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リニア計画 大井川・導水路案は利水系統をぶち壊すだけだからやめたほうがいい

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「重箱の隅をつつく」ような話になります。そして、きわめて分かりにくい話でゴメンナサイ。

唐突ですが、東京電力は、大井川上流部の田代川ダムから取水し、早川水系の田代川第二、第一発電所に送り、発電機を回しています。常時認可取水量は1.98㎥/s、最大認可取水量は4.98㎥/sです。二つの発電所の最大出力はそれぞれ22700kWと17400kW。
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大井川水系の利水模式図 環境影響評価書より複製 

今からおよそ90年前の1921(大正10)年2月に、田代川水力電気事業株式会社なる会社に、大井川の水利権が認められました。この水利権は早川電力株式会社⇒東京電力(今の東電とは別物)⇒東京電燈株式会社⇒戦時体制下の日本発送電株式会社と受け継がれ、戦後になって現在の東京電力に引き継がれています。

1921年当初、水利権は2.98㎥/sとして設定されましたが、1963(昭和39)年に山梨県知事、静岡県知事より、4.98㎥/s(最大取水量)への変更が許可されています。
これに先立って大井川の中・下流に発電用のダムが次々とつくられてゆき、大量取水が問題となり、「水返せ運動」が発生してゆくことになります。

取水量としては、中下流域での中部電力によるもののほうがずっと多く、影響が大きいと思われますが、田代川ダムには

①流域外へ放流するので戻ってこない
②もともと流量の少ない源流域では河川環境に与える影響が大きい
 

という事情があり、流域からは問題視されています。

1975年の水利権更新時には、静岡県から山梨県と東京電力に対し、10年余り前の水利権増加分を削減するよう要望が出されました。いっぽう早川には大井川の水が約2㎥/sぶん、増えていることになりますので、水を使う側から見れば、発電や用水としての余裕が増していることになります。この事情が背景にあるがために、山梨県より「早川下流の発電や農業用水に影響する」としいう回答が寄せられています。このときは代替案として、中部電力塩郷堰堤より0.5㎥/sだけ流し、東電が中電に補償を行う案で終結しました。

長くなるため詳細は割愛しますが、粘り強い運動の末、それから30年後に巡ってきた2005年の水利権更新時には、この田代川ダムから環境維持流量として最低限0.43㎥/sを下流に放流すること、水利権の有効期限を30年から10年に短縮することで合意がなされました。

さらに10年を経た昨年末の水利権更新時には、環境維持放流0.43㎥/sを継続すること、より放流量を増やすための調査を行うことで話がまとまっています。
(静岡新聞記事)
http://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/155418.html

◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

さて話はリニア計画との関係に移ります。

JR東海は環境影響評価において、「南アルプスにトンネルを掘ると田代川ダム付近で大井川の流量が約2㎥/s減少する」という試算を発表しました。これに対し、大井川流域より強い懸念が寄せられましたが、ロクな対策を出さぬままに事業は認可。そして事業認可後になって、「リニアのトンネルから大井川に向けて導水路を掘り、トンネル内へ流入した水を放流する」という対策案を発表してきました。

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JR東海ホームページより複製・加筆 

この導水路案、標高の都合上、その出口は田代川ダムよりもずっと下流になります。したがって東京電力のもつ水利権の保証にはなりません。よって確実に田代川第二・第一発電所の能力は激減します。これは、以前に当ブログで指摘したことです。

ところが、影響を受ける範囲は、どうもこれだけで済まないと思われるのです。いやむしろ、導水路を建設した場合には、大井川水系ではなく早川~富士川水系でも影響が出かねないなど、広い範囲で混乱が起こりそうなのです。

早川の田代川第一発電所より下流には、早川および富士川本流から取水している発電所が4つあります。早川から取水しているのは早川第一、波木井の各発電所、富士川本流から取水しているのは富士川第一、富士川第二の両発電所です。このうち早川第一発電所は東京電力が所有し、残り4地点は日本軽金属株式会社の所有となります。

