熊本で地震が起きたり、訴訟の話が具体化したりと、いろいろあったので忘れておりましたが、去る4月18日、JR東海のホームページに、伊那山地における水収支解析、つまりトンネル工事にともなう河川流量への影響の予測結果が公表されました。
http://company.jr-central.co.jp/company/others/chuoshinkansen02.html
http://company.jr-central.co.jp/company/others/chuoshinkansen02.html
これで、甲府~飯田間における主要河川についての予測がひとまず出されたことになります。もっとも、くぐり抜ける河川の数に比して、予測地点が少なすぎるという疑問がありますが。
さて、前々から当ブログで懸念していた豊丘村内を流れる虻川については、年平均で0.776㎥/sから0.668㎥/sへの減少(13%の減少)という予測であり、影響は小さいと結論付けていました。
何も知らなければ「そうなのか」と納得してしまうだろうけど、他の予測地点と比べると、妙に数値が小さいのでは?という印象を受けました。特に2㎥/sの減少が試算されている大井川にくらべ、妙に減少量が小さいような気がします。
この疑問について、ちょっと検証してみました。
地下水がトンネルに吸い込まれ、その隙間を埋めるように川の水が地下に吸い込まれ、表流水が減少するわけです。当然、流域内に掘られるトンネル規模が大きいほど壁の面積は広くなり、そこから湧き出す量は大きくなると予想されます。
というわけで、「単位面積当たりトンネル壁からの湧出量」をざっと見積もってみたいと思います。
各種トンネルの外周長さは以下の通りとします。
本坑…40m
先進坑…25m
斜坑…32m
先進坑…25m
斜坑…32m
以上の数字はあくまで推測です。根拠は以下の通り。
トンネル断面積はJR東海資料では次のように計画されている。
これら断面積より外周長さを試算する。
●土木工学の本に掲載されていた、一般的な大断面トンネルの設計図をもとにすると、断面積107㎡での外周長さは、おおよそ40m程度になるらしい。
●先進坑も同様に考え、25mとする。
●斜坑については、九州新幹線のものと同じ断面形状であるとし、外周の長さを32mと仮定する。
さて、環境影響評価書より、虻川流域内に掘られるトンネルは、本坑が約7200m、斜坑が2本合計2300m程度とみられます。よって地下に掘られるトンネルの壁面積は
本坑:7200m×40m=288000㎡
斜坑:2300m×32m=73600㎡
斜坑:2300m×32m=73600㎡
となります。予想される減少量=湧出量は0.1㎥/s=100ℓ/sですから、壁1㎡あたりに換算すると2.77×10^-4ℓ/s。つまり約0.27mℓとなります。
そして同様に、流量減少量が予測されている他の流域についても試算してみた結果が次の通りです。
東から
大柳川……0.97mℓ
内河内川…0.49mℓ
大井川……2.21mℓ
小河内沢…1.0mℓ
青木川……0.72mℓ
内河内川…0.49mℓ
大井川……2.21mℓ
小河内沢…1.0mℓ
青木川……0.72mℓ
虻川………0.27mℓ
(検証過程については文末に記載)
いかがでしょう?
内河内川以外は、トンネルと川が交差する位置関係になります。
図 南アルプスでのトンネル
冒頭で申した通り、筆者が、トンネルの構造上もっとも「単位面積当たりトンネル壁からの湧出量」が多いと見込んでいたのは、実は虻川でした。なにしろ下図のように、100m足らずの土被りで川底を1㎞近くにわたって掘り進める計画ですから。
しかしJR東海の試算では最も小さくなった。
この結果を見比べてみると、虻川での値が妙に少ないという疑問は、大井川での値は異常に大きいのではないか?という疑問の裏返しではという気がしてきます。土被りは400m以上あるのに、壁面積あたりで比較すると虻川の8倍もの水が湧きだす勘定になっているのです。
ちなみに30年ほど前に、中部電力が大井川沿いに地下式の赤石発電所を建設した際、止水工事前での最大湧出量は毎分500ℓ(毎秒8333mℓ)だったそうです。これは連続降水量300㎜のときの一時的な状況だったそうです。この地下空間の規模は不明ですけど、手元資料の簡易な図から、壁の総面積は5000㎡程度と推察。すると壁1㎡からの湧出量は約1.7mℓ。これは大雨時であった点を考慮すると、やっぱりJR東海の試算結果は妙な値という気がしてなりません。
なんでこんな試算結果となったのか、アセス審議会議事録を見てもJR東海は説明していないようですけど、破砕帯の位置や水系を無視したトンネルの位置選定にムリがあったんじゃないかと思います。
なお、JR東海が試算に用いたデータのうち透水係数について、大鹿村内での同じ地層に対し、南アルプス本体トンネルと伊那山地トンネルとで、異なる数値を用いているようです(秩父帯石灰岩、未固結堆積物)。私は門外漢だし、先月27日に開かれた長野県の環境影響評価の審査会でもとくに話題になっていないようですけど、どういうことだろう?
※検証過程
【大柳川:流量減少量0.152㎥/s=152ℓ/s】
①本坑壁面積
3900m×40m=156000㎡
②斜坑壁面積
なし
③先進坑壁面積
③先進坑壁面積
なし
④トンネル壁1㎡からの湧出量推定
152ℓ/s÷(①+②+③)≒0.97mℓ/s/㎡
④トンネル壁1㎡からの湧出量推定
152ℓ/s÷(①+②+③)≒0.97mℓ/s/㎡
【内河内沢:流量減少量0.17㎥/s=170ℓ/s】
①4000m×40m=164000㎡
②2750m×32m=88000㎡
③4000m×25m=100000㎡
④170ℓ/s÷348000㎡≒0.49mℓ/s/㎡
①4000m×40m=164000㎡
②2750m×32m=88000㎡
③4000m×25m=100000㎡
④170ℓ/s÷348000㎡≒0.49mℓ/s/㎡
【大井川:流量減少量2㎥/s=2000ℓ/s】
①10700m×40m=428000㎡
②6600m×32m=211000㎡
③10700m×25m=268000㎡
④2000ℓ/s÷907000㎡≒2.21mℓ/s/㎡
①10700m×40m=428000㎡
②6600m×32m=211000㎡
③10700m×25m=268000㎡
④2000ℓ/s÷907000㎡≒2.21mℓ/s/㎡
【小河内沢:流量減少量0.5㎥/s=500ℓ/s】
①6500m×40m=260000㎡
②2400m×32m=76800㎡
③6500m×25m=162500㎡
④500ℓ/s÷499300㎡≒1.0mℓ/s/㎡
①6500m×40m=260000㎡
②2400m×32m=76800㎡
③6500m×25m=162500㎡
④500ℓ/s÷499300㎡≒1.0mℓ/s/㎡
【青木川:流量減少量0.113㎥/s=113ℓ/s】
①3400m×40m=136000㎡
②700m×32m=22000㎡
③なし㎡
④113ℓ/s÷158000㎡≒0.715mℓ/s/㎡
①3400m×40m=136000㎡
②700m×32m=22000㎡
③なし㎡
④113ℓ/s÷158000㎡≒0.715mℓ/s/㎡