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大井川 水返せ運動と電源開発とよそ者リニア・導水路案

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大井川での導水路計画について、話が混乱してきたため、改めてまとめようと思っておりましたが、岐阜県のほうでJR東海がおかしなことをしていたため、そちらに話題が移りました。

導水路計画のあらましについては前々回記事を参照。

大井川導水路計画のおかしな点・メリット・デメリット 

①おかしな点
●環境影響評価手続きの過程では明らかにされてこなかった。 
ゆえに、環境影響評価法に基づく手続きは経ていない。導水路建設にかかる環境への影響についてはきちんと調査されていないし、公衆等からの公式な意見聴取も、静岡市や県の要綱に基づく環境影響評価審査会での審議も経ていない。

●実現不可能な案との比較で出されたものである。  
導水路案は、JR東海が自主的に設置した「大井川水資源対策検討委員会」と称する有識者会議において、妥当と判断されたとことを建設の根拠としている。しかし同委員会においてJR東海が提案した他の水資源対策案は、

1.堆砂除去による既存ダムの容量確保、
2.ダム新設による水資源確保
3.リニアのトンネル出口の早川より長大導水路で大井川に水を戻す 

という、実現性の乏しいものばかりであった。いっぽう、半世紀にわたり大井川における水資源問題で取りざたされてきた、既存ダムからの放流量の調整は、全く検討されていない。


②メリット 
●JR東海としては、トンネル本体に湧出した水を自然流下させるのであれば、くみ上げ費用は不要となる。よって工事費を節約できる。
●理論上、完成すれば大井川下流での水使用への影響はなくなる。
⇒ただし、電力会社の意向次第。

③デメリット 
●水力発電所の出力維持にはならず、水利権をもつ電力会社の動向が不明となる 
1.東京電力のもつ田代川第一、田代川第二発電所は、渇水期には全く発電できなくなる。それより下流で早川の水に大井川の水を合わせて(行政用語で注水とよぶ)発電している早川第一発電所、および日軽金(株)の所有する波木井、富士川第一、富士川第二発電所も出力低下の可能性がある。

⇒JR東海には、出力低下に対し、多額の補償金を払う必要が生じる。また、新たに富士川水系全体での利水系統を調整する必要が生じる。

⇒早川町内にある水力発電所からの固定資産税はどうなるのだろう?

2.最上流部にある中部電力二軒小屋発電所も、出力は大幅低下が予想される
が、導水路はこれの維持に寄与しない。

3.導水路をつくると、中部電力のもつ赤石発電所の発電能力はかえって低下する。
⇒導水路出口は、同発電所が大井川より取水している木賊取水堰よりも下流となる。しかも、導水路建設によって同取水堰への流入量は0.5㎥/s減るとの試算である。

●以上のように導水路出口より上流には水を戻せない。したがってこの区間における川の自然環境の保全には、何ら役立たない。 

導水路出口より上流の環境維持のために水をポンプで汲み上げるのであれば、きわめてバカバカしい状況が生じる。 
⇒東京電力は大井川の水を早川に落として電力を得ている。その真下で、JR東海は大井川の水が早川に堕ちないように、電気を使ってポンプで汲み上げる。

●静岡県が得ている各発電所からの水利使用料が減る 
⇒水利使用料は発電能力に比例する。出力が低下すれば、その分減額される。
『資源エネルギー庁のHPより引用』
水力発電に利用した河川水の使用料として、事業者から納付される水利使用料(流水占用料)が都道府県の収入となります。下記に1年間に納付される水利使用料の計算式を示します。
揚水発電所以外:1,976円×常時理論水力+436円×(最大理論水力-常時理論水力)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/hydroelectric/support_living/effort003/ 

●発生土量が増える 
⇒断面積は10~20㎡、延長11400mを計画しているという。すると発生土量は25万立方メートル程度になると見込まれる。

●工事規模の拡大 


以下、ブログ作者が勝手に考えた内容になります。

大井川から早川へ引水する田代ダムが建設されたのは1925年である。以降、電力会社の統廃合を経て、戦後に成立した現在の東京電力が、大井川の水利権を受け継ぐ。

この時代は国策として全国各地で電源開発が進められてゆく。大井川においては1952年電源開発基本計画に従い、井川、畑薙第一、畑薙第二、笹間、塩郷と、10年程度の間に次々とダムがつくられていった。