ちなみに富士川第二発電所は静岡市清水区の旧蒲原地区にあり、旧国道1号線や東海道線の車内からは目と鼻の先となります。
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富士川第二発電所から駿河湾に放流される水 

これら4つの発電所には、それぞれ水利権が設定されていますが、いずれも「早川および富士川の流量には大井川からの2㎥/sが上乗せされている」前提で取水しています。ここから2㎥/sが減少したら、早川~富士川沿いの発電所をはじめとする水利に多少の混乱が及ぶのではないでしょうか…?

相対的に大きな富士川の流量からみれば、2㎥/sの減少は小さいように見えますけど、最下流の北松野観測所における流量は年平均で15㎥/s程度しかないらしいので、そこからの2㎥/s減少となれば、影響は無視できないのかもしれません。
(国土交通省水文水質データベース)

いっぽうJR東海の計画する導水路出口より下流には、とりあえず2㎥/sの水が回ってきます。東電が取水する分を、JR東海がリニア用のトンネルと導水路を用いて大井川本流に迂回させた構図になります。

ややこしくなってきたので、先の利水模式図に田代川第一発電所より下流での発電所と、JR東海の計画している導水路とを記入しておきます。
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単純に考えれば、大井川下流の住民からみれば、早川に流れ込んでいた分が返ってくるのですから、それはそのまま流してほしいところ。しかしおそらくは、そっくり中部電力の発電所に取水されるのでしょう。

なぜなら、導水路を建設しても、導水路出口より上流で取水している中部電力の発電所には、水を回せぬままであり、その分、中部電力の得る発電能力は回復できないためです。しかも導水路は大井川の河床よりも低い位置に建設されるため、これ自体が0.5㎥/sの水を吸い込むという試算もなされています。それならば、下流で2㎥/sの余裕が生じるのなら、それを自社の下流の発電所に回したいと考えるのが自然なはず。最終的には、最下流部の上水道や農業用水へと巡ってきますけど、河川環境の維持にはつながりにくいでしょう。

以上のように、導水路で2㎥/sのトンネル湧水を大井川に放流すると、計算上は、発電能力の増す発電所と減る発電所が出現します。その増減を見積もってみました。
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導水路建設後の田代川ダム周辺での利水系統の変化 
これをもとにして発電所の出力変化を試算
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試算結果をご覧のとおり。ポンプアップによす電力消費を加味すれば、大井川の水を使用する発電所全体では、12000kW程度の出力低下となりました。もうちょっと詳しくみると、中部電力は10000kW程度のプラス、特種製紙は少々のプラス、東京電力は18000kW程度のマイナス、日本軽金属は3900kW程度のマイナスとなっています。利害が分かれそうです。

さらに、これに農業用水や上水、それから漁協の利害関係を加えると、さらに話がややこしくなりますし、河川環境の問題を加味すると、ホントに訳が分からなくなります。

それならば導水路など建設せずに、トンネルへの流入量2㎥/sは早川に垂れ流したまま早川~富士川筋の水利に回し、大井川の流量減少時には田代川ダムからの取水量を減らすよう、JR東海が責任をもって東京電力と協議を行ったほうがよいのでは・・・?

こうすれば、影響を受ける発電所は中部電力の二軒小屋発電所と東京電力の田代川第二・第一発電所の3地点だけで済みます。余計な残土や導水路への水の吸い込みといった環境負荷も防げますし、トンネルを掘ったが流量減少は起こらなかった場合に導水路が無駄な環境破壊となるリスクを回避することもできます。


参考にしたもの
中部電力株式会社静岡支店大井川電力センター 編集(2001) 『大井川 文化と電力』
中川根町史編さん委員会 編集(2006)  『中川根町史』
本川根町史編さん委員会 編集(2003)  『本川根町史』
日本ダム協会 編集(2014) 『ダム便覧』



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