河川法施行令第十六条の四第一号第一項で禁じられている「みだりに河川の損傷する行為」にも該当しないという。
(参議院国土交通員会 平成26年3月13日)
すなわちトンネル構造なら地表水を抜いても問題ないということになる。それでは、因果関係が分からなければ、あるいは地上での影響が明らかにならなければ、許可を得ずに”地下から取水”しても構わないのだろうか?
適切な法手続きを経て着工して流量減少を引き起こした場合、国土交通省に法的な責任が及ぶのであろうか? 「流量が減少する」という予測を前提に建設を認めたのだから、「想定外であった」とは言えなくなるはず。
山梨実験線にみるように、トンネル工事にともない小さな沢が枯れ、簡易水道が使えなくなるといった被害は過去にも生じていたであろう。しかし、「一級河川において占用の対象でもないのに2㎥/sの減少」という事態については、おそらく前例がない。これは河川法が想定する範囲外の問題であろう。河川管理者(国土交通省)は、どのように水利権を調整するのであろうか?
訳が分からない・・・。