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鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計 ~断層変位は想定外?

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5月20日、リニア計画に反対する市民団体が、2014年10月に国土交通大臣から出された中央新幹線の事業認可取り消しを求め、東京地裁に提訴しました。
私自身はまだ訴えの全文を読んでおりませんので、訴訟内容にかかるコメントは差し控えたいと思っております。

ところで、訴えには時速500キロでの超高速運転は地震時に危険だとする主張もなされています。いくら耐震設計を強化しようと、断層変位が起これば地表ごと構造物が切断されてしまうので、そこに高速で突っ込んだら大参事になってしまう!というわけです。これが原告個人の権利侵害に該当するかどうかは分かりませんが、とりあえず安全性をめぐり法廷の場で議論がなされることになります。

これまで、超高速運転による地震発生時のリスク増加については、国交省での「密室の審議」のようなところで、何かこう、ごにょごにょとお茶を濁しただけに終わっているみたいなので、大っぴらに議論されるのは初めてとなります。

さて、先日のブログでも指摘した通り、JR東海のホームページに次のようなQ&Aが紹介されています。

Q. 活断層を横切ることが心配です。
A. 昭和49年から当時の国鉄が、また平成2年からは当社と鉄道建設公団が地形・地質調査を行っており、これまで長期間、広範囲にわたり綿密にボーリング調査等を実施し、関係地域の活断層の状況について十分把握しています。
日本の国土軸を形成する新幹線や高速道路といった幹線交通網は、広域に及ぶ長距離路線という性格から、すべての活断層を回避することは現実的ではありません
したがって、中央新幹線のルートの選定にあたっては、これまでの調査に基づき、活断層はなるべく回避する、通過する場合は活断層をできる限り短い距離で通過するようにし、さらに活断層の形状等を十分に調査したうえで、通過の態様に見合った適切な補強を行っていくなど、注意深く配慮して工事計画を策定していきます。

ところで、静岡市内の図書館にて「鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計」という構造計算のマニュアル本を見つけました。上記JR東海の回答は、この本における活断層への考え方が基本になっているように思えるのです。


以下、この本における活断層に関わる記述をそのまま掲載します。


運輸省鉄道局 監修  (財)鉄道総合技術研究所 編集(1999)
鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計

3.2 断層の調査
断層の調査は、既存資料により、対象とする路線近傍の断層またはリニアメントの分布位置、その確実度、活動度等に関する情報を収集することにより実施するものとする。ただし、さらに情報が必要な場合は、その目的に応じて調査の対象事項、方法、精度等を検討のうえ、詳細な調査を実施するものとする。

〔解説〕
 日本列島は環太平洋変動地帯に位置し、活断層等で特徴づけられる比較的新しい時代の地質構造が多く知られるなど複雑な地形・地質のもとにある。このような条件下で線状構造物である鉄道の路線選定を行う場合、すべての活断層を把握し、かつ避けることは通常は困難である。また、活断層に関わる調査は調査方法等の基準化や客観的な評価基準の設定が困難であり、個々の断層の調査に費やす時間や経費に比べて十分な調査が必ずしも期待できない現状にあると考えられる。

 このような背景から、耐震設計のための地震動の選定を目的とする場合、断層の調査はまず既存資料の収集、整理により、活断層やその疑いのあるリニアメントの分布位置、確実度および活動度等に関する情報を収集することを基本とし、必要な場合には解説図3.2.1に示すように、目的に応じて調査の事項、方法、精度等を検討のうえ計画、実施することが望ましい。資料調査での範囲は、現段階では路線の片側20~30㎞の幅の範囲とする。
 
 また、次段階の詳細調査では、いくつかの既往事例調査に基づき、現段階では線路の片側10㎞の範囲を基本とし、構造物の重要度を考慮して決定することとする。なお、既存資料調査については、「新編 日本の活断層」等がその基礎的資料となるが、最新の情報や今後の調査結果等を随時追加し、その時点での総合的な評価を行うことが重要である。

 断層の危険度判断の際の評価指標として、従来の特定構造物での検討では特定対象範囲内の調査結果から得られる各断層あるいはリニアメントの確実度、活動度および最終活動期と再来間隔等がその危険度という観点から重要とされている。これらの評価指標については鉄道でも大きな違いはないが、線状構造物であることを考慮すると、さらに解説表3.2.1に示す路線と活断層との位置関係が危険度を工学的に判断するうえで重要となる。調査結果は個別の断層やリニアメント、あるいは調査対象範囲全域の調査結果を目的に合わせて整理することとなる。これらの結果の利用にあたっては、その危険度を主に断層と路線の位置関係、確実度および活動度等から総合的に検討したうえで、工学的に必要とされる場合には適切な耐震構造とすることで対処することが現実的な対応策と考えられる。また、現段階で詳細な活動性、再来期間等が明らかな断層はかなり限られている。ここでは路線と断層との位置関係を把握することを主体に調査するのがよい。



イメージ 1
解説図3.2.1



解説表3.2.1
①直接交差するか
②十分に離隔距離がとれないか
③ある程度の離隔距離が確保できるか


以上、引用おわり。

このマニュアルは、阪神・淡路大震災における鉄道被害を教訓として、JRおよび大手私鉄の技術者、鉄道関係の研究所、大学教授、官公庁職員など総勢数十名からなる大グループで編集されたようです。シロウトゆえに技術的な内容はさっぱり理解できませんが、ひとつ言えることは、断層変位による軌道の破壊は想定していないらしいということ。下線部にご注目ください。ここで断層調査の目的は、揺れの強さを想定するために行われるとされるのです。

リニアはトンネルで活断層を貫きます。しかし断層変位=地面や岩盤がずれ動くことによる被害は、NATM工法での山岳トンネルでは物理的に防ぎようがない。

いっぽうで超電導リニアの営業運転は505㎞/h、急ブレーキで停止する案での距離は計算上6~7㎞になるはず。まさにリニアは急に止まれない

既存の新幹線の最高速度320㎞/h(E5系)から一気に185㎞/h増しています。これまでの鉄道のスピードアップは、せいぜい40~50㎞/h増しにとどまっていました。185㎞/h増しというのは、全世界を見回してもまさに前代未聞のことになります。するとこれまで想定せずともよかったリスクが顕在化するのではないでしょうか?



それなのに地震対応についてもこれまでと同じでよいとするのは、ちょっとおかしいんじゃないかと思うのであります。



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