先日、清水区(旧由比町)の薩埵峠(さったとうげ)へ行ってまいりました。
写真は薩埵峠から望んだ富士山。安藤広重の東海道五十三次「由比宿」の図案で、あるいは高度成長期ニッポンを象徴する光景としてお馴染みの風景。
さて、その薩埵峠駐車場にて、富士山方向を向いて足元のミカン畑に目を転ずると、こんなものがあります。直径4~5mの円形の施設です。
金網でフタがしてあり、内部は相当に深いようです。同じようなものが周辺に数か所設けられており、ジャバジャバと水の流れる音の聞こえてくる場所もあります。
これは深礎杭とよばれ、国土交通省による地すべり対策用の巨大な杭なんだそうです。近くにあった看板によると、深さは70mにも達するとのことです。
ところで薩埵峠付近における土砂災害というと、最近では2014年10月の台風18号で発生した、斜面崩壊による東海道本線の寸断を思い出します。1年以上たった現在も、JR東海によって崩壊地の対策工事が行われています。
東海道本線寸断箇所 2016年2月の現状
斜面に枠をかぶせている。これからモルタルを吹きつけるのかな?
しかし国土交通省による対策工事の対象となっているのは斜面崩壊ではなく地すべりです。両者は似ているようですけど、異なる減少です。
斜面崩壊は一瞬にして比較的小面積の浅い部分が崩れ落ちるのに対し、地すべりというのは数十mの厚さを盛った山肌が、そのままズルズルと滑り落ちてくる現象をさします。ここ由比の地すべりは比高数百m、幅は数㎞に達します。
こんな看板もあちこちに立てられています。
このあたりを歩き周ると数㎞四方の範囲内のあちこちで工事の真っ最中。山を挟んで西側の平地でも各所で工事がおこなわれています。何年前から始まったのか、いつまで続くのか、さっぱり分かりません。
何だかわからないけど急斜面に作業用地を造成中
水抜用のトンネル建設現場
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なぜ地すべりの話を持ち出したかというと、どうやら南アルプスでの発生土置場候補地も地すべりとは無縁ではなさそうだからです。
JR東海が360万立方メートルもの発生土を巨大盛土として捨てようとしている大井川源流部の燕沢平坦地。
この場所、多数の山崩れに囲まれていることから、巨大な盛土で河原の幅を狭めた場合、土砂崩れによる河道閉塞の危険性が指摘されています。しかしこれまで問題にされてきたのは、既存の大規模崩壊地(千枚岳崩壊地)から流出する流出土砂のことでした(例:準備書に対する静岡県知事意見)。
ところが、独立行政法人防災科学研究所の作成した地すべり分布図「赤石岳」によるど、どうも燕沢平坦地西側の斜面は、全体が巨大な地すべりになっているらしいのです。高さにして、実に1000m以上になるようでして、先の由比地区での地すべりは、比高は大きいもので400m程度ですから、2~3倍の規模になります。
独立行政法人防災科学研究所の作成した地すべり分布図「赤石岳」より一部を複製
凡例等については同図研究所HPよりダウンロードのうえ参照していただきたい
http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/pdfview/index.html
http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/pdfview/index.html
これに発生土置場候補地を記入しますと・・・
先にも述べた通り、「地すべり」とは、山腹がジワジワゆっくりと、下方に滑り落ちている状態。その可能性があるところで、川を挟んで反対側に巨大な盛土をしようというわけですが…
もしも地すべりだったら危ないんじゃないのか?
地すべりであった場合を想定すると・・・
●ここの地すべりの下方には、大井川が流れています。滑り落ちてきた地面(移動体)は、川の流れに接することになりますします。そこが流れに削られると、バランスを失ってさらに上部からのしかかってくることになります。これの繰り返しで滑り続けていると思われます。反対側(東岸)に大規模な盛土を行うと、川の流れは必然的に西岸に押しやられることとなります。すると、常に地すべり移動体を削り続けることになるでしょう。地すべりの移動速度を増大させることにつながるのではないでしょうか?
断面をイメージするとこんな感じ。
直線は750m間隔(Googleで断面図を作成してコピペ)
●地すべりによって災害の起こる可能性がある場合は、先の薩埵峠の事例でみたような対策工事が必要となるかもしれません。JR東海の行ったアセスとは無関係に、工事区域が無秩序に拡大してゆく可能性があります。
●燕沢に巨大な盛土をおこなう計画を静岡市に説明したのは2015年7月。他方、国土交通省に工事費等を提出したのは2014年8月のことですから、この工事費に地すべり対策費用は含まれないことになります。工事費が膨らむ一因となるかもしれません。
●大規模な地すべりの存在する可能性がある以上、その調査が必要となります。さらに場合によっては対策工事が必要となるし、さらには動植物対策(調査や移植など)も必要となるかもしれない。そうした対応のために、長い時間が必要となるかもしれません。
ちなみに、今月12日に開業する新東名高速道路では、開業が当初予定より1年遅れましたが、その一因は地すべり対策工事となっています。http://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/3530.html
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長々と回りくどく書いてきましたが、まとめます。
JR東海が大量の発生土をお香と計画している燕沢平坦地は、周囲を大小の崩壊地に囲まれていて土砂流出が激しい。それだけでなく、盛土予定地と川をはさんだ対岸には、大規模な地すべりの存在する可能性が指摘されている。このようなb所に大規模盛土を行った場合、地すべり末端を流れる大井川とどのような干渉を起こすのか不明であるし、対策工事が必要となった場合には、各種調査が必要となろう。このため調査が終了するまでは、燕沢平坦地の発生土置場としての妥当性を確認することはできない。よって、静岡県内における着工および開業年は、相当に遅れるのではないか。