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リニアと大井川取水施設2 リニアと田代ダムは共存できないのでは?

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大井川の水を早川水系に送って発電している東京電力田代ダム。リニア中央新幹線のトンネルは、このダムのすぐ上流を通過する計画です。今回は、このダムとリニア建設後の河川流量について考えたいと思います。

トンネル建設により流量減少が予測されたことに対し、JR東海は大井川の水が早川に流出せぬよう、新たに導水路トンネルを掘り、ポンプ揚水を組み合わせて対策としています。

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図1 大井川源流部の水力発電所施設 

これを矛盾といいます。もしくはムダ。 

環境影響評価書によると、田代ダム地点での流量は、トンネルが完成すると次のように変化すると予測されています。

年間(注)
12.1㎥/s⇒9.99㎥/s
渇水期(12~1月)
4.08㎥/s⇒2,25㎥/s
 

”年間”で2.02㎥/s、渇水期は1.83㎥/s減るとの予測です。

(注)河川流量の年間分布は直線ではなく指数関数に近い曲線で表現される(流況曲線)。このため単純な平均値では無意味である、河川工学や水文学では豊水流量、平水流量、渇水流量というように区分して取り扱う。JR東海の示す年間流量とは何を表すのか不明であり、妥当とは言えない。 
以下に、静岡県中部を流れる藁科川の奈良間地点における、2012年の流況曲線を掲げる。同地点における流域面積は、田代ダム地点での流域面積とほぼ同じである。

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そもそもこの流量の予測前提は、妥当なのでしょうか?


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


ここから取られた水は県境の尾根をトンネルでくぐり抜け、早川水系に落とされて発電機を回しています。このブログで先日触れたように、田代ダムに対しては、流域自治体から過去40年にわたり取水量を減らしてほしいと要望されており、2006年1月1日をもって、環境維持のための放流がなされることとなりました。

この維持流量について、適正な量を定めるための協議会が設置されています。大井川水利流量調整協議会というもので、議事録などはネット上では公開されていないようですが、第13回目の会合だけは、資料が県庁ホームページに掲載されています。

その中には、維持放流による環境改善効果を検証するために東京電力が提出した、平成18~22年の5年間における田代ダム地点での流量・取水量・放水量のグラフが掲載されています。非常に重要な資料であり、リニア建設による大井川への影響を気にかけている方は、必ず目を通しておく必要があると思われます。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇

そのグラフを検証する前に、まずは予備知識。

田代ダムの取水量は、2005(平成17)年に協議会との間で協定が結ばれ、翌2006(平成18)年1月1日から現在に至るまで、次のように定められている。
・12/6~3/19  0.43㎥/s
ただし、河川流量が0.1㎥/sを超える場合に限り、1.62㎥/s の範囲内で発電取水ができるものとする。
・3/20~4/30  
0.98㎥/s
・5/ 1~8/31  1.49㎥/s
・9/ 1~12/5  1.08㎥/s

【最大認可取水量】
取水してよい上限量。
【維持流量】
河川環境を維持するために必要な流量。この量を常にダムから放流しておく義務がある。
【還元流量】
河川流量が減ったとき、最大認可取水量まで取水すると、維持流量が確保できなくなる。このため、取水量を減らして維持流量に回す必要が生じる。この減らしたものが還元流量。つまり、河川に還元した流量という意味合い。還元を実行している間は、河川流量自体がかなり減っていることを意味する。
 


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


さて、こちらがそのグラフです。この5年間のうち、冬から春先の渇水がひどかった2008(平成20)年のものと、12月にやたらと降水量の多かった2010(平成22)年とを掲載します。

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図2 田代ダムにおける平成20年と平成22年の年間流量
第13回大井川水利流量調整協議会資料より複製 

重要な問題点をふたつ述べます。

●渇水期の流量は4.08㎥/sを下回っていることが多い。 
これを見ると、渇水期の流量は4.08㎥/sに達していないことが分かります。東京電力によると、この5年間の毎年の最小流量は次の通りであり、取水上限1.62㎥/sまで取水すると維持流量0.43㎥/sを確保できなくなるため、河川へ返納(還元放流)している日もあるとしています。その日数は多いとしてでは30日前後に及ぶとしています。
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表1 平成18~22年における田代ダムでの年間最低流量 
第13回大井川水利流量調整協議会資料より複製  

ということはJR東海の試算は全くの的外れなのか?