1960年の塩郷ダム完成にともない、大井川中流域では完全に水が流れなくなり、ダムの堆砂問題も相まって、「水返せ」運動が活発化してゆく。真っ先に問題視されたのは、流域外へ水を流している田代ダムである。

東電が水利権を受け継いだ当初、許可されていた取水量は2.92㎥/sであった。その後1955年、高度経済成長に伴う電力需要のひっ迫により、東京電力は取水量を4.99㎥/sに増やすことの許可を静岡県、山梨県に申請し、1965年に認可されることになったのである。

地元からの声に対し、1975年、当時の静岡県知事より山梨県・東京電力に対し、取水量を元に戻すよう要望が出される。しかし東京電力は不可能と回答。山梨県も早川流域での利水が既成事実化していることを根拠に不可能という見解。代替として中電が毎秒0.5トンを放流し、東電が中電に費用を払うことで妥協している。

その後、電力会社や建設省への陳情を重ね、独自に調査を依頼するなど1980年代に入って運動が本格化。1989年の中電の水利権更新時には環境維持目的で放流をさせることが実現する。

2005年の東電・田代川ダムの水利権更新時にも、東京電力に対し、田代川ダムからの法流量を、年間最低でも1㎥/sを維持するよう要請。しかし東電は0.1㎥/sが限界という回答を続ける。最終的に、
・渇水期にも最低0.43㎥/sを放流すること
・水利権の更新期間を30年から10年に短縮すること
・今後も放流量を増加させるべく努力を継続すること
で妥協し、現在にいたっている。

さて、ここに割って入ってきたのがリニア計画である。環境影響評価書によれば、リニアのトンネルを掘ると、田代ダムへの流入量は年平均で2㎥/s、渇水期でも1.83㎥/s減るとの試算がなされている。この数字は、地元が半世紀にわたって東京電力に求めてきた環境維持流量とほぼ同量である。そして東京電力は一貫して不可能として突っぱねてきた値でもある。

上述の通り、導水路を建設しても、田代ダムへの流入量は増えない。東京電力は、これまでの地元への説明との整合性を考えると、この流入量減少を受け入れることはできないはずである

先に述べた通り、田代ダムから取水した水の行き先である早川町内の発電所の受ける損失も、無視できない数字であろう。

長くなるから詳細は省くが、中部電力のもつ二軒小屋・赤石両発電所についても、同様のことが言える。西俣・東俣・木賊堰堤からの水は、最終的には大井川本流に戻るので下流での水利用には直結しない(東電が取水するけど)。しかし堰堤直下での渓流魚への影響はかなり大きいので、ユネスコエコパーク移行地域という事情も踏まえ、環境保全の観点からは、維持流量を増やすべきである。

しかし中電としても、取水量を減らすことは避けたいのがホンネであろう。両発電所は運転開始から20年程度しか経っていないのである。特に赤石発電所は、支流の赤石沢に造った中規模ダムに、木賊堰堤から大井川本流の水を引いて貯め、発電に供している、かなり大掛かりな施設である。

リニアのトンネル&導水路は、これら堰堤付近での流量減少に拍車をかけることになる。導水路自体が木賊堰堤への流入量を余計に減らすのであるから、中電としてはおそらく認めがたいはずだし、河川の自然環境も余計に悪化しかねない。

それにこんな案を受け入れれば、やはりこれまで地元からの放流量増量を突っぱねてきたことの説明がつかなくなる。

過剰に取水して河川環境も生活環境も荒らし続けているとはいえ、中部電力は、大井川流域に根差しているのもまた事実である。地元への密着度という点では、おそらくJR東海の比ではない。電力関係施設はそれなりに地元経済に寄与しているし、”ダムのおかげでできた”道路や施設もたくさんある。大井川鐡道井川線と中部電力との関係も重要であろう。大井川流域には「中電様」という言葉もあった。早川町や旧川根三町や井川地区において、JR東海は単なるヨソ者に過ぎないのではなかろうか。

導水路案というのは、長年にわたる電力会社と地元との交渉が醸し出した、複雑かつ微妙な緊張関係を無視した、「苦し紛れの珍妙な案」ではないかと思う。

たぶん、割って入る余地は少ない。


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