テレビや新聞で報道されたのでご存知の方も多いかと思うが、リニア計画に批判的な住民グループが、国土交通省による中央新幹線の事業認可取消しを求め、訴訟を起す予定だそうだ。
(毎日新聞より)
http://mainichi.jp/articles/20160513/k00/00m/040/066000c
2027年に東京・品川−名古屋間の開業を目指すJR東海のリニア中央新幹線について、市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」は12日、東京、神奈川、山梨、長野、静岡、岐阜、愛知の1都6県を中心とした計約740人が国を相手取り、事業認可の取り消しを求める行政訴訟を20日に東京地裁に起こすと発表した。
http://mainichi.jp/articles/20160513/k00/00m/040/066000c
2027年に東京・品川−名古屋間の開業を目指すJR東海のリニア中央新幹線について、市民団体「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」は12日、東京、神奈川、山梨、長野、静岡、岐阜、愛知の1都6県を中心とした計約740人が国を相手取り、事業認可の取り消しを求める行政訴訟を20日に東京地裁に起こすと発表した。
リニア中央新幹線の工事実施計画は14年10月、全国新幹線鉄道整備法に基づき、国土交通相が認可。品川−名古屋間を最速約40分で結び、総工費は約5兆5000億円。全長286キロのうち86%をトンネルが占める。
東京都内で記者会見した弁護団によると、訴状では、地下水脈の破壊や大量の建設土砂が生じる問題などについて環境影響評価が不十分で「事業認可は違法」と主張する。鉄道事業法が求めている経営の適切性や輸送の安全性を欠くという主張も展開する方針。弁護団共同代表の関島保雄弁護士は「予定区間は活断層があり、地震時の安全確保にも疑問がある」と述べた。
JR東海は「中央新幹線の早期実現に向けて全力を挙げて取り組む」とコメントした。
この報道を受け、ヤフコメなどネット上では、やれ金目当てだの、やれ足を引っ張るなだの、交通の発展を阻害するなだの、早速バッシングが始まっているようである(例:Yahoo!ニュースhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160512-00000040-asahi-soci)。
アホか?
当ブログ作者は、この住民グループの方々とは直接の関わりはないし、それに何度か指摘している通り、主張に賛同できない点も多くあり、時々厳しいことも書いている。”そもそも論”にこだわることも、共産党色が強いのも気に入らないし、トンチンカンな主張に腹が立つことも多々あるし、そんなことを書くたびに「隠れ推進派」のレッテルを貼られている。何よりも反対派ではなく懐疑派という点が気にくわないらしい。
けれどもそれ以上に、バッシングをしている連中の思考回路は理解できないのである。
「反対派を批判」しているということは、事業者側の姿勢には問題がないという認識のもとにあるはずである。けれども後で具体例を示すように、それはとんでもない思い込みであろう。
JR東海の進め方は環境や地元への配慮が根本的に欠けているのだから、それを是正させようと考えること自体は、健全な思考だと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ちょっと一例として、南アルプスの発生土処分を例に考えてみたい。バッシングをしている方が当ブログをお読みになっていたら、ぜひ、じっくり考えて頂きたい。
甲府~飯田間の南アルプス区間は、ほぼ全てがトンネルとなる。列車の通る本体の長さは少なくとも52500m。さらに作業用トンネルが多数掘られるため、トンネル総延長は約119000m、約119㎞となる。
当然、大量の残土が生じる。
残土の掘り出し口は少なくとも16か所(静岡市内は未定)にのぼり、出てくる土の量は約1500万立方メートルとなる。よくある例えで言うと、東京ドーム13杯分に相当する。
で、これを処分することが大きな問題が生じるわけだ。
現在の処分計画について東から順にみてゆくと、
●富士川町では変電所を造るためと称して、大規模な盛土を造成する。
●早川町では残土で早川沿いの谷を埋めつつ、ずっと北(夜叉人峠付近)に新たな長大トンネルを掘り、その東側の芦安村まで運んでいって大規模駐車場を造成する。
●静岡市部分の場合、行き場がないので南アルプス山中に置き去りにする。
●早川町では残土で早川沿いの谷を埋めつつ、ずっと北(夜叉人峠付近)に新たな長大トンネルを掘り、その東側の芦安村まで運んでいって大規模駐車場を造成する。
●静岡市部分の場合、行き場がないので南アルプス山中に置き去りにする。
●大鹿村や豊丘村の場合、残土運搬のために大量のダンプカーが集落内を通行する。
こちらは南アルプス大井川源流部に計画している発生土処分場予定地の衛星画像である。大崩壊地の直下の河原に高さ70m、幅300m、長さ500mの残土山を築こうというアホな計画である。
衛星画像から分かるように対岸は大規模崩壊地である。「河道閉塞⇒大規模土石流」の巨大実験場のような計画となる。こんなのがどうしてマトモと言えるのであろうか?
