以前より気になっていますが、直下型地震に対するリニアの安全性って、在来新幹線と比較してどんなものでしょう?
宣伝文句では「リニアは浮上しているから揺れに強い」「脱線しない」としていますが、リスクは何も揺れに限りません。断層変位で軌道が変形するとか、トンネルの崩落、落石・土砂崩れ、液状化による軌道のゆがみ…いろいろな要素が考えられるわけです。いずれにせよ、できる限り短距離・短時間で停止しなければなりません。
現在の新幹線では、揺れを感知して自動的にブレーキをかけるシステムが整備されています。気象庁の緊急地震速報と同じメカニズムだそうです。
その自動ブレーキ、新幹線では完全停止まで90秒かかるとのこと。そして超電導リニアでも同じく90秒で停止するそうです。
JR東海のリニア、地震時は新幹線並みの時間で停車
(日本経済新聞 2011/4/14 22:25)
JR東海は14日、2027年に首都圏と中京圏の間で開業を目指しているリニア中央新幹線について、大地震の初期微動を検知して最高時速500キロメートルから緊急停止する際、90秒前後で停止可能な設計であることを明らかにした。同270キロメートルの東海道新幹線の約2倍のブレーキ力を作動させ、新幹線とほぼ同じ時間で停止できるという。
急減速で乗客にかかる重力加速度は新幹線より大きいが「座席にシートベルトがなくても乗客の安全を確保できる水準」(同社)としている。
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ここで計算。
非常ブレーキをかけることを考える。
在来新幹線がV=300㎞/h=79.2m/sから90秒で停止する場合、減速時の加速度が一定であるのなら、停止までに要する距離は3564mである。
(停止までの平均速度v=39.6m/sで90秒走るから39.6m/s×90s=3564m)
この3564mが停止までに要する距離であり、危険な距離である。
(厳密には、減速時は等加速度運動ではないらしいので、もうちょっと停止までの距離は長くなり、4㎞弱とのこと
同じことを超電導リニアについても試算してみる。
V=505㎞/h=140.3m/s
v=70.15m/s
であるから、停止までの距離は6314mとなる。
停止時のブレーキが強化されていても、速度が増している分、停止するまでの距離は長くなっているのである。まあ、当たり前である。そして期間箇所の通過時間も同じであるから、危険区間に列車が存在している確率も同じである。
仮に、軌道の損傷した箇所の手前5㎞で非常ブレーキをかけるとする。このときは、上述の通り在来型新幹線なら1㎞以上手前で停止させることが可能であるが、リニアの場合はそこへ突っ込んでしまう。しかも計算上、時速230㎞/hのままである。
図 新幹線とリニアについて、軌道の損傷個所の手前5㎞でブレーキをかけたときの停止地点を比較。 オレンジ色が減速区間。
いっぽうリニアも在来新幹線も、橋梁やトンネルなどの構造物のつくりは同じだという。すると耐震性能は同じである。外部構造が同じであり、停止までの距離が長いのなら、リニアのほうが危険性が高いのは明白である。
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考えていただきたいのですが、リニア中央新幹線の軌道は、8割がトンネルであり、残る地上区間はほぼ全てコンクリートフードで覆わています。在来新幹線の架線柱の比ではない重量物が乗っかっているのだから、「地震発生時の落下」というリスクがどこにでも付きまとっているわけです。。さらにガイドウェイにはまりこんでいる構造上、障害物が落下しても在来新幹線のように排障器で押しのけることは不可能であり、乗り上げてしまう可能性はより高いでしょう。
その際に乗客が受ける衝撃は検証されているのでしょうか?
冒頭記事では、シートベルトもいらないとしていますが、シロウト考えでは、石に乗り上げただけで乗客は前の座席に突っ込んでいきそうな気がするんですけどねぇ…。
少なくとも国土交通省の超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会では、衝突時の安全確保に関する審議は行われていないように思えます。
別にまあ、だからといって「危ないからリニア反対!」ののろしを上げようというつもりではございません。私が言いたいのは、地震発生時や衝突時の検討がマトモになされていないのに「在来新幹線よりも地震に強い!」として推し進めるのは、あまりにもアヤシイということです。
ちなみに、在来線でのブレーキは600m以内で停止するように設定されているとのこと。すると新幹線は原理上、それは不可能なので、線路内に人や車両が入れない構造にすることで、制動距離を長くすることが認められているそうです。けれどもリニアは新幹線以上に速度が増しているのだから、新たな規則が必要なんじゃないのかなあ?