一昨日あたりから新聞で一斉に報道されているように、何やらリニア計画に対し、安倍総理(というか自民党そのもの)が積極的に後押しすると言い始めており、今後の成長戦略の目玉になるとのことであります。
それから昨日、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会総会が都内で開かれ、JR東海の社長を交え、安倍総理の方針を大歓迎していたということです。この同盟会とは沿線の知事から構成されており、JR東海が構想を発表する前から、計画の推進母体となってきたグループです。
こんな状況に至ったのですから、リニア計画は内実ともに政府が濃厚に関わる国家プロジェクトの様相を呈してきたとみています。したがって、リニア計画の「そもそも論」について再考すべき時期が到来したのだろうと思います。
で、当方も「そもそも論」について、勝手にヘリクツを続けます。
で、前回ヘリクツの対象とした全国新幹線鉄道整備法なる法律。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。
(目的)
第一条 この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。
第二条 この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。
(新幹線鉄道の路線)
第三条 新幹線鉄道の路線は、全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに、全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものであつて、第一条の目的を達成しうるものとする。
第三条 新幹線鉄道の路線は、全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに、全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものであつて、第一条の目的を達成しうるものとする。
繰り返しますが、第一条の「地域の振興に資する」でいう「地域」とはどこのことを指すのでしょう?
前回指摘したように、国土交通大臣が決定した整備計画では、中央新幹線の「主要な経由地」としては、甲府市付近、赤石山脈(南アルプス)中南部、名古屋市付近、奈良市付近の名が記されています。
南アルプス中南部は静岡県の大井川源流域になりますから、中央新幹線は静岡県を通過することを前提として事業が具体化してきたことになります。
図1 南アルプス付近のルート
しかし当然ながら駅はできないし、静岡県民、特に大井川流域の住民がリニアを使う機会は基本的にない。その代わり大量の残土が置かれ、大井川の水が抜かれてしまいます。このように中央新幹線の建設は、静岡県大井川流域にとっては地域振興とはならないと思います。
現在、全国で新幹線の路線が存在している都道府県は31ありますが、このうち駅が一つもないケースは、東北新幹線の通過する茨城県古河市付近だけです。しかし古河市の場合、古河駅から東北本線の下り電車に乗れば、15分弱で東北新幹線小山駅に着くので、考慮されていないとはいいがたい。信越線分断のうえ長野新幹線安中榛名駅は遠い…という群馬県南西部のケースにしても、静岡県のように物理的に当該新幹線を使えないわけではありません。
リニア開業後には東海道新幹線の運行体制を見直すことで静岡県への「見返り」となる…そんな話もありますが、これとて「取らぬ狸の皮算用」でしょう。すなわち、静岡県が最も期待しているのは「のぞみの静岡停車」なのに、リニア開業後は「のぞみ」廃止の可能性が高い。そもそも、静岡駅に停車する列車が1~2本増えたとして、それが「南アルプス中南部」の地域振興と関係あるのか疑わしい。バスで半日かかるのですから。
飯田もしくは甲府のリニア駅から、赤石岳や伝付峠を越えて静岡県側に下山し、静岡県内で土産物を買って帰る登山者が激増するとでもいうのでしょうか?
したがって中央新幹線と静岡県との関係は、「地域振興に資さない」初のケースになるといえます。
別に南アルプス山中に「リニア二軒小屋駅」を造ればいいというわけじゃないのですが(そんなものいらない)、それにしても、大井川流域の地域振興を顧みずに大井川流域を通過するルートを決め、振興とは相反するもの―自然破壊だけ―を残してゆくのは、第一条に適合していないのではないかと思うのです。
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ところで、上記整備計画にお墨付きを与えた中央新幹線小委員会では、2010年当時、諏訪経由にするか南アルプス経由にするかで審議していたのですが、「南アルプスルート(いわゆるBルート)」については、当時から大井川流域を通過する前提で話が進められていたのでした。このとき、「大井川流域を通らない南アルプスルート」というのはなぜ検討されなかったのでしょう?
現行ルート案では、甲府盆地の南西隅でカーブして南に向かい、伝付峠~大井川(西俣)直下~悪沢岳山腹を経て小河内岳南を抜けるルートとなっています。
南アルプス市で北に曲がるルートはなぜ検討されなかったのでしょう?
北岳の山腹を抜けるルートにすれば、大井川流域への影響は皆無だし、残土運搬に南アルプススーパー林道を使える。土被りだって大差はない。残土や水枯れ問題も山梨・長野両県内の問題として対処できます。
自然公園法が邪魔だったのでしょうか?
図2 リニア甲府~飯田間でのルート選定過程
2010年10月20日第9回委員会資料より複製・加筆
説明が見つからないので理由は不明ですが、図2に示す通り、南アルプスルートは当初より静岡県大井川源流部を通過することを前提としていました。そして結局、赤線で示すルートとなったのです。青線のような、大井川流域を避ける案については計画当初より検討されていなかったことになります。地域振興に資せず環境負荷だけを押し付けることは容易に想定できたのに、その点を検討せずにルートを選定したことについて、同委員会の審議の妥当性は改めて問われるべきだと思います。ちなみに黄色く塗った部分が諏訪湖経由のいわゆるBルート。
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冒頭に出てきたリニア中央新幹線建設促進期成同盟会に参加しているのは、東京・神奈川・山梨・長野・愛知・岐阜・三重・大阪の各知事です。
新聞報道では「沿線の…」などと形容されていますが、ここに静岡県の意向は反映されていません。
他県の知事が、静岡県の意向を無視して静岡県を残土捨て場にすることを暗黙の了解としているのであれば、実に不愉快なのであります。