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Channel: リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?
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リニア新幹線と活断層リスクの考え方 ―危ないと騒ぐだけじゃ無意味―

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今回の熊本地震により、南阿蘇村と熊本市方面とをつなぐ俵山トンネルが崩落してしまったという報道がなされました。

現時点ではどのように損傷したのか不明ですが、国土交通省によると「覆工が崩落した」ということです。今回の地震を引き起こした布田川断層帯に近接しており、断層運動がトンネル損傷にどのように関わっているのか、今後の詳しい調査を待ちたいと思います。

⇒4/27
「日経コンストラクション」に、崩落現場の一部について、写真が掲載されました。

ところで、もしも活断層が動いてしまい、地表断層が出現した場合、そこを横断する構造物は破断してしまいます()。リニアの場合、活断層はトンネルで通過する箇所が大半のようです。トンネルは周囲の岩盤と一体化しているため、揺れ自体には強いものの、岩盤そのものの破壊が起きれば、一緒に請われます。北伊豆地震(1930年)発生時の丹那トンネルのように、断層変位でスパっと切断されなくとも、周りの岩塊ごとコンクリートが崩落してくる事態も考えられます(伊豆大島近海地震:伊豆急行線稲取トンネル)。

ガイドウェイを塞いだ岩に500㎞/hで突っ込んでしまったらどうなるのでしょう…?

シロウト考えでは、原型をとどめずバラバラに吹っ飛んでしまうような、そんな気がします。一度の事故で、何百人もの命が奪われてしまうかもしれない。航空機よりも多くの乗客を乗せているぶん、犠牲者の数は大きな海難事故に相当してしまうかもしれない。

といいうわけで、「活断層が危険だからリニア計画はやめろ」という声が、以前より一部の人々からあがっているようです。

しかし活断層の動くリスクに基づいてリニア計画の中止・再検討を求めることについては、まずはその理論自体の妥当性を吟味する必要があると思います。

「活断層が動いたら危ない」のは、既存の新幹線も同じです。ところが今のところリニアと活断層を結び付けて危険性を叫ぶ主張は見受けられるけれども、これを新幹線にあてはめて考える方は、「リニア反対派」のなかでも見受けられません。むしろ「地震対策なら北陸新幹線で十分」とする向きが多いようでが、北陸新幹線ルート上の活断層を危険視することはまずない。

これはおかしいのではないでしょうか?

それならば、「リニアが500㎞/hで直下型地震に遭遇するリスクは見過ごせないが300㎞/hの新幹線の場合は容認できる」根拠を説明しなければなりません。

ドイツで起きた高速鉄道の脱線衝突事故、スペインでの転覆事故をみて明らかな通り、500㎞/hどころか200㎞/hでも大参事です。そういえば、今日は11年前にJR福知山線で脱線衝突事故が起きた日。120㎞/hのスピードであっても大参事は免れない。

したがって「活断層が危険だからリニア計画はやめろ」とするのなら、既存の新幹線(どころか大多数の幹線鉄道)にもそれなりの対応を迫らねばならないのではないでしょうか?

けれども・・・

例えば、東海道・山陽新幹線の場合、活断層のリスクを考えると、相模川から静岡駅あたりまでの間、および岐阜羽島から姫路の間なんてずっと徐行しなければならなくなります。上述の北陸新幹線なんて、全線にわたって徐行しなければなりません。
イメージ 1
図 東京~大阪間の活断層分布 産業技術総合研究所HPより複製 
東京から大阪に線路を引くのなら、絶対に数十本の活断層と交差してしまう。特に
●北陸新幹線のほぼ全線
●東海道・山陽新幹線の神奈川中部~静岡間、名古屋以西
●リニア中央新幹線のほぼ全線
は活断層の密集地域である。 100㎞/h超での走行を実施している各地の特急列車や関西・中京地区の新快速だって危ないことには変わりない。 
なお静岡県中部~愛知県東部に既知の活断層は報告されていないが、ここでは近い将来にマグニチュード8クラスの東海地震が直下型で起こるという巨大リスクがある。また、首都圏では堆積層が分厚く地下構造も複雑であるため、調査が進んでいない。首都直下型地震のリスクはこの図からでは読み取れない。 

東京駅から下り東海道新幹線に乗り、相模川の鉄橋を越えたあたりで「当列車は間もなく、国府津―松田断層、丹那断層、富士川河口断層を通過いたします。断層活動に備え、静岡市付近までは時速50㎞で走行いたします。」なんてことをやっていたら、たぶん苦情が殺到するでしょう。