つまり山岳地域へ大量の発生土を掘り出すことにより、適切なリサイクルをすることは不可能となり、ムチャクチャな処分方法にせざるを得ないわけである。静岡市の場合、森林法や河川法を確信犯的に無視しようという意図すら感じてしまう。
なんでこんなムチャクチャになっているかというと、ひとえに「2027年開業。工費5兆5000億円以内。」という事業計画に合わせなければならないからである。次の評価書コピーが証拠。
静岡県版環境影響評価書より複製・加筆
同じような主張は大鹿村、南木曽町などあちこちで繰り返されている。
ということは「2027年開業。工費5兆5000億円以内。」自体が、環境保全や地元の意向を考慮していない計画であったと考えざるを得ない。
ちょっと考えてみていただきたい。
南アルプス区間で残土運搬・処分が生活環境や自然環境の破壊をもたらすのは早川町、芦安村、静岡市、大鹿村の4か所。環境に配慮するために、この4市町村内への環境負荷をおさえることは原理的に可能であろう。
単純な話、まず巨摩山地トンネルと伊那山地トンネルを完成させ、それを使って南アルプス本体トンネルからの残土を甲府や飯田へ運べばよいのである。それならば大井川源流に残土を置き去りにすることも、大鹿村や早川町をダンプカーで埋め尽くすこともない。斜坑の数を減らせば、土量や流量減少量も小さくできる。
実際、青函トンネルやドーバー海峡トンネル、あるいはゴッタルド基底トンネル(スイス・イタリア国境)の建設時には、斜坑間の距離は20㎞以上あったのだから、原理としては不可能ではないはず。
同縮尺で青函トンネルと南アルプスのトンネルとを比較
国土地理院地形図閲覧サービス「うぉっちず」より複製・加筆
それなのに工事手順を全く見直さないというのは、やはり環境保全や地元の意向は、JR東海の都合より下に位置付けるとの判断なのであろう。
南アルプスでの残土処分という一事例についても、これだけのゴリ押しが行われている。当然、水環境、生態系、景観保全についても同様である。そのほか約200㎞の区間および車両基地候補地などについても、同じように地元の意向を無視したゴリ押しがなされているわけである。岐阜ではマトモな調査抜きでウラン鉱床にトンネルを掘ることまで予定している。放射性物質を含んだ残土なんぞ誰が引き取るんだ?
こういう事業計画がマトモといえるのであろうか?
「リニア反対派を批判」されている方で、上記の南アルプスでの発生土処分計画が環境・安全上ベストな案であり、ケチをつけるのはもってのほかだとお考えであるのなら、ぜひご説明を願いたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バッシングしている連中の中には、黙って従えという人もいるのだろうけど、それでは強引に三峡ダムを建設した中国政府や、大規模開発で少数民族を追い払ってゆくどこぞの開発独裁国家と変わらないように思えてしまう。
私としては、そんな計画を目の当たりにして、黙っていろと言う思考のほうがが不健全だと思うのである。
(おまけ)
南アルプス静岡県部分について付言しておくと、
●地権者は特殊東海製紙であり、
●登山施設を運営しているのは子会社の東海フォレストであり、
●水利権が直接侵害されるのは中部電力と東京電力であり、
●下流での水利権を持っているのは県の公益企業団である。
●ユネスコエコパークとして管理運営しているのは静岡市であり、
●林道を管理しているのも静岡市である
住民は一人もいないのだから、個人への金目当てで訴訟を起こすことは不可能である。コメントするならそれぐらい調べておいたほうがいいだろう。