平成20年と平成22年それぞれ12月に着目すると、平成22年のほうでは一次的にやたらと流量が多くなっている日が目につきます。こうした数年に一度程度の、妙に降水量の多い年の値を単純に足し合わせて平均化を試みると、おそらく4.08㎥/sという数値に近くなるものと考えられます。したがってJR東海の試算自体はおかしくないが、これを現況流量の代表値とすることには疑問があります。つまり、渇水年のことを考慮できていない。

「重大な環境への悪影響を未然に予測し対策をたてる」というアセスの主旨に踏まえれば、この表現は不適当ではないかと思われます。


●ここから2㎥/s程度減ったら流れが途絶える? 
評価書では、年間(?)では2㎥/s程度、渇水期には1.8㎥/s程度、流量が減少すると予測されています。平成20年のグラフに、この減少量を当てはめてみます。

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図3 リニア完成後の田代ダムにおける流量想像図


するとこうなります。複雑な地下水流動のメカニズムを一切無視し、単にグラフをずらしただけであり、信頼性には欠けます。けれども現在明らかにされている情報では、これが一般人にできる検証の限界ということでご容赦ください。

で、ずらした結果について考察しますと、
○冬の渇水期には現在の維持流量0.43㎥/sすら下回ってしまった。
○8月後半にも維持流量を割り込む可能性がある。

○渇水期の3か月間、取水は不可能となる。
○取水可能な間も5カ月間程度は取水量を減らす必要がある。
○現在の最大認可取水量4.99㎥/sを確保できるのは年間4か月程度。
こんなことが言えそうです。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


これが実際に起こるとすれば、本当にマズい状況じゃないかと思います。

冬場にここまで流量が減少すれば、川の流れが凍結してしまうかもしれません。水生動物がどうなるのか、ちょっと想像がつきませんし、渓流魚や水生昆虫に依存する捕食者にも影響が出るかもしれません。それに上流で凍結すれば、下流での流量も激減してしまうかもしれない。

JR東海は導水路を造ることで環境対応が可能としていますが、導水路の出口は田代ダムより10㎞も下流。前回ブログで指摘した西俣からそこまで、長距離にわたって川が荒廃してしまうかもしれない。

逆に夏場も心配です。この2008(平成20)年は、5カ年の内では流量が最小であったものの、極端に降水量が少なかったわけでもなさそうです。大井川沿いのアメダス観測点井川における同年の年間降水量は2487.5㎜。平年(1981~2010)の3110㎜よりも少ない年でした。けれども、西日本中心に水不足に見舞われた2005(平成17)年は、もっと少ない2004㎜となっています。

2005年は空梅雨だったのですが、リニア完成後にこのような年が再来したら、夏場の流量減少はもっとひどくなると考えられます。すると水温は容易に上昇し、冷たい水を好む渓流魚や水生昆虫の生育に影響が出るかもしれません。

それから、これは環境問題とは別問題ですけど、こんな状況が予想されている事業を、東京電力は受け入れられるのでしょうか?

現在は、渇水期に1.62㎥/sまでの取水が認められていますが、これは発電機能維持のために最低限必要な量であるという、東電側の主張を考慮したものです。ところがリニア完成後には、これは数か月間にわたって確保できなくなる。今まで大井川水利流量調整協議会に対して続けてきた説明によれば、絶対に受け入れられないはずの損失になります。



田代ダム付近における流量減少は、現在JR東海が計画している導水路案では全く対応できません。河川環境の悪化も東電の損失も、物理的に防ぎようがない。

・・・役に立たない導水路を造って余計に環境負荷を増やし、さらに出力の激減する発電所&ダムを維持するために、河川流量の確保に苦慮するくらいなら、導水路なんぞ造らず、いっそのことダムを撤去したほうが合理的ではないかとも考えられます。 早川町の財政にも影響が及ぶかもしれませんけど・・・。


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