活断層が危険であることは事実であるものの、それは数千年に一度の頻度です。「○○断層は平均1200年間隔で動いている。前に動いたのは古文書によれば1000年くらい前。近い将来動くかもしれない!」と言っても、次にいつ動くのかは神のみぞ知るところです。

ヤバいとはいえ、おおかたの人間にとって新幹線が活断層のズレに直撃するのは文字通り「杞憂」。新幹線が高速運転を取りやめたら存在意義自体が問われるし、おそらく大きなデメリットと社会的混乱は避けられないでしょう。

「ぶつかったら運が悪いとあきらめるしかない」
「気になるなら乗らなければいいだけ」
と考えている人がほとんどではないでしょうか。

ちなみにJR東海のホームページには次のようなQ&Aが掲載されています。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/assessment/faq/q13.html
Q. 活断層を横切ることが心配です。
A. 昭和49年から当時の国鉄が、また平成2年からは当社と鉄道建設公団が地形・地質調査を行っており、これまで長期間、広範囲にわたり綿密にボーリング調査等を実施し、関係地域の活断層の状況について十分把握しています。
日本の国土軸を形成する新幹線や高速道路といった幹線交通網は、広域に及ぶ長距離路線という性格から、すべての活断層を回避することは現実的ではありません
したがって、中央新幹線のルートの選定にあたっては、これまでの調査に基づき、活断層はなるべく回避する、通過する場合は活断層をできる限り短い距離で通過するようにし、さらに活断層の形状等を十分に調査したうえで、通過の態様に見合った適切な補強を行っていくなど、注意深く配慮して工事計画を策定していきます。

これも同じ概念に基づくのでしょう。この回答では、現実的でないことは分かるけれど、なぜそれが許容範囲なのかは分からない。だから質問者が是非を判断することもできない。

けれども人命がかかっている以上、見過ごせないリスクであることは事実。おそらく鉄道会社、関係省庁や保険会社などでは、リスクを計算しているのではないかと思います。表には出てきませんが。

というわけで私からの一提案。

数値化可能なデータ(リニアの運行本数、速度、乗客数、断層の活動頻度、変位量など)をもとに、活断層のズレに伴う事故の発生確率を、不十分とはいえ数値化する試み自体は可能だと思います。

同じ試算を既存の各新幹線についても行い、リニアと比較するのです。また、他の交通機関での事故発生率などと比較することにより、活断層リスクは許容できるリスクか否か、ある程度検討をつけることができると思います。

「危ない!」とするだけでなく、どのように危ないのかを可視化してみてはいかがでしょうか。ついでに言えば、高速鉄道網を拡大することにより、乗客一人あたりのリスクは変わらずとも、国内全体でのリスクは微小ながら増大しているはずです。

さらに余談

「断層変位という自然災害をもとに計画に反対する」
というのは
「災害に備えて対策が必要」
というのと同じく、「とにかく災害を考えろ!」という発想に基づいているわけだ。

けれど、あまりに災害!危険!と主張して主張を押し通そうというのは、「危ないと主張すればいくらでも名目が成り立つ」という昨今の世情と同じじゃないかと思う。
1000年に一度の大津波に備えて」万里の長城みたいな大堤防をつくったり、「500年に一度の大水害に備えて」スーパー堤防を造ったり、「津波避難に有効」として海辺に野球場をつくったり(浜松市)、「大災害に備えて憲法改正が必要」とするのと論拠は同じじゃないでしょうか。



(注)吊橋構造、盛土構造、可動式に設計された高架構造の場合は絶えられる可能性がある。2002年11月にアラスカで起きたマグニチュード7.9のデナリ地震では、地表断層の出現にともない、大規模な変位が起きた。ところが断層を横切るパイプラインは、垂直方向に0.75m、水平方向4.2mの変位にも破断することなく機能を保った。建設時に、断層が活動することを見込んで可動式としていたためである。
http://jsaf.info/pdf/journals/AFR028_123_131.pdf#search='%E3%83%87%E3%83%8A%E3%83%AA%E5%9C%B0%E9%9C%87+%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3'
したがって地上の構造物ならば、知恵(とカネ)をしぼって構造物を岩盤から離して変位を吸収させることにより、深刻な被害を免れることができるかもしれない。しかし山岳トンネルの場合、「地山と一体化」していることが逆にアダとなり、被害を免れることは原理的にできないのではなかろうか。


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